• 検索結果がありません。

シミュレーション

ドキュメント内 自動車用大型ディーゼル機関の (ページ 75-80)

第 4 章 広い機関速度域の高過給化と高圧縮比化の組合せ効果

4.4 シミュレーション

今回採用した二段過給システムは,HP-T/C,LP-T/Cともに無段階式のVGTを採用し ている.また,EGRについてはHP-EGRとLP-EGRを併用し,さらに高圧段のタービン バイパスおよび,コンプレッサバイパスバルブが設けられており,制御パラメータが多 い.これらの制御値の最適な組み合わせを実験において求めるのは,膨大な時間を要す る.

そこでまず下記の項目について,仕様の選定と燃料消費率の改善効果を確認するため,

シミュレーションを実施した.

・2つの過給ストラテジの定常・過渡特性の比較

・LP-EGRの効果

・幾何学的圧縮比を変化させた時の状態量変化の比較

4.4.1 シミュレーションとモデルの構成

2つの過給ストラテジの実機との比較評価には,Ricardo社製WAVEを使用した.モデ ルは前報告において使用したモデルを使用しており,計算結果と運転結果で良い一致が

67

得られている[6].熱発生モデルはWiebe関数を用い,熱発生開始時期は上死点とし,熱 発生期間は当量比により変化するものを用いた.フリクションの予測にはWAVE標準の

Chen-Flynnモデルを用いている.また過渡運転時の状態量変化の予測については,上記

WAVE詳細モデルに基づくリアルタイムエンジンモデルを構築するためにRicardo社製 WAVE-RTと,バルブ類の開度制御を行うためのMathWorks社製MATLAB/Simulinkと を組み合わせて使用した.

4.4.2 過給ストラテジの比較

HP-T/C仕様を共通とした2つの過給ストラテジの比較を実施した.一つは機関速度に

応じて使用する過給機を切り替えるシーケンシャル過給を前提としている.過給機が直 列に配置されているため,低速低負荷域では小型のHP-T/Cのみを使用し,大型のLP-T/C は仕事をさせないように排気圧力損失が小さくなるようなタービン容量の大きいものを 選定する.低速重視のHP-T/Cと,高速重視のLP-T/Cを選択しているため,中速域で過 給機の切替を実施する必要がある.

もう一つは低速域より積極的に二段過給を実施できるように前述のLP-T/Cよりもタ ービン容量の小さいLP-T/Cを選定した.こちらはタービン容量が小さいために,低速軽 負荷域から過給圧,排気圧ともに高くなる.以下,主に低速域での過給方法の違いから,

シーケンシャル過給用の大容量のLP-T/CとHP-T/Cを組み合わせた仕様を「シーケンシ ャル二段過給」と,タービン容量の小さいLP-T/CとHP-T/Cを組み合わせた仕様を「シ リーズ二段過給」と呼ぶことにする.図4.3に使用したタービンの最大効率マップのイ メージを示す.

図4.4はシミュレーションによる全負荷相当の各過給機の回転速度の推定値である.

シーケンシャル二段過給は機関速度Ne=1200 rpm前後でHP-T/CとLP-T/Cを用いた二段

過給からLP-T/Cのみを用いた単段過給へと移行するため,HP-T/Cの回転速度が急激に

変化する.また加速時にLP-T/Cの回転速度が確保できない場合は過給不足を生じること になる.一方シリーズ二段過給では高速域においてHP-T/Cの回転速度を抑制する必要 があるが,シーケンシャル二段過給と比べてHP-T/Cの回転速度は高く維持されている.

ここで,過給機の運転状態の指標として,コンプレッサの動力をもとに高圧段過給機仕 事割合は総過給仕事に対する高圧段過給仕事の比率と定めて以下の式により求めた.

