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(1) 食品流通の概要

ラオスは GDP の 24%、人口の 7 割を第 1 次産業に占める農業国である。しかし、山 岳部が多いため、コメ、野菜など一部の食品を除けば、国内需要を賄えるだけの供給 力はない。国内の食品製造企業で、ラオス国内に商品を提供している企業も限られて いる。現状ではビール(ビアラオ)とインスタントコーヒー(ダオコーヒー)程度で、

海外メーカーの商品が多く流通している。このような状況のため、多くの食品は近隣 国からの輸入超過となっている。2015 年には 4 億 6,000 万ドルの食品を輸入しており、

その多くはタイからであった。特に肉や家畜の輸入が多い。一方で、野菜・果物など の輸出は年々増加している。

タイから食品が輸入されているが、これらが効率的にラオス国内流通しているとは 言えない。ラオスでは 2015 年 5 月まで卸・小売分野での外資参入を完全に禁止されて いたため、豊富な資金力を背景にバイイング・パワーを発揮し、鮮度の高い農林水産 品を安価で消費者に提供できる近代的な小売企業はいない。しかし、2015 年 5 月の卸・

小売の外資規制緩和を受け、同年 12 月にタイの食品小売企業が首都ビエンチャンに出 店した。2006 年に 1 号店をオープンした地場のコンビニエンスストアも、2016 年には 店舗数を 44 店に増やす等、ビエンチャンでのドミナント化も進み、モダントレードの 存在感は以前と比べて高まっている。これまでビエンチャン市民はボーダーパスを使 って、タイ国北部のノンカイやウドンタニまで出かけ、Big C や Tesco Lotus 等で日用 品から食材を購入するケースが目立っていたが、個人への付加価値 10%の支払いが 2016 年より義務化されたこともあり、今後はビエンチャン市内での購買が増える可能 性は十分あると見込まれる。

(2) 国内の流通市場の実態

① 食品生産

ラオスは人口の大半が農業に従事する農業国である。このため、野菜、コメなど農 産物の生産が盛んである。コメは全農地の 8 割で栽培されている主要産品である。ボ ロベン高原を有する南部のチャンサパック県は、高原野菜やコーヒーの産地となって いる。しかし、灌漑の未整備などの課題からそれらの生産性は高いとは言えない。近 年では農林省が作物の高付加価値化を目指し、有機農業の浸透や生産性向上にも力を 入れている。

一方で、大手食品製造業者は少なく、多くを輸入に頼っている。ビアラオやダオコ ーヒーなど一部の食品メーカーを除けば、全国的に流通している国内産の加工食品は ほとんどない。機械化、大規模生産化は進んでおらず、労働集約型な小規模食品製造 業者が多数を占めている。畜産分野では、タイの養鶏、養豚大手の CP、ベタグロなど がラオスで生産を行うなど、外資企業の参入も始まっている。しかし日系企業の食品 製造業への進出はまだない。

② 卸・小売

国内に POS システムを導入したスーパーマーケット等の近代的小売店舗が少ないた コメ、野菜などを除け

ば食品の供給は不足

外資規制により近代 小売が未発達

機械化等の資本集約 型が遅れる食品分野

小売店の多くは零細 企業

め、ラオスでは小売売上高の捕捉は難しい。同国の経済指標にも小売売上高の統計は ない。伝統的な小売形態である市場(タラート)が大勢を占めている。

また、都市部ではモダントレードが出現し始めたとはいえ、市民の多くは市場や露 店などのトラディショナルトレードで食材、日用品を購入している。「市場の方が新 鮮である」という消費者意識と、価格の安さが背景にある。ビエンチャンにはスーパ ーマーケットが 4 店舗あるが、多くを輸入しているため、価格はタイと比べても 1~2 割高くなっているようだ。

ビエンチャン市内唯一の外資系スーパーは 2015 年 12 月に参入したリンピンスーパ ーマーケットである。リンピンスーパーマーケットは、タイ北部チェンマイに本拠を 構える高級スーパーであり、2015 年 5 月 7 日に卸小売の外資規制が緩和されたことを 機に参入した。リンピンスーパーマーケットは南アフリカ産のオレンジや青森県産の リンゴなどの高級食材を含む農作物、精肉鮮魚を東南アジア地域以外からも輸入して おり、豊富な品揃えや陳列方法が消費者への訴求力となっている。その一方で、商品 価格が高いため、顧客の多くは現地の高所得層や外国人となっている。リンピンスー パーマーケットの特徴に、同社独自の野菜の認証システムがある。具体的には、緑「有 機」、白「水耕」、青「残留農薬・残留化学肥料なし(栽培初期のみ農薬を使用する)」、

黄「無農薬(収穫 10 日前からの農薬使用を控える)」、赤「その他」に分類し、パッ ケージにそれぞれを表すシールを貼っている。現状では、認証は本店のあるタイのチ ェンマイ地方で行っているため、ラオス国内で生産量が多い野菜でさえも、ほとんど はタイ産でラオス産は 1 割程度に留まっている。

コンビニエンスストア最大手の M-Point Mart は 2006 年に創業した。当初は 2 店舗 たったが、現在は 44 店舗に拡大した。商品は菓子、即席麺、日用品、アイスクリーム など加工食品が多い。カット野菜等を含めても農産物のフェースは日本に比べて少な い。さらに、弁当やおにぎりのような惣菜類は非常に少なくなっている。

