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第2章 タイにおける流通環境

2. 物流インフラの現状と課題

(1) 道路・輸送インフラの整備状況

世界銀行が発表する「物流パフォーマンス指標(Logistics Performance Index:LPI)」

によると、タイは調査対象 160 ヵ国中、45 位(スコア 3.26/5.00)で、シンガポール を除く ASEAN 内ではマレーシア(32 位、3.43/5.00)に次いで高い評価を得ている(2016 年)。

道路距離は 6 万 7,300km、道路舗装率は 98.1%と、100%近い水準に達している(2010 年)。国内には 6 本のアジアハイウェイ路線が通っており、隣国のマレーシア、カン ボジア、ミャンマー、ラオスへと陸路で繋がっている。総延長は 5,112km、うち 2 車線 以上の道路が 4,553km で、全体の 89%を占め、全ての区間が舗装されている。

タイ最大の港湾はレムチャバン港で、タイ港湾公社(Port Authority of Thailand)

が運営する。コンテナリゼーションに対応できる港としてバンコク港にとって代わり 1991 年に開港し、1997 年には同港の貨物取扱量を抜いて国内最大港となった。ターミ ナルは 4 区画で構成されており、ターミナル A(旅客船、自動車輸送の RORO 船、バラ 積み貨物船、多用途バース(コンテナ船の停泊所)等。計 6 バース)、ターミナル B

(計 5 つのコンテナバース)、ターミナル C(コンテナバースの他、RORO 船の利用可 能なバースが 1 つ。計 4 バース)、ターミナル D(計 3 つのコンテナバース)が整備さ れている。全て民間のターミナル会社によって運営されている。

2014 年には計 6,600 隻の船が寄港し、総取扱貨物量は 7,262 万トン、コンテナ貨物 量は 625 万 TEU(Twenty-foot Equivalent Unit)であった。しかし、同港のキャパシ ティは 790 万 TEU とされており、既に約 80%の利用率となっている。

空港については、スワンナプーム国際空港がタイ最大の空港となっている。ドンム アン空港のキャパシティが逼迫したことに対応し、2006 年に開港した。貨物ターミナ ルは総面積 19 万㎡、国際貨物ターミナル、国内貨物ターミナル、郵便センター、オペ レーションセンターの 4 つの施設があり、貨物ターミナルはさらに 4 つ(特急貨物エ リア、タイ航空専用エリア、その他航空会社エリア、ペリシャブル専用エリア)に分 かれる。また、4 つの倉庫を有する免税ゾーンもある。年間 300 万トンに対応可能とさ れている。2013 年の総貨物取扱量は 124 万トンで、うち国際貨物は 119 万トンと、全 体の 96%を占める。

隣国とのクロスボーダー物流に関しては、進出日系物流企業にヒアリングを実施し たところ、特に物流量の多いミャンマーとの陸路輸送について意見が聞かれた。タイ とミャンマー(ヤンゴン)間の陸路輸送は、現状は大部分がタイからミャンマーに輸 送される設備や日用品、繊維製品であるとのことである。機械類は、新たにミャンマ ーに進出する企業の設備等のうちタイで調達されたものや、タイを経由して輸送され るものが殆どとのことである。

2015 年 8 月にはミャンマー側タイ国境よりの山岳道路にバイパスが開通したことで、

それ以前は最大でも 12 輪車の通行が限界であったところ、トレーラーも通行可能とな った。また、交互通行しかできなかったところ、相互通行も可能になっているという。

通行時間は 3 時間から 30 分に短縮された。

但し、現在でも両国の車両は相手国側を走行することが認められていないため、国 境での積み替えが必須となっている点が課題として指摘された。また、ミャンマーか らタイへの輸出量が相対的に少ないため、片荷となり、物流効率が悪い点も挙がった。

総合的なインフラ整 備状況はASEAN内でも 高水準

最大の港はレムチャ バン港

最大の空港はスワン ナプーム国際空港

陸路のクロスボーダ ー物流は改善してい るが、未だ課題も

(2) コールドチェーンの普及状況

タイには多くの日系企業とそこで働く日本人及びその家族が存在し、日本食レスト ランや日本からの輸入食品も普及している。また、経済成長に伴い、現地の人々の間 でも日本産品や冷凍・冷蔵食品のニーズが増えてきている。そうした需要を満たす形 で、現状、タイのコールドチェーンは既に日本企業の要求水準にほぼ達している。

