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初等・中等教育

ドキュメント内 イギリスにおける国と地方の役割分担 (ページ 40-45)

4. 社会保障制度

5.1 初等・中等教育

イギリスの初等中等教育には,公費によって設置される公立学校と,公費補助を受 けない私立学校,さらに「特別な教育的ニーズ」を必要とする児童生徒のための特別 学校瓦ある.初等学校は6年間,中等学校は5年間であり,その後の高等教育に進む までに2年間の任意教育期間(シックス・フォーム)がある。公立学校については,

その運営・維持に関する職員の給与,施設・設備,給食費・教科書代などほとんどの 経費は,地方教育当局が配分する国からの補助金で賄われる。初等・中等教育におい

て地方教育当局としての役割を果たすのは,一層制の地方政府(ロンドン・バラ,メ トロポリタン・ディストリクト,ユニタリー)のほかに,二層制の地域であればカウ ンティである。

公立学校の種類には,コミュニティ学校community schools,自主(政府補助)学校 voluntary aided schools,自主(政府管理)学校voluntary controlled schools,ファウンデ ーション学校foundation schoolsが存在し,運営経費の負担,施設の所有権,職員の雇 用などの責任主体がそれぞれ異なっている。基本的に地方教育当局が運営費を負担す るものの,例えば、原則的にはLEAが各学校の教職員を雇用しているが、自主(政府 補助)学校やファウンデーション学校では関係者(保護者・教職員・LEA・地域代表)に よって構成される学校理事会が教職員を雇用していることになっている。さらに,2002 年教育法においては,この規制も緩和され,教員の採用やその雇用条件について,校 長の裁量の余地が大幅に拡充され,複数の学校間での教員の共同雇用が可能となった。

私立学校については1996年教育法で「5人以上の義務教育段階における児童生徒を受 け入れる学校で,地方教育当局により運営される公立学校及び特別学校以外の学校」

と定義される。このような私立学校は公費補助を受けず,維持・運営費は授業料など によって賄われている。

中等教育段階において,学校はコンプリヘンシブcomprehensive,グラマーgrammar, スペシャリストスクールspecialist,シティー・テクノロジー・カレッジcity technology

colleges(CTC)の4種類に分かれる。総合制のコンプリヘンシブは,原則として無試

験で入学することが可能であるが,グラマーは成績上位者を選抜試験により入学させ 高等教育進学を目指す学校である。また,スペシャリストスクールは基本的にコンプ リヘンシブと変わらないが,標準的な科目に加えて技術や外国語など専門とする科目 を週に数時間多く教える中等学校である。コンプリヘンシブがスペシャリストスクー ルになるには,国に申請を行い,認定を受ける必要があり,認定後は国から補助金が 支給される。CTCは地方教育当局の管轄外の私立学校であるが,国からの補助金及び 企業等からの資金によって運営され,ナショナルカリキュラムが適用される。しかし CTCの普及は進んでおらず,1988 年教育改革法によって正式に設置を認められたが,

現在のところその数は非常に少ない。

1988 年教育改革法以降(現在の根拠法令は 1996 年教育法),義務教育においては,

国務大臣が定めるナショナルカリキュラムに示される内容を修了しなくてはならない。

このナショナルカリキュラムは,公費によって運営される公立学校にのみ適用され,

私立学校には基本的に適用されない。ナショナルカリキュラムでは,初等学校が5歳 から7歳までの「キーステージ1(K1)」と7歳から11歳までの「キーステージ2(K2)」

に,中等学校が11歳から14歳までの「キーステージ3(K3)」と14歳から16歳まで の「キーステージ4(K4)」に分けられ,各キーステージにおいて履修されるべき教科 が決まっているほか,K1(1991〜),K2(1995〜),K3(1993〜)の各段階で,ナシ ョナルテストNational Testと呼ばれる全国統一試験が実施され,カリキュラムの全国 的基準が監視されることになった。22さらに,中等学校の卒業(K4終了時点)に当た っては,統一試験を受けることで中等教育修了一般資格General Certificate of Secondary

Education(GCSE)を取得する必要がある23。この試験を受けることで中等教育終了時

の成績結果を出し,成績証明として高等教育機関への進学や就職に当たって重要な意 味が付与されている。ナショナルカリキュラムが適用されない私立学校についても同 様にこの試験を受けることになる。GCSE の試験は,あくまでも義務教育修了と個人 のその教科における学力レベルを示すものであり,成人後も受験することができる。

これらの試験結果については,教育技能省によって学校ごとに公表され,保護者の学 校選択に利用されることとなっている(ただしK1のテストは除く)。ナショナルカリ キュラムに関する具体的な業務は,1997年教育法で設置されたNDPBである資格カリ キュラム機構Qualifications and Curriculum Authority(QCA)が行っており,K4終了時 のGCSEについては,QCAが連絡調整を行いながら5つの実施団体 Awarding Bodies によって実施される。

初等・中等教育について学校の監査を行う機関は,教育技能省から独立した NDPB である教育水準局Office for Standards in Education(OfSTED)である。OfSTEDは1992 年に設置され,教育機関の監査及び教育技能大臣への助言が大きな任務であり,1992 年から中等学校で,1993年から初等学校及び特別学校で監査を始めた。監査を受けて,

