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第 5 章 港湾管理における財政収支の実態および規模の経済性-港湾管理者財政データに

5.4 実証分析

5.4.1 回帰モデル

ここでは、港湾管理に規模の経済が働いているのかを検証する。具体的には、

A) 貨物量1単位当たりの港湾コストは、管理する港湾の貨物量が大きいほど低 下する。(規模の経済性の存在)

B) 貨物量1単位当たりの港湾コストは、管理する港湾の貨物量が同じであれば 管理する港湾数が少ないほど低下する。

という2つの仮説を検証する。

貨物量1単位当たりの港湾コストとは、管理する港湾で取り扱われた貨物量で港湾運営 コストを除した値のことである。また、ここでの港湾コストとは、建設なども含めた総支 出、およびそこから公債費を除いたもの、管理費のみの3つとし、それぞれについて分析 を行う。

仮説Aに関しては、次の回帰モデルを用いて分析を行う。

8 16

0 1 2 3 4 5 6

1 s s

it it it it it it it

it

b n D D D

c

D17

α α α α α α α

= + × + × + × + × + × + × +ε (1)

ここで、 は港湾管理者 における

t

年の貨物量1単位当たりの港湾コスト、 は港湾 管理者 における

t

年の貨物量、 は港湾管理者 が管理する港湾数、

bit i cit

i nit i Dit8sは主要8港ダミ

ー変数、Ditsは特定重要港湾ダミー変数、Dit16は16年度ダミー変数、D17it は17年度ダミー 変数、εitは誤差項である。なお、それぞれの説明変数については次節で詳説する。次に、

仮説Bに関しては以下の回帰モデルを用いて分析を行う。

2 8 16

0 1 2 3 4 5 5 5

s s

it it it it it it it it it

b =β + ×β c +β ×c +β ×n +β ×D +β ×D +β ×D +β ×D17+ε (2)

回帰分析の結果の解釈はそれぞれ次のようになる。まず仮説Aについては、式(1)の

回帰係数α1が有意に正の値となれば、貨物量 が大きいほど被説明変数の値、つまり貨物 量1単位当たりの港湾コストが小さいこととなり、仮説(規模の経済性)が支持されたと言 える。次に、式(2)での推定により回帰係数

cit

β3が有意に正の値となれば、港湾数 が大 きいほど被説明変数の値が小さいこととなり、仮説Bが支持されたことになる。

nit

5.4.2 説明変数とデータ

被説明変数となる各港湾の財政データは、国土交通省港湾局「港湾管理者財政収支状況 調査報告書(平成 16 年版~平成 18 年版)」より利用した。

説明変数は、①規模に関する要因、②制度要因、③年度要因で、表 12に具体的な変数と ともにまとめられている。規模に関する要因は、各港湾管理者が管理している港湾で取り 扱った貨物量の合計と管理している港湾の数を利用して分析を行う。

表 12 説明変数

変数名 変数の説明 データの出典

貨物量 管理する港湾で取り扱った貨 物量

国土交通省港湾局「港湾 統計港湾取扱貨物量等の 現況(平成 16 年分~平成 18 年分)」

規 模 に 関 す る要因

港湾数 管理している港湾の数

国土交通省港湾局「港湾 管理者一覧表(平成 19 年 4 月 1 日)」より作成

主要8港ダミー

管理している港湾に主要8港 が含まれている場合に1とす るダミー変数

国土交通省港湾局「港湾 管理者財政収支状況調査 報告書(平成 16 年版~平 成 18 年版)」

制度要因

特定重要港湾ダミ ー

管理している港湾に特定重要 港湾が含まれている場合に1 とするダミー変数

国土交通省港湾局「港湾 管理者財政収支状況調査 報告書(平成 16 年版~平 成 18 年版)」

16 年度ダミー 年度要因

17 年度ミー 年度のダミー変数

5.4.3 結果

すべての説明変数を使った場合の推計結果が、表 5-13である。歳出/貨物量と歳出(公 債費除く)/貨物量、歳出(公債費除く)/貨物量の3つとも1%水準で有意となった説明 変数は、1/貨物量のみである。特定重要港湾ダミーは、歳出(公債費除く)/貨物量につ

