第 3 章 高次元 Einstein-Yang-Mills 系 23
3.2.4 その他の 4 次元非可換解
3.3.4.2 内部構造
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 51
図3.13: 5次元非可換black hole解の解の外部構造その3。左図:= 0における非可換black hole解。実 線、点線および破線はそれぞれwh= 0.99,0.9,0.5における解のlapse関数δ(r)の振る舞いを示す。右図:
= 1および= 10における非可換black hole解。実線、点線および破線はそれぞれwh= 0.99,0.9,0.5に おける解のlapse関数δ(r)の振る舞いを示す。
図3.14: 5次元非可換black hole解の解の内部構造その1。Event horizonの位置はrh= 1とする。左図:
= 1,wh= 0.4における5次元非可換black hole解のevent horizonの内側。実線および点線はそれぞれ 質量関数μ(r)およびlapse関数δ(r)の振る舞いを示す(両対数グラフ)。この解はinner horizonを持たな い解となっている。右図:= 1,wh= 0.701における5次元非可換black hole解のevent horizonの内側。
実線および点線はそれぞれ質量関数μ(r)およびlapse関数δ(r)の振る舞いを示す。この解はinner horizon を持つ解となっている。
なわち任意のrhにおける解に対してparameterbをうまく調節することでinner horizonを持つ解を作り出 すことが出来る。
3.3.5 5 次元非可換解の安定性
この小節では前小節までに求められた5次元粒子解および5次元非可換black hole解の安定性の議論を 球対称線形摂動を用いて行う。3.2.5節で行った4次元における場合と同様に、与えられた粒子解および非 可換black hole解に対し、次のようにeven-parityの球対称摂動を加える。
μ(r, t) = μ0(r) +μ1(r)eiωt (3.136) δ(r, t) = δ0(r) +δ1(r)eiωt (3.137) w(r, t) = w0(r) +w1(r)eiωt (3.138) ここでは微少量とする。また、μ0(r),δ0(r)およびw0(r)は前小節および前々小節において求められた静 的解である。摂動(3.53)-(3.55)を時間依存を含むEinstein-Yang-Mills方程式(3.75)-(3.78)に代入し、静的 解μ0(r),δ0(r)およびw0(r)は時間依存項を落としたEinstein-Yang-Mills方程式(3.80)-(3.82)を満たすと
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 53
図3.15: 5次元非可換black hole解の解の内部構造その1。Event horizonの位置はrh= 1とする。実線お よび点線はそれぞれ= 1, wh= 0.4および= 1,wh= 0.701における5次元非可換black hole解のgauge potentialw(r)の振る舞いを示す。
仮定すると、に対して1次のorderの部分は次のように書き表される。
μ1 = 2r
2f0w0w1−w20
r2 μ1−4(1−w20)w0 r2 w1
(3.139)
μ1 = 4rf0w0w1 (3.140)
δ1 = −4
rw0w1 (3.141)
−1
r3(rf0e−δ0w0)f0−1μ1−f0e−δ0w0 1
r2f0−1μ1+δ1
+1
r(rf0e−δ0w1)+ 2
r2e−δ0(1−3w20)w1 = −ω2f0−1eδ0w1
(3.142) ここで、f0は
f0 = 1−μ0 r2 +r2
2 (3.143)
とする。式(3.139)は式(3.140)を微分することで求められるため独立な方程式は(3.139), (3.141)および (3.142)となる。ここで、4次元時空の場合と同様にtortoise座標r∗を式(3.57)によって定義し、さらにw1 を
χ = w1r1/2 (3.144)
と再定義すると、式(3.142)は式(3.139), (3.140)および(3.141)を代入することによってSchr¨odingerタイ プの方程式
−d2χ
dr2∗ +V(r∗)χ = ω2χ (3.145)
となる。PotentialV(r∗)は式(3.139)-(3.142)より V(r∗) = f0e−δ0
2
r2e−δ0(3w02−1) +r−1/2
2 (r−1/2f0e−δ0)+4 r
f0e−δ0w02
(3.146) となる。
