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アジアにおける脅威シナリオと米軍の役割

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1. 17 年にわたる紛糾の背景

2. アジアにおける脅威シナリオと米軍の役割

こうしたアジアの戦略環境を考えた場合、これからの日本にとって安全保障 上の大きな懸念材料となるシナリオは主に 3 つ存在する。具体的には、①朝 鮮半島での本格的な紛争シナリオ、②北朝鮮不安定化シナリオ、③中国の地 域覇権国化シナリオである。ここでは、これらのシナリオについて、それぞれ、

いかなる対処方針が準備されているのか、そして、その中における米軍の役 割はいかなるものであるかについて述べることとする。

(1) 朝鮮半島での本格的な紛争シナリオ

朝鮮半島で本格的な紛争が発生した場合、米韓両国は「作戦計画 5027

(OPLAN 5027)」で対応することになっている。北朝鮮が韓国に侵攻を始め ると、米韓両軍はまず空爆で対応し、北朝鮮軍の戦力を十分減殺させたのち、

米韓両国の地上軍が北朝鮮地域に北進する。さらに、第 3段階でチャンスが 生じれば、両国の海兵隊が朝鮮半島沿岸部から上陸作戦を行い、南から北 上する地上軍と協力して北朝鮮の戦力を挟撃する。

北朝鮮は必ずしも前方に全ての兵力を配備しておらず、後方の朝鮮半島 沿岸に機械化軍団を配置している。この理由の 1つは、北から韓国への侵攻 作戦が成功したときに、後続戦力として活用するためで、2 つ目は、米韓の海 兵隊に後方地域から上陸されないようにするためである。つまり、北朝鮮は攻 撃ばかりでなく、防御も考えた戦力配置を行っているのである。逆にいえば、

戦争の初期段階において海兵隊が敵地に上陸するのはリスクが高すぎるた め可能性は低い。海兵隊が上陸するのは戦争がかなり進んでからのことであ り、より具体的には、後方の沿岸地域に配備されている北朝鮮の機械化部隊 が他の地域に移動するか、戦闘力をかなり喪失したのちのこととなるであろう。

米国は在韓米軍、在日米軍に来援部隊を加え、韓国と日本の基地から韓 国防衛の任務を遂行することになる。在日米軍基地については、緒戦におい ては空軍基地が北朝鮮を空爆するため、あるいは兵力を韓国に投入するた めに活発に用いられ、それと並行して海軍基地が空母機動部隊などによって 用いられ、その後、沖縄の海兵隊基地が上陸作戦のために使用されることに なるであろう。

朝鮮半島で紛争が発生すると、日本はこれを「周辺事態」と認定し、米国の 作戦行動を支援することになる。

(2) 北朝鮮不安定化シナリオ

北朝鮮が不安定化し、あるいは崩壊するような事態が発生した場合、韓国 は「復興」と称される対応計画で、米韓両軍は「概念計画 5029(CONPLAN

5029)」に従って対応することになる55。「復興」は、①金正日の突然死(筆者

注―計画作成当時の内容)、②クーデター、住民暴動などによる北朝鮮内戦、

③北朝鮮政権が核・生物・化学兵器やミサイルなど大量殺傷武器に対する統 制力喪失、④北朝鮮住民の大量脱出、⑤政治的理由などによる北朝鮮内の 韓国人の人質化、⑥洪水・地震など、という 6 つのシナリオに基づいたものと

55作戦計画は、各部隊それぞれについて、どういうタイミング・経路で、どのように移動 して何をさせるかなどが詳述された大部のものである。一方、概念計画は、まだ作戦計 画のような細かい動きまで詰めていないものである。米韓間には概念計画5029を作戦 計画に発展させようとする動きもあるが、今までのところ実現していない。

なっている。そして、こうした事態への対策として、①多数の避難民が出た場 合に収容所や食糧、伝染病ワクチンを提供する手順、②北朝鮮の開城工業 団地などに携わる韓国人が帰国できなくなった際の対応策、③北朝鮮地域の 統治を担当する「北韓自由化行政本部(仮称)」を設置し、統一部長 官が本 部長を務める、などが構想されているといわれている。米国は流動的な状況 に対処して、北朝鮮やその周辺に海軍や海兵隊を展開し、紛争対処、平和 構築(治安維持、復興)などに備えることになろう。

しかし、北朝鮮が崩壊した場合の対応については米韓の間で違いがある。

韓国は、北朝鮮は自国領土の一部であるとの見方をとっている。一方、米国 は、国交はないものの、北朝鮮は国連の加盟国で、独立した国家として事実 上認めている。

北朝鮮の崩壊などを想定したシナリオでは、日本の役回りは判然としない。

明確な形で戦争になれば周辺事態とすぐ判断できるが、北朝鮮が不安定化 しているというだけでは、それをすぐに周辺事態と認定することはできない。ま た、周辺事態を認定した場合でも日本は本格的な軍事行動をとることができ ないため、役割があるとしても人道支援などが中心となるであろう。

なお、北朝鮮不安定化シナリオでは、日本の基地がどのように用いられる かは極めて流動的である。日本は国連軍との間で協定があり、日本国内の 7 つの基地を国連軍のために使えることになっている。しかし、北朝鮮が崩壊し たような場合においては中国が拒否権を行使するため、国連安全保障理事 会が、軍事行動を含めた有効な対応を可能にする決議を採択できるとは考え にくい。中国は自国領土から比較的容易に北朝鮮に入れるうえ、北朝鮮との 間に同盟条約を結んでいるため、米軍と韓国軍が動きをとりにくい状態を醸 成しつつ、自国の行動の自由を確保する方向で動く可能性が高い。