いて5%水準で有意となった。

さらに、1%水準または5%水準で有意となった変数(1/貨物量と歳出(公債費除く)

/貨物量での特定重要港湾ダミー)のみで推計結果を行った。この場合についても、1/貨 物量の変数が歳出/貨物量と歳出(公債費除く)/貨物量、歳出(公債費除く)/貨物量の3 つ全てにおいて1%水準で有意となった。そして、その係数がすべてにおいて正であるこ とから、仮説Aは成り立っていると言える。

表 5-13 推計結果

歳出/貨物量 歳出(公債費除く)

/貨物量 管理費/貨物量

1753897 *** 1711030*** 578242*** 565519*** 159134*** 160034***

貨物量^-1

(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) 0.050 0.011 -0.005

港湾数

(0.109) (0.430) (0.194) 0.206 * 0.041 0.023

主要8港ダミー

(0.073) (0.410) (0.103) -0.059 -0.080** -0.084** -0.001

特定重要港湾

ダミー

(0.493) (0.033) (0.021) (0.909) 0.036 0.053 0.011

平成 16 年度

ダミー

(0.664) (0.138) (0.291) 0.013 -0.002 -0.003

平成 17 年度

ダミー

(0.871) (0.945) (0.797)

0.181 * 0.313*** 0.178*** 0.224*** 0.056*** 0.051***

定数項

(0.060) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) R2 0.7545 0.7475 0.6591 0.6520 0.6421 0.6262 AdjustedR2 0.7470 0.7463 0.6487 0.6485 0.6312 0.6243

観測値数

204 204 204 204 204 204

注:()内は P 値を表す。***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%水準で有意。

次に、仮説Bの検証であるが、表 5-13ではいずれも港湾数は 10%水準でも有意とならな かった。しかし、データを詳しく見てみると、管理する港湾数が1という港湾管理者には 主要8港のみを管理する大規模な港湾管理者もあれば、非常に貨物量の少ない港湾を一つ だけ管理する港湾管理者もあり、多種多様である。そこで、管理する港湾数が2以上の港 湾管理者についてのみ同様の回帰分析を行った。その推計結果が、表 5-14である。歳出/

貨物量の分析では、貨物量と貨物量の2乗に加え港湾数が1%水準で有意となった。歳出

(公債費除く)/貨物量と歳出(公債費除く)/貨物量では1%水準で有意となった説明変 数は貨物量と貨物量の2乗のみであったが、港湾数も5%水準で有意となった。ここで、

港湾数の係数は歳出/貨物量と歳出(公債費除く)/貨物量、歳出(公債費除く)/貨物量の すべてで正となった。このことより、仮説Bも成立していると言える。

表 5-14 港湾数が2以上の港湾管理者を対象とした推計結果

歳出/貨物量 歳出(公債費除く)

/貨物量 管理費/貨物量

-1.7E-8*** -1.5E-8*** -8.2E-9*** -7.8E-9*** -1.6E-9 *** -1.6E-9***

貨物量

(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) 5.6E-17*** 5.3E-17*** 2.8E-17*** 2.7E-17*** 4.9E-18 *** 4.9E-18***

貨物量

^2

(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) 0.127*** 0.113*** 0.046** 0.041** 0.010 ** 0.010**

港湾数

(0.000) (0.001) (0.021) (0.027) (0.013) (0.012) 0.105 0.035 0.027 *** 0.027***

特定重要港湾

ダミー

(0.180) (0.448) (0.006) (0.006) -0.011 -0.017 -0.004

平成 16 年度

ダミー

(0.874) (0.682) (0.619) -0.014 -0.034 -0.005

平成 17 年度

ダミー

(0.839) (0.408) (0.588)

0.576*** 0.598*** 0.379*** 0.373*** 0.065 *** 0.062***

定数項

(0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) (0.000) R2 0.5931 0.5839 0.5316 0.5244 0.4371 0.4347 AdjustedR2 0.5637 0.5694 0.4977 0.5078 0.3965 0.4081

観測値数

90 90 90 90 90 90

注:()内は P 値を表す。***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%水準で有意。