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第 5 章 港湾管理における財政収支の実態および規模の経済性-港湾管理者財政データに

5.2 港湾管理者財政の現状

5.2.1 港湾の分類

日本の港湾は、重要港湾と地方港湾に分けられている。重要港湾のうち特に重要な港湾 を特定重要港湾として分類し、さらにその中の8港が主要8港とされている。それぞれの 港湾数と港湾管理者について一覧が表 5-1 である。現在は主要8港を除いた特定重要港湾 の港湾数は 15、重要港湾の港湾数は 105、地方港湾の港湾数は 914 である。近年に新しく 特定重要港湾となった港湾としては、平成 13 年 4 月の仙台塩釜港(港湾管理者:宮城県)、

平成 15 年 4 月水島港(港湾管理者:岡山県)がある。また、近年の重要港湾の変遷として は、中津港(港湾管理者:大分県)が平成 11 年 6 月に地方港湾から重要港湾となった例が

ある。逆に、平成 12 年 4 月には石狩港(港湾管理者:石狩市)、大湊港(港湾管理者:青 森県)、福井港(港湾管理者:福井県)、八幡浜港(港湾管理者:八幡浜市)、青方港(港湾 管理者:長崎県)、水俣港(港湾管理者:熊本県)の 6 港が地方港湾へと変更となった。

表 5-1 港湾数一覧(平成 20 年 4 月 1 日現在)

港湾管理者

56

区分 総数 港湾

都道

府県 市町村 港務局 一部事

務組合 計

特定重要港湾

(主要8港) 8 1 6 0 1 8 0

特定重要港湾

(主要8港を除く) 15 11 2 0 2 15 0

重要港湾

(特定重要港湾を除く) 105 85 16 1 3 105 0

地方港湾 914 509 343 0 0 874 62

出典:国土交通省港湾局(2008)、p.1。

5.2.2 先行研究における日本の港湾の収益性と効率性

斉藤(2002)では収益性の指標として、売上高キャッシュフロー比率(=(営業利益+受取 利息+減価償却費-支払利息)/営業収入)を採用している。また、効率性の指標として、

固定資産回転率(=営業収入/(固定資産+投資))を採用している。長瀬(2004)では総合 的収益力を測る指標として売上高経常利益率を、収益性の指標として総資本回転率を、設 備投資の適性度を測る指標として固定資産回転率を採用している。

これらの分析の特徴は、ストックデータを利用していることである。しかしながら、一 部を除いて港湾に関する会計は企業会計方式となっていない。それどころか、港湾管理者 である地方自治体の一般会計の一部となっており、独立した会計となっていない場合も多 い。さらに、企業会計が存在したとしても長瀬(2004)でも指摘されるように作成ルールが 一律でないため、これを利用して比較するには問題があると考えられる。また、山根(2003) ではそもそも固定資産や減価償却の評価方法を統一すること自体が困難であると指摘して いる。

以上のようなデータ上の制約を考慮して、本章では官庁会計方式による単年度データを 利用して分析を行うこととする。しかしながら、日本の場合には港湾管理者のコストに様々 な施設整備が含まれており、本来であればそのストックデータを利用して分析するべきで ある。

5.2.3 特定重要港湾と重要港湾の財政(港湾別)

各港湾の総収入に占める港湾収入の比率(=港湾収入/総収入、以下ではこれを港湾収 入比率と呼ぶ)を、平成 10 年度から平成 18 年度までについて算出し、主要8港と特定重 要港湾、重要港湾の別に平均値を計算した。表5-2がその結果である。

表 5-2 総収入に占める各収入の比率(平成 10 年度~18 年度の平均)

移転収入比率 港湾収

入比率

独自財源

比率 国庫 支出金

他団体

支出金 計

一般財 源比率

公債 比率 主要8港 27.3% 28.0% 7.4% 1.4% 29.4% 6.9% 29.4%

特定重要港湾 24.0% 24.1% 9.8% 3.0% 29.3% 31.0% 29.3%

重要港湾 11.1% 11.8% 17.6% 3.2% 27.2% 38.6% 27.2%

全体 13.5% 14.2% 16.2% 3.1% 27.5% 35.8% 27.5%

出典:港湾管理者財政収支状況調査報告書より筆者計算・作成。

これによると、港湾収入比率は主要8港、特定重要港湾、重要港湾の順に高いことがわ かる。特に、主要8港と特定重要港湾は重要港湾の2倍以上の割合となっている。つまり、

取扱高の大きい港湾ほど税などの外部資金に依存している割合が低いと言える。逆に総収 入に占める補助金の割合を見てみる。国庫支出金と都道府県支出金(港湾管理者が都道府 県の場合には市町村支出金、以下では両方をまとめて他団体支出金と呼ぶ)の合計を移転 収入と呼び、これが総収入に占める比率(=移転収入/総収入、以下ではこれを移転収入 比率と呼ぶ)の平均値を同様に計算した。今度は港湾収入比率の場合とは対照的に、重要 港湾、特定重要港湾、主要8港の順に高い値となっている。また、港湾管理者またはその 出資者である地方自治体自身の税がどの程度使われているかを見るために、総収入に占め る一般財源の比率(=港湾管理者またはその出資者である地方自治体の一般財源から港湾 管理に支出された額/総収入、以下ではこれを一般財源比率と呼ぶ)の平均値を計算した。

