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第3章 港湾の規制と競争の諸側面について-構造改革特区と北九州港におけるPFI事業

3.6 ひびきコンテナターミナルのPFI事業

通じて、(4-c) 最終的に港湾・臨海部の再生・活性化を実現させる、の 3 つであった。そ の成果の観点から、表 3-7 を見ると、特区措置である外国人研究者受入れ促進事業やその 入国在留申請許可、条例による構築物規制の緩和は(4-a)の企業活動の自由度を高める措置 であり、独自措置である特別助成金は(4-b)の企業活動の活性化を高める措置であり、結果 として(4-c)の港湾・臨海部の再生・活性化の実現が行われたと評価されている。

また北九州市の国際物流特区では、その期待された効果として、(a) 港湾の国際競争力 の強化、(b) 産業空洞化の防止・企業立地の誘致、(c) 雇用の拡大の 3 つも掲げられてい た。この成果の観点から、表 7 を見ると、特区措置と北九州市の独自施策は(b)の産業空洞 化の防止・企業立地の誘致と(c)の雇用の拡大と対応しており、その成果が観察されると評 価されている。

このように北九州市の国際物流特区では、当初に期待された成果を現段階でも得ている と評価されている。しかし上記(a)の港湾の国際競争力の強化については、強い問題意識が あるものの、その議論と評価は行われていない。この理由は、北九州市における港湾の活 性化は、構造改革特区活用による取り組みのみならず、港湾整備と新しい運営方法の活用

(港湾経営)によっても実現しようとする試みがあるからである。これは、ひびきコンテ ナターミナルの PFI 事業と呼ばれている。次節では、北九州港に焦点を絞り、この PFI 事 業が目指したものを説明し、現在までの経過を報告することとする。

に面した小倉・洞海・八幡地区および響灘地区から構成される港湾である。港湾管理者は 北九州市である。表 3-8 のパネル A には北九州港の港湾区域とその特徴についてまとめ、

パネル B には、2007 年の北九州港における外国貿易貨物の品種別内訳が示されている。輸 出入を見ると、非常に輸入量の多い港であることがわかる。さらに輸出の品目内訳を見る と、鋼材が 31.3%を占めている。これは北九州港に隣接する新日鐵の製鐵所が立地してい ることと対応している。輸入の品目内訳を見ると、石炭が 37.9%、鉄鉱石が 32.4%を占めて おり、これも輸入と同じ立地特性を反映している。

表 3-8 のパネル C は、外国貿易貨物のうち、コンテナ貨物によって輸送された輸出入量 を示している。この輸出入量から輸出に限定すると、北九州港では、その約半分程度がコ ンテナによって取り扱われていることがわかる。輸出コンテナの品目別内訳を見ると、特 に大きなシェアを持っている品目はないが、産業用機械・部品、材料等が多いのが特徴で ある。輸入コンテナについては、自動車部品が 10.5%の他は、際立って特徴のある貨物は ないことがわかる。

北九州港では、2 つのコンテナターミナルが運営されている。ひとつは、表 3.8 のパネ ル A の門司地区における「太刀浦 1 期」・「太刀浦 2 期」区域である(表中では、カッコ内 に「コンテナ」と表示)。もうひとつは、響灘地区における「響灘西」区域であり、そこで 展開されるコンテナターミナルが「ひびきコンテナターミナル」である。

このひびきコンテナターミナルは、北九州市において進められた環黄海圏ハブポート構 想実現のために整備された港湾および港湾施設である39。表 3-8 のパネルDには、環黄海圏 ハブポート構想図が示されている。この構想の狙いは、環黄海圏と呼ばれる韓国・中国か らのコンテナ貨物(トランシップ貨物)をひびきに集め、コンテナ・ハブになることであ る。この構想に沿って、港湾施設の整備およびコンテナターミナルの整備が進められた。

そして 2005 年 4 月、ひびきコンテナターミナルの供用が開始された。

39 この構想に関連して、矢田(2003)では「北九州市では、1988 年に「北九州ルネッサンス構想」

を策定した。その時点では、北部に広がる約 2000haの埋立地の利用計画は明確に決まっていな かった。89 年に筆者が委員長の「響灘地区開発構想研究会」を発足し、3 年間かけて、日本海 に面した大規模コンテナ港湾の建設とリサイクル・コンビナートの二つを目玉とする「響灘開 発基本構想」を市長に答申した。これは、94 年の「響灘開発推進会議」の設置と 96 年の「響 灘開発基本計画」の策定となって、本格的な実行段階に入った(p.11)」と述べている。また経 済産業研究所(2002)でも、「国際競争力の高い港湾地域モデルの展開例」として報告されてい る(p.59)。

