(1) 譲渡禁止特約(総論) (中間的論点整理第13 1)
・ 銀行実務においては、譲渡禁止特約を巡っては背景の異なる2つの見解が対 立する関係にある。
・ 銀行実務上は、譲渡禁止特約の機能として預金業務における過誤払いの危険 の回避という点が最も重要である。例えば、複数の預金債権譲渡が競合する 場面では銀行が正確に預金者を判別することは実際には困難であり、また、
預金債権譲渡通知が到達した場合であっても、当該通知が有効な預金債権譲 渡にもとづく通知かを銀行が把握することは困難であるため、銀行は過誤払 いのリスクを免れることはできない(なお、劣後譲受人への弁済には準占有 者への弁済に関する規律が適用されるものの(最判昭和 61 年4月 11 日民集 40 巻3号 558 頁)、この場合にはどの程度の調査を尽くせば免責されるのか という問題が生じる。)。仮にこのような特約の効力が認められない場合には、
銀行は正当な預金者の払戻しに応ずる場合であっても過誤払いを回避する ための確認作業を行うことになり、預金取引の迅速性が損なわれ、また、二 重払いのコストも終局的に預金者に転嫁され、預金者にとっても望ましい結 論を導かないと考えられる。
・ また、流動性預金債権が譲渡される場合には、①譲渡対象が預金債権か預金 契約上の地位かという問題(およびそれに伴い預金口座の帰属を含む権利関 係が不明確になるという問題)や、②時々刻々と変化する残高のうち譲渡対 象となった部分を特定する必要という困難な問題が生じる。また、③マネ ー・ローンダリング規制の観点から本人確認を受けない譲受人に預金口座を 利用させることはできないという問題もある。預金実務の立場からは、この ような問題の発生を未然に防ぐという点からも、預金実務上の譲渡禁止特約 の必要性が指摘されている。
・ その一方で、かねてより譲渡禁止特約の存在が債権(金銭債権)の流動化に よる資金調達を妨げているとされており、このような立場からは、少なくと も金銭債権に関する譲渡禁止特約の効力(対第三者効力)を制限すべきと解 することになる。銀行界にも、債権の流動化を扱う部門を中心に、クレジッ トの高い特約付債権を流動化することへのニーズがあるという見解がある。
・ このように、銀行実務上は、立場の異なる2つの見解が存在している。銀行 業務のうち、伝統的な預金業務に比重を置いて検討すべきという見解がある が、双方のバランスに配慮すべきという見解もあることから、いずれにも配
慮した慎重な検討を望む。
(2) 譲渡禁止特約の効力(中間的論点整理第13 1(1))
① 検討上の留意点
・ 相対的効力案は、譲渡禁止特約付債権(以下「特約付債権」という。)の譲 渡について譲渡人・譲受人間では効力を認めることにより、債権の流動化を 促進する方向からの提案と思われるが、相対的効力案を採用したとしても、
必ずしも債権の流動化の促進にはつながらないという指摘がある。特約違反 の債権譲渡を当事者間では有効としても、譲渡人(債権者)と債務者の間の 譲渡禁止特約違反という契約上の義務違反は生じ、実務上は契約違反を惹起 してまで特約付債権を流動化させるニーズはないとするものである。また、
特約付債権を流動化した場合に、投資家への償還等に際して、債務者が過誤 払いのリスクを回避する目的等で譲渡禁止特約の存在を主張し、スキームの 組成時に想定したキャッシュ・フローが確保できないような場合には、アレ ンジャー等として組成に関わった者が善管注意義務違反を問われるおそれ 等もある。このような理由から、仮に譲渡禁止特約の効力を相対的効力とし て構成した場合であっても、特約付債権を積極的に流動化する動きにつなが ることは期待できないという見解も示されている。
・ その一方で、債権流動化を促進する立場から、相対的効力案を積極的に評価 し、譲渡禁止特約に違反する債権譲渡を無効とせず、譲渡人・譲受人間で原 則として有効とし、そのうえで譲渡禁止特約により確保しようとした債務者 の利益にも一定の配慮をするという対応の必要性を指摘する見解もある。
・ さらに、債権の真正譲渡による流動化ではなく、債権に譲渡担保を設定して 行なう融資取引の観点からは、相対的効力となることにより、譲渡担保の設 定(および第三者対抗要件の具備)後に当該債権が差押えられた場合等につ いて、差押債権者等に対して担保設定の有効性を主張できる局面が増加する として歓迎する見解も存在する。
・ 実務上、譲渡禁止特約の有効性が不可欠とされる預金業務の観点からは、相 対的効力案に対して否定的な見解がある。例えば、当事者間の譲渡が有効と され、預金者の債権譲渡への心理的な敷居が下がることにより、預金債権の 譲渡を誘発することになる可能性等が指摘されている。仮に法律構成が変わ った場合であっても、債務者が譲受人に対して特約を対抗できるのであれば 債務者の法的地位は現在と変わらないことから、相対的効力案自体には反対 しないものの、後記(3)の提案と結びついて提案されるのであれば相対的効