日本貿易振興機構(JETRO)が 2014 年に行った調査によれば、タイで実際に活動が 確認された運輸業は、176 社に上る。その他、外資系物流企業も併せると、物流サービ スの量的な供給体制は物流需要を満たす上で十分なものと考えられる。実際に、進出 日系食品メーカーへのヒアリングによると、同社が利用しているレムチャバン港の冷 凍倉庫は、かなりの空きスペースがあるようである。

しかし、それ以外の面では課題が残る。同社からは、バンコク市内の交通渋滞が激 しく、配送効率が悪い点が指摘された。渋滞のために冷凍便の小口配送ができないた め、一定以上の数量が扱えないとコスト高となる。

また、物流業者には企業のニーズに合わせたサービスの改善余地がある。同社から は、バンコクで冷凍の混載便を提供している企業が 1 社しかないと聞かれた(同社が 利用している神戸~東京~バンコク・レムチャバン港のルートの場合)。現在、1 回あ たりの日本からの輸入数量は 400 ケースだが、同社製品(冷凍野菜調理品)の場合、1 つの 20 フィートコンテナに 600~700 ケースが積載可能ある。

今後のタイにおけるコールドチェーンの課題としては、コールドチェーンを支える 道路交通等インフラの効率性向上と、過剰ぎみの供給を満たすだけの冷凍・冷蔵食品 市場が成長することがポイントとなるであろう。

(3) インフラ整備計画

タイ政府は、2022 年までに約 1 兆 8,000 億バーツ(約 5 兆 8,000 億円)を投じ、都 市間鉄道や高速道路の整備を行うことを表明している。バンコクで慢性化している渋 滞の解決のために、都市鉄道の営業距離を 2.5 倍に延ばす案等が盛り込まれている。

特にバンコク市内の渋滞緩和には期待がかかる。現状、タイではインフラの質や物 流サービスの供給量は十分な水準だが、その効率的な実施ができていない。渋滞が解 消されれば、食品事業者側にとっては配送時間の短縮とコストの削減、物流業者側に とってはより食品事業者のニーズにあったきめ細やかなサービスを提供する余地が生 まれるだろう。

また、隣国とのクロスボーダー物流にも改善の兆しが見える。現在、ミャンマーと の国境沿いには第一友好橋の上流に、タイ側の予算で第二友好橋の建設が開始されて いる。2018 年頃の開通が予定されており、重量制限は未公表であるものの、進出日系 物流企業によると、コンテナ輸送が可能な水準になるといわれているようだ。既にタ イ側の道路の大部分、X 線検査場(既に稼働している)、橋梁の一部は完成しているが、

ミャンマー側の工事が進捗していない。

現状、ミャンマーとの国境にかかる第一友好橋には 25 トンの重量制限がある。進出 日系物流企業へのヒアリングによると、一般にトレーラーの重量はコンテナを除いて 13~4 トン(ヘッド+シャーシ)。20 フィートコンテナの重量は約 21 トンのため、コ ンテナ物流は不可能となっている。そのため、港からコンテナ輸送で国境まで到着後、

多数の物流企業。コー ルドチェーンは概ね 問題なく普及

配送効率の向上と、物 流サービスの改善に 期待

渋滞緩和や国境物流 の改善に向けたイン フラ投資計画

積み替えを行う必要が生じている。第二友好橋が完成した場合、これらの問題が解決 されることとなる。

第二友好橋の新設に伴い、メーソットの国境税関(Mae Sot Customs House)も新築 し、移転する。移転した後は、現在の場所は旅客専用レーンとして残り、新しい場所 が貨物専用レーンとなるため、効率的な通関実施が期待できる。

図表 2-7:タイ・ミャンマー国境周辺の主なインフラの現状

タイ側の積み替え用スペース 新設された X 線検査場

現在利用されている第一友好橋 建設途中の第二友好橋

新バイパス開通前に利用されていた山岳道路 新バイパス

出所:南アジア・オセアニア日本通運株式会社より提供、大和総研による撮影(X 線検査場の写真)