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研究目的

ドキュメント内 ―動物物(どうぶつもの)を中心に― (ページ 36-41)

一、問題提起

第 1 章で取り上げている先行研究の如く、

1、これまでの研究では、お伽草子の動物の作品の全体像に対する評価の先行研究は ないようである。

2、日中の動物観、異郷観、異類婚姻譚の比較する先行研究がないようである。

3、お伽草子について、徳田和夫氏は、「短編にして簡潔な叙述によって、公家、

武家、庶民にわたる文化事象(語彙、思想、信仰、学芸、芸能、民俗)を如実に提 示している。そこに日本語史、絵画史、社会史、宗教史が注目するところとなり、

諸学の結集の場として際だつことになった(注1)。」と論じられている。筆者は この 3 つに着眼した。

二、研究目的

先行研究では、お伽草子の公家、武家、庶民小説(人間が主人公である作品)は日本 の国語史、絵画史、社会史、宗教史等諸学の結集の場である(注 2)と論じられている。

小論においては、先行研究を踏まえながら、次の 3 つについて究明し、本研究の目的と する。

1、異類小説の1つである動物物は公家・武家・庶民小説と同様に、社会、歴史、信仰、

絵画史などを反映し、更に当世の動物観、異郷観も窺えようと考察したい。

2、動物物はお伽草子にとって如何なる存在なのかを明らかにしたうえで、動物物の文 学史的意義を究明したい。

3、動物物と『聊斎志異』との比較を通して、日中の動物観、異郷観及びその相違を明 らかにしたうえで、日中の文学史における動物登場の文学史的意義、位置づけを考 察したい。

32 三、研究方法

小論の研究方法は、主に同一作品の伝本の比較及び、対象作品(『聊斎志異』を除く)

の所蔵先での資料調査である。また、下記の構成の通り各章での考察を行う。第 4 章は、

修士論文の延長と補足であり、第 3 章、第 5 章、第 6 章、第 7 章は小論のメインである。

まず第 3 章、お伽草子の作品群には、動物を描いた作品が多い。言い換えれば、お伽草 子の時代には、異類婚姻譚や動物の擬人化など数多い動物の作品が描かれた。これまでの 王朝時代の貴族を中心とした作品と異なる趣向の作品が誕生した。よって、お伽草子の時 代は文学史において大きな変化があった時代であろう。第 3 章においては、なぜお伽草子 には動物の作品が多いか。なぜ当時の作者は動物に目を向けるようになったのかを検討す る。文学の変化の背景には、社会構造の変化があると思われる。即ち、古代の貴族社会か ら、中世の武家社会への変動である。こうした社会変動が文学に与える影響の一端を明ら かにする。第 3 章の考察を通して当時の社会、歴史が窺うことができよう。

次に第 4 章、お伽草子には、人間が登場せず、動物のみの動物間の恋愛・結婚、動物間 の争いの作品が少なくない。作品中に主人公である動物はいかなる姿で登場するのか。神 仏、妖怪、植物、調度品も含まれている異類の擬人化の先行研究を踏まえながら、お伽草 子に描かれている動物の描かれ方を検討する。そして、作品の本文及び挿絵を通して、お 伽草子の時代の動物の擬人化の特徴を明らかにする。第 4 章の考察を通して、当時の絵画、

民俗史、動物観が窺うことができよう。

それから第 5 章、異類婚姻譚には、動物が人間の女性に変身し、男性と結婚、人間世界 で暮らす作品と、動物が人間の男性に変身し、女性と結婚する作品がある。作品に登場す る狐、蛤、亀、鶴は女性に、雁、鼠は男性に変身する。小論においては『雁の草子』に注 目し、登場する雁は、なぜ人間の男性に変身するかについて、先行研究を踏まえた上で、

作品の構造及び、内容との関わりを通して、考察を行い。その上で、本作品の動物である

「雁(男性)」の登場の意味と文学的意義を探ることで、『雁の草子』に対する新たな知見 を得たい。本章の考察を通して当時の信仰、動物観、他界観が窺うことができよう。この ように第 3 章、第 4 章、第 5 章の考察を通して、動物物は文学史において意味するものを 究明することができよう。

最後に第 6 章、第 7 章、古代より日中において狐と人間との交流の話は多く伝えられて きた。狐は文学作品の主人公として登場し、大きな役割を果たしている。日本文学におい

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ても、中国文学においても狐はよく美女に変身し、人間世界にやって来る。中国の文学史 においては、怪異小説の白眉とされている『聊斎志異』がある。『聊斎志異』には、表 1 で表しているように動物、特に狐の変身譚が多く描かれ、動物の登場する作品は全作品数 の約 3 割、165 編もある。この数は『聊斎志異』にとって注目すべき、大きな意義を持つ 数字であろう。同様にお伽草子にも数多くの動物の作品がある。第 6 章、第 7 章では、お 伽草子の『玉水物語』、『木幡狐』と『聊斎志異』を比較、分析し、日中における狐の変身 について、動物の住処(異郷)についての相違点を検討する。そのうえで、これまでに先 行研究では行われていなかった、日中における動物に対する動物観、他界観、異郷に対す る認識についての相違点を究明する。第 6 章、第 7 章の考察を通して、日中の文学史にお ける動物登場の文学史的意義、位置づけをすることができよう。

