――動物を中心に――
はじめに
お伽草子の多くは挿絵を伴った絵本として、当時の人々に愛好されていたと言われてい る。市古貞次氏は、御伽草子を主人公の属性によって、公家小説、僧侶小説、武家小説、
庶民小説、異国小説、異類小説の六つに分類した(注 1)。また、異類物は、人間と異類の結 婚を扱う異類婚姻譚と、人間は登場せず、異類が擬人化され、異類のみの物語の 2 種類に 分けられている。異類とは、人間と類を異にするもの、すなわち鳥獣魚虫の動物、草木等 の植物及無生物の器具神仏魔怪に至るまでを含めて言ふ(注 2)。お伽草子の作品群には、異 類の一つである動物(実際存在するもの)が何らかの形で登場する作品は 171 編もあり、
お伽草子の約4割という極めて大きな位置を占めている(注 3)。また、岳本香織氏によれば
『室町時代物語大成』に収録されている異類物に登場する動物の調査では、動物を五つに 分られ、鳥類 100 種、獣類 28 種、魚類 83 種、貝類 38 種、虫類 47 種、合計 296 種が見ら れているという(注 4)。動物の登場という設定はお伽草子にとって、大きな意義をもつこと は言うまでもない。日本では古代から動植物等の異類を擬人化した文芸が多くみられ、『鳥 獣人物戯画』はその代表作として注目されている。室町時代になると、益々盛んになって いた。このように異類物が擬人化された背景として「草木国土悉皆成仏」という思想の浸 透だと考えられる(注 5)。小論において、多くの擬人化作品の中の動物間の結婚、動物間の 争いを描いた作品の中で、擬人化された動物がどのように描かれてきたかを、作品の内容 と挿絵の関係から明らかにしたい。そして、先行研究を踏まえた上で、対象とした作品の 挿絵を通して、虫類、魚類、鳥類、獣類、いわば四生と言われる動物全般の擬人化の特徴 を考察したい。
一、先行研究
管見では、お伽草子における異類の擬人化の一つである擬人名に関する先行研究は、松 浪久子氏の「あわびの大将物語」解説(1996 年)、徳田和夫氏の「お伽草子の後継―伝季 吟筆・異類合戦物『合 戦 巻かつせんのまき』について(付・翻刻と釈文)―」(2006 年)、沢井耐三氏の
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「『精進魚類物語』擬人名考―笑いの合戦記―」(2012 年)(注 6)などが挙げられる。
また、植物の擬人化の先行研究においては、伊藤信博氏の「植物の擬人化の系譜」(2009 年)(注 7)が挙げられる。しかしながら、挿絵での擬人化された異類の描かれ方に関する先 行研究は少ない。ここでは、橋本直紀氏、伊藤慎吾氏の研究を挙げてみたい。
1、橋本直紀氏は「『あわびの大将物語』追記―特にその絵柄についてー」(1980 年)で、
異類の擬人化について、次のように論じている。(注 8)
異類を絵で表現する場合、やり方は、次の四つに分類できるのではないか。
(一)異類そのものを(写実的に)描く。
(二)異類を擬人化して描く。
(三)人間の顔形を描き、異類を象徴するものを体の一部に描く(つける)。
(四)その他。
異類のうち、いま鬼や天狗、神仏、龍などは除外するとして、
(一)の例では『四生の歌合』(虫の歌合、鳥の歌合、魚の歌合、獣の歌合、)『鳥歌合 絵巻』(『雀の発心絵巻』)『ふくろうの草子』(上記二本は歌を詠む部分)『蛙の草子』
『狐の草子』『玉藻前草子』(以上、本性を顕す部分)『猫の草子』など。室町類ではな いが、『鳥獣戯画』などは(一)とすべきであろうか。但し(二)の要素も多分にある。
(二)の例は多い。首から上全体が異類の姿で、人間の服装・用具等を付け、人間の 振舞いをするもので、獣の場合に一番多く使用される。手足は異類のそれであること も、人間のそれであることもあり、又しばしば衣服などで隠される。『十二類絵巻』『鼠 の草子』『弥兵衛鼠』『かくれ里』『猿の草子』『藤袋草子』『のせ猿草子』『鳥歌合絵巻』
(『雀の発心絵巻』)『ふくろうの草子』『勧学院物語』『をこぜ』(『山海相生絵巻』)『木 幡狐』『申陽候絵巻』『御曹司嶋渡り』(渋川版・馬人国)『鶏鼠物語』等々である。
(三)は通常頭に異類の特徴が描かれる場合が多い。『草木太平記』(『墨染桜』)『酒餅 論』『諸虫太平記』『魚太平記』『勧学院物語』(貝類が歌を詠む部分)など。
(四)には『朝顔の露』『かざしの日姫』(『菊の精物語』)など、
草木を描いてその横に精の形で人間を描くものや、『百鬼夜行絵巻』『化物草子』『付衷 神草子』『御曹司嶋渡り』(秋田県立図書館本。馬人国の場合人顔人体だが、四足で立 っている)『山海異物』等、異形のものを描く場合である。
橋本氏の考察対象とした異類は、妖怪、神仏を除いた動物、植物の作品である。また、
