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インフラ整備・都市計画

ドキュメント内 イギリスにおける国と地方の役割分担 (ページ 45-50)

6.1 開発計画・規制

イギリスにおける計画の業務は,基本的に地方政府が行うとされる。中央政府レベ ルでは,副首相府(あるいはスコットランド・ウェールズ・北アイルランドの各自治 政府)の所管であり,計画に関する法令・指針等を作成し,また,地方政府と私人と の紛争の仲裁等を行っている。地方政府が行う業務のうち主要なものは,開発計画と 開発規制である。地方政府の業務として開発計画の策定や規制が行なわれるようにな ったのは20世紀に入ってからであり,地方政府が行う業務としては比較的新しいとさ れる。現在に至るまでの計画の基本となる法体系は,1947年都市農村計画法Town and

Country Planning Actであり,この法律によってほとんど全ての開発には計画許可が必

要となり,全ての地方政府で開発計画が作成されることになった。当初は広域的な問 題への対応が可能なように権限がカウンティに付与され,中央政府は開発計画の調整 と国土の均衡ある発展を保障するために適切な産業配置の責任が付与された。1990年 都市農村計画法などからなる法令と,中央政府からの指針Guidanceなどを組み合わせ て計画を有効なものとされてきた。

しかし,1990年都市農村計画法による法体系は,労働党の地方分権改革とともに大 きく改革されることとなった。以前の開発計画のもとでは,地方政府は国が作成する 計画作成指針 Planning Policy Guidance(PPGs)及び地域計画指針 Reginal Planning

Guidance Notes(RPGs)に基づいて,カウンティが広域的な枠組みで原則として15年

にわたる基本計画Structure Planを策定し,ディストリクトが開発規制の指針となる10 年規模の地方計画Local Planを策定していた(ユニタリー,大都市ディストリクト,

ロンドン・バラは両方の性格を併せ持った一元的開発計画Unitary Development Planを 策定)。労働党が政権をとってから,地域開発公社RDAが設立され,当初は地域事務 所GOごとに開発計画が協議されるようになっていたが,地方分権改革の進展ととも に,地域議会が開発計画策定への主導的な立場を持つようになることとされた。その 結果,現在の開発計画においては,中央政府の出す指針や命令を最上位として,地域

レベル・地方政府レベルの開発計画が付随する階層的な構造となっている。中央政府 レベルでは,計画政策命令Planning Policy Statements(PPS)と計画作成指針Planning Policy Guidance notes(PPGs),鉱山政策命令Minerals Policy Statements(MPS)と鉱山 計画策定指針Minerals Planning Guidance Notes(MPGs)というかたちで国家計画が示 され,地域レベルでは地域議会が 2004 年計画及び強制土地収用法 Planning and

Compulsory Purchase Actの規定によって,国務大臣が地域の交通戦略と廃棄物戦略を

含めた地域空間戦略Regional Spatial Strategy(RSS)を準備する責任を持った地域計画

機関Regional Planning Body(RPB)として位置づけられていることになった。この地

域計画は,2004年計画及び強制土地収用法の規定によって,RPBである地域議会がそ の地域のニーズに応じて,10年から 15 年間の地域空間戦略を策定することとされて いる(ただし,国立公園部分は除く)。RPBは,ロンドンであればGLA(市長)が,

その他の地域であれば地域議会がその任に当たる(GLA については RSS ではなく空 間開発戦略Spatial Development Strategy(SDS)を作成する)。RSSは中央政府レベル の政策を反映するものであり,その地域に関連する政策などを含むことができる。

その下の地方政府レベルでは,地域計画当局Local Planning Authoritiesが地域開発フ レームワークLocal Development Frameworks(LDF)を策定することされている。地域 計画当局としては,カウンティ以外の一層目の地方政府が充てられており,LDFはそ の地域における空間戦略と鉱山計画戦略の文書によって構成され,地域計画当局(カ ウンティを除く)が,具体的な地域開発のために作成する地域開発スキーム Local Development Scheme(LDS)を含む。LDSは,地方開発文書Local Development Documents

(LDDs)の製作のためのプログラムを用意するもので,どのような文書がLDDsとし て準備されるかということやそのタイムテーブルを含んだものである。LDDs は,開 発計画文書Development Plan Documents(DPDs)と補足計画文書Supplementary Planning

Documents(SPDs)によって構成され,中央政府の政策と地域の政策を踏まえたうえ

で,地方のニーズと多様性を考慮して作られる。このように様々な計画や戦略が作ら れる中で,法定の開発戦略として中核的な役割を果たすのは,地域レベルにおけるRSS あるいは GLA の SDS であり,地方政府レベルでの開発計画文書 Development Plan

Documents(ディストリクト,ユニタリー,Broad Authorityを含む国立公園当局が作成)

とカウンティが作成する鉱業・廃棄物開発計画Minerals and Waste Development Planで ある(上位にカウンティを持たないユニタリーや国立公園当局は,鉱業・廃棄物計画

