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標準 big bang 模型の問題点

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第 4 章 高次元重力理論の宇宙論への応用 61

4.1.2 標準 big bang 模型の問題点

標準big bang模型はこれらの観測事実にも支えられて宇宙論として大きな成功を収めているが、この模

型は理論的な問題点や不自然な点がいくつか存在する。以下でその代表的な問題点について簡単に触れる。

4.1. 標準big bang模型 63

図4.1: Potential U(a)の模式図。実線、点線および破線はそれぞれΛ4>0, Λ4<0およびΛ4= 0におけ るpotentialを表す。物質場としてはρ∼a−4となる輻射流体を適用した。

Friedmann方程式(4.3)は現在のHubble膨張率H0、energy密度ρ0および宇宙項Λ4がわかれば宇宙の 曲率kが導かれることを示している。特にΛ4 = 0とすると現在のenergy密度ρ0ρcr= 3H02/(8πG4)と 定義される臨界密度より大きいか小さいかによって閉じた宇宙なのか開いた宇宙なのかが決まることにな る。現在観測よりρ0crは約1%のorderで1に近い値を示していることがわかっている。一方Friedmann

方程式(4.3)における曲率項は過去に遡るに従い他の物質項よりも遅く落ちているため、過去ではρ/ρcr

より1に近づくことになり、特にPlanck scaleにおいてこの値は10−60という非常に不自然なorderで1に 近いという事になる。すなわち宇宙の過去は非常に平坦な時空に近い時空に見えるという問題でこれを宇宙 の平坦性問題という。また前述の観測されている宇宙背景輻射の温度分布は宇宙の晴れ上がり時のhorizon scaleをはるかに超えたscaleにわたって同じ値をもっている。これは因果関係を持つhorizon scaleを越え て一様等方性が成り立っていることを示す。この問題は宇宙のhorizon問題と呼ばれる。この他に大統一理 論における真空の相転移によって生成されると予言されるmonopoleの理論的に予言される量と観測との差 異の問題や宇宙背景輻射の観測によって示されるscale不変な構造形成の問題などが存在する。これらの問 題点に対してはinflation模型と呼ばれる宇宙膨張の初めに指数関数的に急激な膨張が起こったという模型 によって解決することが出来る[13]。

しかし宇宙論には標準big bang模型およびinflation模型をもってしても未解決な問題も未だ存在する。

その問題点の1つでありまた宇宙論の最も重大な問題点として初期特異点問題が挙げられる。Friedmann方

程式(4.3)は宇宙が膨張していることを示唆しているが、これは時間を逆に遡っていくと宇宙のscaleはど

んどん収縮していくことを意味している。実際状態方程式として式(4.6)を考えk= 0を仮定すると、scale factoraの解として

a t2/(3γ) (4.10)

が導かれる。これは現実的な状況(γ2/3)を考えると有限の時間の過去に0となることを示している。一

方式(4.7)よりscale factorが小さくなるに従いenergy密度ρは発散していく。また時空の曲率であるRicci

scalarRa= 0となる点で発散する特異点となる。この特異点をbig bang特異点もしくは初期特異点と

呼び、この点では古典重力理論は破綻する。Big bang特異点はFreidmann-Robertson-Walker計量で表さ れるような対称性の高い時空でなくても一般的に存在することが証明されている[29, 14]。すなわち宇宙の 過去には必ずbig bang特異点が存在してしまうという問題が初期特異点問題である。宇宙の初期特異点問 題は量子重力理論によって解決されると期待されており、この観点から量子宇宙論などの研究がなされて

いる[15]。しかし量子重力理論は未だ完成されていない理論のため、どの解決法が妥当であるかは未だはっ

きりしていない。

4.2 5 次元時空中の domain wall の運動

Brane宇宙論は高次元理論の1つであるbrane理論から予言される宇宙の模型で、標準big bang模型に

対して高次元の効果による変更が加わることになる。Brane宇宙論は現在様々な方法により活発に議論が行 われている[63]。この節では、我々の住む宇宙を5次元bulk中を動くdomain wallとみなしてその運動を 宇宙の発展方程式であると考える描像を用いてbrane宇宙論を考察することにする[16, 12]。以下でこの方 法による宇宙の進化を表す方程式を求め、これを解析する。