3.6.2 PFI 事業による港湾施設の整備

ひびきコンテナターミナルの整備およびその運営は、PFI を活用して進められる点に特 徴がある。この事業者を募集する際に公表された募集要項(ひびきコンテナターミナル PFI 事業募集要項)では、次なる趣旨が明記されている。「ひびきコンテナターミナルを環黄海 圏のハブポートとして機能させるためには、『日本一安い経費の港』『365 日 24 時間稼動の 港』『定時性、信頼性、効率性の高い港』の目標実現に向け、効率的に施設を整備するとと もに、古い慣習にとらわれない一元的な運営体制を構築し、アジアの主要港に負けない質 の高い、国際競争力のあるサービスを提供しなければならない(p.1)」。このようにひびき コンテナターミナルは、周辺アジア各国の港との競争に比するような経費が安く、効率的 な港を実現しようとしていた。特に募集要項の「4 提供するサービスに関する条件」と して「(4) 荷役料金等の設定(p.31)」では、

① 運営会社は、関係法令を遵守の上、荷役料金等を定めることができる。市としては、

数値的な基準は示さない。

② 提供するサービスの根幹に関わる問題であるため、釜山港等との厳しい競争条件を十 分に認識し、国際競争力ある料金を設定するよう努めること。ただし、実現可能性に ついて、とくに留意すること。

と記されており、釜山港との競争に強い意識があったことがわかる。

表 3-9 のパネル A は、この PFI 事業においてひびきコンテナターミナルの運営を担うこ とが選定された運営会社(ひびきコンテナターミナル株式会社)の概要を示している。こ の運営会社の特徴は、外国企業である PSA 社(シンガポール)が参加している点にある。

表 3-9 のパネル B とパネル C は、この PFI 事業の選定プロセスについてまとめたものであ る。パネル B では、第 1 次の応募企業についてリストしており、PSA 社以外の外国企業を 含む 7 社の応募があった。パネル C では、選定された第 1 次応募企業のうち、最終的な提 案を行った企業(企業グループ)をリストしており、2 社グループの応募と提案があった。

1 社は、PSA 社を代表企業とするグループであり、もう 1 社は日商岩井を代表企業とするグ ループである。

表 3-9 のパネル C において、2 社の提案内容を比較すると、次の特徴が観察される。ま ず運営会社概要において述べられる「設立趣旨」で想定されるものが、異なっている点で ある。そしてその趣旨の違いから、投資等の整備計画規模が異なっており、日商岩井グル ープの提案規模は、PSA 社グループの約半分、もしくは 3 分の 1 程度の規模となっている。

さらに集貨計画で述べられる「基本戦略」の考え方が異なっており、PSA 社グループの提 案は基幹航路をメインとして、韓国・中国からの集貨を考えているが、日商岩井グループ の提案は基幹航路以外を主力として、日本海側の国内諸港からの集貨も努力する考え方に なっている。

最終的には、PSA 社グループの提案が採用され、運営会社が設立された。しかし 2008 年 現在、開設された定期コンテナ航路は、外航が月 12 便、内航(瀬戸内内航フィーダー航路)

が月 20 便となっており、集貨は当初の目標を大きく下回ることとなった。

3.6.3 その後の経過について

2007 年、北九州市はひびきコンテナターミナル株式会社が整備した港湾施設を買い取り、

コンテナターミナルを公共化することを決定した。これによりコンテナターミナルは運営 会社による運営から、北九州市による運営へと移行した(公共化)。表 3-10 のパネルAには、

その移行に関する変更点がまとめられている。特に大きい変更点は、荷役作業や営業活動 を含め、コンテナターミナルを利用できる者が運営会社の出資者から、北九州港の全港運 事業者に拡大されたことである。そして公共化された荷役機械(ガントリークレーン等)

の使用許可は北九州市が行い、その料金体系が条例によって規定されるようになった点で ある(条例料金化40)。この公共化により、ひびきコンテナターミナル株式会社は、北九州 市からの委託により、荷役機械等のメンテナンス及びターミナル業務の運営補助を行うこ ととなった。

このひびきコンテナターミナルの公共化について、明確に分析されているものはない。

ただし当初に見込んだ取扱貨物量を大幅に下回ったため、運営スキームを見直したのでは ないかとするいくつかの議論がある。その議論を分類すると、国内的要因によるものと国 際的要因によるものの 2 つがある。国内的要因については、ひびきコンテナターミナルが

『日本一安い経費の港』を掲げたため、関係者の協力がなかなか得られなかったとする意 見(古賀,2007.)と、北九州港固有の要因によってその調整が上手くできなかったのでは ないかとする意見(李,2007.)がある。

国際的要因は、周辺各国の港湾整備状況が大きく変化したため、当初に想定した貨物量

40 ひびきコンテナターミナルでは、岸壁の使用許可権限は従前から北九州市にあり、その使用 料は条例によって定められていた。この公共化によって大きな変更を受けるのは、運営会社が 使用していたヤードおよび荷役機械の使用料が中心となっている。