(1) 不当条項規制の要否、適用対象等(中間的論点整理第31 1)
① 検討上の留意点
・ 中間的論点整理では「約款は一方当事者が作成し、他方当事者が契約内容の 形成に関与しないものである」ことをもって、約款を不当条項規制の対象と する考え方が提示されている。
・ 実務上は事業者間でも専ら取引の迅速性の確保の観点から定型的条項を用 いるケースが多い。そこで、事業者間取引でも約款の利用があることを踏ま え、本論点について検討すべきであり、一般条項や契約の合理的解釈を越え て、不当条項規制を行うことに疑問を呈する指摘がある。すなわち、事業者 間取引においては、約款使用者とその相手方との間に必ずしも格差があると は限らない。また、約款を不当条項規制の対象とする理由として、約款の隠 蔽効果をあげる考え方も存在するが、事業者間取引においては、それも基本 的には自らの責任として引き受けることが原則であることに注意すべきで ある。
・ また、事業者間の契約においても交渉力・情報力に格差があるという指摘が あり、この点については、仮に事業者間の約款による契約について何らかの 規制を設けるのであれば、当該格差がある部分について適切に書き分ける必 要がある。
② 改正提案に対する意見
・ 上記①のとおり、不当条項規制を一般的なかたちで導入することには慎重で
あるべきと考える。
・ 特に、事業者間契約が不当条項規制の対象とされることには強く反対する。
一律的、画一的な不当条項規制や、約款を対象とした不当条項規制の導入に は反対である。
(2) 不当条項規制の対象から除外すべき契約条項(中間的論点整理第31 2)
① 検討上の留意点
・ 本論点を検討するうえでの前提として、不当条項規制が正当化される場合と は、当事者間に何らかの格差がある場合やいわゆる約款の隠蔽効果を甘受さ せるべき根拠に欠ける場合に限られるべきという指摘がある。このような観
点からは、契約条項の合理的解釈や民法第 90 条の一般条項から導かれる不 当条項に対する規律を越えた当事者の保護の必要性にもとづく規制につい て、一般的な事業者間の契約についても及ぼすことは、慎重に検討されるべ きという指摘がある。
・ 上記の観点に立てば、逆に、消費者契約等の当事者間の交渉力に構造的な格 差が認められる契約についてまで、個別に交渉されたことを理由として当然 に不当条項規制の対象から外れるとすべきということには疑問を生じさせ る。個別の交渉において交渉力の格差があることが不当条項規制を正当化す る理由の1つであるにも関わらず、単に個別の交渉を経ているという事実の みをもって不当条項規制から外すことには自己矛盾があるという指摘があ る。
・ また、契約の中心部分に関する契約条項を不当条項規制の対象から除外すべ きという考え方については、契約の中心部分は何かということも含め、問題 自体を把握することが難しく、実務上もこのような区別を行うことは困難と いう指摘がある。
② 改正提案に対する意見
・ 上記①のとおり、特定の契約条項を不当条項規制の対象から除外するという 提案は理解できるものの、そこで除外される契約条項としてあげられている 類型には疑問がある。そのような観点からも、そもそも不当条項規制の対象 は、当事者間に何らかの格差がある場合やいわゆる約款の隠蔽効果を甘受さ せるべき根拠に欠ける場合に限定すべきであり、事業者間契約を対象とすべ きでない。
(3) 不当性の判断枠組み(中間的論点整理第31 3)
① 検討上の留意点
・ 不当条項規制の不当性の判断基準を考える場合には、相当程度抽象的なもの にならざるを得ず、信義則等の民法の一般条項を持ち出さざるを得ないのな らば、不当条項に関する規定を設けることに意味があるのか疑問を呈する指 摘がある。
・ 信義則違反を根拠として、無効や取消しという効果を規定するという観点か らは、一定の意義を見出すことは可能かもしれないが、そもそも信義則に反 して相手方の利益を害する条項であれば、信義則上当該条項にもとづく請求 や抗弁の提出は認められないと考えられるため、特別に規定を設けなくても、
一般条項による対応で十分であるという指摘もある。
・ なお、消費者契約法第 10 条における不当性の判断基準は、「民法第一条第二 項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」として 相当程度抽象的であり、消費者契約法第 10 条の理解としても確認的規定で あることも併せて指摘されている。
