第 3 章 高次元 Einstein-Yang-Mills 系 23
3.2.4 その他の 4 次元非可換解
3.3.2.3 熱力学的性質
以上のように得られた解はparameter M の値によってはblack hole解となることが示された。一般に
black hole解は熱力学的な性質を持つことがわかっている。以下でこのblack hole解の熱力学的な性質を考
察する。初めにevent horizonを持つ解析解(3.86)-(3.88)にたいする熱力学的な物理量を導出する。Black holeのHawking温度TBHはevent horizon上の表面重力を計算することにより
TBH = 1 2πr+
1− 1
r+2 + 2r+2 2
(3.115) と与えられる[59]。またblack holeのentropyは3次元球面をなすevent horizonの体積より
S = 1
2π2r3+ (3.116)
と与えられる7。最後にblack holeのenergyであるが、3.3.2.1節でも述べたように普通にADM質量を求 めると有限な値とはならないため、熱力学の第1法則
dMT = TBHdS+ ΦdQ (3.117)
7単位3次元球面の体積が2π2となることを用いた。
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 43
表 3.3: 解析解(3.86)-(3.88)のhorizon構造。IH, EH, CHおよびDHはそれぞれinner horizon, event horizon, cosmological horizonおよび縮退したhorizonを示す。
, M Horizon
M <1 None
= 0 M = 1 DH
M >1 IH, EH M < Mcr None
= 1 M =Mcr DH
Mcr< M IH, EH M < Mmin IH
M =Mmin IH, DH
=−1, >2√
2 Mmin< M < Mmax IH, EH, CH
M =Mmax DH, CH
M > Mmax CH
=−1,≤2√
2 CH
より熱力学的なenergyMTを求めることにする[58]。ここでΦおよびQはそれぞれgauge場の静電potential および電荷を表す。4次元における解析解は電荷はYang-Mills場の結合定数から決まる一定の値を取り、ま た実際解析解はgauge場の電荷を与えるparameterが含まれていないためdQ= 0と考えられる。よって MTは式(3.115), (3.116)を式(3.117)に代入し積分することで
MT = 3π
8 M (3.118)
と導出される。ここで積分定数はM = 0のときにMT= 0となるように取った。すなわち擬孤立系におけ る重力場の熱力学的なenergyは本質的にM によって記述されることがわかる。
熱力学的energyMTとevent horizon半径r+の関係は式(3.108)より MT = 3π
8
r+2
1 +r+2
2 −2 lnr+
(3.119) と与えられる。図3.7に解析解(3.86)-(3.88)とReissner-Nordstr¨om解のMTとr+の関係を表すグラフを 示す。両者の漸近構造が異なるため正確な熱力学的な安定性の議論を行うことはできないが、図より同じ熱 力学的なenergyを持つblack hole解は解析解のほうが大きなentropyを持つことがわかる。次に図3.7に MTとTBHの関係を表すグラフを示す。図より解析解はparameter,によってHawking温度がMTの減 少関数になっている領域が存在することがわかる。この領域はblack holeのHawking温度が上がるに従い
そのenergyが減少しているため比熱が負の領域ということになる。実際、式(3.108), (3.115)より
dTBH
dMT = − 2 3π2r3+
1−3/r+2 −2r+2/2
1−1/r+2 + 2r+2/2 (3.120) が導かれ、比熱の符号が変わる点が存在することがわかる。= 0のとき、比熱は領域1< r+ <√
3とな るMの範囲で正、r+>√
3となるMの範囲で負となる。= 1の場合は≤2√
6の解に対しては比熱は
