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第4章 ISO/JIS Q 10012 の企業内活用のための手引きと考察

4.6 生産現場における測定の不確かさを考慮した検査規格の設定方法

近年の経済社会情勢の著しい変化の中、製造業における国際競争力と安全安心を確保の上で、計量計 測管理の強化とグローバル化は必須の課題になっている。

計測管理規格ISO 10012は、企業内における計測システム構築と活用のための指針であり、課題解決 のための有用なツールと考える。

計測管理規格ISO 10012を活用するためには、測定の不確かさを算出することが求められている。

ISO/IEC Guide98-3に基づいた測定の不確かさは、国家/国際計量標準から生産現場で用いる計測システ ムへの連鎖を求めており、比較的少量を生産する工業製品には適用しやすい。

大量生産される工業製品の評価には、測定の不確かさを導出するよりも、自動車産業品質マネジメン トシステムISO/TS 16949のコアツールの測定システム解析(MSA:Measurement Systems Analysis)

を活用することが、有効的であり効果的であると認識している。

完成された製品を構成する部品の様に大量生産している製造現場や大型設備メーカーの製造現場な どにおいて、測定システム解析で算出されるGRR(Gage Repeatability and Reproducibility)を、測 定の不確かさを補完するツールとして検討した。

また、(社)日本計量振興協会の平成23年度事業では、ISO/JIS Q 10012規格の更なる普及活用に向 け、規格の詳細および導入ポイントの検討・調査、活用事例の調査を行なって来た。

調査活動の成果は、規格解説書と規格導入手引き書を作成するために、計測管理規格(JIS Q 10012)

の普及活用の調査委員会の中で活用した。

当委員会で検討した生産現場への計測管理規格(JIS Q 10012)の普及活用を円滑に進めるととも に、自動車産業品質マネジメントシステム認証を取得済みの企業にも受け入れられ、広く活用される 計測管理規格(JIS Q 10012)となることを望む。

本テキストの4.6節と4.7節の内容は、当委員会において検討した内容である。

4.6.2 消費者リスクと生産者リスク

1)定義及び消費者リスクと生産者リスクの関係

消費者リスクと生産者リスクの名称と定義はMSA第4版スタディガイドに記載よる。MSA第4版スタ ディガイドでのリスクとは、個人又はプロセスに対する有害であると判断する可能性である。従って、

消費者リスクCR(Consumer's Risk)の定義は、製品を測定層別した後、製品規格内の合格品と判定し た中に製品規格外の不合格品が混在する確率である。また、生産者リスクPR(Producer's Risk)の定 義は、製品を測定層別した後、製品規格外の不合格品と判定した中に製品規格内の合格品が混在する確 率である。

図1 消費者リスクCRと生産者リスクPRのイメージ図

図1に示すようにガードバンド(製品規格半値幅と検査規格半値幅との差)があったとしても、測定 システムのばらつきがガードバンドより大きい場合、検査測定後に製品規格内の合格品と判定した中に、

製品規格外の不合格品が混入するリスクがあるとイメージできる。また、ガードバンドにある多くの製 品規格内の良品を製品規格外の不良品として判定していることも容易に理解できる。

ここで、ガードバンドの大きさによってどの様なことが発生しうるか考えてみる。

図2 カードバンドの大きさが変化したときのイメージ図

図2に示すようにガードバンドの大きさが変化することにより消費者リスクと生産者リスクが変化す ることが分かる。すなわち、ガードバンドを小さくした場合、生産者リスクは小さくなるが消費者リス クが大きくなり顧客に不良品が流出する可能性が発生する。逆にガードバンドを大きくした場合、消費 者リスクは、ほとんどゼロになるが生産者リスクが非常に大きくなり多量の製品規格内の良品を不良品 として判定することになる。このように、消費者リスクと生産者リスクはガードバンドの大きさにより、

相反する関係を示すことが理解できる。

2)消費者リスクと生産者リスクの算出方法

検査工程の測定システムの消費者リスク(製品を測定層別した後、製品規格内の良品と判定した製 品の中に製品規格外の不良品が混在する確率)と生産者リスク(製品を測定層別した後、製品規格外 の不良品と判定した製品の中に製品規格内の良品が混在する確率)の求め方は、1995 NCSL Workshop & Symposium で 発 表さ れ た論 文“Managing Calibration Confidence in the Real World”(David Deaver)で示されている。

この論文で示されている消費者リスクと生産者リスクを求める式は2重積分の式(詳細な内容はガー ドバンドファクタ表に示す)である。従って、消費者リスクと生産者リスクの算出は手計算で算出でき るものではないため、消費者リスクと生産者リスクの考え方が産業界に普及する速度は鈍い状態である。

