1. 災害急性期の看護活動とダメージコントロール
早野 貴美子
防衛医科大学校 医学教育部看護学科
平成 26 年防衛医科大学校医学教育部において看護学科第 1 期生の看護教育が開始されまし た。4 年課程のカリキュラムでは、災害看護論2単位に加えて、防衛看護学において“災害看 護”がプログラムされています。『防衛看護学』に位置づけられる“災害看護”では、組織化さ れた災害時の医療活動に価値を置きます。その際、“ダメージコントロール”の広義的な解釈 に基づき、実践技能の基盤となる知識体系の整理とともに行動を選択する意味づけを行って います。ダメージコントロールのコア概念は、『重篤な状態に対してどこまで対処することが その後の機能維持や回復につなげられるのか』といった応急行為にあります。すなわち、危機 的状況において、将来を見据えた早急な判断と行動の選択、さらに損傷・被害を制御するス キルの精度が求められます。ダメージコントロールの起源は軍事領域にあり、砲撃を受けた 戦艦が危機に耐え任務を全うするための戦略でした。現在では医療分野やIT企業、経営、金 融業界の危機対応に応用されています。
そこで今回は、災害医療の原則であるCSCATTT:ⅰ)Command & Control、ⅱ)Safety、
ⅲ)Communication、ⅳ)Assessment、ⅴ)Triage、ⅵ)Treatment、ⅶ)Transportの視点で、
以下の要点を踏まえながら“ダメージコントロール”について考察します。
1.ダメージコントロールのコア要素
2.ナイチンゲールの看護理論から考えるダメージコントロール 3. 健康危機への看護技能の“集中とバランス”
ダメージコントロールが必要とされる状況は、医療への需要と供給のバランスが崩れた想 定を超えた渦中にあります。そのため資源を有効に活かす効率性と安全確保のバランスが求 められます。ダメージコントロールは危機回避の戦略ですが、標準化されたシステムの確立 とともに医療職者の力の結束なしに成果は望めません。また、災害時の健康危機に対して、差 し迫る判断に葛藤しながらも、マルチタスクを全うできる人材育成は重要です。救急医療で は、ダメージコントロールの考え方は実践レベルで展開されていますが、看護領域において は明確な概念の定義には至っていません。実践の経験知から看護の役割と技能に関するエビ デンスの蓄積はこれからの課題であり、制約された状況下で適応できるダメージコントロー ルのシステムづくりに取り組みたいと考えます。
ミニレクチャー看護教育講演
小松 由佳
杏林大学医学部付属病院 看護部
看護教育講演
2. クリティカルケアにおける回復を促進させる支援とは
近年、 ICUや高度救命救急センターの普及と医療の発展とともに、重症患者の各種治療法
や全身管理の進歩により、救命率は向上した。一方、単なる延命や長寿等医療の量的進歩に留
まらず、“寝たきり”状態などで延命ではなく、日常生活や社会生活が質的・内容的に充実し
た医療への願望の高まりから、 ICU退出後や退院後においてもその人らしい生活が送れるよ
うといった医療へと変化してきている。しかし未だに敗血症患者は、 ICUにおいて知的・精
神的障害に苦悩されていること、ARDS患者に関してもICUでの治療により生存した後も、運
動制限、知的・精神的障害、 QOLの低下に苦しみ、さらには高額な医療費を払い続けている
ことが指摘されている。ICU退出後長期の生存患者において、呼吸機能障害や全身の運動機能
の低下などが著しいことも重要な問題として捉えられ、集中治療を受けた患者の長期転帰を
改善することの重要性が検討されるようになってきた。近年post-intensive care syndrome
(PICS)や、 ICU-acquired weakness(ICU-AW)という概念が提唱されて以来、看護援助によっ
て患者本人のみならず家族の精神的要素、見当識に関する要素、そして身体的要素に分類し
て検討されるようになってきた。今回、重症患者の身体的・知的・精神的側面に着目し、重篤
な状態からその人らしい日常生活への実現に向け、回復を促す看護援助とは何かを説いてい
くこととする。
看護教育講演
3. 開発途上国の医療と集中治療の現状~日本の看護を問い直す~
山本 加奈子
川崎医療福祉大学 医療福祉学部
航空機などの交通網の発達により、人や物は容易に国々を移動することが可能になった。
さらに、テレビやインターネットの情報網の発達により、瞬時に世界中の情報が得られ、容易 に世界とつながるようになった。保健、感染症対策、環境問題など、地球規模で取り組むべき 課題が増加する中、グローバルな視点で医療・保健・看護を行っていく必要がある。
国際社会の動きとしては、1977 年、世界保健総会において「 2000 年までにすべての人に健 康を」(Health for All by the Year 2000 )をWHOの基本目標に設定し、ライマリヘルスケア
( PHC )の理念が掲げられた。2000 年には、国際社会が取り組むべき具体的目標としてミレニ アム開発目標Millennium development Goals( MDGs )が定められた。2015 年には、 MDGs の成果を踏まえた「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」が採択され、「誰も置き去りに しない-leaving no one left behind 」を掲げ、持続可能な開発目標Sustainable Development Goals( SDGs )が定められ、日本を含むあらゆる開発レベルの国々の取り組みが求められてい る。
日本は、団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年を目途に、重度な要介護状態となっても住み 慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい ・医療・
介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築が進められてい る。このような背景において、医療処置が必要な患者であっても、在宅に帰っていく時代が到 来している。
本看護教育講演では、発表者が長年調査研究で携わっている東南アジアのラオスの医療や、
その近隣の医療状況を概観しながら、日本の未来とこれからの看護について考える機会とし たい。
看護教育講演
渡邉 和宏
日本大学病院 循環器内科