r∗は= 0の粒子解の場合0≤r∗<∞、= 1の粒子解の場合0 ≤r∗< r∗,max、= 0の非可換black hole解の場合−∞< r∗ <∞、 = 1の非可換black hole解の場合−∞< r∗< r∗,maxと動く。これらを まとめてr∗,−∞ < r∗ < r∗,∞と記すことにする。r∗,−∞は粒子解の場合中心r= 0を、非可換black hole 解の場合はevent horizonr=r+を示す。またr∗,∞は無限遠r =∞を示す。4次元時空の場合と同様に 方程式(3.145)に対しω2<0となる固有値が存在する場合9、時間に対し成長していく不安定modeが存在 することになるため、この解は球対称摂動に対して不安定であるということになる。一方全ての固有値が ω2>0となる場合、この解は球対称摂動に対して安定であることが示される。PotentialV(r∗)が常に正と なる場合、次のようにして解は安定であることを証明することが出来る。初めに式(3.145)にχ¯を掛け10、 r∗,−∞ < r∗< r∗,∞の範囲で積分を行うと
−
¯ χdχ
dr∗ r∗,∞
r∗,−∞
+ r∗,∞
r∗,−∞
dχ dr∗
2+V(r)|χ|2
dr∗ = ω2 r∗,∞
r∗,−∞
|χ|2dr∗ (3.147)
となる。以下で粒子解および非可換black hole解それぞれの場合においてpotentialV(r∗)が常に正となる 場合、常にもとの静的解は安定となることを示す。
初めに粒子解の場合を考える。r∗=r∗,∞における境界条件としてw1→0を課す。これはgauge場の全
energy fluxが有限であることを意味する。これにより
¯ χdχ
dr∗
r∗=r∗,∞
→ 0 (3.148)
が導かれる。またr∗=r∗,−∞ = 0においては、解の正則性によりw1= 0およびw1= 0が課される。この とき
¯ χdχ
dr∗
r∗=r∗,−∞
→ 0 (3.149)
が導かれる。以上により式(3.145)の左辺第1項は0となる。一方左辺第2項および右辺のω2の係数は V(r∗)>0より常に正になる。これよりω2>0が導かれる。すなわちV(r∗)が常に正の場合粒子解は不安 定modeを持たない。
次に非可換black hole解の場合を考える。r∗=r∗,∞における境界条件は粒子解のときと同じ境界条件と なるため、(3.148)が導かれる。一方、r∗=r∗,−∞ =−∞においてはV(r∗)は0となるため方程式(3.145)
9簡単のためω2が実数である場合のみを考える。
10χ¯はχの複素共役を表す。
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 55 は自由粒子の波動方程式となる。よってevent horizonの物理的な性質によりr∗=r∗,−∞=−∞の境界条 件として
χ → eiωr∗ (3.150)
を課す。これはevent horizon上では内向きの波のみが存在するという条件になっている。ここで、ω2<0 となる固有値が存在すると仮定すると、ωが固有値ならばω¯も固有値となるため、Imω <0となる固有値 が存在することになる。このとき式(3.150)より
¯ χdχ
dr∗
r∗=r∗,−∞
→ 0 (3.151)
が導かれる。以上により式(3.145)の左辺第1項は0となる。一方左辺第2項および右辺のω2の係数は V(r∗)>0より常に正になり、ω2 >0が導かれる。これは仮定と矛盾するためω2 <0は偽となり、常に ω2>0となることが結論される。すなわちV(r∗)が常に正の場合非可換black hole解は不安定modeを持 たない。
ここで解析解(3.86)-(3.88)に対しpotentialV(r∗)を計算すると V(r∗) = f0
4r4
5M−4 + 10 lnr−9r2+ 3r4 l2
(3.152) となる。= 0または=−1の場合V(r∗)は大きなrで負となるのに対し、= 1の場合
M > 1 5
4−10 lnrp+ 9rp2−3rp4 2
(3.153)
>
40
27 (3.154)
となるMおよびに対しては常に正となることが示される。ここでrpは rp =
9−
81−120 2
12 (3.155)
と定義する。すなわちこの解析解は安定であることが示される。
数値解に対しても= 1に対する解のみV(r∗)が常に正となる解が存在することがpotentialを数値的に 計算することにより確かめられる。図3.16に= 0および= 1に対するpotentialの振る舞いを示す。ま
たpotentialが常に正とならない場合も式(3.145)をω2に対する固有値問題として実際に数値的に解くこ
とにより、安定性を議論することが出来る[16]。この結果、= 0の解に対しては全ての数値解に対して不 安定modeが存在し、また= 1の解に対しては不安定modeの存在しない解があることが示される。粒 子解に対しては安定な解はbs< b <0に存在し、bsはに依存する。表3.4にに対する粒子解の安定な parameterbの領域を示す。特に
≤ 0.779 (3.156)