学校により提供される教育の質,児童生徒の到達した教育水準,予算使用の効率性な どについて行なわれ,学校は監査の要約を保護者に送付しなければならないとともに,

22 ナショナルテスト導入時には,親と教師による全国的な反対運動も展開され,結局第一回目のナショ ナルテストがボイコットされるなどの事態も起きている(吉田[2005])

23 K4については,職業に関連する科目に重点が置かれるために,校長がQCAに報告することで一部の 教科について適用が除外されることもある。この規定は,2002年教育法によってより弾力的に運用でき るように変更された。

報告を受ける形で行動計画を作成し,実施することが義務付けられている。その中で 特に水準が低いと判断された学校は,失敗校failing schoolsとして特別措置が必要と宣 告されることになり,2 年以内に必要な改善が見込まれない場合は教育技能大臣が閉 校を命じることができるほか,地方教育当局が教育技能省の承認を得た上で学校名を 替え教員組織を一新して再開を図ることもできるとされている(フレッシュ・スター ト)。

5.2 高等教育

義務教育修了後の教育機関として最も多いのは,シックス・フォームと呼ばれる教 育機関である。これは中等学校の最後の二年間の教育として行なわれるものと,シッ クス・フォーム・カレッジという独立した教育機関で行なわれるものがある。シック ス・フォームは,地方教育当局の管轄ではなく,後述する継続教育カレッジを含めた 継続教育を担当するファンディング・カウンシル Further Education Funding Council

(HEFC など)から経費の配分を受けており,公立のシックス・フォームであれば授 業料は無償とされている。シックス・フォームに入学するにあたっては,GCSE の成 績が要件となっており,その課程では,大学進学のために必要な大学入学資格General Certificate of Education(GCE)の上級(Aレベル)及び準上級(ASレベル)試験のた めの教育を提供している。大学以降の高等教育に進むためにはGCEの成績が要件とな る。

シックス・フォーム以外の継続教育としては,継続教育カレッジが用意されている。

継続教育カレッジは,農芸カレッジ,商業カレッジ,技術カレッジなど様々な教育機 関の総称で,主に大学進学を志望しない生徒のために職業教育を提供している。継続 教育カレッジで学ぶ生徒については,伝統的なアカデミィックな教科以外について学 習する機会を与えること及び特定の職業に関わる訓練に入る前に幅広い知識技能を習 得することを目的とした全国一般職業資格 General National Vocational Qualification

(GNVQ)や全国職業資格National Vocational Qualification(NVQ)といった資格を取 得することができる。このような資格は,全国資格制度National Qualification Framework

(NQF)のもとで,GCSEやGCEと相互に関連付けが行なわれている。なお,このよ うな資格について試験を提供するのは,GCSEと同様にQCAが連絡調整を行いながら 実施団体(GNVQについては3団体)によって実施される。

高等教育機関としては,大きく大学と高等教育カレッジに分類される。従来からの 大学は国王に認められた独立法人として学位授与権を与えられていたものであるが,

経費のほとんどは国からの補助金で賄われており,その数は少なかった。しかし,1992 年継続高等教育法Further and Higher Education Actによって,職業教育的な実務教育を 提供してきた学校が大学に昇格し,その数が急増した。

高等教育機関はその収入の大半を公財政からの収入に依存しているが,補助金の交 付は国が直接行うのではなく,NDPBのひとつである高等教育財政カウンシルHigher Education Funding Council(HEFC)を通じて行なわれ,教育的経費・研究的経費・特 別経費・資本的経費・人材育成特別費といった費目で,それぞれの大学運営に係る標 準経費が算出され,配分が行なわれる。そのうち6割以上を占めるのが教育的経費で あり,教育的経費の配分に当たっては,各大学のフルタイム相当の学生数とそれに対 する補正によって決定されることになる。授業料については,長らく徴収が行なわれ ず,無償で高等教育が行なわれてきたが,1998年学習・技能法Learning and Skills Act によって授業料の徴収が可能となり,上限を政府が定めるものの,各高等教育機関が 独自に授業料を決定できることとなった。大学以外の重要な高等教育機関である高等 教育カレッジは,1970年代に教員養成課程を持つ教育機関が技術カレッジ等と統合さ れて規模を拡大する形で出来上がったもので,現在では教員養成のほかに,小規模で 特定の分野に特化した人材養成を行うところもあれば,複数の学部を有するところも ある。このような高等教育カレッジの中でも,1998年教員・高等教育法Teaching and

Higher Education Actによって独自の学位授与券を持つところは枢密院の承認を得てユ

ニバーシティ・カレッジUniversity Collegeを名乗ることもできるとされている。

高等教育機関の評価としては,イングランド・スコットランド・ウェールズ・北ア イルランドにおかれたそれぞれのファンディング団体が合同で実施する研究評価 Research Assessment Exercise(RAE)が行なわれ,政府から高等教育機関への研究的経 費の配分額を決定する重要な要素となる。その他,イングランドにおいてはHEFCが 責任を持って行う評価として,1992年継続・高等教育法によって定められた高等教育 水準評価機構Quality Assurance Agency for Higher Education(QAA)が行う教育評価と,

1999 年からはじめられたHEFC による大学評価がある。QAAが行う評価は,高等教 育機関の質を評価しようとするものであり,資金交付に直接的に反映されるわけでは ないが,評価結果が著しく優れている場合あるいは著しく悪い場合には学生の定員増

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