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第2章 港湾整備に関する特別会計の財政構造

2.5 港湾整備の特別会計による建設国債残高

港湾整備の特別会計は、国の直轄事業および地方自治体への補助事業として、港湾整備 に関わってきた。先にみたように、その主たる財源は「一般会計より受入」である。一般 会計を経て港湾整備の特別会計に繰り入れられる資金は、コード番号により、財政法公債 金対象経費に該当し、建設国債によって港湾整備がなされている。すなわち、建設国債が

「一般会計より受入」の財源となっており、その財源によって港湾整備事業が推進されて きた。

ここでは、港湾整備の特別会計が、過去から現在に至るまで、どの程度の建設国債によ って港湾整備を行ってきたかを推計する。ところで、政府は特別会計の財務書類を作成し、

貸借対照表によって特別会計の負債の情報を開示している。しかしながら、建設国債につ いては、一般会計の負債とされており、港湾整備の特別会計の債務に計上されていない。

会計上の解釈にもよるが、ここでは港湾整備に利用した建設国債は、港湾整備の特別会計 の負債であると考えることで、現在の建設国債残高を推計した。

ただし、建設国債は「一般会計より受入」で膨張するだけではない。国債の償還ルール として前期末の国債残高に対して 1.6%を償還財源として積み立てるルールがある。これ らを考慮すれば、下記のような式により、港湾整備の特別会計が港湾整備財源として利用 してきた建設国債残高を推計できる。

当期末の建設国債残高=「一般会計より受入」+前期末の建設国債残高-(1.6%×前期末 の建設国債残高)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

この結果が図 2-12 に示されている。2007 年度末において、8 兆円を超える建設国債残高 が国の港湾整備の特別会計の負債として計測できた。また、「一般会計より受入」は、国土 交通省本省や内閣府内閣本府などから投入されているから、これらを区分すれば、省庁別 に建設国債残高を計算することができる。もっとも、負債を背負っているのは国土交通省 本省であり、続いて旧北海道開発庁、内閣府内閣本府、旧国土庁となっている。

この残高は将来世代への負債であり、それに見合った港湾整備がなされてきたのかどう かが問われることになる。もちろん、他の分野(道路、治山治水)に比べると、金額的に は小さいのかもしれないが、港湾のみに関しても、その費用と便益の視点から評価を行い、

今後の港湾政策に役立てていく必要があろう。

以上のような港湾整備の特別会計が抱える建設国債残高は、今後に地方分権化を進める 上で、重要な示唆を与えると考えられる。たとえば、道州制を導入する場合、港湾整備の 権限や財源は地方自治体に移すことが望ましいと考えられている。

道州制ビジョン懇談会(2008)では、国、道州、基礎自治体の役割と権限が示されている。

そのなかで、港湾の整備および維持は、道州政府で行うこととされている。九州地域戦略 会議(2008)も、港湾(重要港湾と地方港湾)の整備に関する権限および財源は道州政府に 一元化することを提言している。一方、自由民主党 道州制推進本部(2008)は、国は国際港 湾、道州政府は重要港湾の建設管理、基礎自治体は一般港湾としている。

図 2-12 港湾整備による建設国債残高の推移

0 1,000,000 2,000,000 3,000,000 4,000,000 5,000,000 6,000,000 7,000,000 8,000,000 9,000,000

1966年度 1968年度 1970年度 1972年度 1974年度 1976年度 1978年度 1980年度 1982年度 1984年度 1986年度 1988年度 1990年度 1992年度 1994年度 1996年度 1998年度 2000年度 2002年度 2004年度 2006年度

100万円

その他(旧総理府中部圏開発整備本部、旧総理府首都圏 整備委員会、旧労働省)

旧総理府国土庁(昭和48年度以前は経済企画庁)

内閣府内閣本府(平成10年度以前は総理府沖縄開発庁)

旧総理府北海道開発庁

国土交通省本省(平成10年度以前は運輸省本省)

備考:『一般会計歳入歳出決算参照』および『特別会計歳入歳出決算参照』より作成。

これらのように、地方自治体に港湾整備の権限委譲と財源移譲を行うとき、これまでの 整備財源となってきた建設国債残高をどのように処理するかが問題となる。権限と財源を 地方自治体に移すのであれば、部分的には建設国債残高のような負債も移譲してゆくこと が検討されなければならない。

そうであれば、できるだけ効率性の高い港湾に集中的な投資を行うことが必要となる。

負債に見合うだけの港湾整備を行ってきたかが問われるからである。効率性と公平性のバ ランスの視点は重要であるものの、国際競争力の見地からも、都市部に集中した投資が効

果的であろう。しかしながら、前節までの検討では、少なくとも 2000 年代以前において、

港湾整備は都市部への集中投資ができていない可能性を指摘した。効率的な港湾整備がで きていないならば、将来世代に建設国債残高という債務を背負わすだけになると危惧され る。