に対してはbs=bminとなり、全ての粒子解は安定な解となる。また、これらの結果とwの振る舞いと見比 べることで安定な解の存在領域bs< b <0はgauge potentialwがnodeを持たない数値解の領域と一致す
図3.16: 5次元粒子解の摂動に対するpotentialV(r∗)。左図:= 0の粒子解に対するpotentialV(r∗)。実 線および点線はそれぞれb=−0.01およびb=−0.1に対するpotentialの振る舞いを表す。右図:= 1お よび= 10の粒子解に対するpotentialV(r∗)。実線および点線はそれぞれb=−0.01およびb=−0.1に 対するpotentialの振る舞いを表す。右図の実線のみpotentialV(r∗)は全てのrにおいて正となる。
ることがわかる。すなわち5次元時空においても解のnodeの数が不安定modeの数に対応しているという 4次元時空における結果[45, 26, 27]と同様な結果が数値的に示される。無限個のnodeを持つ= 0の粒子 解および非可換black hole解は無限個の不安定modeを持ち、一方負の宇宙項を含む= 1の粒子解および 非可換black hole解はnodeを持たない解のみ安定となる。
3.3.6 5 次元面対称解および双曲対称解
前小節までは5次元静的球対称時空におけるEinstein-Yang-Mills方程式の数値解の解析を行ったが、こ の小節ではこれらの解を静的面対称時空および静的双曲対称時空に拡張する[16]。5次元球対称時空におい てはその座標系(3.58)においてr= const.の作る曲面が3次元球面を為し、また等長変換群はSO(4)と なったが、5次元面対称時空および5次元双曲対称時空では動径座標rに対しr= const.の作る曲面は3次 元Euclid平面および3次元双曲面となり、また等長変換群はSO(3,1)およびE(3)となる11。以下でこの ような時空の対称性を持つ5次元Einstein-Yang-Mills系の解を導出することにする。
5次元面対称時空および5次元双曲対称時空は3次元定曲率空間を持つ時空として次のようにその計量を 表すことが出来る。
ds2 = −fk(r)e−2δ(r)dt2+ dr2
fk(r)+r2dσ23,k (3.157) ここで、kは1,0,−1のいずれかの値を取る。dσ23,kは
dσ23,k = dψ2+Sk(ψ)2(dθ2+ sin2θdϕ2) (3.158)
11E(3)は3次元Euclid群を示す。
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 57 と与えられる。但し、Sk(ψ)は
Sk(ψ) =
⎧⎪
⎨
⎪⎩
sinψ k= 1
ψ k= 0
sinhψ k=−1
(3.159)
と定義する。すなわちdσ23,kは曲率kを持つ3次元定曲率空間の計量である。k= 1のときこの曲面は3次 元球面となり前小節までに扱った計量(3.59)に一致し、時空は5次元静的球対称時空となる。k = 0のと きこの曲面は3次元Euclid平面となり、時空は5次元静的面対称時空となる。k=−1のときこの曲面は3 次元双曲面となり、時空は5次元静的双曲対称時空となる。また、fk(r)は
fk(r) = k−μ(r) r2 +r2
2 (3.160)
と定義する。すなわち計量は球対称の場合と同様にrについての2つの関数δ(r),μ(r)によって与えられ る。球対称の場合と同様にμ(t, r)を質量関数、δ(t, r)をlapse関数と呼ぶことにする。球対称の場合と同様 に次元を持つ量については式(3.61)で定義されるλで規格化を行い、は式(3.62)で定義する。この時空 の対称性を持つSU(2) gauge場は、付録B章の議論を応用することによりその磁荷partは
Ait = 0 (3.161)
Air = 0 (3.162)
Aiψ = (0,0, w) (3.163)
Aiθ =
wSk(ψ),−dSk(ψ)
dψ ,0 (3.164)
Aiϕ =
−dSk(ψ)
dψ sinθ,−wSk(ψ) sinθ,cosθ (3.165) と書くことが出来る。但し等長変換群E(n)およびSO(3,1)はcompactではないため厳密には付録B.1節の 議論を適用できずgauge場(3.161)-(3.165)がgauge場の完全な一般形とはならない。しかし(3.161)-(3.165) が等長変換群に対し不変となることを示すことが出来るため仮定の整合性は保たれる。これを微分形式を 用いて表すと、
A = τ3(w(r)dψ+ cosθdϕ)−dSk(ψ)
dψ [τ2dθ+τ1sinθdϕ] +w(r)Sk(ψ) [τ1dθ−τ2sinθdϕ] (3.166) となる。またこのときfield strength (3.10)は、
F = τ3
w(r)dr∧dψ−(k−w(r)2)(sinψdθ)∧(sinψsinθdϕ) +τ1