既述のとおり、作戦計画 5027 が使われるような状況では、海兵隊が当初 から投入される可能性は低い。他方、北朝鮮が不安定化している状況におい ては、海兵隊が初期段階から使用される可能性はある。V-22 オスプレイが本 格的に運用されるようになれば、空中給油によって航続距離を延伸すること

ができるため、沖縄から韓国や北朝鮮に直接兵員を輸送することも可能にな る。

(3) 中国の地域覇権国化シナリオ

最後に、中国の地域覇権国化シナリオに対応するための準備は現在進行 形であり、まだ軍事的に煮詰まった計画が登場しているわけではない。現在 までのところ、米国は「エアシーバトル」という作戦概念を構想しているところで あり、日本は「動的防衛力」によってこれに対応しようとしている。エアシーバト ルの内容は既述してあるので、ここでは「動的防衛力」についてのみ説明する こととする。

「動的防衛力」の内容は、2010年に改訂された防衛政策の基本文書「防衛 計画の大綱」(以下、新大綱)に示されている。新大綱は、平時から戦時にか けて発生する各種のシナリオに柔軟かつ「シームレス(切れ目なく)」に対応す ることを目的に、「動的防衛力」を構築していくと述べている。動的防衛力とは、

警戒監視活動を強化することによって平時における情報収集能力と地域にお けるプレゼンスを高め、また演習や訓練を強化することによって平時における プレゼンスと、危機や紛争の発生時に必要な即応体制を向上させるというも のである。こうした考え方は、今後、中国との関係で中心的な課題となるのは、

「がっぷり四つの本格的な軍事衝突」ではなく、「軽いジャブの応酬を繰り返 す平時における競争」であるとの認識に基づいている。2012 年、尖閣諸島の 3 つの島を日本政府が購入したことをきっかけに、中国海監の艦艇や航空機 が尖閣諸島付近の日本の領海や接続水域に頻繁に進入するようになった。

このような牽制行動こそが、今後、日中間で発生する典型的な事態であると 考えられる。中国がこれからも同様の行動をとり続ければ、より深刻な危機が 発生しても不思議ではない。また、2010年に発生した尖閣諸島における中国 漁船衝突事件に見られるように、必ずしも両国政府のコントロールの効かない 民間人の行動によって危機が引き起こされる可能性もある。

(4) 今後の展望

これらのシナリオの中で、「朝鮮半島での本格的な紛争シナリオ」が現実化 する可能性は、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展が懸念材料になっていると

はいえ、今後とも低いレベルで推移すると考えられる。一方、「北朝鮮不安定 化シナリオ」の蓋然性は高まると予想される。若く経験不足のリーダー金正恩 が正式に権力の座についてから 1 年が経ったが、今のところは特に問題なく 状況が推移しているようである。しかし、彼の父親である金正日が後継者にな ったときも、その 2 年後に指導部内で反対派が動きを活発化させたという経 験がある。2 年後というのは、北朝鮮の幹部たちにとっても金正恩の進む方向 性が見えてくる時期であり、その時に損する者と、得する者は誰かということも 見えてくる。「このままではジリ貧になる」と思う者にとっては、勝負に出る最後 のチャンスとなる時期である。そこで勝負に出なければ、そのまま金正恩の権 力が固まっていくことになる。

最後に、「中国の地域覇権国化シナリオ」は、徐々に現実のものとなる方向 で状況が推移しているといわざるを得ない。日米と中国が一定レベルの競 争・対立関係に入ることが不可避となりつつ状況にあって、今後の関心事項 は、「日米と中国の軍事関係において、平時から戦時までのグラデーションの どの部分が重心になるか」という点に絞られて行くであろう。もし、日米と中国 の軍事関係が比較的低レベルの対立に留まり、「平時における長期的な競争」

という色彩の強いものとなるのであれば、エアシーバトルよりも「動的防衛力」

の方が重要になるであろう。その場合、中国の「海洋におけるゲリラ作戦」にど のように有効に対処していくかが重要な課題となるため、軍事力を背景とした 外交心理戦が重要な役割を果たす。本格的な紛争が発生する可能性は低い が、平時におけるせめぎあい、例えば尖閣をめぐる状況のように、領海に中国 艦船が繰り返し侵入し、徐々に既成事実を作ろうとする状態が続く。

日米と中国の関係が悪化し、本格的な軍事対立が生まれることになる場合 には、SSBN を含む中国の核戦略の動向や、A2/AD 能力の進展などが重大 な関心事項となる。こうした状況においては、長距離打撃能力をはじめとする 戦争遂行戦略の維持や本格的な抑止能力が重要になるため、戦力の脆弱性 を低めるため、米海兵隊を含め、日米両軍は後方に下がり、あるいは戦力の 分散化を図るなどの措置をとることになるかも知れない。沖縄に配備された海 兵隊は脆弱性が高いため、オーストラリアやグアム方面に移転したりする。あ るいは、日本国内で移転先を探すとすれば、東北や北海道方面も候補地とな

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