このため、生産者と顧客がともに納得できる標準的な消費者リスクという概念が形成されていないのが 現状である。

3)消費者リスクと生産者リスクの変動要因

前項で説明した論文の消費者リスクを求める式と生産者リスクを求める式から、消費者リスクと生産 者リスクを変動させる6つの変動要因があることが分かる。すなわち、①製品規格、②検査規格、③製 品ロットの平均値、④製品ロットの標準偏差、⑤測定システムの標準偏差、⑥測定システムの偏りであ る。しかし、一般に測定システムは定期的に校正がされ、測定システムが偏りを持たない状態で保たれ

ていることが通常の状態である。従って、一般的な測定システムにおいては消費者リスクと生産者リス クの変動要因は、⑥を省いた①から⑤を考慮すればよい。

4.6.3 標準的な消費者リスクの考え方

1)標準的な消費者リスクとは

前項で述べたように標準的な消費者リスクとは、生産者と顧客がともに納得できる標準的な消費者リ スクという概念である。言い換えれば、標準的な消費者リスクは、生産者と顧客が納得できる良好な製 品分布と良好な製品変動の状態で、良好な精度比の測定システムと良好なガードバンドで測定したとき の消費者リスクである。

では、良好な製品分布、良好な製品変動、良好な精度比の測定システム、良好なガードバンドとはど の様なものであるかについて次項以降に説明を行う。

2)良好な生産工程

標準的な消費者リスクを求めるために必要な良好な製品分布と良好な製品変動を有する良好な生 産工程の状態の考え方について述べる。

まず、標準的な消費者リスクを考える上で参考にした自動車業界におけるシックスシグマの不良

率が3.4ppmであるという考え方について図 3を用いて説明する。

図 3 自動車業界のシックスシグマの不良率 3.4ppm の説明図

図 3 からわかるように、自動車業界における良好な生産工程はCp=2.0で、製品ロットの平均値の ばらつきの範囲が製品規格の中心から±1.5σT(製品ロットの標準偏差σTの1.5倍)であることがわか る。従って、これを産業用(車載用)における標準的な消費者リスクを算出するときの製品ロットの 標準偏差σTと製品ロットの平均値の製品規格の中心からのズレの大きさΔF(σTの何倍あるかの数値)

と規定するときの値として適切であると考える。

また、一般的に生産工程の良好な状態のCpはCp=1.33であるといわれている。このときの製品ロ ットごとの平均値のズレは一般的に規定されていないが、産業用(車載用)と同等であると考えるこ とが妥当と思われる。従って、この状態を汎用品(カタログ品)の良好な生産工程の状態と考え、汎 用品(カタログ品)の標準的な消費者リスクを算出するときの製品ロットの標準偏差σTと製品ロット の平均値の製品規格の中心からのズレの大きさ ΔF(σTの何倍あるかの数値)と規定するときの値と して適切であると考える。この説明図を図 4に示す。

図 4 汎用品(カタログ品)の良好な生産工程の状態の説明図

3)良好な測定システムの精度

良好な測定システムの精度を決めるための参考した規格を下記に示す。

<参考規格>ANSI/NCSL Z540.3-2006 5.3測定・試験装置の校正

・合否判定リスク(製品規格外の不合格品が製品規格の端にあるとき、これを合格品と判定する確 率)は、2%を超えてはならない。このときのガードバンドは、製品規格上側と製品規格下側で1%

を超えないガードバンドの値2.33σS(σS:測定システムの不確かさの標準偏差)となる。

・この確率のレート(2%)を見積もれない場合は、測定の不確かさのレートは、4:1とするか又 はそれより大きくしなければならない。(計測されるもの:計測するもの 精度比 4:1)

従って、上記規格から良好な測定システムを実現するためには、ガードバンド:2.33 σS 、精度比 4:1 に設定する必要があると考えた。

4)産業用(車載用)の標準的な消費者リスク

産業用の良好な製品分布、良好な製品変動、良好な精度比の測定システム、良好なガードバンドは、

上記1)から3)の内容から下記のように設定することができる。

・製品分布:Cp=2.0 (製品規格幅/製品ロットの標準偏差の6倍)

・製品規格の中心から製品平均値の最大変動幅±1.5σT

(σT:製品ロットの標準偏差)

・ガードバンド幅2.33σS(σS:測定システムの不確かさの標準偏差)

・精度比: σT:σS=4:1

上記の条件のときの産業用の製品の消費者リスクの最大値が、標準的な消費者リスクであると考え ることができる。このときの消費者リスクは、9.8 ppb である。

5)汎用品(カタログ品)の標準的な消費者リスク

汎用品の良好な製品分布、良好な製品変動、良好な精度比の測定システム、良好なガードバンドは、

上記1)から3)の内容から下記のように設定することができる。

・製品分布:Cp=1.33 (製品規格幅/製品ロットの標準偏差の6倍)

・製品規格の中心から製品平均値の最大変動幅±1.5σT

(σT:製品ロットの標準偏差)

・ガードバンド幅2.33σS(σS:測定システムの不確かさの標準偏差)

・精度比: σT:σS=4:1