1 .戦略的アントレプレナーシップ
戦略的アントレプレナーシップは、戦略的マネジメントとアントレプレナーシップの研 究分野のゴールとして位置づけされ、様々な経済環境において企業がいかに価値を生み出 すのか(Bruyat & Julien, 2001)、企業が新しい機会を発見し利用することで、どのように競争 優位性を創り持続させるのか (Hitt et al., 2011) を研究するものである。
この研究分野において、戦略的アントレプレナーシップを持つ個人および組織は、個人、
組織、社会にとって価値となる優位性の探求、機会の探求に関心を持ち(Hitt et al., 2011)、経 営活動において戦略的な視点をもってアントレプレナー的行動をとることになる(Hitt et al., 2002)。
本論文では、ファミリービジネスにおけるコーポレート・アントレプレナーシップ分析 枠組みを構築する際、これまでのコーポレート・アントレプレナーシップの先行研究では、
コーポレート・アントレプレナーシップのモデルやプロセスとして提示されてこなかった 要因を、戦略的アントレプレナーシップの視点を取り入れて提示する。
これまでにも、戦略的アントレプレナーシップは、コーポレート・アントレプレナーシ ップの類型分類や活動領域の分類において、戦略的リニューアル、持続的再生、ドメイン の再定義、組織的再生、ビジネスモデルの再構築を包括する概念として用いられている (Jockenhöfer, 2012; Morris & Kuratko, 2002; Morris et al., 2008)。これらの活動には戦略のリニ ューアルが必要であり、アントレプレナーシップの視点を用いて、どのように戦略の変更 を行うのか、どの程度、どの方向に戦略の変更を行うのかが重要となる(Morris et al., 2008)。
ただし、コーポレート・アントレプレナーシップの研究分野において、戦略的リニューア ルをはじめとするこれらの活動を包括する戦略的アントレプレナーシップの類型分類を用 いて、コーポレート・アントレプレナーシップの類型分類とする研究者はまだ多くない。
さらに、戦略的アントレプレナーシップの研究分野では、この類型分類はほとんど用い られておらず、コーポレート・アントレプレナーシップはひとつの研究テーマとなってい る。つまり、本論文で取り入れようとしている視点と、類型分類で提示されている戦略的 アントレプレナーシップは、概念は同じだが、概念の用い方が異なることになる。
この研究分野は、新規企業であるニューベンチャーや既存企業の富の創造を理解すると いう目的のために、21 世紀に入ってから研究が始まったばかりの新しい分野である(Hitt, Bierman, Shimizu, & Kochhar, 2001; Ireland et al., 2001)。そのため戦略的アントレプレナーシ ップは、この用語の定義においても、まだ明確な定義とされるものが示されていない。
戦略的アントレプレナーシップは 2つの研究分野の知見を中心とするため、2000年頃の 初期の研究で、2つの研究分野からイノベーション、国際化、国際的アントレプレナーシッ
プ、組織学習、アライアンスやネットワーク、トップ・マネジメント・チーム、戦略的リ ーダーシップ、ガバナンス、戦略的ドメインなどの知見や理論が用いられ、双方向から研 究が進められている分野でもある。
アントレプレナーシップとは新しい事業機会や新商品、新サービス、新しいプロセス、
新市場などを発見し、企業にとって利益となりえる機会を利用して富を創造するものであ る(Eisrnhardt & Brown, 1999)。つまり、その視点を持ってまだ利用されていない機会や新し い機会を認知、認識し、富を創造するのがアントレプレナーシップの中心的概念である(Hitt et al., 2001)。アントレプレナーシップはさらに、新しい組織の創造や組織的変化、業界的変 化を創り上げるため、そして発見した機会を有効利用するために、必要な資源をまとめて 効果的に配置、配分することまでを含んでいるものである(Schoonhoven & Romanelli, 2001)。
