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研究方法

ドキュメント内 日本映画の英語字幕における標準化 (ページ 80-101)

第 1 章で述べたように、本論文は質的研究によって日本映画における英語字幕の 訳出に影響を与える要因の同定と、それらの要因によって生じる訳出の特徴を明ら かにするものであるが、この目的を達成するための研究方法として、インタビュー、

文献調査および事例研究を採用する。インタビューは日本映画の英語字幕翻訳者を 対象とするもので、翻訳者の語りから英語字幕の持つ特性に関する認識、訳出にお ける方策、他の参与者との関係などを引き出す。文献調査では、日本映画の海外受 容、主にアメリカ市場における日本の映像作品の受容状況と、英語字幕の標準化に 関する文献を調査する。事例研究では、インタビューと文献調査から導かれた英語 字幕の訳出における標準化という仮説を検証するために、日本映画 2 作品を対象と して異文化要素の訳出に用いられた方略を分析する。本章では、これらの研究方法 を選択した理由、具体的な調査方法、調査対象の選定などについて論じる。

4.1 インタビュー

インタビューは、翻訳学における調査研究(survey study)で典型的に用いられる 方法であり(Williams & Chesterman, 2002, p. 67)、出来事の背景や経過、複雑な人間 関係などを分析したり、特異な経験を持つ人や専門家などから、物事を達成するま でのプロセスや背景を聞き取ったりするのに適しているとされる(猿橋,2011,p.

142)。したがって、本論文のように字幕制作プロセスにおける字幕翻訳者が行う方 略選択、他の参与者との関係などを探るうえで有効な方法となる。インタビューの 実施に当たっては、「比較的オープンに組み立てられた(=回答の自由度の高い)

インタビュー状況の中で、インタビュイーのものの見方がより明らかになる」(フ

リック,2002,p. 94)半構造化インタビューを行った。調査を開始するにあたり、

まず日本映画の英語字幕翻訳に携る翻訳者に接触を試み、連絡を取ることができた7 名に本論文の趣旨を説明してインタビューへの協力を依頼した。その結果、6名が面 談でのインタビュー、1名が質問紙による調査という形で承諾を得た。インタビュー から質問紙による調査への変更は、本人の意向によるもので、繁忙につき面談の時 間を割くことができないとの理由であった。英語字幕の場合、プロとして継続的に 仕事に携わる英語字幕翻訳者の数は極めて限定的であり、また翻訳者同士の交流も

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多いとは言えないことから(インタビュイーB,インタビュイーE)、インタビュイ ーの選定は難航した。しかし最終的には、2013年7月から2014年6月までの間に、

日本国内での面談を承諾した7名の翻訳者から協力を得ることができた。以下にイ ンタビュイーのプロフィールを示す(敬称略)。

インタビュイー 母語 性別 プロフィール

A 英語 女 映画監督、プロデューサー、日英 字幕翻訳者

B 英語 男 日英字幕翻訳者

C 日本語 男 日英・英日字幕翻訳者、字幕制作、

プロデューサー D 日本語 男 日英・英日字幕翻訳者

E 日本語 男 日英・英日字幕翻訳者

F 英語 女 日英字幕翻訳者

G(質問紙) 日本語 女 日英・英日字幕翻訳者、通訳者 表4.1 インタビュイーとそのプロフィール

インタビューの長さは概ね1時間とし、AとBには1対1(one-on-one)インタビュ ーを、CとD、および EとFには2名一組のグループインタビューを実施した。グ ループインタビューの採用はインタビュイーの意向によるものである。インタビュ ー内容はインタビュイーの承諾を得たうえでICレコーダーに録音し、録音内容を文 字化したものをデータとして使用した。データの内容に関しては、インタビューの 文字化が終了した後に、再びインタビュイーに文字化したデータについて意見を聞 き、その発言内容が正しいかどうかを確認するという方法(「コミュニケーション による妥当化(communicative validation)」(フリック,2002,p. 277))でデータ の妥当性を検証した。Gに関しては本人の意向に従って質問紙による調査に変更し、

電子メールで質問紙の送付と回答の回収を行った。インタビュイーのうち、AとB は共に英語母語話者であるが日本語に堪能であることから、両氏のインタビューは 個別に日本語で行った。また、Aは海外在住者であるため、来日の機会に合わせて インタビューを設定した。C、D、E、Gの4名は日本語母語話者である。英語母語

