第 4 章 硬 X 線ピクセル型検出器の開発と評価
4.2 硬 X 線ピクセル検出器
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32 第4章 硬X線ピクセル型検出器の開発と評価 3. ディスクリ用基準電圧: +0.5 – 2.5 V
4. テストパルス電圧: +0.1 – 0.5 V
5. レベル変換チップ電源: ±10 V、+5.0 V
これらの電源は直流安定化電源からレギュレータを経て、供給する。そのうち、ディスクリ用基 準電圧とテストパルス電圧は微調整が必要なために、安定化電源から直接供給することにした。
4.2.2 CdTeピクセル素子
用いたCdTeピクセル素子のピクセル側の電極パターンを図4.3に示す。CdTe素子は陽極陰 極共にPtを用いている。素子の大きさは2.5×1.5 cm2、厚さは0.5 mmである。アノード側に は、ピクセル電極とガードリングがパターニングされており、電極の大きさは448 µm、電極間 のギャップは50µmである。ピクセル数は24×44の1056ピクセルである。長辺の片側では、ピ クセルサイズとガードリング幅が縮小されており、素子を二枚並べたときのデッドエリアを最小 限にするように配慮した
4.2.3 バンプ接合
CdTe半導体は熱や圧力によって性能が劣化してしまうことが知られており、素子とアナログ ASICの接合は、素子を劣化させない程度の熱、圧力で行う必要がある。我々は、三菱重工業名 古屋誘導推進システムと共同で、CdTe半導体用に最適化したバンプ技術を開発した。金(Au)と インジウム(In)を用いたスタッドバンプを用いており、低温(125 ˚C以下で)、低圧(20 g/pixel) でピクセル電極とコンタクトをとる方法を確立している[3]。スタッドは直径25 µmの金ワイヤ を用い、スタッド一段の高さは35 – 50µmである。試作したピクセル検出器では金スタッドは1 段とした。これにさらに、電極への接着性をよくし、2 – 5µmあるCdTeの表面荒さを吸収する ために、Inを金スタッドの上に転写する。機械的強度は、接合後に素子とASICとの間に粘性の 低いエポキシを注入して得る。
図4.1: 検出器システムの写真
4.2. 硬X線ピクセル検出器 33
ASIC
ADC
CLK
Level Shifters
3x128kB SRAM
MISC FPGA studbump CdTe
PC
CdTe ASIC ADC MISC Level Shifter
CLK SRAM
(a) (b)
図4.2: 検出器システムの構成図(a)と信号の流れ(b)。検出器は、CdTe素子、バンプ接合、
ASIC、ADC、FPGAロジック(MISC FPGA)、SRAMから構成されている。
DETAIL
DETAIL
図4.3: 22×44 CdTeピクセル素子。素子の大きさは1.29×2.36 cm2、0.5 mm厚である。電 極ピッチは498 µm、電極サイズは448 µmである。
4.2.4 読み出し用アナログLSI 4.2.4.1 概要
CdTe素子から読み出した信号を処理するためのASIC(以下、Caltech ASIC)は、カリフォル ニア工科大学(Caltech)が開発を行っている2次元VLSIを用いた[36,37]。Caltech ASICは、
High Energy Focusing Telescope (HEFT)気球実験や、将来衛星ミッションConstellation-Xに おいて、硬X線スーパーミラーの焦点面検出器として開発が行われている。表4.1にASICの仕 様を示す。このASICの特徴は、キャパシタアレイと呼ばれるアーキテクチャを採用している点 で、低雑音、低消費電力を実現している。
4.2.4.2 キャパシタアレイ・アーキテクチャ
Caltech ASICは、キャパシタアレイと呼ばれるアーキテクチャを採用している。これは、アナ
ログ波形を時系列でサンプルする手法である。各チャンネルごとに内蔵されている読み出し回路
34 第4章 硬X線ピクセル型検出器の開発と評価
pixelサイズ 498µm
chipサイズ 1.3 ×2.5 cm2
チャンネル数 24× 48
消費電力 50µW/pixel ( 50 mW/chip)
ゲインのばらつき 2 %(最大のチャンネル:5.5 %) ノイズレベル FWHM: 300 eV (@ 0 pF)(標準偏差:10 %)
表4.1: Caltech ASICの仕様
と信号処理の概念図を図4.4 – 図4.5に示す。プリアンプからの出力は、つづくアンプにおいて、
立ち上がり時間100 ns、減衰時間30µsの電流信号に変換される。この信号は、16個あるコンデ ンサに1µs周期ごとに次々と記録されている。このサンプリング動作は検出器からの信号とは無 関係に、常に1µs周期で繰り返されている。
