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第5章 カンボジアにおける流通環境

2 物流インフラの現状と課題

(1) 道路・輸送インフラの整備状況

カンボジアでは、国際輸送では港湾が、国内輸送では道路が主要な輸送手段となっ ている。しかし、食品輸送については隣国のタイ、ベトナムからの輸入が多いため、

海運の他に、道路を利用した輸送も多いと考えられる。

① 海路、港

カンボジアには、シハヌークビル港とプノンペン新港の 2 つの国際港がある。

シハヌークビル港はカンボジア唯一の外洋深水港で水深 10m、貨物取扱量では国内 最大の港となる。輸出入品の主な輸送方法が同港を利用した海運であり、カンボジア に入港するコンテナの 65%を処理する。同港には、シンガポール港を経由して、フィ ーダー船により日本を含む諸外国と貨物の輸出入が行われている。シハヌークビル港 からシンガポールへの輸送時間はフィーダー船で 2~3 日、シンガポール経由での日本 への輸送時間は 20 日間ほどである。シハヌークビル港とタイ・レムチャバン港は直行 であれば 1 日ほどで到着する。ただし、実際にはシンガポール経由でレムチャバン港 へ輸送する場合もあり、その際には輸送に 1 週間ほどかかる。

輸入食品の中での数量は小さいものの、日本から日持ちする加工食品を輸入する際 などに、海運が利用されている。貨物量は年々増加し、年間処理能力の 45 万 TEU に対 し、2015 年の貨物処理量は 39 万 TEU であった。国際協力機構(JICA)によるターミナル の拡張工事が進められている。

プノンペン新港はメコン川を利用した河川港である。水深は 5m 程度で大型船の寄港 ができず、取り扱い能力は低いものの、輸送先が米国や日本であればベトナム南部の 港から大型コンテナ直行船に積み替えることができるため、プノンペン郊外に進出し ている縫製・製靴の外資企業には同港を利用する企業も多い。プノンペン新港の場合、

ベトナム・ホーチミンへの輸送時間が 35 時間ほど、ホーチミン経由日本への輸送時間 が 16~19 日間である。2017 年 1 月にプノンペン市内で行ったヒアリングでは、食品輸 送に同港を利用しているという企業はなかった。

② 道路

プノンペン市内では、渋滞防止のため大型トラックによる日中の市内走行は禁じら れており、日中の市内への輸送の際はバイク便や二輪のトゥクトゥク、トラック、バ ンなどが利用されている。食品輸送の際も、野菜や果物であれば常温のままトゥクト ゥク・トラックなどに山積みにされて輸送されているのが市内や市内周辺で見ること ができる。大量の食品を搬入する場合や外資系の外食チェーンなど食品輸送にグロー バル基準を適用している企業の場合は、大型トラックが市内を走行できる夜 8 時から 朝 6 時の間に保冷機能付きのトラックによる輸送が利用されている。

プノンペンなど都市部で消費される食品は地方やタイ、ベトナムなど隣国から輸送 されたものである。主要道路である 1 桁国道(1~9 号線)は国内各地からプノンペン に向かって伸びており、国内輸送の要となっている。特に、タイ国境ポイペトから国 道 5 号線または国道 6 号線を経由してプノンペンに到達し、国道 1 号線を経由してベ トナム国境バベットへ抜けるルートはベトナム(ホーチミン)・カンボジア・タイ(バ 貿易には港湾が、国内

輸送には道路が主要 な輸送手段である

シハヌークビル港か らの海運が輸出入品 の主要な輸送手段

プノンペン近郊の企 業によって主に利用 されている

市内では日中は小型 車が、夜間は大型トラ ックが輸送している

陸路では南部経済回 廊経由で国内に食品 が輸入される 日持ちする食品の輸 送に利用される

ンコク)を結ぶ南部経済回廊の一部となっている。ポイペトからプノンペンへの輸送 時間はおよそ 7~8 時間であり、バベットからプノンペンへの輸送時間はおよそ 3~4 時間である(「図表 5-7:1 桁国道地図」参照)。

南部経済回廊の一部、ベトナム・カンボジア間を結ぶ国道 1 号線はその途中でメコ ン川を渡る。川幅はさほど広くないものの、以前はフェリーで渡るしか手段がなく、

渡河に 30 分から、時には渋滞のため数時間を要していた。2015 年 4 月につばさ橋が建 設されたことで大幅な時間短縮が実現し、数分でメコン川を渡ることが可能になり、