図表 4-1:有機市場

(左)有機市場の様子、(右)市場内で販売されている野菜 唯一の外資系スーパ

ーは高級感に強み

ドミナント化が進む 地場のコンビニ

図表 4-2:高級スーパー・リンピンスーパーマーケット

(左)スーパー入口、(右)チェンマイの同スーパー内に掲載されていた農作物の 5 分類表

(左)タイ産の有機(上段)と無農薬野菜(下段)、(右)ラオス産の無農薬のレモン

図表 4-3:大手コンビニチェーン・M-Point Mart

(左)本社裏の倉庫 (右)リーファー付トラック

(3) 隣国との食品関連貿易量の推移・変化

① 食品の輸出入の変化(2005-2015)

2015 年の食品貿易額(輸出+輸入)は 6 億 5,000 万ドルと、総貿易額の 8%を占め ている。その内訳は輸出額が 1 億 9,000 万ドル、輸入額が 4 億 6,000 万ドルであり、

貿易赤字状態である。図表 4-4 では 2000 年から 2015 年にかけての食品の輸出入の推 移を示しているが、これによると、同国は恒常的に食品の輸入超であり、赤字額は 2010 年以降拡大傾向にあることが窺える。

また、図表 4-5 より、食品分野の過去 10 年間の主要貿易相手国の変化をみると、輸 入面では大きな変化はみられず、引き続きタイの比率が約 9 割と突出しているものの、

輸出面では中国への輸出比率が 4%から 18%に上昇し、タイに次いで 2 番目に大きい 輸出相手国となったことが、大きな変化として挙げられる。2010 年以降、食品分野で の貿易収支では赤字幅が拡大しているが、これは主にタイからの輸入が増加している ためである。

図表 4-4:ラオスにおける食品貿易額の推移(2000-2015)

(出所)UNCTAD Stat より大和総研作成

-400 -300 -200 -100 0 100 200 300 400 500

2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (100万ドル)

輸出 輸入 純輸出

(暦年)

食品関連品は2010年 以降、輸入超が拡大

図表 4-5:ラオスの貿易相手国の変化

(出所)UNCTAD Stat より大和総研作成

② 近隣国との貿易概況

UNCTAD 統計によれば、輸出入ともにタイがラオスの最大の貿易相手国となっている。

これは食品でも同様である。2015 年のタイ向けの食品輸出額は 4,700 万ドルと輸出総 額の 4 分の 1 を占め、輸入では、全体の 9 割に上る 4 億 2,000 万ドルをタイから輸入 している。図表 4-6 では、食品を構成する分野毎にタイとの貿易収支を示しているが、

野菜・果実以外全て輸入超過になっており、中でも肉・肉製品の赤字額が大きいこと を示している。

肉・肉製品は 2010 年以降の食品全体での赤字額急増の主因となっている。ラオスか らタイへの輸出はほとんどない中、輸入額が 2009 年の 90 万ドルから 2015 年には約 1 億 2,000 万ドルと大幅に増えている。

Thailand 31%

Viet nam 18%

China 4%

Other 47%

2005年国別輸出額

3,300万ドル

Thailand 25%

Viet nam 13%

China 18%

Other 44%

2015 年国別輸出額

1億8,900万ドル

Thailand 89%

Viet nam

2%

China 1%

other 8%

2005年国別輸入額

7,600万ドル

Thailand 90%

Viet nam

3%

China 1%

other 6%

2015年国別輸入額

4億6,100万ドル

タイは最大の貿易相 手国

図表 4-6:ラオスのタイ向け貿易収支(食品のみ)

(出所)UNCTAD Stat より大和総研作成 図表 4-7:輸入額推移

(出所)UNCTAD Stat より大和総研作成

一方で、ベトナム、中国との間では、ともにラオスの貿易黒字となっている。2015 年のベトナム向け輸出額が 2,500 万ドル、輸入額が 1,400 万ドルであった。輸出額の 半分程度がコーヒーと茶の輸出である。その他では穀物、野菜の輸出額が多い。主な 輸入品は野菜や穀物である。

中国向けの輸出は近年大きく伸びており、2015 年には 2005 年比で 27 倍となる 3,400 万ドルとなった。この 10 年間ラオスの輸出相手国のシェアも伸び、2005 年の 4%から 2015 年には 18%となりベトナムのシェア(13%)を上回っている。中国向けの輸出で は穀物の占める比率が 3 分の 2 と高くなっており、2005 年からの急増のほとんどが穀 物に起因する。残り 3 分の 1 は野菜、果物である。北部では中国輸出向けのバナナプ ランテーションが建設されるなど、中国向けの生産が盛んとなっている。

-140 -120 -100 -80 -60 -40 -20 0 20 40

その他食用品 肉・肉調製品 家畜(水棲生物以外の生き物)

飼料 砂糖 乳製品、卵 穀物(調製品を含む)

コーヒー、茶、香辛料 魚介類 野菜・果物

(100万ドル)

0 30 60 90 120 150

0 100 200 300 400 500

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

(100万ドル)

対世界 食品輸入総額(左軸)

対タイ 食品輸入額(左軸)

対タイ 動物輸入(右軸)

対タイ 肉・肉調製品輸入(右軸)

対タイ 穀物(調製品を含む)輸入

(右軸)

(暦年)

(100万ドル)

ベトナムと中国向け は輸出超