第4章 ISO/JIS Q 10012 の企業内活用のための手引きと考察
付表 1 ガードバンドファクタ表
4.8 顧客計量要求事項(CMR)に対応する「精度比」について
ISO 10012計測マネジメントシステム規格(以下10012規格と略す)では、高品質、安全、安心、環境保
全、なモノづくりをするために基盤となる計量計測を有効に活用することを狙っている。また、このために その計量計測技術レベルをどの程度にしたら良いか?が業務の効率、コストに大きく影響をおよぼす。
そこで、このことを解決するために従来より各国で伝統的に活用されてきた指標として、顧客、設計、製 造、品証各部門共通の指標として、「精度比」が広く用いられてきた。これらは、1950 年来今日までに、
国際的な品質保証規格、校正規格等に具体的な数値として明記されたりしてきた。
「精度比」の具体的数値としては製品公差に対して1/5~1/10(one tenth)(航空・宇宙機器、原子力 機器、自動車等)、また、計測器の校正には 1/3(計量法)~1/4(米軍規格→米政府規格→ISO 10012-1(1/3~1/10)等)である。
また、これらは品質保証に対する供給者及び顧客双方監査の指標としても有効なものである。
しかしながら、この「精度比」については明確な定義はなく、技術的な内容については解釈が不統一な 状況にある。
また最近ではアメリカ政府規格ANSI/NCSL Z540.3:2006(校正等の規格)では計測機器の精度規 格に対する合否判定の方法として「4対1理論」「2%リスク」「ガードバンド」等の指標も台頭してきた。
さらに、ものづくりの手法として、工程能力指数が重要視され、管理限界の管理⇒工程能力指数(cp、
Cpk)管理に移行している。これが品質向上、能率向上に貢献している。この具体的な数値として、Cpk 値 1(3σ)からさらに2(6σ)まで活用されてきている。
今後、 10012 規格を導入普及させるために、それらの管理手法の指標として、顧客計量要求事項:
CMRの技術レベルの指標として、「精度比」は有効なツールになるかを考察する。
そこで、従来伝統的に使われてきたもの、新しく台頭してきたものを含めて、これらの内容を調査した 結果をまとめて今後の参考とする。
4.8.2 調査結果のまとめ
前述により、精度比に対する先人の知恵、歴史的、国際的、伝統的な常識、考え方、製品公差に 対する影響、等調査した。
次の観点により10012規格の導入推進に対しても有効と考える。
1)精度比の活用の観点
① 比較的高精度を要する業種、契約仕様(品質保証共通仕様書等)によって製造納入される 業界ではその契約仕様書(国際規格、調達元の規格等)により精度比を適用する考え方が 定着している。
② 契約した精度比を守れば、測定精度の影響は容認される。
製品の品質の測定に対して、製品の規格(公差)巾に対し、その製品の品質の重要度に対 応した精度比を取り決めしておけばその測定精度の影響は容認される。
③ 精度比の考え方は、顧客、設計、製造、品証各部門共通の指標として、従来より各国で伝 統的に活用されている。
④ 最近の計測機器は高精度、安価になっており一般的な測定要求に対しては、精度比1/4
~1/10 でも計測コストはさほど変わらない。
⑤ 上記により、製品の取引、工程管理、品質保証システムの相互監査等の指標として了承の 上活用されている。
⑥ 従って、今後も精度比が活用され得る。
2)精度比活用の問題点
しかしながら、この「精度比」及びこれに関連する「精度」、については明確な定義はなく、解釈が不統 一な状況にある。
また、精度比をものづくりのどの場面で、どのような精度比レベルで活用したら良いかは下記のように 明確でない。
① 精度比について不明確な点:
精度比:測定精度 / 製品規格 (製品規格は公差
巾
?、精度±
?)測定精度とは? 製品規格とは?
誤差? 公差巾?
系統誤差? ±測定値の比率(±○○%)
偶然誤差? 製品の種類により規格値の表現は異なる
系統誤差?+偶然誤差? 合金鋼の焼入れ保持温度規格:750~850℃
不確かさ? 温度計の精度規格:±0.5%FS(巾1.0%?)
