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第3章 港湾の規制と競争の諸側面について-構造改革特区と北九州港におけるPFI事業

3.5 北九州市の国際物流特区とその評価

本節では、北九州市の国際物流特区に注目し、その議論と成果をまとめることが目的で ある。以下、はじめに北九州市の現状について説明し、国際物流特区が目指したことをま とめている。その後、この特区措置を活用した北九州市の地域活性化施策の概要を報告し、

最後に北九州市が独自に設置した評価委員会の評価結果について整理し、その議論を行っ ている。

3.5.1 北九州市の現状

北九州市は、福岡県東部に位置し、新日鐵をはじめとした製造業が集積する工業都市で あり、港湾機能との総合的な融合により、発展し成長してきた都市である。しかしここ十 数年の産業構造の変化により、製造業依存の地域経済は大きな影響を受けてきており、新 産業の成長と発展が期待されている。近年では、環境産業のクラスター形成や空港整備(新 北九州空港)、自動車産業の誘致などが積極的に進められている36

この産業再生の取り組みの一つとして試みられたのが、特区措置の活用による経済活性 化施策であった。この特区は国際物流特区と呼ばれ、以下のような効果が期待されている。

・ 北九州市の特区(北九州市・構造改革特区ホームページ内):「本市においてこれまで 整備されてきた社会資本やノウハウ等に加え、規制緩和制度を活用し様々な施策を推 進することで、港湾の国際競争力の強化、産業空洞化の防止を図る」

・ 北九州市港湾局企画部計画課(2003):「さらに「北九州市国際物流特区」により、立地 に必要な規制緩和を提案し、企業が立地しやすい環境づくりも進めています(p.25)」

36 藤井・片山・堤・宍戸(2003)において、片山氏(北九州市)は「北九州は 1901 年に新日鐵、

旧官営八幡製鉄所ができて、100 年間ずっと港湾、臨海部に投資をしてきました。岸壁の数に してもものすごくたくさんありますが、特にこの 10 年ぐらいで、北九州に本社を置いている 企業がどんどん中国に出ていくわけですね。そうなると、せっかく投資をしてきた臨海部の土 地がどんどん空洞化していきます(p.13)」と述べている。また西尾(2007)では、北九州市の産 業構造の変化について言及している。

北九州市における新しい産業政策の展開については、次のとおりである。山崎(2002a,b)は環 境産業におけるクラスター(北九州エコタウン・環境産業、環境や資源再生)について、園山 (2003)は新門司地区における大規模な動物検疫施設の整備(2005 年目処)とその価値(牛の輸 入港)について、迎(2003)は関門海峡航路のしゅんせつ土砂の処分地として造成された人工島 と新北九州空港の経緯について、山崎(2003)は九州におけるシリコン・クラスターと自動車産 業(トヨタ九州)との融合について報告している。

・ 池上(2007):「認定を受けた本市の国際物流特区は、企業立地・産業の集積を促進し、

雇用の拡大を図ることを目的とし、この特区計画の実現により、平成 15 年度以降、10 年間で 35 社の企業誘致を目標としている(p.12)」

このように北九州市の国際物流特区で期待される成果は、(a) 港湾の国際競争力の強化、

(b) 産業空洞化の防止・企業立地の誘致、(c) 雇用の拡大、という 3 つの点にまとめるこ とができる。

3.5.2 北九州市における地域活性化施策

北九州市の国際物流特区は、4 節で報告された港湾・臨海部の活性化のために実施され る構造改革特区の取り組みのタイプに近いものである。このため北九州市の国際物流特区 では、多様な規制緩和手段が活用されるのみならず、地方自治体が独自の資源等を投入し て(活性化施策)、その総合的な成果を得ようとしている。

表 3-6 のパネルAは、北九州市における国際物流特区の特区措置のみをまとめたもので ある。表中の「全国」は規制緩和措置が全国展開された措置を示し、「特区」は当該特区の み認定されている措置を示している(2006 年段階37)。この表から、北九州市の国際物流 特区における特区措置はほとんど全国展開されており、特区固有の措置はきわめて少なく なっている。

次に表 3-6 のパネル B は、北九州市が中心となって実施する独自施策を一覧にしたもの である。北九州市の国際物流特区では、特区推進条例の制定と特別助成金の 2 つが独自施 策としてある。前者の特区推進条例は、大きくわけて活性化施策重点区域の設定と条例に よる規制緩和措置、そして独自の評価委員会(北九州市活性化施策評価委員会)の設置の 3 つにまとめることができる。後者の特別助成金は、企業に対する設備投資補助と雇用補 助の 2 つである。このように北九州市の国際物流特区には、独自条例の制定と企業誘致補 助の実施という特徴がある。