力案には慎重に対応すべきという見解がある。
・ このように、相対的効力案という考え方を巡っては、一定の範囲で積極的に 評価する見解があるものの、預金業務を中心として、実務に与える影響を懸 念する見解が強い。預金への影響を懸念する立場からは、(a)預金は大量な 取引を迅速に処理する必要があり、それが利用者の利益に資すること、(b)
預金債権は譲渡が禁止されていることが公知であり、譲渡禁止特約により譲 受人に不測の損害を与えるおそれはないこと、(c)マネー・ローンダリング を防止する必要があること、(d)預金債権については、随時の引き出しが可 能であり、引き出した後に振り込むといった方法により、債権譲渡と同様の 効果を得ることが容易であること等の理由から、預金債権について従来とお り債権譲渡の効力を無効とする方向も考慮されるべきという見解がある。
② 改正提案に対する意見
・ 相対的効力案については、債権の流動化を促進する立場からも評価が分かれ ている一方、預金業務の観点からは慎重意見が多い。銀行における預金業務 の重要性を鑑みれば、少なくとも預金債権については譲渡禁止特約について 現行法と同等の効果が認められるのでなければ、銀行界としては相対的効力 案に対して積極的な賛成意見をとることは困難である。
(3) 譲渡禁止特約を譲受人に対抗できない事由(中間的論点整理第13 1 (2))
① 検討上の留意点
・ 相対的効力案を採った場合に、譲渡人の倒産手続開始決定があったときは、
当該時点までに第三者対抗要件を具備していた譲受人に対し、債務者は譲渡 禁止の効力を対抗できないとする提案がされている。
・ 銀行実務上は、当該提案内容に沿った改正が実現した場合には、預金業務へ の影響が懸念される。銀行は大量の預金債務を負っており、譲渡禁止特約に より過誤払いのリスクを回避している。しかし、預金者に倒産手続の開始決 定があったことを銀行が適時に把握することが制度的に担保されておらず、
当該提案に沿った改正が実現した場合には、銀行は預金債権の譲渡に伴う過 誤払いのリスクを負担することになる。このようなリスクを回避するために は、銀行の全支店にわたって、預金債権に係る譲渡通知等がされていないか を把握し、管理するシステムが必要とされ、管理コストが上昇することにな る。そして、このために増加する費用は、最終的には預金者が負担すること
になるおそれがある。また、譲渡通知が来てからかなり期間が経過した後に これを認識するケースや、譲渡通知が来ていたこと自体を失念しているケー スもあり得る。譲渡禁止特約の効力が認められない場合には、これに代わる 債務者保護の方策が必要という指摘がある。
・ 預金を担保として行われる融資の実務からは、預金債権との相殺に関して懸 念が示されている。例えば、譲渡禁止特約に反して預金債権が譲渡された後 に、譲渡人または譲受人に倒産手続開始決定等がされた場合に、銀行が預金 者に対して有していた貸付債権と預金債権との相殺の可否等が新たな問題 となる可能性が指摘されている。
・ その一方で、債権流動化に関与する立場からも、当該提案によって債権の流 動化を促進されることはないという見解が示されている。例えば、一般的な 債権の流動化取引においては、実質的な資金調達者がSPC等に債権を譲渡 した後も取立権を留保されるが、当該者の信用が悪化した場合には倒産手続 の開始決定前であっても譲受人による債権回収手続に移行する必要がある。
そのため、倒産手続が開始した場合に限定して譲受人が譲渡禁止特約の効力 を対抗されないとしても、その前段階で債務者から回収を図れない以上は、
提案のような改正がされたとしても、債権流動化の促進にはつながらないと いう見解がある。
② 改正提案に対する意見
・ 上記①のとおり、当該提案が銀行の預金実務に与える影響は甚大である一方
で、債権流動化等銀行の他の業務に資する点も少ないと考えられることから、
当該提案については強く反対する。
(4) 総論及び第三者対抗要件の見直し(中間的論点整理第13 2(1))
① 検討上の留意点
・ 債務者をインフォメーションセンターとする民法の対抗要件制度(以下「通 知・承諾」という。)は、債務者に照会に応じる義務が課されておらず、ま た、確定日付が対抗要件の具備時点を固定化する機能を有していないという 理論的な問題を抱えている点、通知・承諾と登記が並存することにより登記 による公示の一覧性が損なわれている点は銀行実務においても認識されて いる。このような理論的な問題を解消できるという意味で、債権譲渡の対抗 要件を登記制度に一元化させるのは一つの考え方ではある。
・ しかし、現状の登記制度は、債権者一人に債務者多数の場合には有効だが、