かたよりを含めた不確かさ? 排ガス濃度:○○.○g/km以下
調査結果⇒ 精度比 = 測定精度:かたよりを含めた不確かさ
/
製品規格:公差巾(系統誤差を補正すればベスト)
② 製品の規格巾(公差)に対し、その製品の品質の重要度に対応した精度比レベルをどのよう に決めたらよいか。過大評価?、過小評価?ではないか?。
調査結果⇒ 製品の品質の重要度に対応した精度比レベルを顧客と取り決める。
③ 法制、研究開発、工程管理、改善等、CMRによる精度比レベルによる使い分けが効率よくな されているか?。
調査結果⇒ 製品の品質の重要度に対応した精度比レベルを顧客と取り決める。
④ 工程能力(Cp、Cpk、) 、安全率、製品合否判定基準(ガードバンドと併用)、リスク等他の指 標とリンクしているか?。
調査結果⇒ 他の指標とリンクさせた精度比レベルを適用する。工程能力指数の例 ・ 一般的な工程能力指数(Cp、Cpk、)に対しては精度比1/4~1/10の精度比 ・ 高精度、高機能を要求される工程、工程が不安定なとき、それを設定する時、
は精度比レベルを高くする。
工程が安定したら1/4~1/10の精度比で充分。
3) ISO10012規格への活用
上記(1)(2)を考慮しながら 10012 規格の「計量確認」「不確かさ」等の手法と ともに精度比の考え方を効率よく活用する。このことが品質の改善、業務の効率化 につながり、ひいては顧客満足を達成すると考える。
4.8.3 「精度比」に対応する「製品精度」について
1)公共規格には「製品精度」と言う文言は表現していないが、モノづくりの場で製品の品質を評 価をするための「製品精度」に相当するものとして「規格、公差、許容誤差、tolerance」、等が 表現されている。
また、校正業務の場での「精度比」の対応として 計測器の精度―――標準器、校正器の精度
製品の精度――――被校正計測器の精度 に相当し双方とも計測器の精度同士の比較となる。
従って、精度については双方とも「誤差、精度:accuracy,不確かさ:uncertainty」等で比較さ れることになり必然的に±○○、片側同士の比較になる。
しかし公共規格の中には被校正計測器に対して「総合誤差、total uncertainty、acceptable tolerance」等両側を示唆する表現をされているものもあり片側、両側の比較でも問題は起きない。
前述 4.8.1 のねらいに示すように製品の品質を評価をするために行う計測器の精度と製品の品質 を評価するための「規格、公差、許容誤差、tolerance」等の指標について、ひっくるめて「精度 比」と言う文言に置き換えたならば活用しやすい。
公共規格には「精度比」としての文言としては表現していないが、モノづくりの現場では慣用語 として活用している現状がある。
2)製品精度に相当するものについて、公差巾を言うか、±片側、両側を言うのか?
① 計測器の場合:
製品を測定する計測器の場合は前述したように±片側で何ら問題はない。
② 製品はどうか?
ア. モノづくりの場で製品の品質を評価をするために行う計測の目的は測定対象の製品の特 性「規格、公差、許容誤差、tolerance」に対して、どうなっているかを測定することである。
従って、「規格、公差、許容誤差、tolerance」の数値によって、その測定を行う測定器の精 度がどれだけでなければならないかの指標が求められる。
イ.「規格、公差、許容誤差、tolerance」の数値はどのように示されるか?
ウ. 機械量(寸法)の場合:穴位置の場合は±で示される場合もあるが、嵌めあい、取り付 け、クリアランス等範囲、巾で示されることが圧倒的に多い。
エ、物理量等(圧力、温度、流量、等):範囲、巾で示されることが多い。
オ. 従って、製品の場合は公差巾、両側が便利。
カ. 若し、片側とするとわざわざ巾で示される公差の中央数値を求めさらに巾の1/2を求めな ければならない。
キ .製品が計測器の場合でも計測器の製品特性は規格の上限、下限の間にあることを評価する
ことが多い。(規格によってはtotal uncertainty、acceptable toleranceを明言している)
ク. 外国の公共規格、日本の文献は全て「規格、公差、許容誤差、tolerance」公差巾、両側に 対する比を示している。
3)従って「精度比」を表現するときには、公共規格には「製品精度」と言う定義はないのでそ れぞれの表現する場で「製品精度」の説明をしておくと用語の解釈について混乱を避けるこ とが出来る。
「不確かさ(k:2)」
偶然誤差(標準偏差、ばらつき)
4.8.4 調査内容詳細
1) 精度とは、不確かさとは、誤差とは、:
「精度比」を説明するのに「精度、不確かさ、誤差等」の言葉について多様な考え方があるので、
混乱をしないように、図 1イメージ図により、これらの言葉の考え方を示します。(必ずしも公 共規格に示されるものとは同じではないが以下この資料で述べる内容が混乱しない程度の考え 方を示すものとする)。
① 偶然誤差:ばらつき(σ)
② 真値(S):標準器等のより高レベルの値を真値とみなす。
③ 系統誤差〔かたより〕:(δ)=測定平均値(M) - 真値(S)
④ 精度:系統誤差(かたより)と偶然誤差(ばらつき)を概念的に含めたもの。
⑤ 不確かさ:偶然誤差(ばらつき)と補正できない系統誤差を「GUM」の国際 的に統一した考え方により取りまとめた(合成した)もの。
⑥ 精度と不確かさの違いは、偶然誤差(ばらつき)と系統誤差(かたより)をどう扱うかの違 いである。
2)精度比についての考え方及び活用
一般的には 精度比 = 測定精度 / 製品規格巾 の式で 1/10~1/3 と表現されて いるがその内容は前項4.8.2 2)精度比活用の問題点で述べたように単純には示せない。
製品の種類による規格値、測定精度に対する考え方の代表例を以下に示しその活用事例について 示す。
(M) 測定平均値 真値 (S)
系統誤差
〔かたより、誤差〕
(T)製品公差=正規分布の場合、約±3σ)
測定値(正規分布)
(σ)
度数
寸法
図 1 精度とは、不確かさとは、誤差とはのイメージ図
・ 繰り返し回数(n)をを増 やせば誤差は減る。
平均値の不確かさは 1/√nになる。
δ 補正をすれば系統 誤差は減る