表 3-6 のパネル C は、現段階で得られた成果についてまとめたものである。まず(a)の

37 これは後述する北九州市活性化施策評価委員会の評価を説明するために、2006 年段階として いる。この表 6 のパネルAで示される特区措置の全国展開に関しては、次のとおりである。通 関体制の実質 24 時間化(2003 年 4 月認定、2005 年 4 月,7 月全国展開)、資本関係によらない 電力の特定供給事業(2003 年 4 月認定、2005 年 3 月全国展開)、埋立地の用途変更の柔軟化・

期間短縮(2005 年 3 月認定、2006 年 10 月全国展開・2003 年 11 月認定、2005 年 1 月全国展開)、

外国人研究者の入国基準の緩和(2004 年 6 月認定、2006 年 11 月全国展開)。

港湾の国際競争力の強化については、本特区で措置されたもののみでは十分な効果があが っていないとする見解がある一方、北九州港の本来的な競争相手は釜山港であり、そこに 対抗できるだけの十分な措置や政策が必要と考える意見もある。(b)の産業空洞化の防止・

企業立地の誘致、および(c)の雇用の拡大については、23 社の企業誘致に成功し、新規雇 用の拡大に成功していると報告されている。

3.5.3 北九州市活性化施策評価委員会の評価結果

最後に北九州市が、この国際物流特区に関連して、独自に設置した評価委員会の評価結 果について報告する。北九州市活性化施策評価委員会(委員長:八田達夫国際基督教大学 教授(当時)、以下では「特区評価委員会」という)は、条例により設置された市長の付属 機関であり、10 名の委員から構成されている。2004 年 2 月には第 1 回委員会を開催し、5 回の委員会を開催した後、2006 年 1 月に国際物流特区に関する評価結果を公表した。委員 会での議論(概要)は、北九州市・構造改革特区ホームページ内にて公表されている。こ の特区評価委員会の評価の対象およびそのルールは、以下の通りである(第三回北九州市 活性化施策評価委員会議事概要より)。

・ 本市特区計画を推進するための国及び市の規制緩和が対象

・ 規制緩和が全国化した場合は、当該規制緩和の過年度における成果を把握する(原則 として全国化した時点以降は、その規制に対する評価を行わない)

・ 北九州市国際物流特区企業集積特別助成金についても評価を行う

この評価ルールで重要なことは、特区措置として認められたすべての措置を対象として いるのではなく、当該措置が全国展開されず、北九州市の国際物流特区だけに認められた 措置のみを対象としていることである。そしてこの国際物流特区に関しては、企業誘致補 助である特別助成金の成果についても併せて評価を行っている。

表 3-7 は、北九州市活性化施策評価委員会による国際物流特区の評価結果をまとめたも のである。この評価結果を以下なる 2 つの観点から、整理すると次の通りである。まず北 九州市の国際物流特区は、4 節で報告された港湾・臨海部の活性化のために実施される構 造改革特区の取り組みに近いタイプであった。このタイプの特区措置で期待された効果は、

(4-a) 規制緩和により企業活動の自由度を高め(制約を緩め)、(4-b) 企業活動の活性化を

通じて、(4-c) 最終的に港湾・臨海部の再生・活性化を実現させる、の 3 つであった。そ の成果の観点から、表 3-7 を見ると、特区措置である外国人研究者受入れ促進事業やその 入国在留申請許可、条例による構築物規制の緩和は(4-a)の企業活動の自由度を高める措置 であり、独自措置である特別助成金は(4-b)の企業活動の活性化を高める措置であり、結果 として(4-c)の港湾・臨海部の再生・活性化の実現が行われたと評価されている。

また北九州市の国際物流特区では、その期待された効果として、(a) 港湾の国際競争力 の強化、(b) 産業空洞化の防止・企業立地の誘致、(c) 雇用の拡大の 3 つも掲げられてい た。この成果の観点から、表 7 を見ると、特区措置と北九州市の独自施策は(b)の産業空洞 化の防止・企業立地の誘致と(c)の雇用の拡大と対応しており、その成果が観察されると評 価されている。

このように北九州市の国際物流特区では、当初に期待された成果を現段階でも得ている と評価されている。しかし上記(a)の港湾の国際競争力の強化については、強い問題意識が あるものの、その議論と評価は行われていない。この理由は、北九州市における港湾の活 性化は、構造改革特区活用による取り組みのみならず、港湾整備と新しい運営方法の活用

(港湾経営)によっても実現しようとする試みがあるからである。これは、ひびきコンテ ナターミナルの PFI 事業と呼ばれている。次節では、北九州港に焦点を絞り、この PFI 事 業が目指したものを説明し、現在までの経過を報告することとする。