新しく発見された機会の利用は、組織にとって持続的な競争優位と富の創造に貢献する ものであるが、多くの企業はその機会を探求するためのインセンティブの方法を誤り、マ ネージャーおよび従業員の機会探求への動機付けを間違うために、競争優位の獲得が困難 になるという問題点を持つ(Day & Wendler, 1998)。新しい価値を創造する機会を発見し、そ の機会を利用しようとするアントレプレナーの行動は、企業にとって一時的な利益ではな く持続的な競争優位をもたらすものであるべきであり、機会の利用において戦略的に資源 をマネジメントしなければ持続的な競争優位を獲得することは難しくなる(Hitt et al.,2001)。
つまり、新しい機会を発見するためのインセンティブの方法を誤り、動機付けを間違うこ とがないよう、戦略的にマネージャーおよび従業員のアントレプレナーとしての行動を促 進することが必要である。そして、機会を利用するために、組織は戦略的に資源をマネジ メントすることが必要となる。
一方、戦略的マネジメントは、企業が平均以上のリターンを得るために戦略的に競争優 位に到達するためのコミットメント、意思決定、行動であり、この 3 つを1 つのセットと して捉え、競争優位に向けてマネジメントするものである(Hitt et al., 2011)。また、戦略的マ ネジメントは、企業が利益を生み出す能力にポジティブな影響を与える(Makadok & Coff, 2002)。つまり、戦略的マネジメントは、企業の競争優位性の探求を中心とした研究分野で あり、そこでは発見され機会をいかに利用し、企業が利益を生み出すための能力を活用し、
マネジメントするかが重要になる。
アントレプレナーシップの機会の探求と戦略的マネジメントの優位性の探求は、片方だ けでは十分ではなく、この 2 つの機会探求行動と優位性探求行動がうまく重なり合い結び ついた時にのみ、企業にとっての価値と富が創造される(Hitt et al., 2001; Ireland et al.,2001)。
そのため、戦略的マネジメントとアントレプレナーシップから得た知見の統合は、戦略的 アントレプレナーシップとして、ニューベンチャーと既存企業の富の創造を理解し、実際 に富の想像を進める上で重要である(Shane & Venkataraman, 2000)。
アントレプレナーシップと戦略的マネジメントの先行研究について、その研究対象に焦 点をあて、まとめると大きく 2 つに分類される。ひとつは、小規模企業やスタートアップ
のベンチャー企業を分析対象とした研究である。これらを分析対象とする研究者は、機会 を利用し効果的に時間をかけて競争優位を開発することや、競争優位を持続させる能力や スキルの研究より、アントレプレナー的機会の同定や機会を発見する能力、およびそのス キルへの関心が高く、これらの研究テーマが中心である。そのため既存企業を対象とした 研究では、競争優位を発展させ持続させるスキルに焦点があたり、保有する資源やケイパ ビリティを利用するアントレプレナー的機会の認識や、機会の発見を効果的に行うための スキルについては、先行研究の数も少なく知見の蓄積が低い。実際として、アントレプレ ナー的なニューベンチャー企業が研究対象であれば、機会を発見し事業を成功させた事例 を研究する場合が多く、これらの事例では機会探求を促進させる傾向が強いことなども、
先行研究において、アントレプレナー的機会の同定や機会を発見する能力などが中心的課 題とされてきた要因である(Ireland, Hitt, & Sirmon, 2003)。
一方、大企業を分析対象とした研究では、パフォーマンスに影響を与える優位性を探求 する傾向が強く、大企業の既存企業を対象とした研究でも、典型的に優位性を探求する行 動やスキームを促進させる傾向が強いため、パフォーマンスにつながるコミットメントや 意思決定、組織行動と戦略的優位性との研究が中心的課題となっている。これらの企業に とって戦略的アントレプレナーシップの視点を持つことは、新しい機会を発見して既存の 社会的経済的な競争状況を打破し、新市場を獲得する上で必要なことである(Ireland, Hitt, et al., 2003)。
これら先行研究の知見を踏まえてHitt et al. (2011)は、戦略的アントレプレナーシップに取 り組む企業を、戦略的視点をもって継続的に新しい機会探求行動と優位性探求行動に取り 組む企業と定義している。アントレプレナーシップの機会探求行動と戦略的マネジメント 優位性探求行動の両方を含む戦略的アントレプレナーシップは、小企業であれ大企業であ れ、一般企業であれファミリービジネスであれ、すべての企業の役に立ち(Hitt et al., 2011)、
その事業の継続と発展に必要なものが、戦略的アントレプレナーシップである(Hitt et al., 2011)。