リードタイムも読みやすくなった。

1 桁国道の舗装率は 90%以上と整備されている一方で、2 桁国道・州道・地方道で はまだ舗装が進んでいない。国全体の舗装率は 11%にとどまる等、地方におけるハー ドインフラ整備は依然課題として残っている。また、舗装道路を過積載のトラックが 走行することで道路が急速に劣化してしまうことも問題とされている。さらに、1 桁国 道も生活道路と産業用道路の区別がなく、コンテナトラックからバイク、人、牛まで が同じ道路を使用している。そのため渋滞や事故が発生しやすく、輸送のリードタイ ムが読めないことやコスト面などの課題にもつながっている。

問題点はインフラなどハード面だけでなく、ソフト面にも残り、特にタイ・カンボ ジア間での輸送には 2 つの問題点が複数の輸送業者から挙げられている。

1 つ目の問題点は、車輌の走行車線の違いである。2 国間には現在、40 台分のバス・

トラックの相互乗り入れが認められているものの、タイとカンボジアでは走行車線や 車両のハンドル位置が異なるため同一の車両で 2 国間を走行するのは困難となる。現 地で日系物流企業にヒアリングを行った限りでは、実際の運用では、越境の際に貨物 の積み替えが必要であるという意見が多かった。食品輸送の際は、短時間で輸送し、

コールドチェーンを保持することが重要となるため、輸送の所要時間を延ばし、コー ルドチェーンを分断させる可能性のある貨物の積み替えは極力避けるのが好ましい。

一方で、積み替えを行っている背景には、タイ人運転手に越境後も輸送させるよりも、

積み替えをしてカンボジア人運転手に輸送させた方がコスト安になるという事情もあ るようだ。

2 つ目の問題点は片荷の問題である。「図表 5-5:食品輸出入額と国別内訳(2015 年)」および「図表 5-3:食品輸出入額、収支推移」に示した通り、タイからカンボジ アへ輸入される食品の数量に比べ、カンボジアからタイへ輸出される食品は圧倒的に 少なく、片荷になるトラックが大半となっている。タイからカンボジアへ輸送してき たコンテナを空のままタイへ返却しなくてはならないため、コスト高となり、商品の 市場競争力低下の要因になっている。片荷はベトナムとの貿易においても問題となっ ている。

カンボジア・ベトナム 間の陸路輸送はつば さ橋により改善した

道路舗装や産業用道 路の確立に課題が残 る

貨物の積み替えによ り時間のロスが生じ る

片荷により、輸送料が 高額になる

図表 5-7:1 桁国道地図

注:鉄道はプノンペンを起点として、シハヌークビルまでの南部線、ポイペトまでの北部線があるものの、

いずれも修復状況、運行頻度、所要時間がネックとなり、食品輸送には使われていない。

出所:「白地図、世界地図、日本地図が無料【白地図専門店】」、各種資料より大和総研作成

③ 鉄道

国内にはプノンペン~シハヌークビルを結ぶ南部路線(264km)の路線とプノンペン

~ポイペトを結ぶ北部路線(386km、ただし路線の老朽化・破壊のため運行不可)が存 在する。カンボジアの鉄道網は GMS 鉄道網の一部に位置付けられ、タイ、ベトナムの 鉄道とも連結される。中国企業によって国内路線の FS 作業及びベトナム国境のロクニ ンからホーチミンまでの路線建設が提案されている等、鉄道網の開発や修復が進めら れているものの、道路網の整備が進むにつれ、ヒト・モノの鉄道輸送量は減少してい る。

南部路線は、全区間 264km 中 110km が地雷や自然災害で破壊され、16 ある橋も損傷 していた。2012 年に路線の修復は完了したものの、高速走行が不可能な箇所が複数区 間残っている。これらの区間は時速 10~20km 程度の速度しか出せず、路線のさらなる 補修が必要である。目標平均最高時速は時速 50km としている。なお、2014 年にプノン ペン~シハヌークビル港間の貨物列車の運行が開始されており、週 3 回の運行が行わ れている。プノンペンからシハヌークビルまでの運行には 7~8 時間ほどかかる。石油 や石炭、建材、衣類、米が鉄道により輸送されている。

北部路線は区間のほとんどが老朽化または分断されており、修復の見込みは立って いない。特にシソフォン~ポイペトの 48km の区間は 2013 年までに ADB の支援により リハビリ工事が完了する予定であったが、予算不足のために遅れが生じている。うち

タイ

ベトナム ラオス

バンコクへ

ホーチミンへ

プノンペン Phnom Penh

赤線:

南部経済回廊

バベット Bavet シハヌークビル

Sihanoukvile ポイペト

Poipet

修復は進むものの、輸 送量は減少している

南部路線は2014年か ら貨物輸送が再開さ れた

北部路線は修復の見 込みはまだない