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第6章 ミャンマーにおける流通環境

もある。コンデンスミルクなどの乳製品、ビスケットや飴などの菓子類、インスタン ト麺などの乾燥食品等が代表例である。加工食品の製造・販売においては、工場にお ける衛生・品質管理が求められるが、輸出を志向し ISO や HACCP などの国際認証を取 得している企業は限定的である。

そのような中、経済措置が解除され、外国企業による食品加工業の投資は少しずつ 進み始めている。例えば日系企業では、アサヒグループホールディングスが 2014 年に 地場のロイヘイン社と炭酸飲料を製造・販売する合弁会社を設立。キリンホールディ ングスが 2015 年 8 月に「ミャンマービール」を生産する地場のミャンマー・ブルワリ ー社を買収、2017 年 2 月には「マンダレービール」を生産するマンダレー・ブルワリ ー社を買収すると発表した。エースコックやヤクルトも現地法人を設立しており、生 産工場を建設すると発表している。今後は、外国企業による現地生産の加工食品の流 通が急速に増えてくるものと予想される。

③卸・小売企業による流通

ミャンマーでは、都市部のごく一部を除き、ウェットマーケットや個人商店などを 通じた取引(伝統小売)が依然として小売の中心となっている。正確な統計は見当た らないものの、近代小売はまだ 1 割にも満たないとされる。

ウェットマーケットでは、野菜、果物、肉、魚などの生鮮食品が販売されている。

卸専門のマーケットや個人消費者が多くを占めるマーケットがあり、早朝より賑わっ ている。食材は新鮮で種類が多く値段も手頃である一方、炎天下におかれた肉や魚の 衛生面でのリスクや産地などが不確かでトレーサビリティができないといった課題が ある。

近代小売では、City Mart Holding(設立 1996 年)や Creation Myanmar(同 1994 年)などの地場資本の小売企業があり、スーパーマーケットやハイパーマーケットな ど複数の小売形態の事業を展開している。ただし、出店先はヤンゴン、マンダレー、

ネピドーなどの大都市に限られている。

CityMart においては、加工食品はタイなどからの輸入品を中心に販売しており、輸 入品比率は 8 割を占める。一方、農産品については国内の産地から直接調達も行って いる。なお、タイなど国境を接する国より飲料など多数の加工食品が非正規に入って きており、CityMart もそのような商品を取り扱っているとの話も聞かれた。

一方、外国企業としては、2016 年にようやくイオンが Creation 社と合弁で「イオ ンオレンジミャンマー」を設立し、スーパーマーケット事業を開始した。同社はアジ ア統括拠点のあるマレーシアやタイから、イオンブランドの「トップバリュ」(例:

カレーのルーや調味料)の製品を陸路で輸入し販売している。なお、現状では外国企 業は貿易業務への従事が事実上認められていないため(参照:第4章 外資規制)、

外資が直接輸入販売を行うことはできない。

24 時間オープンしているコンビニエンスストア(CVS)も近年増加してきている。

City Express(店舗数:56)、ABC convenience store(同 70 超)、Grab&Go(同 100 超)、Union Mart などである。飲料、スナック菓子といった加工食品やシャンプーな どの日用品等を中心に取り扱っている。なお、外資規制のため、大手の外資 CVS は進 出していない。

近代小売の主要プレ ーヤー

小売の大部分が伝統 小売

近年、コンビニも増加 日系企業の進出が始 まっている

ウェットマーケット は、食材の主対が方法 で新鮮

CityMartの輸入品率 は8割。農産品は産地 からの直接調達も

日系ではイオンが合 弁企業を設立

図表 6-1:イオンオレンジの様子

出所:大和総研撮影

(2) 隣国との流通(貿易)の状況

UNCTAD の統計によると、ミャンマーの 2015 年度の農畜産物・加工食品(飲料含む)

の輸出額は 20.3 億ドルで輸出総額(111.1 億ドル)の 18.3%、輸入額は 11.5 億ドル で輸入総額(175.1 億ドル)の 6.6%を占める。収支は 8.8 億ドルの黒字であった。

図表 6-2:ミャンマーにおける食品の輸出入額と貿易収支の推移

出所:UNCTAD STAT より大和総研作成

品目別の内訳(2015 年)は、野菜、果物や魚介類が輸出超過となる一方、乳製品、

鳥卵や飲料、穀物などが輸入超過となっている。国内で生産された未加工の農水産物 が輸出される一方、国内でニーズはあるが製造量が少ない乳製品(牛乳やチーズ)や 飲料等を輸入している。

国別の内訳の推移をみると、2015 年は輸出ではインドが 9.2 億ドルで全体の 45.2%

と最大で 2005 年前と同様である。続いて、シンガポールが 2.2 億ドル(同 10.8%)で、

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

輸出合計 輸入合計 貿易収支

(10億ドル)

