第 4 章 広い機関速度域の高過給化と高圧縮比化の組合せ効果
5.4 熱効率と排出ガスを改善する燃焼室形状の検討
5.4 熱効率と排出ガスを改善する燃焼室形状の検討
衝突後に,噴霧による筒内流動が低下してしまうこと.もう一つは燃焼後期の燃焼室隅 部の流動が低下し,高い当量比の領域が燃焼室内で滞留することである.これに対して,
ノズル噴孔諸元の変更と燃焼室の変更を用いた噴霧の高分散化と低流動化等の例[6]もみ られるが,ここでは先ずノズルを変更することなく,燃焼室の形状変更のみにより問題 解決を試みた.
5.4.2 燃焼室形状の予備検討
具体的な解決策としては,2種の燃焼室が考えられる.
1つは,衝突噴霧を積極的に利用して燃焼室内外への分散を促進する[7][8]方法である.
即ち燃焼室の小径深皿化,さらにはリエントラント型燃焼室によって,燃焼室内の流動 を高めることが可能と考えられる[9].
もう一つは燃焼室側壁面を遠ざけることにより,自由噴霧的な発達を行わせ,壁面衝 突後に再び燃焼室中心に向かう既燃ガスとの干渉による噴霧流速の低下を抑制し,且つ 流動が滞留する燃焼室隅部へ直接噴霧を導入する方法である[10].即ち燃焼室の大径浅皿 化,センターコーン角度の鈍角化等である.
ここでは上記2つの燃焼室の代表例として,図5.13のように,燃料噴霧の流れが異な る燃焼室形状でシミュレーションを行い,ベース形状と比較を行った.計算は前述の表 2で示した条件を用いて実施した.
図5.14に噴霧の中心をとおる断面での流速分布の変化を示す.リエントラント燃焼室 では,燃焼室口径を狭めて燃焼室の深さを確保したため,燃焼室内に大きな円を描くよ うな流れを形成している.一方,浅皿燃焼室では,壁面までの距離があるため,燃焼室 壁面に到達する前に流速が減速し,燃焼室の隅部へ流れており既燃ガスとの干渉による 噴霧流速の低下は抑制されていると考えられる.
図5.15の噴霧の中心をとおる断面での当量比分布の変化では,小径リエントラント燃 焼室では,クランク角度6 deg ATDCで高当量比の領域は燃焼室壁面へ到達し,燃焼室 底部へ向かう.クランク角度12 deg ATDCでは壁面に沿って燃焼室底部へと当量比の高 い領域が広がり,18 deg ATDCで燃焼室中央に到達する.24 deg ATDCで逆スキッシュ 流により燃焼室外へと流出するという大きな縦渦を形成する.
一方,大径浅皿燃焼室ではクランク角度6 deg ATDCでは燃焼室壁面まで高当量比の領
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域は到達せず,12 deg ATDCでは燃焼室底部へ衝突後,高当量比部分は壁面に沿って広 がり,一部はヘッド下面側へ広がり消滅する.クランク角度18 ~ 30 degATDCでは隣 接する噴霧とスワールにより観察断面になかった当量比の高い領域が後から見えてきて いる.クランク角度18 deg ATDC以降では燃焼室隅部で当量比の高い領域がわずかに滞 留するのが確認できる.図5.15の観察断面外に存在する当量比の高い領域も把握する必 要があるため,高い当量比の計算格子体積の変化を調査した.
図5.16は燃焼室内全体での当量比>3.0の計算格子体積の変化を示している.ベース形 状とリエントラント形状はよく似た傾向を示しているが,大径浅皿燃焼室は,燃焼室内 での高当量比体積は燃焼早期に減少に転じるものの,その後高当量比の体積の減少が停 滞する.リエントラント型やトロイダル型は壁面衝突後,燃焼室中央へ向かう流動にな り噴霧に既燃ガスを取り込みながら燃焼が進むが,大径浅皿燃焼室の場合は,壁面衝突 後,燃焼ガスがヘッド下面,スキッシュ領域へ向かう流動を形成し,噴霧と既燃ガスの 干渉が少なく,早期に当量比の高い領域が減少するものと考えられる.一方,燃焼後期 の高当量比領域の滞留は,燃焼室の側壁面からヘッド下面側へ燃焼ガスの一部が流入し たのち,燃焼室内の流動が低下し,十分な空気の導入が行われていないためと考えられ る.大型ディーゼル機関では高BMEP化に伴い噴射期間自体が長くなることから,高圧 縮比化により燃焼室容積が小さくなるとリエントラント形状や小径トロイダル型は噴霧 と既燃ガスが燃焼期間中に干渉しやすくなるため,干渉が少ない浅皿燃焼室を採用する のが望ましい.また,燃焼期間短縮のために噴射圧を高圧化する場合には,壁面熱損失 の増加も懸念されるため,火炎到達までの時間が長い大口径の浅皿燃焼室による熱損失 低減効果も期待される.
5.4.3 供試エンジンへの適用・詳細検討
これらの検討結果から,次に現在の多気筒エンジンへの浅皿燃焼室適用を検討した.
先の燃焼室検討において,噴霧が既燃ガスを取り込みにくい浅皿大径燃焼室口径φ90 mmは,当量比の高い領域が早期に減少する特徴があり,燃焼期間を短縮することで燃 料消費率の改善が得られると考えられる.しかし,燃焼室の隅部で当量比の高い領域が 滞留する傾向と,燃焼室入口での流動低下が見受けられたため,センターコーン部分は φ90 mmの形状を踏襲し,燃焼室底部の滞留抑制を狙って,燃焼室底部径はφ90 mmよ
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り小さくした.さらに燃焼室入口での流動低下を抑制するため,燃焼室壁面をテーパー 状に広げ,燃焼室の入口径はφ90 mm以上としたものを2種検討した.図5.17に燃焼室 形状を示す.
これまでと同様な条件におけるシミュレーション解析によれば,図5.18のように,ピ ストン燃焼室の壁面近傍で当量比の高い領域が形成される.しかしながら口径φ90 mm のものは,噴霧が壁面へ衝突後燃焼室底部と上部へと2分され,燃焼室底部が少しくぼ んでいるため,高当量比領域が滞留する.またこの図は,全周メッシュのうち噴霧の中 心をとおる断面の観察であるため,クランク角度24 degATDC,30 degATDCでは隣接す る噴霧とスワールにより観察断面になかった当量比の高い領域が後から見えてきている,
このような観察断面外に存在する当量比の高い領域の影響も把握する必要があるため,
図5.19は高当量比の計算格子体積の時間変化を調査した結果である.口径φ90 mmのも のは,わずかに当量比の高い領域が滞留しているが,口径φ100 mmのものは,当量比の 高い領域が早期に消滅する.これは,図5.13の大径浅皿燃焼室の課題であった燃焼室隅 部の滞留部分を減らすことを目的に,図5.17のように燃焼室の底部径を減少させ,さら に燃焼室の壁面をテーパー状に広げたことにより,高当量比領域がキャビティ内からス キッシュ領域へと流出していくためと考えられる.
排出ガスのCOの生成部位については,詳細化学反応シミュレーションソフト;Reaction
Design社製FORTÉを用いて調査を行った.計算条件は前述の表2を用いた.図5.20に
COの質量分率の分布を示す.トロイダル型では,燃焼室の中心付近にCOの濃度の高い 領域が残るが,浅皿燃焼室では,燃焼室の外側に分布し,おおよそ当量比の高い領域と 一致する.このため高当量比領域の低減により,CO,Smokeの排出量が低減すると考え られる.