② 改正提案に対する意見
・ 上記①のように、不当条項に係る不当性の判断枠組みを考えた場合に、結局
は一般条項による際の抽象的な規律に留まると考えられ、不当条項規制に関 する規定を設ける必要はないと考える。
(4) 不当条項の効力(中間的論点整理第31 4)
① 検討上の留意点
・ 不当条項の効力として、当該条項全体の効力を否定するという考え方を採る 場合には、対象となる条項の全体や一部というものをどのように抽出するの か、必ずしも明確ではない。
・ 例えば、契約が書面で交わされた場合に、当該書面に記載されたどの条項の 範囲をもって不当条項として問題となる一個の条項と判断するのかという 問題がある。契約書面に記載された条項により判断するとなると、○条○項 にただし書付きの規定を設けた場合と、ただし書部分を次の条項に分けて規 定した場合とで、対象となる条項の判断が異なるのか否か明らかではないと いう指摘がある。
② 改正提案に対する意見
・ 上記①のとおり、不当条項としてその効力を否定される範囲を考える場合に、
効果の範囲を規定しようとしても明確でない、あるいはかえって硬直的にな るおそれがあるため、個別の契約条項の合理的解釈や一般条項による対応、
あるいは対象となる個別の契約条項の合理的解釈による対応に委ねること とする方が適当と考える。
(5) 不当条項のリストを設けることの当否(中間的論点整理第31 5)
① 検討上の留意点
・ 不当条項リストを設けることの要否を検討するに当たっては、ある条項が不 当であるか否かを判断する場合には、当該条項のみでなく、他の条項や契約
の締結過程の状況あるいは契約外の事情も踏まえて総合的に判断されるべ きであり、契約実務においてはそのような前提で各条項が不当ではないこと を確認していることを考慮すべきという強い指摘がある。
・ 例えば、ある条項は一方当事者に有利であるが、その分の対価が安くなって いる契約や、他の条項では逆に相手側に有利となっており全体として釣合い が取れている契約は実務上よく見られるものである。したがって、一定の類 型に該当することで直ちに不当条項とみなす、または推定することとすると、
契約全体から判断すれば合理的な条項であっても無効とされるというおそ れがあるという指摘がある。特に反証を許さないブラックリストについては、
弊害は大きい。
・ なお、議論の対象となっている具体的なリスト内容(部会資料 13-2[15 頁 以下])に関しては、以下のような指摘がある。
・ 「条項使用者が任意に債務に履行しないことを許容する等条項使用者に対 する契約の拘束力を否定する条項」については、契約上に主債務に併せてサ ービスとしての付随的債務についても記載しており、当該付随的債務につい ては、任意に履行しないこともあるとの条項までも無効とされてしまうこと への懸念がある。また、契約書上に「付随的債務について任意に履行しない」
と記載するか、付随的債務を「履行することもある」と記載するかの違いだ けで、内容が変わらないにも関わらず不当条項に該当したり、しなかったり することは妥当であるのか疑問である。
・ 「条項使用者の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任の全部又は 一部を免除する条項」については、実務上、大規模システムの委託契約にお いては、コンプライアンス上、損害賠償額の上限を定めることは当然である。
このような不当条項規制が設けられると海外の企業は日本の企業と契約を 締結しなくなる懸念がある。また、損害賠償責任の一部を免除することまで 無効とされることは、あまりにも重い規制であるという指摘がある。
・ 「相手方の抗弁権の行使を排除する条項」については、任意規定として抗弁 権が存在する場合に、それを排除する特約が一切認められないとすると、事 実上の任意規定の強行規定化と思われ、実務上も影響が大きいと考えられる。
また、それは契約自由の原則を否定する規制となりかねない。
・ 「条項作成者が相手方の同意なく契約上の地位を第三者に承継させること ができるとする条項」については、銀行が行う債権譲渡等への影響が懸念さ れる。
・ 「条項使用者に契約内容を一方的に変更する権限を与える条項」については、