以上の議論から、本論文では、戦略的アントレプレナーシップを組織が個人、組織、社 会にとって価値となる優位性の探求、機会の探求に関心を持ち(Hitt et al., 2011)、戦略的な 視点をもってアントレプレナー的行動をとることとし(Hitt et al., 2002)、戦略的アントレプレ ナーシップに取組む企業とは、戦略的視点をもって継続的に新しい機会探求行動と優位性 探求行動に取り組む企業とする(Hitt et al., 2009)。
2 .アントレプレナー的マインドセット
戦略的アントレプレナーシップの先行研究で、モデルやフレームワークの構築で用いら れる中心的理論は資源ベース論1)であり、組織論も用いられている。Hitt et al.(2011)は、
組織の戦略的アントレプレナーシップにおいて、機会探求行動と優位性探求行動を結びつ けるものは、保有する資源や新しく獲得する資源の認知とそれをアントレプレナー行動と して組織に広めるための組織学習であるとしており、分析モデルやフレームワークの基礎 となる理論に資源ベース論が用いられている。
Zahra et al. (2000)の研究では、この分析モデルに先立ち、戦略的アントレプレナーシップ に企業が取り組むために必要な要因として、アントレプレナー的戦略とアントレプレナー 的マインドセットの 2 つをあげている。アントレプレナー的戦略はグローバル企業として の発展や新興国市場への参入や創業など、マクロ経済的な国の経済状況や国家間の様々な 状況も含めたアントレプレナー的革新を起こすために、外部環境の視点に根差したもので ある。一方、アントレプレナー的マインドセットは、企業が新しい市場に対して選択し実 行する戦略を、組織の中で統合し、新しい市場で他社よりも優位に首尾よく競争にするた めに必要とされるものであり、内部環境の視点を持つものである(Hitt et al., 2002)。アントレ プレナー的マインドセットは、不確実性から利益を生むためにビジネスや機会について考 える方法、意思、方向性であり(McGrath & MacMillan, 2000)、熱意をもって新しい機会を発 見、幅広い分野での機会の追求、最もよい機会の追求、実行への焦点付け、それらのドメ インにいるすべての人のエネルギーをまとめることである(McGrath & MacMillan, 2000)。ア ントレプレナー的マインドセットとは、熱意を持って機会を探求すること、幅広い分野で 機会を追求すること、最良の機会を追求し、様々なオプションを探し求めて彼ら自身や組 織が消耗することを避けること、実行に焦点をあてること、ドメインのすべての人々のエ ネルギーを用いることである(McGrath & MacMillan, 2000)。これらから、本論文では、アン トレプレナー的マインドセットを、不確実性から利益を生むためにビジネスや機会につい て考える方法、意思、方向性とする(McGrath & MacMillan, 2000)。
アントレプレナーや組織、組織メンバーが潜在性のある機会を継続的に探し出そうとす るには、まず、アントレプレナー的マインドセットが必要であり(Hitt et al., 2002)、企業がイ ノベーションを成功させるためには、アントレプレナー的マインドセットが必要である (Morris et al., 2008 ; Nodqvist & Zellweger, 2011)。これは、アントレプレナー的マインドセッ トには継続的なイノベーションを導く潜在性があるため、企業の競争優位の源泉となりえ るからである(Hitt et al., 2002)。
アントレプレナー的マインドセットは、コーポレート・アントレプレナーシップの研究 でも、用いられている概念である。アントレプレナー的マインドセットは、マネージャー とその組織が、既存組織において新たな事業を創造しマネジメントするために必要であり、
変化への願望と可能性を作るために不可欠である(Morris, 1998; Pinchot, 1985)。Morris &
Kuratko (2002)は、コーポレート・アントレプレナーシップにおけるアントレプレナー的マ インドセットを、認識している変化とイノベーションへの信念と変化を達成するためのケ イパビリティの開発として捉えている。そのためマネージャーは、アントレプレナー的マ インドセットを組織内で持続させるために、チャレンジを形づけ、不確実性を吸収し、重