を含んだDPDsを策定)。法定開発計画は開発や土地利用の計画に当たって考慮する出 発点であり続けるものであり,計画間で紛争が発生した場合は,関連する中央政府の 政策を参照しながら,地方の事情を踏まえて決定が行なわれる。

新法では英国における計画及び開発規制制度の幾つかの大きな変更点が盛り込まれ ている。まず,ディストリクトの地域計画策定機能を維持するとともに,地域に即し た計画を策定するために,カウンティレベルの基本計画の策定を廃止するというもの で,地方レベルや国レベルにおける計画策定過程を簡素化した。この結果,カウンテ ィは鉱業と廃棄物に関する計画を策定するのみとなった。また,主に個人や企業から 土地を取得するための権限を行政機関に与えることで,インフラ整備への対応と土地 収用過程の迅速化を図っている。さらには,再開発が必要な地域における開発計画の 迅速な決定が可能となり,開発業者が指定されたエリア内で通常の計画手続きに拠ら ずに建設事業を行えるビジネス・プランニング・ゾーン制度も導入された。最後に,

この法律では,開発の持続可能性を確保するとともに地域の特色を踏まえた計画策定 手続を確保することが義務付けられている。

6.2 交通政策

まず,イングランドにおいて道路は,幹線道路trunk roads,1級道路primary route, 2級道路secondary route,その他道路unclassified roadsに分けられている。幹線道路は,

道路当局Highway Agencyによって管理されるもので(スコットランド・ウェールズで

はそれぞれの自治政府が管理),自動車専用道路motorwaysが含まれている。幹線道路 以外の道路は,地方道路当局Local Highway Authorityが管理することとなっている。

地方道路当局が管理する道路は,基本的に幹線道路のネットワークとは異なる1級道 路と2級道路であるが,一部の自動車専用道路(幹線道路とは切り離されているもの)

についても地方道路当局が管理する場合がある。

幹線道路は大臣によって指定される道路であり,人口の集中するところや工業地 域・港湾等を結ぶネットワークを形成している。大臣はまた,計画・改良・維持・財 政並びに幹線道路のコントロールに関する決定を行う。現在では,1998年に発表され た道路白書A New Deal for Transportをもとに2000年交通法Transport Actが成立し,さ

らにTransport 2010と呼ばれる10カ年計画が策定され,国レベルでの道路整備はこの

計画をもとに行われている。地方道路当局としては,二層制の地域における道路につ

いてはカウンティが基本的にその役割を果たすほか,一層制の地域ではユニタリー,

大都市ディストリクト,ロンドン・バラが権限を持つ。道路整備に当たっては,地方 道 路 当 局 ( 大 都 市 デ ィ ス ト リ ク ト の 場 合 に は 該 当 す る 大 都 市 圏 で の 旅 客 交 通 局 Passenger Transport Authorityが,ロンドン・バラの場合にはGLAの外局であるロンド ン交通局 Transport for London)が,前述の RSS に含まれる地域交通計画 Regional Transport Plan(RTS)を参照しながら地方交通計画Local Transport Plan(LTP)を策定 することとされている。地方交通計画は,道路だけではなくバスなどの書く交通機関 が有機的に機能することを目標とした統合的な交通5ヵ年計画であり,この計画の策 定に当たっては地域住民や産業界,関係地方政府,バス会社などと幅広く協議するこ とが求められ,また,環境への配慮や地域の活性化等を視野に入れた内容であること が求められている。

2000年交通法によって,地方交通の充実を図るための資金を必要とする地方政府は,

向こう5年間の交通戦略・交通投資計画であるLTPを提出すれば中央政府からの補助 金を獲得できるようになった。2000年交通法以前は個別の交通政策ごとに中央政府か ら補助金が交付されていたが,補助金をまとめることによって個別施策の縦割りを廃 し,政策の連携を解消することが目指された。また,交通政策の内部だけではなく,

交通政策と土地利用政策の連携も重要視されており,RTS のもとでの LTP と LDF が 相互に参照しながら策定されることが強調されている。

6.3 環境・廃棄物政策

24

イギリス(特にイングランド都市部)においては,1848年公衆衛生法Public Health Act 以来,地方政府にその領域内の街路の清掃や路上の廃棄物の除去,収集とその処理を 義務づけていたとされる。当初は法律の名前からもわかるように,廃棄物処理行政は 伝染病の予防を目的とした公衆衛生施策としての意味合いが強かったが,公衆衛生に ついては1948年に設立されたNHSの管轄として多くが中央政府の事務として吸い上 げられ,地方政府の事務としては,1947 年都市及び農村計画法 Town and Country

Planning Actのもとで,廃棄物を処理する場所を確保するための土地開発などが割り当

てられることとなった

現行制度の枠組みが確立されたのは1974年公害規制法Control of Pollution Actであ

24 本節は,岡久[2004]に負う部分が大きい。

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