68

Wlpc Whpc

Rwhpc Whpc

= +

Whpc:HP-T/Cの過給仕事 Wlpc:LP-T/Cの過給仕事

Rwhpcが1に近い時,HP-T/Cが主に過給仕事をした状態であり,Rwhpcが0に近い

時,LP-T/Cが主に過給を行っていることを示す.求めたものを図4.5(a)にシーケンシャル 二段過給,図4.5(b)にシリーズ二段過給を示す.Rwhpcを見た場合,シーケンシャル二

段過給はRwhpcが0.2や0.8といったどちらか一方の過給機の仕事割合が高い領域が比

較的広く存在するが,シリーズ二段過給は,0.5前後の領域が広がっている.また図4.6 は,頻度の高い機関速度Ne=1000 rpmにおいて吸気酸素濃度18 mol%においてシーケン シャル二段過給とシリーズ二段過給で,同等BSFCとなる低圧段VGT開度とし,HP-EGR のみを用いて吸気酸素濃度を変化させた時の状態量の変化である.吸気酸素濃度を18

mol%から17 mol%まで減少させても大きな燃料消費率の差は見られない.しかし吸気酸

素濃度を17 mol%より低下させた時,シリーズ二段過給はシーケンシャル過給に比べて

BSFCの増加が少ない.

4.4.3 過給機の組み合わせによる過渡特性の変化

2つの過給機を切り替えて使用するような場合については,定常での運転のみならず,

過渡運転に関しても考慮する必要がある. 図4.5(a)のシーケンシャル二段過給では低速 域から高速域,あるいは高速域の低負荷から高負荷にかけて過給方法が切り替わる.機 関速度;Ne=1600 rpmにおいては低負荷から高負荷にかけてRwhpcが減少しており,低 負荷域では二段過給運転,高負荷域においてはLP-T/Cのみの単段過給運転である.図 4.7は代表機関速度;Ne=1600 rpmでのシーケンシャル二段過給の状態量を示している.

タービンとコンプレッサのバイパスバルブを閉じた状態の二段過給;HPT+LPT1 (Bypass Close)とLP-T/Cのみの単段過給;LPT1,これらの中間となるような運転状態;HPT+LPT1

(Bypass Open)を設け,中負荷から高負荷にかけて,高圧段のタービンとコンプレッサの

バイパスバルブ(TBPV, CBPV)を制御することで,過給方法の切替が可能と考えられ る.この機関速度において,負荷を図4.8のように20秒間でBMEPを0.2 MPaから2.1 MPa

(10%負荷から全負荷)まで変化させた時の状態量変化についてシミュレーションを用

69

いて調査した.

なお,ここではHP-EGRのみを用いた定常マップを作成し,オープンループ制御(マ ップ参照運転)において過渡時を模擬した.今回用いたシーケンシャル二段過給の過給 機の運転方法は,軽負荷域(BMEP<0.4 MPa)ではTBPV,CBPVを閉じた二段過給運転,

中負荷域(BMEP=0.4 ~1.64 MPa)では,TBPVをわずかに開いて運転し,過給機を切 り替える移行領域としている.高負荷域(BMEP>1.64 MPa)では,CBPVを完全に開き LPT1のみで運転を行っている.

一方シリーズ二段過給ではBMEP>1.64 MPaの領域で,排気マニホールド圧が過大と ならないように,わずかにTBPVを開くが,これ以下ではTBPV,CBPVを閉じた二段 過給運転である.図4.9にシーケンシャル二段過給の結果,図4.10にシリーズ二段過給 の結果を示す.図4.9のシーケンシャル二段過給では負荷増加初期には慣性モーメント

