1. 17 年にわたる紛糾の背景
3. 海兵隊の役割――冷戦期の回顧と今後の展望
(1) 冷戦期における米海兵隊の役割――海洋戦略のなかの海兵隊 冷戦期のアジアにおいて、米海兵隊は「海洋戦略」遂行に資することを目 的に運用されることになっていた。このため、1985 年には「両用戦戦略(The Amphibious Warfare Strategy)」が策定された56。
冷戦期に想定されていたグローバル戦争における米海兵隊の任務と行動 は次の通りである。まず、第 1 フェーズにおいて海兵隊は直接戦闘に参加し ない可能性が高く、次のフェーズでの行動に備え、即応性を維持し、迅速に 必要な場所に移動することが主眼となる。具体的には、2 個の海兵水陸両用 旅団(MAB)を日本に空輸し、海上事前集積船隊(MPS Squadrons)と共に 爾後の作戦に備えさせることが考えられる。そして、第1および第3海兵水陸 両用軍(I and III MAF)は上陸用舟艇で最大限の兵員を必要な場所に移動 させる。また、強襲後続部隊(Assault Follow-on Echelon: AFOE)のための
56“The Amphibious Warfare Strategy, 1985,” in John B. Hattendorf and Peter M.
Swartz, eds., U.S. Naval Strategy in the 1980s: Selected Documents, Naval War College Newport Papers 33 (Newport, Rhode Island: Naval War College, 2008), pp.
105-136.
商用・軍用船を必要な場所に移動させる。これらを統合して、前方混成海兵 水陸両用軍(Composite MAFs Forward)を編成することが可能になる。第 2 海 兵 水 陸 両 用 軍 (II MAF) を 太 平 洋 に 派 遣 す るこ と も あ り う る が 、 逆 に 、I
MAFおよびIII MAFをインド洋や大西洋正面に移動させることも可能である。
前方展開されている部隊は、米国本土からの部隊と合流し、あるいはエスカ レーションを避けるための行動をとる。
次に、第 2 フェーズにおいては、海兵隊による限定的な上陸作戦から、
MAF規模の上陸作戦までが可能となる。これにより、他の軍種や同盟国軍の 来援を容易にすることができる。例えば、南千島への上陸作戦は 1 つのオプ ションとなる。
最後に、戦争の最終段階である第 3 フェーズにおいては、海兵隊は有利 な 条 件 で 戦 争 を 終 結 さ せ る た め 、 ① 領 土 の 奪 還 、 ② 重 要 な 海 上 交 通 路
(SLOC)の保全、③ソ連領土の占領、などの任務を遂行することになる。海兵 隊の戦略予備としての価値は、この時点で最も高くなる。太平洋正面におけ る行動が欧州正面の戦争の帰趨に直接の影響を与えることはないが、機動 的にソ連側の弱点を突くなどの行動をとり、不確実性を高めることは可能とな る。戦争の最終局面において、MAF は樺太への上陸作戦を行うことが可能と なる。これによって、オホーツク海と日本海における戦争目的の達成に寄与 することが期待される。
以上のように、冷戦期の太平洋正面における海兵隊のターゲットは、主に 南千島と樺太であった。特に米国としては、戦時においては日本が南千島を 奪還しようとするであろうとの考えもあったため、北海道を攻撃しようとするソ連 に先制攻撃をかけ、南千島と樺太を占領することによって、要塞化されたオホ ーツク海のソ連潜水艦部隊を攻撃するのを容易にするというような作戦が構 想されていた。
なお、冷戦期にソ連はこれらの地域に戦車、火砲などを装備した相当規模 の地上軍を配備し、また、カムチャッカ半島に陸軍兵力を配備するとともに、
樺太に新レーダーや攻撃ヘリコプターを配備していた。そして、1978 年から
は国後・択捉両島と色丹島に地上軍部隊を再配備していた。このような行動 の背景には、戦時にこれらの地域が日米両軍の攻撃対象になるとの想定もあ ったのであろう。
(2) 今後の米海兵隊の役割――JOACにおける海兵隊の位置づけ それでは、現在、事実上の対中作戦概念として策定されている JOACの中 で、海兵隊はどのように位置づけられているのであろうか。ここでは、すでに 紹介した報告書「アクセスの確保と維持――陸軍および海兵隊の構想」に基 づいて、JOACにおける海兵隊の位置づけを明らかにする。
報告書は総論として、陸軍と海兵隊は「敵地内に戦力を投入することなど によって、アクセスを確保・維持するための統合軍の活動に貢献する」と述べ、
「敵地内に侵入すること、あるいは、敵地内に侵入する能力をもって敵に脅威 を与えることによって、陸軍と海兵隊は全体としての作戦の成功に寄与する…」
と指摘している57。そのうえで、具体的に次のような目標を列挙している58。
・ [米軍の]アクセスに対する地上からの脅威を無力化する。その中には、
米側のセンサーや兵器を使いにくくするために、意図的に人口密集地帯 に配備されている戦力も含まれる。
・ [米軍の]遠隔地からの火力による攻撃を長期的に効果のあるものにす る。
・ 戦略的持久能力を提供する。具体的には、敵地への侵入を含む、持続 的かつハイテンポな戦闘作戦、あるいは危機への即応作戦などを提供 する能力である。
・ 海軍の機動作戦や移動、あるいは海上における通商活動に不可欠なチ ョークポイントなどの土地を確保、占領、支配する。
・ 住民を統制し、あるいはその行動に影響力を行使する。
・ 敵の戦力を撃破する。
57 U.S. Army and U.S. Marine Corps. “Gaining and Maintaining Access: An Army -Marine corps Concept.” 2012 年3月. p. 17.
http://www.defenseinnovationmarketplace.mil/resources/Army%20Marine%20Corp
%20Gaining%20and%20Maintaining%20Access.pdf.