図3.7: 解析解(3.86)-(3.88)に対する熱力学的energyMTとevent horizonの半径r+およびHawking温度 TBHの関係。左図:MTとr+の関係。実線および点線はそれぞれ= 0および= 1の解析解における関係 を表す。また破線および破点線は同じ電荷を持つReissner-Nordstr¨om解およびReissner-Nordstr¨om-AdS 解における関係を表す。右図:MTとTBHの関係。実線は= 0、点線および破線は= 1で= 6および
= 4、破点線は=−1で= 5の解析解における関係をそれぞれ表す。
常に正となる。 >2√
6の解に対してはr+cr < r+< r−chおよびr+> r+chとなるMの範囲で比熱は正 であるがr−ch< r+< r+chとなるMの範囲において比熱は負となる。ここで、r±chは
r±ch = 2
1±
1−24
2 1/2
(3.121)
と定義される。最後に=−1に関してはr−cr< r+< rchとなるMの範囲で正となるがrch< r+≤r+cr となるMの範囲においては比熱は負となる。ここで、rchは
rch = 2
−1 +
1 +24 2
1/2
(3.122)
と定義される。
3.3.3 5 次元粒子解
4次元におけるEinstein-Yang-Mills系の場合と同様に、5次元時空においても数値解として時空全体で 正則となる粒子解および非可換black hole解が存在する。初めに粒子解について解析する。以後この節で は= 0または= 1の場合のみ、すなわち漸近的に平坦な時空に近づく場合と漸近的にAdS時空に近づ く場合のみを考える。
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 45 初めに4次元の場合と同様に境界条件を定める。粒子解を導出するために中心r= 0のまわりで正則で あるという条件を課す。このとき方程式(3.75)-(3.78)はr= 0のまわりでべき展開が出来、parameterbを 用いて
μ(r) = 4b2r4+O(r5) (3.123)
δ(r) = −4b2r2+4 3b2
4
32 −3b−8b2 r4+O(r5) (3.124) w(r) = 1 +br2−b
6 4
32 −3b−8b2 r4+O(r5) (3.125) と表される。ここで、δについてもr= 0近くでの振る舞いを示しておいた。また数値計算の都合上r= 0 においてδ= 0となる時間座標を用いる。r=∞における固有時間は時間tを
¯t = e−δ(∞)t (3.126)
とscale変換することによって得ることが出来る。また4次元の場合と同様に全ての点で時空はhorizonを
持たない、すなわち(3.41)を課す必要がある。最後にr=∞のまわりにおける境界条件であるが、4次元 Einstein-Yang-Mills方程式の場合と異なり方程式(3.75)-(3.78)はr=∞のまわりで正則となる解μ(r)は 自明解以外持たないことが示される8。この証明は付録C.1において述べる。すなわちこの結果は5次元時 空において有限なenergyを持つ粒子解は存在しないことを示している。よって、ここではr=∞における 境界条件を緩め、前小節で議論した擬漸近的平坦な時空(またはAdS時空)も許容する粒子解を導出するこ とにする。このとき質量関数μ(r)はO(r)のorderまでで発散することが許される。以上の境界条件の下 で方程式(3.75)-(3.78)を数値的に解くと擬漸近的平坦(またはAdS)な粒子解が得られる。図3.8-3.10に数 値計算によって求められた粒子解を示す。以下で= 0および= 1それぞれの場合に対し解の構造を解析 する。
初めに= 0すなわち理論が宇宙項を含まない場合を考える。このとき、擬漸近的平坦な粒子解がparameter bに対し
bmin< b <0 (3.127)
の範囲で存在することがわかる。ここでbminは数値計算より
bmin ∼ −0.635607 (3.128)
と得られる。離散的なparameterのときにしか存在しなかった4次元Bartnik-McKinnon解とは異なり、5 次元粒子解は連続的なparameterの範囲で存在することがわかる。図3.8-3.10の左側に代表的なparameter における解の振る舞いを示す。初めに図3.8を見ると、gauge potentialw(r)はそれぞれの解に対して周期 的な振る舞いを示していることがわかる。ただしその周期は指数的に延びていく。Parameterbが0により 近い解はw(r)の振幅がより1に近づき、これはYang-Mills instanton解[61]が無限に続いている解に対応 している。これにより粒子解のgauge場wのnodeは全ての解に対して無限個存在している。すなわち全 ての粒子解に対し関数w(r)は無限回0を横切っている。また図3.9から質量関数μ(r)は漸近的にlnrの