移転収入比率と同様の順となっ

ている。

ただし、特定重要港湾の一般財源比率が主要8港 の約4倍となっており、移転収入比率の約 1.5 倍に比べて高くなっている。逆に、特定重 要港湾の移転収入比率が重要港湾の 2/3 程度であるのに対して、一般財源比率は 4/5 程度 と差が小さくなっている。つまり、特定重要港湾は主要8港に比べて財政が弱い分を主に 一般財源によって賄っていると言える。それ以外の収入で大きなものとして公債がある。

各港湾の総収入に占める公債の比率(=公債/総収入、以下ではこれを公債比率と呼ぶ)

の平均値を計算した。主要8港と特定重要港湾はほぼ同じ値で、重要港湾についても大き く異なっていない。

次に、表 5-3から、各港湾の総支出に占める各支出の割合について見ていく。ただし、

歳出面においては、施設整備費がその整備状況によって大きく変化するため、総支出を基 準に分析することは適当ではない。そこで、以下では総支出から施設整備費を除いた値(=

総支出-施設整備費、以下ではこれを施設整備費以外の支出と呼ぶ)を基準に主な支出の 比率を分析する。各港湾の施設整備費以外の支出に占める管理費の比率(=管理費/施設 整備費以外の支出、以下ではこれを管理費比率と呼ぶ)を、平成 10 年度から平成 18 年度 までについて算出し、主要8港と特定重要港湾、重要港湾の別に平均値を計算した。

表 5-3 施設整備費以外の支出に占める各支出の比率

(平成 10 年度~18 年度の平均)

管理費 比率

公債償還 費比率

人件費 比率

人件費/

管理費 比率 主要8港 36.4% 58.8% 12.8% 34.9%

特定重要港湾 31.2% 68.8% 11.0% 36.2%

重要港湾 28.6% 71.2% 11.7% 42.9%

全体 29.4% 70.1% 11.7% 41.7%

出典:港湾管理者財政収支状況調査報告書より筆者計算・作成。

これによると、管理費比率は主要8港、特定重要港湾、重要港湾の順に高いことがわか る。同様に、公債償還費が施設整備費以外の支出に占める割合(=公債償還費/施設整備 費以外の支出、以下ではこれを公債償還費比率と呼ぶ)および人件費が施設整備費以外の 支出に占める割合(=人件費/施設整備費以外の支出、以下ではこれを人権費比率と呼ぶ)

の平均値をそれぞれ算出した。これによると、公債償還費比率は重要港湾、特定重要港湾、

主要8港の順に高くなっている。また、人件費比率は主要8港が一番高く、重要港湾、特 定重要港湾と低くなっていく。ただし、人件費が管理費に占める割合(=人件費/管理費、

以下ではこれを人件費/管理費比率と呼ぶ)を算出すると、主要8港の値が一番低くなる。

このことから、主要8港の管理費比率が高いのは、必ずしも人件費の割合が高いためでは ないと言える。

表 5-4 施設整備費の割合(平成 10 年度~18 年度の平均)

基本施設 整備費

運営施設 整備費

環境整備 保全施設 整備費 主要8港 51.7% 21.0% 27.3%

特定重要港湾 62.7% 19.9% 17.4%

重要港湾 73.3% 13.8% 12.9%

全体 70.8% 14.9% 14.3%

出典:港湾管理者財政収支状況調査報告書より筆者計算・作成。

表 5-5 施設整備を除いた収支比率(平成 10 年度~18 年度の平均)

港湾収入/

( 総 支 出 - 施 設整備費)

独自財源/

( 総 支 出 - 施 設整備費)

港湾収入/

( 総 支 出 - 施 設 整 備 費 - 公 債償還費)

独自財源/

( 総 支 出 - 施 設 整 備 費 - 公 債償還費)

主要8港 46.9% 48.1% 119.5% 121.8%

特定重要港湾 43.7% 43.9% 141.5% 142.3%

重要港湾 23.7% 25.7% 91.4% 97.7%

全体 27.3% 29.1% 98.6% 104.0%

出典:港湾管理者財政収支状況調査報告書より筆者計算・作成。

基本施設整備費と運営施設整備費、環境整備保全施設整備費が施設整備費に占める比率 の平成 10 年度から平成 18 年度までの平均値をそれぞれ算出した。その一覧が、表 5-4で ある。基本施設整備費の割合が高いのは、重要港湾、特定重要港湾、主要8港の順となっ ている。それに対して、運営施設整備費と環境整備保全施設整備費では主要8港、特定重 要港湾、重要港湾と逆になっている。

最後に、施設整備を除いた管理に関する費用を港湾収入などの港湾独自の収入でどれだ け賄えているかを見てみる。最初に施設整備費以外の支出に対する港湾収入の比率(=港 湾収入/施設整備費以外の支出)について、平成 10 年度から平成 18 年度までの平均値を 算出した。その結果が、表 5-5である。これによると、主要8港では施設整備費以外の支 出のおよそ半分を港湾収入で賄えていることが分かる。公債償還費もこれまでの施設整備 の一部を賄った費用に対する負担であり、これも総支出から差し引いて検討するべきであ る。そこで、それに対する港湾収入の割合(=港湾収入/(施設整備費以外の支出-公債 償還費))の平均値を算出した。また、それぞれについて港湾収入の代わりに独自財源とし た場合についても計算した。これらの一覧は、表 5-5にある。主要8港や特定重要港湾で は施設整備費と公債償還費以外の支出よりも港湾収入が超えており、その全額を税金なし で賄えていることになる。重要港湾についても、独自財源まで広げれば、ほぼ賄えている