58 同上、p. 17.
・ 敵に聖域を与えないようにする。
そして、陸軍と海兵隊に求められる能力は次の通りである59。
・ 上陸施設などが存在せず、広域に分布している、予想されにくい複数の 侵入地点や上陸可能地域を通じて、多数の機動作戦部隊を同時的に投 入し、維持する。これによって、しっかりと構築された敵の防衛網や自然 の障壁を避けるとともに、自国の戦力を集中させることによって敵にとっ て攻撃しやすいターゲットを作ってしまうことを回避する。
・ 空、海、宇宙およびサイバー空間の各領域に対して、敵の行動が悪影響 を及ぼさないようにする。そのため、これらの領域に脅威を与える、陸上 に配備された敵の戦力を発見し、これを確保し、無力化し、あるいは破壊 する。これによって、領域横断的な相乗効果を得ることができる。具体的 には、敵が保有している対空およびミサイル防衛能力、海上輸送の破壊 能力、誘導ロケット、火砲、迫撃砲およびミサイル(G-RAMM)、そして敵 の機動部隊などが攻撃すべき対象となる。
・ 重要な地域を確保することによって、敵にそこを使えなくさせるとともに、
自国の後続戦力の展開を容易にする。
・ 受け入れ、展開、前方移動および統合(RSOI)や、現地のインフラへの 依存を最小限に抑えつつ、後続戦力を迅速に投射し、運用することを可 能にする。
また、報告書は侵入部隊を強襲部隊(assault
forces)と後続部隊(follow-on forces)の 2 種類に分け、それぞれについて陸軍と海兵隊の投入方法を
具体的に論じている。それによると、強襲部隊は、①艦艇から作戦を実施する 海兵空陸任務部隊(Marine air-ground task forces)、②戦域外あるいは戦域 内から空輸される陸軍空挺部隊(Army airborne forces)、③戦域内にある中 間展開基地(intermediate staging bases)から行動する陸軍ヘリボーン強襲
59 U.S. Army and U.S. Marine Corps. “Gaining and Maintaining Access: An Army -Marine corps Concept.” 2012 年3月. p. 7.
http://www.defenseinnovationmarketplace.mil/resources/Army%20Marine%20Corp
%20Gaining%20and%20Maintaining%20Access.pdf.
部隊(Army air assault forces)によって構成される。その後、重装備の後続 部隊が展開するのであるが、報告書は、本格的な上陸インフラを必要とする 重装備の部隊を展開する前に、つなぎとして展開される後続部隊についても 論じており、その具体例として、①機甲垂直機動(mounted vertical maneuver)
によって、直接目的地に投入される陸軍の機甲部隊、 ②海上事前集積戦力
(maritime prepositioning forces)を用いた海兵部隊が挙げられている。
以上のように、報告書「アクセスの確保と維持」は、多岐にわたる海兵隊の 任務や運用構想を提示している。こうした考え方が、今後どのように発展して いくのかは未知数であるが、ここでは簡単に冷戦期の海兵隊の任務との共通 点と違いを指摘しておきたい。まず、任務についてであるが、「アクセスに対 する地上からの脅威を無力化する」、「海軍の機動作戦や移動、あるいは海 上における商業活動に不可欠なチョークポイントなどに代表される土地を獲 得、占領、支配する」、「敵に聖域を与えないようにする」などは、冷戦期との 共通点として挙げられよう。一方、「遠隔地からの火力による攻撃を長期的に 効果のあるものにする」、「戦略的持久能力を提供する」、「住民を統制し、あ るいはその行動に影響力を行使する」、「敵の戦力を撃破する」などの任務は、
冷戦期のアジアにおいては、それほど重要ではなかった任務であるといえよう。
次に、海兵隊の保有すべき能力については、冷戦期に比べ、小規模では あるが、より多数の上陸作戦を遂行することを求められるようになっている。こ れは、冷戦期においては海兵隊の上陸作戦は戦争の後半に実施されること が予定されていたものが、最近は他の軍種の行動と同時並行的に上陸作戦 を行うことを想定するものに変化してきた結果とも考えられる。また、冷戦期と は異なり、海空に加えて、宇宙およびサイバー空間に、より多くの関心が払わ れているのも特徴である。
冷戦後、米海兵隊は陸軍のように運用される例が増えてきており、その結 果、海兵隊は「第 2の陸軍」と呼ばれるようになってきた。これは、冷戦期はソ 連が相手であったため、本格的な戦争を遂行する中で、状況に応じて機動的 に上陸作戦を実施する能力が必要であったが、冷戦後は米国の敵になるよう な国がなくなったため、安全な港湾等を確保して、堂々と重装備を陸揚げす