(1) 民法に消費者・事業者に関する規定を設けることの当否(中間的論点整理 第62 1)
① 検討上の留意点
・ そもそも、「消費者」や「事業者」の区分は固定的なものではなく、個別の 契約ごとに、ある人が「消費者」になったり「事業者」になったりすること となると考えられ、例えば、銀行が契約の相手方を「事業者」と認識して取 引したとしても、相手方が「消費者」であると主張することも起きる可能性 がある。このような問題を解消するためには、契約ごとにお互いをどのよう に認識して契約を行ったかを明らかにする等の対応が必要となる。さらに、
契約継続中に「消費者」が「事業者」に変わることや、契約の内容が時の経 過に伴い変化することも想定される。
・ 具体的な提案に照らして考えてみると、消費者と事業者の定義では、消費者 を「事業活動以外の活動のために契約を締結する個人」(部会資料 20-2)
と定義する提案があるが、これに対しては、例えば個人がネットオークショ ンや中古品の売買を繰返し行っているようなものについて、事業活動か否か 判然と区別できないケースもあるのではないかと考えられる。
・ このように考えると、仮に民法に「消費者」や「事業者」の概念を導入した 場合には、実務上は実態に合わせた判断で行わざるを得ず、契約の法的安定 性や実務への影響が大きいと懸念される。
・ もっとも、この点は民法・特別法のいずれに規定を設けても同じことになる とも言えるが、そもそも概念規定も流動的な要素があると考えられ、現段階 において民法に規定を設けるよりも、いましばらくは特別法に設けておき、
今後の状況をみる方がいいのではないかと考えられる。
・ 消費者法制との関係について検討しておくことも必要と考えられる。消費 者・事業者に関する規定は、現在、消費者契約法等の特別法で規定されてい る。消費者契約法は平成 12 年に制定されてからそれほどの期間を経ておら ず、未だ流動的なところがある。その点において、消費者・事業者に関する 規定を民法に設けるには、時期尚早ではないかと考えられる。現段階におい て民法に規定すると、固定化する可能性もあり、引続き消費者契約法等の特 別法に委ね、消費者契約の規律について今後の事例あるいは判例の蓄積を待 ったうえで、改めて検討するのが適当ではないかと考えられる。
・ 法制との関係では、法改正の機動性という点についても配慮することが必要
と考えられる。未だ流動的といえる消費者法制は、新しい問題にも対処して いく必要があり、随時の改正も想定されるところ、民法に規定することで、
特別法に規定するよりも改正を行いにくくなるのではないかという懸念も 否定できない。民法の改正は機動性の点で特別法の改正と異なる事情がある ことは確かで、翻って、それほど頻繁に改正されない点に民法の価値を捉え ることもできる。
・ さらに、法改正に当たっては、過剰な規制とならないかという点からの検討 も必要と考える。消費者法制は相当の成果をあげてきているが、消費者被害 を生むような悪徳業者等に対して迅速な対応を図るという側面が必要であ る一方、健全な経済発展、産業のイノベーションを図る観点からは、正常な 取引活動を制約しないようにするという別の側面も要請される。仮に、民法 に消費者保護の規定を設けたとしても、要件・効果を細かく書き分けている 特別法と同等の規定を設けることができるとは限らず、概括的な規定を設け ることで、本来規制すべきでない正当な取引にまで規制が波及しないか懸念 される。
・ また、保証に関する貸金等根保証契約に関する規定のように、民法では保証 人の属性によって規律を分けている。消費者保護の姿勢を貫くことは重要で 十分に理解しており、保証人保護に関する施策は検討に値するが、保証制度 全体がそれに引きずられて重い制度となり、円滑な企業金融に支障が出ない ようにする配慮も必要である。保証について、個人保証と法人保証の特性や 利益状況に応じて十分検討したうえで、仮に個人の保証人の保護をさらに拡 大するのであれば、個人保証に関連する規定を消費者法制に移すという選択 肢もあり得るという指摘もある。
・ 「わかりやすい民法」という観点から、「民法」は一般原則を定め、個別の
「消費者」、「事業者」、「労働者」等に対する規制は特別法で規定すると整理 した方が体系的に理解しやすいと考えられるという指摘もある。
② 改正提案に対する意見
・ 民法は一般法として、全ての「人」に対して属性の区別なく適用される基本
ルールを規定すべきと考える。消費者保護の推進には賛同するが、消費者保
護は民法による私人間の規律だけで解決できるものではない。消費者・事業
者のように切り分け、特定の属性を有する人のみを適用の対象とする規定は
民法よりもむしろ消費者契約法等の特別法に設けることがよいと考えられ
ることから、民法に消費者・事業者概念を取り入れることには強く反対する。
・ 一般法である民法において、消費者契約に関する特則や事業者に関する特則 を規定することは、将来にわたって発生する全ての契約に影響を与えるもの である。「特則」であるならば、多様化した社会においてはそれぞれ関係す る特別法により定められることを基本とすることが適切と考える。
(2) 消費者契約の特則(中間的論点整理第62 2)
① 検討上の留意点
・ 消費者向けに提供している商品・サービスに対する顧客のニーズは説明の充 実もさることながら、取引の迅速性にもあると考えられる。
・ 消費者契約の特則の内容によっては、手続きの迅速化を求める顧客ニーズと は相反する結果となりかねず、契約類型が消費者契約であるということのみ をもって、私法の基本法たる民法で当該契約の特則を一律に設けることは馴 染まないのではないかと考えられる。
② 改正提案に対する意見
・ 【中間的論点整理⑤関係】「目的物の交付前における消費者借主の解除権」
については、解除権の規定を設けないか、または解除が認められる場合には 当該コストを借主に損害賠償請求できることとすべきである(詳細は本意見 書「30.消費貸借(中間的論点整理第44)」を参照)。
・ 【中間的論点整理⑥関係】「事業者が消費者に融資した場合の特則」につい ては、消費者借主が事業者貸主に対して、貸主の被る損害を賠償することな く期限前弁済ができる旨の特則を設けることに強く反対する(詳細は本意見 書「30.消費貸借(中間的論点整理第44)」を参照)。
・ 【中間的論点整理⑦関係】「抗弁権の接続」については、民法の消費貸借契 約の項目に抗弁の接続に関する規定を設けることに強く反対する(詳細は本 意見書「30.消費貸借(中間的論点整理第44)」を参照)。
・ 【中間的論点整理⑨関係】「受任者が受けた損害の賠償義務についての消費 者契約の特則」については、現行民法第 650 条第3項の規定を消費者契約に ついても維持すべきと考える(詳細は本意見書「34.委任(中間的論点整 理第49)」を参照)。
(3) 事業者間契約に関する特則(中間的論点整理第62 3)
・ 民法における規律は、あくまでも私的自治による契約自由の原則にもとづく べきであり、事業者間の契約に関する規律は本質的に取り入れるべきではな