4.2.1 5 次元 Schwarzschild-AdS 時空中の domain wall の運動

この節ではbrane理論において最も簡単な模型である5次元bulk中に重力場と負の宇宙項のみが存在す るという模型[9]におけるdomain wallの運動を考察する[12]。標準big bang模型における宇宙の時空構造 の仮定として、我々の住む宇宙は空間方向に対して一様かつ等方であるとする。一方brane理論は我々の 住む宇宙を空間3次元のbraneであるとしているため、閉じた宇宙、平坦な宇宙、開いた宇宙はそれぞれ5 次元bulk中の3次元球面、3次元平面、3次元双曲面となる。一方、5次元bulk中には重力場と負の宇宙 項のみが存在するとすると、3次元定曲率空間を部分空間とする時空の計量は一般的に

ds2 = −fk(r)dt2+ dr2

fk(r)+r223,k (4.11) と書くことが出来る。ここで、dσ23,kは式(3.158)によって定義され、またfk(r)は

fk(r) = k−M r2 +r2

l2 (4.12)

と定義される。lは5次元宇宙項Λ5から

l2 = 6

Λ5 (4.13)

と定義される1。この計量はSchwarzschild-AdS black hole解の拡張解となっている[62]2。また定数M

この解のblack hole質量に対応する。kは標準big bang模型におけるkと同じ物理的意味を持つ。我々の

住む宇宙はこの5次元bulkの中のr= const.に位置することになる。ここで我々の住む宇宙を

r = a(τ) (4.14)

1前章におけるとの関係は=l/λで結ばれる。但しλは式(3.61)で定義される。

2以降この解を単にSchwarzschild-AdS解と記す。

4.2. 5次元時空中のdomain wallの運動 65

図 4.2: Z2-対称性の作り方の模式図。2つのSchwarzschild-AdS時空を用意し、r > a(τ)の部分は切り取 る。その後2つの時空におけるr=a(τ)の部分を同一視して繋げる。

に位置するdomain wallであると仮定する。但しτはdomain wall上の固有時間とする。この仮定により a(τ)は宇宙のscale factorとしての意味を持つ。次にbrane理論の時空に対するもう1つの条件としてZ2 -対称性を次のようにして課す。計量(4.11)で表される5次元時空を2つ用意し、この時空をdomain wall の位置(4.14)において切り取り、2つの時空のdomain wallを同一視してを繋ぎ合わせる。図4.2にこの作 業の模式図を示す。これによりdomain wallのまわりでZ2-対称性を持たせることが出来ることがわかる。

最後にdomain wall上に拘束された物質場に対する仮定として、次のenergy-運動量tensorで表すことの出 来る完全流体を仮定する。

Sαβ = (ρ+P)UαUβ+P γαβ (4.15)

ここでρ,PおよびUαはそれぞれ物質のenergy密度、圧力、4元速度を表す。ここで今後の議論のために

braneの張力に対応する項もこのtensorの中に含まれていると考える。すなわち通常の物質場のenergy密

度および圧力をρmおよびPmとしbraneの張力をσとすると、ρおよびP

ρ = ρm+σ (4.16)

P = Pm−σ (4.17)

と分解されるとする。

以上の仮定によりdomain wallのまわりにおけるEinstein方程式からこのdomain wallの運動方程式が 定まる。Domain wall上では計量の1階微分が不連続となるため2.2.1節の議論と同様にIsraelの接続条 件(2.26)によって表される[36]。ここで、5次元計量(4.11)に対しdomain wallの近くでGaussian normal 座標

ds2 = 2+γαβdxαdxβ (4.18)

を導入する。この座標系の導入によりdomain wall上の内的計量はγαβによって表され、接続条件(2.26)は [Kαβ]± = 8πG5

Sαβ1

3Sμμγαβ

(4.19)

と表される。また、このとき外的曲率Kαβ

Kαβ = 1

2nμμγαβ (4.20)

と表される。ここでnμはdomain wallに正規垂直なvectorである。Domain wallの5元速度uaとdomain wallに正規垂直なvectornaを求めると、

ua =

fk(a) + ˙a2

fk(a) ,a,˙ 0,0,0

(4.21) na =

a˙ fk(a),−

fk(a) + ˙a2,0,0,0 (4.22) となる。ここで˙はτに関する微分である。またここでnaの向きはdomain wallから時空の内側へ向かう 方向に取った。これよりdomain wallの外的曲率Kαβが導出され、その空間成分は