orderで発散していることがわかる。但し解によってはμ(r)がlnrのorderで増加する領域とほぼ定数とな
8これに対して、Yang-Mills場の作用にfield strengthの高次の項を含んだ理論においてはr=∞のまわりで正則となる粒子解 および非可換black hole解が存在することが示されている[60]。
図 3.8: 5次元粒子解の解の構造その1。左図: = 0における粒子解。実線、点線および破線はそれぞれ b=−0.01,−0.1,−0.5における解のgauge potentialw(r)の振る舞いを示す。右図:= 1および= 10に おける粒子解。実線、点線および破線はそれぞれb=−0.01,−0.1,−0.5における解のgauge potentialw(r) の振る舞いを示す。
る領域を繰り返しながら発散する振る舞いを示す。w(r)の振る舞いと並べてみるとw(r)が±1に近い領域 ではμ(r)の発散は抑えられ、w(r)が0に近くなる領域で増加していることがわかる。粒子解のr→ ∞に おける漸近解は解析的に求まり、この漸近解の導出は付録C.2.1において示す。wおよびμの漸近解はそれ
ぞれ(C.52)および(C.63)となり数値的な結果と一致していることがわかる。一方lapse関数に関しては図
3.10を見てもわかるように、4次元Bartnik-McKinnon解における振る舞いと同じような振る舞いを示す。
次に= 1すなわち理論が負の宇宙項を含む場合を考える。このときも= 0の場合と同様に擬漸近的 AdSな粒子解がparameterbに対し
bmin< b <0 (3.129)
の範囲で存在することがわかる。但し下限bminは宇宙項の長さのscaleを表すparameterに依存し、が 減るに従い(すなわち宇宙項の絶対値が増えるに従い)下限bminも減っていく。とbminの関係は表3.4に 示す。4次元における負の宇宙項を含むEinstein-Yang-Mills系における粒子解もparameterbに対し連続 的に存在するため[45]、この場合は4次元時空と5次元時空では解の存在領域に対して差異はないことが示 される。次に解の構造を考察する。図3.8-3.10の右側に= 10における代表的なparameterbに対する解 の振る舞いを示す。初めに図3.8を見ると、gauge potentialw(r)はそれぞれの解に対して= 0の場合と 異なり漸近的にある定数0≤W0≤1に収束していくことがわかる。収束先W0は解のparameterbによっ て異なるが、bが減少するに伴いW0も1から減少していくが、ある値まで減少すると再び増加を始め、ま たある値まで増加すると減少に転じる。この動作をbminまで繰り返すことになる。また特にparameterb の値によってはnodeを持たない解も存在する。4次元における負の宇宙項を含むEinstein-Yang-Mills系に おける粒子解もr→ ∞である定数0≤W0≤1に収束していくため、= 1の場合は4次元時空と5次元
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 47
図 3.9: 5次元粒子解の解の構造その2。左図: = 0における粒子解。実線、点線および破線はそれぞれ
b=−0.01,−0.1,−0.5における解の質量関数μ(r)の振る舞いを示す。右図:= 1および= 10における 粒子解。実線、点線および破線はそれぞれb=−0.01,−0.1,−0.5における解の質量関数μ(r)の振る舞いを 示す。
時空ではgauge potentialw(r)の漸近構造に対して差異はないことが示される。一方、図3.9から質量関数
μ(r)は漸近的にlnrのorderで発散していることがわかる。この振る舞いは定数に収束する4次元の場合 とは異なった漸近構造を示している。またこのとき= 0の場合と異なり振動の効果は見られない。r→ ∞ における漸近的な振る舞いは解析的に表すことが出来、μ(r)は漸近的に
μ = M0+ 2(1−W02)2lnr (3.130)
と発散することがわかる。漸近解の解析的な形については付録C.2.2において詳しい議論を行う。
3.3.4 5 次元非可換 black hole 解
次に5次元時空における非可換black hole解を導出しその解析を行う。