上述のように、小論ではお伽草子の動物の作品に対する総合的な考察、評価はこれまで に行われている他の研究者の研究とは異なる。更に、お伽草子、『聊斎志異』の動物の作品 を通して、日中文学における新たな特徴、そして日中の動物観、動物の全体像を明らかに する点において、意義があると言えよう。

表1『聊斎志異』に登場する動物数

登場する動物数 合計

(種類数)

獣類 鳥類 虫類 魚類

17 9 18 3 47

*注:表は筆者作成。『聊斎志異』の約 500 編(伝本により数が多少違う)のう ち動物が登場するのは 165 編(そのうち狐が登場するのは 83 編)である。獣類 はすべて哺乳類で、狐を含めて 17 種類。鳥類はすべて鳥類。現代の概念と異な り、虫類には昆虫、クモのほかに「虫偏の生き物」すなわち、ヘビ、ハマグリ、

カエルなどを含む。魚類には魚のほかに「魚偏の生き物」すなわちクジラ、ワ ニを含む。魚は種類不記載。

34 四、対象作品

小論の研究対象とした作品は次の通りである。

第 3 章の対象とした作品は、『十二類絵巻』、『鴉鷺合戦物語』、『精進魚類物語』、

『猫の草子』、『鶏鼠物語』、『鼠の草子』動物間に争い(『鼠の草子』を除く)の 6 作 品である。なぜならば、これらの作品は(『鼠の草子』を除く)、歴史的要素、社会的背 景、史実とのかかわりがあるからだ。

第 4 章の対象とした作品は、動物間の恋愛・結婚する『弥兵衛鼠』、『山海相生物語』、

『のせ猿の草子』、『虫妹背物語』、『玉虫の草子』、『ふくろふ』、『猿の草子』の7 作品。動物間の争い(歌合、合戦)『四生の歌合』、『諸虫太平記』、『虫の庭訓』、『魚 虫歌合』、『雀の発心』、『魚太平記』、『獣太平記』、『猫の草子』、『鶏鼠物語』、

『十二類絵巻』、『勧学院物語』、『犬猿合戦絵』、『変化争う』、『あわびの大将物語』

の 14 作品。これらの 21 作品は絵巻、または挿絵ありの作品である。また、絵なし、本文 のみの考察対象作品である『諸虫合戦記』、『三獣会合絵』、『雀そうし』、『犬鷹合戦 物語』、『鴉鷺合戦物語』、『精進魚類物語』の 6 作品、合計 27 作品である。なぜこれら の作品を選定したのか。それは、これらの作品は動物のみの登場する作品であり、動物で ありながら人間の行いをすることと、本文の検討は勿論、擬人化された動物の描かれ方を 検討するため、絵を通しての考察が不可欠であること、こうした作品の本文及び絵を通し ての考察することにより当時の絵画、民俗史、動物観が窺えるからだ。

第 5 章の対象とした作品は、『雁の草子』である。なぜ『雁の草子』を選定したのか。

それは、異類婚姻譚には、動物の変身先が人間の女性か、人間の男性かという性別の相違 により分けられている。管見では、動物が男性に変身する(オオモノヌシ型、『雁の草子 はオオモノヌシ型である。)作品は、動物が女性に変身する(トヨタマヒメ型)作品より 少ないようであることと、本作品の先行研究が少ないからである。それに、先行研究では、

主人公である男(雁)の死、女の出家は「不幸」である故(注 3)、作品に対して評価しな かった。筆者は『雁の草子』の男の死と女の出家はまことに「不幸」であるかどうかを検 討する。こうした検討することにより、当時の信仰、動物観、他界観が窺えるからだ。

第 6 章の対象とした作品は、『木幡狐』と『聊斎志異』である。『木幡狐』を取り上げ たのは、本作品は恋愛物としての特色、異郷描写の特色も有するにも関わらず、先行研究

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が少ないからである。また、『聊斎志異』を取り上げたのは、『聊斎志異』は怪異小説の 粋とされ、動物の作品も多く、お伽草子と同様に各分野に注目されているからだ。それに、

管見ではお伽草子と『聊斎志異』との異郷に関する先行研究がないようであり、本章の考 察することにより、日中の異郷観、動物観が窺えるからだ。

第 7 章の対象とした作品は、『玉水物語』と『聊斎志異』の 1 作品「封三娘」である。

なぜならば、『玉水物語』はお伽草子において異色のある作品ではあるが、先行研究が少 ないからである。それに、先行研究では『玉水物語』は恋愛物語、「封三娘」は友情物語 とし比較し、影響関係がない(注 4)と論じられている故、筆者は先行研究の指摘は妥当だ ろうかと再検討する。こうした『玉水物語』と「封三娘」との比較、再検討をすることに より、両者の影響関係及び、日中の信仰、動物観が窺えるからだ。

1、徳田和夫「百花繚乱の物語草子 お伽草子の可能性」徳田和夫編『御伽草子百花繚乱』

笠間書院 2008 年 11 月 4 頁 2、(注 1)に同じ

3、滝村典子「『鼠草子』『雁の草子』考―怪奇的婚姻譚の語るもの―」『玉藻・フェリス 女学院大学国文学会』24 フェリス女学院大学国文学会 1989 年 3 月 120 頁 4、安藤みな子「御伽草子『玉水物語』考―『聊斎志異』封三娘との比較―『愛知大学国文

学』愛知大学国文学研究会 2004 年 12 月 55 頁

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