• 検索結果がありません。

現物給付(対人社会サービス)

ドキュメント内 イギリスにおける国と地方の役割分担 (ページ 33-40)

4. 社会保障制度

4.3 現物給付(対人社会サービス)

に向けられることになる。この組織は保健省ではなく独立した監督官が設置を認可し,

監督を行うこととされる。特に多額の負債を抱えるなどして経営に失敗した場合には 監督官が介入して経営陣の更迭等が行なわれることとされる。ブレア政権では,NHS トラストから FT への全面的な移管を目指していたが,これが将来的な民営化につな がると理解されたことで FT 創設法案は大きな反対を招いたため,経営の自由度がか なり狭められることになり,FT に転換したNHS トラストは,2005 年 4 月現在で25 にとどまっている。なお,今回の FT 創設の対象地域はイングランドのみであり,ス コットランドやウェールズは参加せずに中央主導型のサービスが維持されている。

NHSによる保健医療サービスの監査については,1948年のNHS創設以来NHSの質 に関する全国基準が無く,それが地域格差の原因であったと考えられていたが,1999 年 の 保 健 法 Health Act に 基 づ い て 保 健 医 療 改 善 委 員 会 Commission for Health Improvement(CHI)が組織され,2000年4月からNHSへの監査を行うこととされた。

しかし,委員会が監査の対象とするのはNHSの保健医療サービスのみであり,民間セ クターやボランタリーセクターについては,2000年のケア・スタンダード法によって 創設された全国ケア基準委員会National Care Standard Commissionが行うこととされて いた。このため,保健医療サービスの監査機関の分立が問題となり,2003年の保健及 び社会ケア(コミュニティ保健及び基準)法Health and Social Care(Community Health and Standard)Actによって,保健ケア監査・検査委員会The Commission for Health Care Audit and Inspection(CHAI)として統合され,公的部門及び民間部門双方の医療サー ビスの監査に責任を持つこととされた。

障害者ならびにその家族・介護者に対する広汎なサービスを提供している。なお,保 健 省 の 所 管 で あ り , 基 本 的 に 医 療 を 担 当 す る 執 行 機 関 で あ る 国 民 保 健 サ ー ビ ス National Health Service(NHS)も,近年は初期医療に力を入れており,その段階にお ける業務を地方政府の社会サービス部と協力して執行することとされている。

1970年以前には,地方政府における対人社会サービス関連部局は,児童局,福祉局

(高齢者・身体障害者),衛生局(知的障害者・精神障害者への地域サービスや在宅介 護)に分かれていたが,各施策間の重複を避けて連携を強化する機運が高まり,1970 年の地方政府社会サービス法Local Authority Social Service Act 1970によって地方政府 における対人社会サービスの執行が社会サービス部に一元化された。この法律では,

「地方政府は社会福祉行政を主務大臣の一般的な指導の下に執行しなければならな い」(第7条)と規定した上で,各地方政府に「社会サービス委員会」の設置を義務付 け,実際に行政を行う機関として「社会サービス部」を設置した。この社会サービス 部は,社会保障省(当時)の指導のもとで対人社会サービス行政の管理を行うことに なり,その体制が基本的に現在まで続くこととなっている。

地方政府の対人社会サービス部は1970年以降,直接的に対人社会サービスの供給を 担ってきたが,1990 年の NHS 及びコミュニティ・ケア法による改革で,その役割は 大きな転機を迎えた。この法律は,地方政府が直接サービスを供給するのではなく,

民間セクターによって供給されるサービスを可能な限り利用することで,サービスの 受給者が自身の責任と判断で最適なサービスを選択することができるようにすること を狙うものである。この改革によって,地方政府はサービスの供給者からサービスの 調整者・評価者,あるいは委託者としての機能が求められることになり,地方政府は 援助を必要とする人々に対して,地域におけるサービスのための財源調達及び調整の 責任を負うことになった。

4.3.1 高齢者福祉および障害者福祉

対人社会サービスのうち,高齢者福祉と障害者福祉は,イギリスにおいては「コミ ュニティ・ケア」として一括されている。1990年NHS及びコミュニティ・ケア法は,

地方政府の社会サービス部に対して,高齢者,知的障害者,身体障害者,精神障害者,

薬物・アルコール乱用者,エイズ患者,終末医療患者など全てを包含したコミュニテ ィ・ケア調整のための年間プラン(コミュニティ・ケア・プラン)を作成することを

義務付けている。

コミュニティ・ケア・プランの作成に当たっては,地方政府の社会サービス部をは じめ,NHS及び地方政府の関連部局,ボランタリーセクターの関係団体と広く協議を するための場(Joint Consultative Committee: JCC)が組織される。JCCでは,コミュニ ティ・ケア・プラン以外にも地方政府とNHSの共同財源によるプロジェクトへの支出 を承認するなどの役割を果たしているとされる。