検出器から信号が入力され、コンパレータ回路でトリガー信号が生成されると、その時点から 8 µsのサンプリングが行われる。その後に、ASIC全体でのサンプリング過程が停止される。各 コンデンサに充電された電荷は、定められた電圧信号として読み出され、ADCによってデジタル 信号に変換される。図4.6は、ASICからの信号の出力例を示したものである。このデータから波 高値を再現するためには、DSPに内蔵されたアルゴリズム、もしくはソフトウェアを用いる。今 回の実験では、私が構築したソフトウェアで波高値の再構成を行った。
4.2.4.3 イベントの読み出し
Caltech ASICはノイズ除去や、複数のピクセルに分散された信号(Charge Sharing)から真の 波高値を再現するために、特徴的な読み出しを行っている。ASICから読み出される信号は、ト リガーのたったピクセルとその周囲の8ピクセル、トリガーピクセルから十分に離れた9ピクセ ル(リファレンス・ピクセル)を加えた、合計18ピクセルである注2。トリガーのたったピクセル 周辺のデータはトリガーピクセルの近傍におけるコモンモードノイズを得るため、ならびに、周 囲に分散された信号を集めるために用いられる。リファレンス・ピクセルはチップ全体のコモン モードノイズを求めるために使われる。今回試作した検出器においては、リファレンスピクセル は検出器の接続されていない領域に設定した。1回のイベントで読み出される信号は、18ピクセ ル×16コンデンサの計288個のADC値である。A/D変換には12bit ADCを用いているので、
イベント毎に0.5KBytesのデータ量となる。
4.2.5 解析のながれ
Caltech ASICはソフトウェア処理によって波高値を求める。したがって、その解析は検出器の
性能を決める非常に重要なものとなる。私は解析に必要なソフトウェアを構築し、波高値を以下 の手順にしたがって求めた。
1. 3つ以上のピクセルがトリガーをたてているイベント、または隣接しない2つ以上ピクセル がトリガーをたてているイベントを除く。通常これらは、ノイズによるものが大多数であ る。実際に解析した結果、これらのイベントの占める割合は1.0 %以下であった。
注2読み出される信号には、これ以外の例もある。例えば、隣接する2つのピクセルからトリガーがたてば、その周 囲10個のピクセルから信号が読み出される。また、素子の周辺部でトリガーがたてば、周囲3個や5個の信号が読み 出される。
4.2. 硬X線ピクセル検出器 35
+5V
readout busses
(1 / pixel row) readout amp shaping
amp. disc.
16 capacitors / pixel CSA
trigger out 40fF
10fF
0.5pF 0.5pF
test pulse 1pF input signal input
to ADC
図4.4: ASICの各チャンネルごとの読み出し回路。各チャンネルには、CSA、整形アンプ、
ディスクリミネータ、キャパシタ・アレイから構成されている。
shaping
amp.
disc.
CSA trigger
MUX
s(t)
t
s(t)
t
s(t)
t
s(t)
t i(t)
図4.5: 各チャンネルにおける信号処理の概念図。CSAを経た信号は二つに分岐され、一つは トリガー信号の生成に用いられ、もう一方は16個のコンデンサから構成されるキャパシタア レイへと導かれ、そこで蓄積される。
36 第4章 硬X線ピクセル型検出器の開発と評価
図4.6: ASICからの出力例。ASICは16個のキャパシタの電圧値それぞれをA/D変換し出力する。
2. 9つのリファレンス・ピクセルから、16 µs各時点でのコモンモードノイズを求める。トリ ガーのたったピクセルとその周辺ピクセルの、各時点のADC値からコモンモードノイズを 差し引く。
3. トリガーのたったピクセルとその周辺のデータから、波高値を求める。ASICは各ピクセル あたりに、図4.6に示すような波形を出力する。このデータの後ろから6個のADC値の平 均を始めから6個の平均で引いたものを波高値として採用した。周囲のピクセルで、ソフ トウェアで定義したエネルギー閾値、典型的に5 keV、を超えるものをスプリットイベント
(または、マルチプルヒットイベント)と判定する。これ以外のイベントはシングルヒット・
イベントと呼ぶことにする。
4. トリガーのたったピクセル周辺部から、コモン・モードノイズをもとめて差し引く。このと き、直前の判定でソフトウェア閾値を超えているピクセルに関しては、ノイズを求めるた めに利用しない。すなわち、イベントの出力されていないピクセルのみのデータを用いて、
ノイズを差し引く。
5. この時点で波高値を再計算する。あらかじめテストパルスで求めておいたアナログ回路の ゲイン補正を行って、エネルギーに直す。スプリットイベントに関しては、足しあわせて、
エネルギーを求める。