の小さなHP-T/Cを併用して過給圧を高めているため,HP-T/Cの回転速度が上昇してい

るが,中負荷領域のLP-T/Cへの移行領域に入ると,TBPVを開いて,HP-T/Cを通過す るガス量を減らしているため,HP-T/Cの回転速度の上昇率が低下する.HP-T/Cをバイ パスした排気ガスはLP-T/Cへ導入されるため,LP-T/Cの回転が徐々に上昇する.高負 荷領域に達するとHP-T/Cでの過給から慣性モーメントの大きなLP-T/Cのみでの過給に 切り替わり,HP-T/Cの回転速度はスタート時と同じレベルまで下降し過給に寄与しなく なる.このため負荷変動が早い場合は特に慣性モーメントの大きなLP-T/Cの回転速度が 追随できず,過給不足に起因するトルク不足を起こしかねない.一方,図4.10のシリー ズ二段過給では2つの過給機で過給を実施しており慣性モーメントの小さいHP-T/Cの 回転が上昇しやすく,高い過給圧の応答が得られている.高負荷領域では,HP-T/Cの過 回転防止,排気マニホールド圧の上昇を抑制するためTBPVをわずかに開けている.こ

のためHP-T/Cの回転速度がわずかに低下するが,高い回転速度を維持し,高過給運転

を実現している.このように過給圧の応答が慣性モーメントの小さいHP-T/Cに依存す るため,負荷変動にも比較的容易に追随できると考えられる.

4.4.4 二段過給におけるHP-EGRとLP-EGRの効果

LP-EGRはターボ出口からLP-EGRクーラ,I/Cを通過させた低温で高密度なEGRガ

スを用いることができ,排出ガス低減とBSFCの改善に有効とされている(7)(8).特に単

70

段過給システムでは,作動ガスを増やすことで低速の吸気量確保を狙うものであるが,

今回採用した,低速域での過給効率改善を狙った小型の過給機を追加した二段過給シス テムでの効果をシミュレーションにおいて調査した.

ここでは,EGR流量の比率を示す指標として,HP-EGR比率;HP/(HP+LP)を用いた.

HP/(HP+LP)はHP-EGRとLP-EGRを合わせた総EGR流量に対するHP-EGRの比率であ り,下記の式で求めた.ここでHP/(HP+LP)=1の状態は,HP-EGRのみを使用している 状態,HP/(HP+LP)=0はLP-EGRのみを用いた状態を表す.

流量 流量

流量 EGR -LP EGR

-HP

EGR -LP) HP

HP/(HP

= + +

図4.11はVGT開度とq=120 mm3/st一定とし,各機関速度においてHP-EGR比率を変 化させた時の様子である.LP-EGRを用いてHP/(HP+LP)を減少させると過給機の仕事量 が増加し,空燃比;A/F,過給圧;Pbの増加が確認できる.これによりスモーク濃度の 改善効果が期待できる.

今回採用した二段過給システムでは,Ne=800 rpm以下の低速域ではわずかに燃費改善 の効果が得られるものの,それ以上の機関速度域では,高圧段タービン容量が小さいた めに,吸気量が増加するとタービン前後の差圧が大きくなり,ポンピング損失の増大を 招く.今回採用した過給機の組合せでは,二段過給による低速域の吸気量増加の効果が 相対的に大きく,LP-EGRによる実用走行燃費の改善は僅かである.LP-EGRのもう一つ の特徴な効果である排出ガスの低減,主にNOxの低減については今回採用した二段過給 システムにはHP-EGRクーラの冷却能力の増強が有効と考えられる.

一方,中速域での空気量の増加を狙った二段過給システムでは,高圧段タービン容量 が比較的大きいために空気量増加によるタービン前後差圧の上昇が起こりにくく,低速 から中速にかけてLP-EGRによる排出ガスと燃料消費率改善の効果が得やすい[9].しか しながら,低速域で多量のLP-EGRを使用すると,還流遅れによるEGR応答性の低下を 招くことが確認されており,様々な手法を用いて応答性を高める試みがなされてい る[10][11][12]

このようにLP-EGRの効果についてはHP-T/Cの容量に依存するため,LP-EGRによる 燃料消費率の改善効果が僅かな小型の過給機を用いた二段過給システムではEGRの制 御性においては優位性があると考えられる.

71

ドキュメント内 自動車用大型ディーゼル機関の (ページ 75-80)

関連したドキュメント