食品は輸出超過

野菜や果物を輸出し、

乳製品等を輸入

最大の輸出国はイン ド、最大の輸入国はシ ンガポール

2005 年と比べると上昇している。一方、輸入では、シンガポールが最大で 2.5 億ドル

(21.8%)、タイが 2.3 億ドル(19.8%)、中国が 19.6 億ドル(17.0%)であった。

シンガポールが上位にあるのは、ヤンゴン港が水深の浅い河川港で大型コンテナ船が 寄港できず、国際的なハブ港であるシンガポールで積み替え後(経由)していること による。

隣国との貿易との点では、ミャンマーは、インド、バングラデシュ、タイ、中国、

ラオスの 5 ヵ国と国境を接し、古くから国境貿易が盛んに行われてきた。例えば、シ ャン州のムセでは中国との国境貿易の 80%が取引されているとされる。なお、ムセで は最近爆発事件の発生や、少数民族との国軍との衝突があるなど、情勢が不安定であ る。

また、タイでは東西経済回廊の一部となるミヤワディ―(ミャンマー)・メーソー ト(タイ)が主要な国境となっている。ミャワディーでは、農機、建設資材、日用品 などがタイから輸入され(農産品は少ない)、サトウキビや豆などの農産品がタイへ 輸出されている。物量では、ほとんどがタイからの輸入で、その逆方向は非常に少な い(タイ側国境税関へのヒアリングでは、1 日 250~300 件程度の申請)。

図表 6-3:輸出入品目(2015 年)

注:金額の単位は 100 万ドル 出所:UNCTAD 統計より大和総研作成

輸出 輸入

品目 金額 構成比 品目 金額 構成比

野菜、果物 12,328 60.6% 穀物、穀物調整品 3,105 27.0%

魚類、甲殻類、軟体動物、調整品 4,843 23.8% 乳製品、鳥卵 2,756 23.9%

穀物、穀物調整品 1,949 9.6% その他食用品 1,325 11.5%

コーヒー、茶、ココア、香辛料、調整品 367 1.8% 飲料 1,197 10.4%

砂糖、砂糖調整品、蜂蜜 258 1.3% コーヒー、茶、ココア、香辛料、調整品 870 7.6%

飼料(穀物除く) 230 1.1% 肉及び肉調整品 859 7.5%

肉及び肉調整品 220 1.1% 野菜、果物 658 5.7%

家畜類 86 0.4% 砂糖、砂糖調整品、蜂蜜 318 2.8%

飲料 26 0.1% 飼料(穀物除く) 190 1.7%

乳製品、鳥卵 25 0.1% 魚類、甲殻類、軟体動物、調整品 178 1.5%

その他食用品 12 0.1% 家畜類 53 0.5%

輸出合計 20,344 100.0% 輸入合計 11,510 100.0%

中国との国境貿易は ムセが中心も、情勢は 不安

タイ国境貿易

図表 6-4:食品の主な輸出入相手国

注:金額の単位は 100 万ドル 出所:UNCTAD 統計より大和総研作成

2.物流インフラの現状と課題

(1) 道路・輸送インフラの整備状況

国際運送では、海運が中心で輸送量の 9 割弱、陸運が 1 割強を占める。東西/南部経 済回廊の整備が進みつつあり、陸運の利用度が高まりつつある。一方、国内輸送は、

陸運が中心で輸送量の 7 割強、水運が 3 割弱となっている。

図表 6-5:モード別の物流量(2014 年)