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話者であるFの場合は、同席したE(日本語母語話者)が必要に応じて筆者の質問 を英語に通訳し、それに対してFが日本語または英語で答えるという方法を取った。

よって、本論文におけるインタビューの内容は、Fが英語で答えた数か所を除いて、

すべて日本語で記録されたものである。下記はインタビューと質問紙における設問 である。

・英語字幕翻訳を始めたきっかけを教えてください。

・「良い」字幕とはどのような字幕だと思いますか。

・観客はどのような字幕を望んでいると思いますか。

・翻訳するときに、どんなことを重視しますか。

・翻訳をしていて、難しいと感じるのはどんな時ですか。

・文化的な言葉を訳す時はどのようにしますか。

・翻訳指示があるときは、どのように対応しますか。

・制作担当者からのフィードバックはどのような内容ですか。

・修正の要請にはどのように対応しますか。

・映画のタイトル、予告編、フライヤーの翻訳をすることがありますか。

・字数制限についてどう感じますか。

・英語字幕は英語のネイティブ以外も読むことがあると思いますが、そのことが翻 訳に影響することがありますか。

・英語字幕はどのような役割を持っていると思いますか。

設問のうち「文化的な言葉」に関しては、自由な語りを優先させるという趣旨から

「文化」という言葉の定義を示さずに、各インタビュイーの認識に基づいて、これ までの事例などを含めて語ってもらうこととした。また、インタビュー・データの 使用については研究協力依頼書の中で倫理誓約に関する承諾を得て、承諾を得られ 部分をデータとして使用した(AとBは本文中に記載した箇所のみ、C、D、E、F、 Gのデータは補遺を参照)。

質的研究においては、インタビューなどによって得られた一次的データを様々な 手法によって分析し、概念生成を目指すという手法(グラウンデッド・セオリー・

アプローチ(GTA)など)が採られることがあるが、本論文においてはインタビュ

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ーおよび質問紙、電子メールによって得たデータを、概念生成ではなく、英語字幕 の訳出や他の参与者との関係性などについて検討する際の、追加的かつ補助的な情 報として用いることとした。そうすることで、翻訳者が英語字幕のプロセス上の特 性をどのように認識しているのかを浮かび上がらせ、それを英語字幕の訳出につい て考察する手がかりとなると考えたからである。したがって、NVivoなどの質的デ ータ分析のためのソフトウェアは使用していない。また、字幕制作プロセスにおけ る英語字幕翻訳者と日本語字幕の役割の違いや、他の参与者との関係性の差異につ いての言及に関しては、筆者が修士論文において実施した日本語字幕翻訳者や制作 担当者へのインタビュー(篠原,2011)のデータの一部も併せて使用した。これら のデータは、日本語字幕と英語字幕の制作プロセスにおける翻訳者の権力(power) の違いを考察する上で有効と考えられる。さらに、上述した7名の対象者のほかに、

電子メールによって質問紙を送り、英語字幕制作会社2社(H、I)からも、英語字 幕制作における映画の企画立案関係者の関与などについてのデータを得た。そうし た内容も含めて、翻訳者以外の参与者の英語字幕の特性に関する認識も考察に反映 させるよう努めた。

4.2 文献調査

本論文では英語字幕の方略分析と併せて、日本製映像作品の海外受容に関する文 献調査を行う。日本映画をはじめとする日本製の映像作品が、海外でどのように視 聴されているのかを探ることが、英語字幕の訳出に影響を与える要因と、その結果 としての訳出を議論する手がかりになると考えるからである。この調査では映画の 世界的な受容に関するデータベースであるInternet Movie Database (IMDb) から、日 本映画の英語字幕が受容される地域を明らかにする。また、日本映画の主たるマー ケットであるアメリカにおける外国映画、字幕、日本映画や日本製アニメーション

(anime)1の受容状況に関連した文献を取り上げる。具体的には、事例研究の対象と

した作品に関する文献(叶,2006;周防,2001,2005;ネイピア,2002)、日本映 画の海外受容に関する論考(田中,1976;四方田・黒沢・吉見・李,2011)を吟味

1 アニメ(anime)という言葉は、フランス語のaniméに由来する。この言葉は ①ジャパニ

メーション(Japanimation)やジャパニーズ・アニメーション(Japanese animation)より簡便 であること、②初めてアニメを他言語に吹き替えたフランス語への表敬、という理由から採 用されたと考えられる。(Lu, 2008, p. 184)

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