Kij+(=−Kij) =

fk(a) + ˙a2

a γij (4.23)

となり、一方時間成分は

Kτ τ+(=−Kτ τ) = d da

fk(a) + ˙a2 (4.24)

となる3。接続条件(4.19)の空間成分に式(4.15)および(4.23)を代入することで H2+fk(a)

a2 = (8πG5)2

36 ρ2 (4.25)

また時間成分に式(4.15)および(4.24)を代入することで d

da

fk(a) + ˙a2 = 4πG5 2

3ρ+P (4.26)

が得られ、これらがdomain wallの運動を決める方程式となる。但しHはHubbleの膨張率で標準big bang 模型と同様に式(4.5)で定義される。

式(4.25)は式(4.12), (4.16)および(4.17)を代入することで H2+ k

a2 = Λ4

3 +8πG4

3 ρm+4πG4

ρ2m+M

a4 (4.27)

となる。但し、G4およびΛ4は(2.31)および(2.32)で定義される4次元重力定数および4次元宇宙項であ る。よって(2.31)よりbraneの張力σが正ならば、式(4.27)はFriedmann方程式に対応する式となってい ることがわかる。実際式(4.3)と比べてみると、左辺および右辺の第2項までは標準big bang模型における Friedmann方程式と同じ形をしていることがわかる。式(4.27)の右辺第3項はdomain wall上の物質場の energy密度の2乗に比例した項となっている。これは2.2.1節で議論したbrane上の実効Einstein方程式 (2.29)のπabに対応する項でbrane理論によるFriedmann方程式への補正項となっている。この項はbrane 上の物質場のenergy密度が高くなる宇宙初期に寄与してくる項でありinflation等の性質を変える可能性が あり様々な研究がなされているが[65]、ここではこれ以上立ち入らないことにする。また式(4.27)の右辺第

3時間成分に対する外的曲率の計算は文献[64]と同じ方法で導出することが出来る。

4.2. 5次元時空中のdomain wallの運動 67 4項は5次元bulkのSchwarzschild-AdS black hole解の質量からなる項で、brane上の実効Einstein方程 式(2.29)のEabに対応する項となっている4。すなわちこの項により5次元bulkの情報が宇宙の進化に影 響を及ぼしていることがわかる。この項は暗黒輻射項と呼ばれa−4に比例しており、これは標準big bang 模型における輻射流体のscale factorに対する依存性と同じorderとなっている。すなわちこの項は宇宙の 進化においてあたかも輻射流体が存在するような効果となることが示される。これらの項によって宇宙の 進化がどのように変更を受けるかについては4.3節において詳しく議論する。次に式(4.26)について考察

する。式(4.26)に式(4.25)を代入し整理することで次の式が導かれる。

˙

ρ+ 3H(ρ+P) = 0 (4.28)

この式は標準big bang模型における物質場のenergy保存則(4.4)と全く同じ形をなすためdomain wall上 の物質場のenergy保存則となっている。すなわち2.2.1節でも議論したように5次元bulk中に物質場が存 在しない場合はdomain wall上でenergy保存則が成り立っていることが示される。またこれよりdomain wall上の物質場の状態方程式として式(4.6)を仮定するとこの物質場のenergy密度ρはdomain wallの運 動すなわち宇宙の進化に伴って式(4.7)で表される標準big bang模型と同じ振る舞いをすることがわかる。

4.2.2 5 次元静的時空中の domain wall の運動

前小節における議論は5次元bulk中は重力場と負の宇宙項のみが存在し物質場の存在を考えない最も

単純なbrane理論の模型を扱った。しかし第3.3節の初めにも述べたように超弦理論やM理論などの統

一理論は高次元時空にはdilaon scalar場やgauge場などの様々な場が存在していることを予言している [21, 23]。5次元時空中に物質場が存在する場合、domain wallに一様等方性を仮定しても5次元bulkの計 量はもはやSchwarzschild-AdS時空(4.11)ではなくなる。そこで本小節では以下で5次元bulkの計量が Schwarzschild-AdS時空に制限しない一般の静的な計量の場合におけるdomain wallの運動を解析する[16]。