異類物においては人間が登場せず、異類のみを中心に語る作品だけではなく、『狐の草子』、
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『鼠の草子』、『かざしの姫』等人間と異類の動物、植物による異類婚姻譚といった異類の 変身譚まで含む。更に、『御曹司嶋渡り』の「馬人島」(次の図 1、図 2)の場面では、登場 するものは、妖怪、神仏ではないが、動物とも、人間とも言えないものである。小論の純 粋の動物を対象とするものとの相違点の一つである。
2、伊藤慎吾氏は、擬人譚について、「異類の姿」として次のように論じている(注 9)。
①、自然のまま(古代から見られる)
②、頭部が異類、胴体部が人間(中世後期以後、多く見られる)
③、頭部が人間、胴体部が異類(地獄絵図に多く見られる)
④、異類が人間に変身する(古代から見られる。人獣交渉の基本)
⑤、頭部や背部に異類を示すものがある(中世後期以後見られる)
⑥、異類の胴体に人間の手足や顔がつく(器物の擬人化に多い)
⑦、異類と人間との融合した姿(近世以後多く見られる)
⑧、一部分が異類(近世以後多く見られる)
3、また、伊藤氏は「異類・変化・擬人化キャラクターの造形―お伽草子の時代から―」
(2012 年)で、妖怪、擬人化キャラクターの諸形態について、次の[表] ([表]は伊藤 氏の作成したのものである故、そのまま取り上げる。)のように分類している(注 10)。
*人間に害をなさない精霊の類を省く [表]妖怪/擬人化キャラクターの諸形態
類 型
妖 怪 擬人化キャラクター 例 例
1 自然のまま ○ 岩竹 ○ 四生の歌合
2 頭部が異類、それ以外人間 × ― ○ 勧学院物語 3 頭部が人間、それ以外異類 △ 御曹司島渡 × ― 4 異類が人間に変身する ○ 玉藻の草紙 × ― 5 頭部や背部に異類を示すものがある × ― ○ 魚太平記 6 異類の本体として人間の手足や顔がつく △ 付喪神記 × ― 7 異類と人間との融合 ○ 上蜘蛛 △ 虫妹背物語
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4、更に、伊藤氏は、「擬人化表現の型」(2011 年)で、日本文化における擬人化表現の 型を以下のように 10 類に分類されている(注 11)。
①、異類型(全身異類の姿)
②、獣人型(異類の姿だが二足歩行。服の有無あり)
③、頭部異類型(首から上が異類、下が人間)
④、異類着装型(人間の姿だが、部分的に異類のパーツあり)
⑤、異類背景型(姿は完全に人間で、背景に対象物を描く)
⑥、異類本体型(物体に手足を付けたもの)
⑦、異類融合型(人間と異類が融合して境界がない)
⑧、異類象徴型(姿は完全に人間で、服飾デザイン等に対象物が描かれる)
⑨、異類痕跡型(姿は人間だが、一部に異類の痕跡を残す)
⑩、人間型(完全に人間の姿で、対象物の痕跡を残さない)
上述から分かるように、伊藤氏の考察対象とした異類は、第1節の 3 の『四生の歌合』、
『魚太平記』等の動物、第1節の 2 の⑤等の植物、第1節の 2 の⑥、3 の⑥等の調度品、
及び第1節の 3 の『岩竹』、『土蜘蛛』、2 の③、4 の③等の妖怪まで含む広義の異類、人間 以外の物である。また、対象とした作品も、時代の限定がなく、古代から、中世、明治に 至るまでの千年間以上の長期間に書かれた種々のジャンルの作品である。
それに対して、小論においては、研究対象とするのはお伽草子であり、対象時代をお伽 草子の時代(室町時代から江戸前中までの約 400 年間)に限定する。また、第1節の 2 の
④、第1節の 4 の⑩の異類変身譚または異類婚姻譚のように、動物も含む異類が人間に変 身するものは、小論の挿絵での擬人化された動物の描かれ方との主旨が異なるため、対象 外とする。更に、研究対象とする作品はお伽草子の異類物の中の動物のみとする。例えば
『御曹司嶋渡り』では、義経が馬人島を渡る時、島人の馬人と呼ばれるものと出会った。
馬人とは、次の図 1、図 2 で描かれているように、人間でもなく、馬でもなく、人間と馬 の組合せによってできたものであり、実際に存在しないものである。これは動物とは言い がたく、小論の対象外とする。即ち、妖怪のような空想的な存在のものではなく、人間と 同様に、実際に存在する動物のみを研究対象とする。
また、挿絵における動物の擬人化の特徴として、擬人化された動物の本体の変化のみな らず、身に着ける物、行動、姿勢、住居等も含め、細かく考察したい。
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図 1 『御曹司嶋渡り』(室町後期か)の挿絵(秋田県立図書館所蔵)
図 2 『御曹司嶋渡り』(室町後期か)の挿絵(渋川版)