注:国際輸送のうち道路については、輸出データは含まれていない

出所:ASEAN Japan Transportation Partnership Information Center より大和総研作成

2005 2015

国名 金額 構成比 国名 金額 構成比

1 インド 323 43% 1 インド 918 45%

2 日本 105 14% 2 シンガポール 220 11%

3 マレーシア 62 8% 3 日本 152 7%

4 シンガポール 42 6% 4 中国 131 6%

5 タイ 30 4% 5 マレーシア 128 6%

6 中国 22 3% 6 バングラデシュ 75 4%

7 バングラデシュ 20 3% 7 タイ 75 4%

8 英国 19 3% 8 インドネシア 52 3%

9 インドネシア 19 2% 9 香港 43 2%

10 香港 16 2% 10 英国 30 1%

その他 100 13% その他 210 10%

輸出総額 759 100% 輸出総額 2,034 100%

2005年 2015

国名 金額 構成比 国名 金額 構成比

1 タイ 36 28.3% 1 シンガポール 251 21.8%

2 シンガポール 30 24.3% 2 タイ 228 19.8%

3 中国 27 21.2% 3 中国 196 17.0%

4 インド 7 5.5% 4 豪州 189 16.4%

5 香港 6 4.9% 5 インド 101 8.8%

6 豪州 6 4.5% 6 香港 43 3.7%

7 マレーシア 3 2.5% 7 ニュージーランド 40 3.5%

8 ニュージーランド 3 2.3% 8 マレーシア 16 1.4%

9 インドネシア 1 1.2% 9 インドネシア 16 1.4%

10 米国 1 0.9% 10 ブラジル 15 1.3%

その他 6 4.4% その他 56 4.8%

輸入総額 126 100.0% 輸入総額 1,151 100.0%

(万トン) (構成比) (万トン) (構成比)

水運 3,062 88.4% 862 28.1%

海上 3,062 88.4% 334 10.9%

河川 0 0.0% 528 17.2%

空運 24 0.7% 4 0.1%

陸運 376 10.9% 2,201 71.8%

道路 376 10.9% 1,972 64.3%

鉄道 0 0.0% 229 7.5%

合計 3,462 100.0% 3,067 100.0%

国際輸送 国内輸送

国際運送では海運が9 割、国内は陸運7割

① 港湾

ミャンマーの主要港はヤンゴン港であり、貨物取扱量の約 9 割を占めている。しか し、ヤンゴン港は河川港(河口から 32km 上流)で水深が浅く、大型コンテナ船が入れ ないといった制限がある(喫水は 9m)。このため、日本や米国などからの大型船はシ ンガポールの港でトランジットし、荷物を積み替える必要がある。

日本からミャンマーへの海上輸送には約 3 週間を要する(日本からシンガポールま でが 1 週間~10 日、シンガポールでの積み替えに 1 週間弱、シンガポールからヤンゴ ンまでに約 5 日)。またタイ(バンコク)からの海上輸送についても、マレー半島を 南下しマラッカ海峡を通る必要があり、約 2~3 週間を要する。

昨今の輸出入物流量の増加に伴い、ヤンゴン港は取扱い能力の限界を迎えつつある。

物流会社へのヒアリングによると、ヤンゴン港に到着した荷物は、通関待ちのため港 湾で 1~2 週間置いたままにされることもあるようである。例えば、2015 年春頃には経 済制裁対象の Asia World 社が運営するアジア・ワールド・ポート・ターミナル(AWPT)

が取引停止状態に陥り、貨物が港で置きっぱなしになることがあった。また現地調査 を行った 2016 年 12 月にも、前月の通関への電子通関システムの導入後の混乱が生じ、

港で貨物が停滞し、引き取りまでにやはり 1~2 週間を要していた。

ミャンマーでは実情に即した保税制度が未整備なため内陸に保税倉庫がなく、この ため港湾を倉庫代わりに利用する企業が少なくない。このことも港が混雑の一因にな っているようである。

他にティラワ港も利用されているが、コンテナ取扱量は多くない。背景には、例え ばヤンゴン西部の工業団地への輸送には時間を要するため、国内のトラック輸送コス トが高くなってしまうことなどがあるようである。

② 空港

ミャンマーにはヤンゴン国際空港、マンダレー国際空港、ネピドー国際空港がある が、輸出入貨物輸送の中心となるのはヤンゴン国際空港である。日本・ヤンゴン間は 全日空が直行便を毎日運航しており、これを利用すれば、日本からミャンマーへの航 空輸送に要する時間は約 1 日である。ただし、貨物は旅客便の空きスペースがあれば 乗せてもらうため、スペース不足で乗せられず、遅れることがある(旅客の荷物が優 先となるため)。

空港の貨物ターミナルは、以前は貨物が山積みとなり、軒下からはみ出しておかれ ているような状況であったが、新しい輸入貨物ターミナルが完成したことで大きく改 善している。新ターミナルでは、貨物がどこに置かれているかといったロケーション 管理がマニュアルで行われている。また、冷蔵庫が設置され、リーファー貨物にも対 応可能となっている。一方、輸出用ターミナルについては、バースが南向きとなって いるため、温度上昇の懸念があり、またドックシェルターがなないためコールドチェ ーンに課題がある。

実際の空輸を用いた食品調達の事例としては、地場の流通最大手 City Mart が食材 の一部を米国や豪州から空輸便で調達している。

ヤンゴン港は大型コ ンテナ船が寄港でき ない

通関待ちで1~2週間 港で待機となること も

リードタイムは、日本 から3週間、タイから2 週間

港を保税倉庫として 利用するため混雑

ティラワ港の取扱量 は少ない

貨物輸送の中心はヤ ンゴン空港

貨物ターミナルは冷 蔵貨物にも対応