5次元bulkは静的である事を仮定し、計量は時間依存性を持たないとする。このとき3次元定曲率空間 を部分空間とする時空の計量は一般的に

ds2 = −fk(r)e−2δ(r)dt2+ dr2

fk(r)+r223,k (4.29) と書き表すことが出来る。fk(r)はSchwarzschild-AdS時空における形(4.12)に限らない一般的な関数であ るとする。kは前小節と同様に標準big bang模型におけるkと同じ物理的意味を持つ。ここで前小節にお ける結果と比較できるように次の式により関数μ(r)を定義する。

fk(r) = k−μ(r) r2 +r2

l2 (4.30)

lは5次元宇宙項Λ5から(4.13)と定義する5。この定義により5次元bulkの計量は2つの関数μ(r)および δ(r)によって表すことが出来る。この計量の形はk= 1の場合は3.3.1節から3.3.5節までにおいて仮定し た= 1の計量の形と同じ形をしている。一般のkの場合は3.3.6節において仮定した= 1の計量の形と 同じ形をしている。μ(r)およびδ(r)は前章と同様に質量関数およびlapse関数とそれぞれ呼ぶ。μ=M お よびδ= 0を代入すると前節の計量に対する仮定と同じになることに注意する。この計量(4.29)において

4実際5次元bulkWeyl tensorの電荷partMに比例する値を取る。

5脚注1参照。

前節と同様に式(4.14)で表される場所に位置するdomain wallの運動を解析することにする。前節と同様 に計量(4.29)で表される5次元時空を2つ用意し、この時空をdomain wallの位置(4.14)において切り取 り、2つの時空のdomain wallを同一視してを繋ぎ合わせることでdomain wallのまわりでZ2-対称性を持 たせることが出来る。Domain wall上に拘束された物質場も前節と同様に完全流体を仮定し、その energy-運動量tensorを式(4.15)で定義する。

以上の仮定によりdomain wallのまわりにおけるGaussian normal座標(4.18)におけるIsraelの接続条 件(4.19)からこのdomain wallの運動方程式が定まる。Domain wallの5元速度uaとdomain wallに正規 垂直なvectorna を求めると、

ua =

eδ(a)

fk(a) + ˙a2

fk(a) ,a,˙ 0,0,0

(4.31)

na =

−eδ(a) a˙ fk(a),−

fk(a) + ˙a2,0,0,0 (4.32) となる。ここで˙はdomain wall上の固有時間τ に関する微分である。これよりdomain wallの外的曲率 Kαβが導出され、その空間成分は

Kij+(=−Kij) =

fk(a) + ˙a2

a γij (4.33)

となり、一方時間成分は

Kτ τ+(=−Kτ τ) = eδ(a) d da

eδ(a)

fk(a) + ˙a2

(4.34) となることがわかる。接続条件(4.19)の空間成分に式(4.15)および(4.33)を代入することで

H2+fk(a)

a2 = (8πG5)2

36 ρ2 (4.35)

また時間成分に式(4.15)および(4.34)を代入することで eδ(a) d

da

eδ(a)

fk(a) + ˙a2

= 4πG5 2

3ρ+P (4.36)

が得られ、これらがdomain wallの運動を決める方程式となる。但しHはHubbleの膨張率で標準big bang 模型と同様に式(4.5)で定義される。

式(4.35)は式(4.30), (4.16)および(4.17)を代入することで H2+ k

a2 = Λ4

3 +8πG4

3 ρm+4πG4

ρ2m+μ(a)

a4 (4.37)

となる。但し、G4およびΛ4は(2.31)および(2.32)で定義される4次元重力定数および4次元宇宙項であ る。式(4.37)は左辺及び右辺の第3項まではSchwarzschild-AdS時空中のdomain wallの運動方程式(4.27) と同じ形をしている。右辺第4項は質量関数μ(r)によって決まる項でμ(a) =Mと置くことで暗黒輻射項 となり、式(4.27)に帰着する。よって(2.31)よりbraneの張力σが正ならば、式(4.37)はFriedmann方程 式に対応する式となっていることがわかる。すなわち一般的な静的時空においてdomain wallの運動方程 式にはFriedmann方程式の補正項としてdomain wall上の物質場のenergy密度の2乗に比例した項に加え

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