サービスの提供に当たっては,社会サービス部がケアを必要とする人々のニーズ評 価を行い,資源との関係でニーズを満たすための適切なサービス供給の水準を調整す る。ニーズの評価に当たっては,地方政府の利用可能な財源を考慮に入れることは可 能であるものの,受益者の支払い能力を理由としてニーズ査定を拒否することはでき ず,また,個人のサービス選択に当たって地方政府はケアの必要性とサービスのメニ ューについてアドヴァイスする責務を負っている。必要なケアは,大きく在宅ケアと 施設ケアに分けられ,在宅の場合は一般住宅や高齢者用住宅などで生活しながらホー ムケア等を利用することになり,施設の場合はケアホーム入所か病院への入院となる。

地方政府はケアが必要なものに対してサービスを提供する義務を有しており,自ら提 供するか手配をしなくてはならない。施設ケアの供給は,過去には地方政府直営の施 設が多かったものの,現在ではサッチャー政権の奨励策によって営利施設の数が増加 している。在宅ケアについても,地方政府直営のサービスが非常に大きな割合を占め ていたが,コミュニティ・ケア改革後に急激にその割合が縮小し,現在では約 1/3 を占めるに過ぎなくなっている19

施設ケアは,一部NHSの管轄と重複があり,複雑な構成になっている。施設ケアの 内容は,サービスの種類に応じてレジデンシャル・ホームとナーシング・ホームに分 類され,前者は看護ケアなしで宿泊・食事・身体介助の提供を行うものであり,後者 は常時看護を必要とする要介護度の高いもののために看護ケアがついた入所施設であ る。ナーシング・ホームは,NHSとの分野調整があるために,地方政府は供給を行う ことができないとされている。ケアのための費用については在宅・施設ともに全部ま たは一部自己負担であるが,現在は多くの地方政府が費用について補助を出している。

19 施設ケア・在宅ケアともに急速に民間への委託が進んだ背景には,コミュニティ・ケアを進めるため に国から地方政府に交付された特別移行補助金Special Transfer GrantSTG)の影響が大きいとされる。

STGはその交付条件として,民間団体(営利・非営利)のサービス購入比率をサービス全体の85%以上 にすることを義務付けていた。

費用を全額自己負担できる場合には自ら施設と交渉してサービス提供の契約を行うこ ととなるが,交渉したくないものや料金全額を負担することができないものは地方政 府の社会サービス部に入所を申請した上で,介護ニーズの評価と資産調査を受け,ケ アマネージャーの援助のもとで施設を選択する。その場合,地方政府は選択された施 設に対して委託契約を行い,委託費を支払う。その上で,国の基準にしたがって補助 を受ける入所者の収入と資産に基づいて支払い能力を評価し,それに応じた費用徴収 を行う。なお看護ケアについては,NHSのサービスであるため,その費用は多くの場 合自治体がPCTから費用受け取って,施設への支払いを代行する形となっている。

供給されるサービスは,その内容について監査が行なわれる。2000年にケア・スタ ンダード法Care Standards Actが制定され,2002年から施行される前は,地方政府が行 う施設サービスについて地方政府と保健省の双方からなるメンバーによって監査が実 施されていたが,この法律が施行されてからは,地方政府が運営する施設のみではな く,民間セクターやボランタリーセクターが運営する施設においても独立公共団体 Non-Departmental Public Body(NDPB) で あ る 全 国 ケ ア 基 準 委 員 会 National Care Standards Commission(NCSC)によって一元的に監査がおこなわれることとなった。

この組織は地方政府の社会サービス部やNHSの戦略保健当局Strategic Health Officeな どから職員が派遣され,サービス供給者の登録を行うとともに提供されるサービスの 種類や質について,ケア・スタンダード法の下で定められた基準,特に保健大臣の定 めた全国最低基準を考慮してナショナル・ミニマムが確保されているかどうかなどを 監督し,政府に報告することとなった。NCSCは2002年からスタートし,当初は民間 医療部門の監督組織もかねていたが, 2004年 4 月から医療を担当する部門と社会サ ービスを担当する部門が切り離され,社会サービスを担当する部門は,保健省の一部 局として地方政府の社会サービスについての企画・監督を行っていた社会サービス監 査局Social Service Inspectorates(SSI)と統合されて,政府から独立した対人社会サー ビスのための単一の監査組織である社会サービス検査委員会 Commission for Social Care Inspection(CSCI)に改組され,現在に至っている。

高齢者・障害者に対する対人社会サービスは,NHSとの共同プロジェクトを除くと,

受益者によって支払われる手数料が一部存在するほかは,地方政府からの支出によっ て賄われる。そのための財源は,AEF内の特定補助金があるほかは,基本的に一般財 源によるものとなっており,サービスの水準は中央政府からの移転額と徴収可能な地

ドキュメント内 イギリスにおける国と地方の役割分担 (ページ 33-40)

関連したドキュメント