w(r)dr∧(sinψdθ) + (k−w(r)2)dψ∧(sinψsinθdϕ)
−τ2
w(r)dr∧(sinψsinθdϕ)−(k−w(r)2)dψ∧(sinψdθ)
(3.167) となる。ここで、k= 1のときw(r) =±1、k= 0ののときw(r) = 0においてF= 0となるがk=−1の ときはF= 0となるためのw(r)の実数解は存在しない。これはk=−1のときはpure gauge場すなわち
gauge場を持たない解はこのansatzにおいて存在しないことを示している12。
12Gauge potentialw(r)の取る値を複素数の範囲まで広げればw(r) =±iでpure gauge場となるが、ここではw(r)は実数の 範囲のみを考える。
図3.17: 5次元面対称(k= 0)非可換black hole解の解の構造その1。Event horizonの位置はrh= 1とす る。左図:= 1,wh= 0.7における5次元面対称(k= 0)非可換black hole解のevent horizonの内側。実 線および点線はそれぞれ質量関数μ(r)およびlapse関数δ(r)の振る舞いを示す(両対数グラフ)。この解は inner horizonを持たない解となっている。右図:= 1, wh= 0.560における5次元面対称(k= 0)非可換 black hole解のevent horizonの内側。実線および点線はそれぞれ質量関数μ(r)およびlapse関数δ(r)の振 る舞いを示す。この解はinner horizonを持つ解となっている。
以上の仮定の下でEinstein-Yang-Mills方程式を導出する。Einstein方程式は μ = 2r
fkw2+(k−w2)2 r2
(3.168) δ = −2
rw2 (3.169)
またYang-Mills方程式は
1
r(rfke−δw)+ 2
r2e−δw(k−w2) = 0 (3.170)
となる。k= 1のときはこれらは(3.80)-(3.82)に一致する。よってここではk= 0およびk=−1の場合を 考える。初めに解析解を導出する。k= 0のとき、(3.168)-(3.170)の解析解はただ1つ存在し、
μ = M (3.171)
δ = 0 (3.172)
w = 0 (3.173)
となる。この解は(3.173)よりpure gauge場となるため自明なblack hole解となり、1999年にD. Birmingham によって求められたSchwarzschild(-AdS) black hole解の拡張解のk= 0に一致する[62]。一方k= 0の場 合はk= 1における非自明なblack hole解(3.86)-(3.88) (第3.3.2節参照)に対応する解は存在しないこと
3.3. 5次元Einstein-Yang-Mills系 59
図3.18: 5次元面対称(k= 0)非可換black hole解の解の構造その2。Event horizonの位置はrh= 1とす る。実線および点線はそれぞれ= 1,wh= 0.7および= 1,wh= 0.560における5次元面対称(k= 0)非 可換black hole解のgauge potentialw(r)の振る舞いを示す。
がわかる。またk=−1のとき、(3.168)-(3.170)の解析解もまたただ1つ存在し、
μ = M + 2 lnr (3.174)
δ = 0 (3.175)
w = 0 (3.176)
となる。この解はk= 1のときの非自明なblack hole解(3.86)-(3.88)に対応する。一方k=−1の場合は μ=M となる自明なblack hole解は存在しない。但しこの結果はgauge場の形(3.161)-(3.165)において pure gauge場が存在しないことによるもので、Einstein方程式の真空解としては自明なblack hole解は存 在することが知られている[62]。
次に数値解を求める。μ, wの中心における正則性を満たす境界条件はk= 0およびk=−1の両方に対 して存在しないため、面対称および双曲対称な粒子解は存在しないことがわかる。すなわち数値解は非可 換black hole解のみ存在する。球対称時空の場合と同様に正則なhorizonの存在を仮定し、r=rhにおけ る境界条件を
μ(rh) = rh2
k+r2h
2 (3.177)
と置く。またr=rhにおけるYang-Mills方程式(3.78)の正則性よりwに対する境界条件も同様に求めるこ とができる。以上の境界条件の下で方程式(3.75)-(3.78)を数値的に解く。k= 0のときは擬漸近的平坦(ま たはAdS)な非可換black hole解がparameterrhおよび−1< wh<1に対して得られる。図3.17, 3.18に 数値計算によって求められた非可換black hole解を示す。一方k=−1のときは擬漸近的平坦(またはAdS)
な非可換black hole解は存在しないことが数値的に確かめられる。
61