1. 17 年にわたる紛糾の背景
3. 在日米軍の今後のための教訓
1995 年以来続いてきた在日米軍再編への取り組みはかなりの部分で成功 を収めており、2006年の再編計画に盛り込まれた 8項目のうち、7項目はす でに完了もしくは実現途上にある47。しかし、唯一目を引く例外である普天間 移設問題が今なお日米両政府にとって悩みの種だ。沖縄で新たな海兵隊飛 行場の建設が認められる余地はほとんどないうえ、国の防衛予算削減が戦略
45 "Remarks by President Obama to the Australian Parliament," November 17, 2011 http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/17/remarks-president-obama-autralian-parliament
46 Prime Minister Gillard and President Obama Announce Force Posture Initiatives, November 16, 2011, http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/16prime-minister-gillard-and-president-obama-announce-force -posture-init-0
兵力配備以外にも、環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership:TPP)の重 視やアフガニスタンにおける協力など、オバマ大統領のオーストラリア訪問をきっかけと するいくつかの新しい施策が始まっている。両国の今後の協力関係については次にま とめられている。Fact Sheet on New Australia-United States Cooperation, 16 November 2011, issues by the Office of the Prime Minister of Australia, http://www.pm.gov.au/press-office/fact-sheet-new-australi-united-states-cooperation
47日米安全保障協議委員会共同発表、2012年4月27日
http://www.mofa.go.jp/region/n-america/us/security/scc/pdfs/joint_120427_en.pdf
議論の中心となっている米連邦議会でも、海兵隊のグアム移転という当初の 計画が疑問視されている。
衆院選で自民党が与党に返り咲き、大きく様変わりした日本政府は移設問 題の最終決着を図りたいと考えているが、日本でも財政上の制約が大きく影 を落としている。防衛予算増額は当初の公約だったが、2013 年度の防衛費
はわずか 0.08%の上げ幅にとどまった。移設経費はすでに歳出予算に計上
されているが、これまで米海兵隊が担ってきた防衛力の肩代わりが日本の自 衛隊に可能なのかという問いへの答えは出ていない。安倍晋三首相は今年2 月、就任後初となるオバマ大統領との首脳会談に数週間先立つ形で沖縄を 訪問し、仲井眞弘多知事と普天間移設について協議した。ワシントンでの首 脳会談から首相が帰国すると、政府は沖縄島北部に滑走路を建設するため の埋め立て許可を申請する手続を開始した48。これに対する沖縄の反応は予 断を許さない。現状の普天間移設計画について先行きを楽観する意見はほ とんどなく、県知事もこれまで通り沖縄駐留海兵隊の移転先を県外とするよう 求めている。
長期化する普天間移設問題が日米同盟に与える政治的コストについて、ワ シントンと東京はこれまで重大な教訓を学んできた。しかし両政府とも、海兵 隊を沖縄から今すぐ撤退させることは望んでいない。尖閣諸島をめぐる緊張 の高まりで海上当局間の駆け引きが本格化し、最近では両国の部隊まで介 入する事態となっている。さらに、先ごろ北朝鮮の西部沿岸で実施されたミサ イル実験では、石垣島など沖縄県の上空を軌道が通過した。 今や日本の国 防(海上防衛およびミサイル防衛)の焦点となった南西諸島で、沖縄は再び、
中国と北朝鮮からの強まる脅威に対応して東京が新たに配備を検討している 多くの戦力の前線基地として位置づけられることになった。沖縄の米軍基地 問題においても、南西諸島とその近海における自衛隊の活動を米軍がどのよ うに支援していくかを考慮に入れることが不可欠となっている。
48 "Futenma Relocation Application May Come in March," Yomiuri Shimbun, February 25, 2013, http://www.yomiuri.co.jp/dy/national/T130224004012.htm
今後、在日米軍の基地計画には長期的な分析がますます必要となってい くであろう。普天間移設問題から学ぶべきもっとも重要な教訓とは、次回の選 挙でどこが勝つかといった狭い視野の短期的な政情分析にとどまらない視点 を持ち、米軍の前方展開を将来にわたって安定的に持続させるための政治 に必要な条件について、これまで以上に広い見地から考え直すことと言える かもしれない。
日本における米軍駐留の長期的方向性は、「在日米軍に対する日本から の持続的な政治的支援」、「沖縄における基地受け入れの限界についての日 米政府の認識」、「戦略の変化に応じた調整が可能な基地計画の枠組み作 り」、「日本の自衛隊との協力による新しい基地整備モデルの策定」という4つ の要因にかかっていると考えられる。
政治的持続可能性:アジア太平洋地域における兵力配備の政治的持続可 能性を米国が強調する背景に、普天間移設問題をめぐる日米両政府間の軋 轢がもたらした影響があることは明らかである。1995 年の暴行事件は多くの 政治デモを引き起こし、基地の閉鎖という画期的で民意にかなった発表へと つながったものの、その実行をめぐっては日米の国内および二国間でさまざ まな困難が持ち上がった。アジア太平洋地域における長期的な米軍基地整 備計画の策定に向けた解決を図るには、民意を理解し、国内の反対によって 両国の協力関係に亀裂が生じることがないように配慮することが必要である。
民意の正確な把握は時に困難を伴う。それが根深い怒りと反発につながる犯 罪や事故の直後であればなおさらといえる。それにもかかわらず、基地関係 の施策は安全保障を担当する国家機関が密室で決定するものになりがちで、
基地の統合や返還への段取りは建設業者、地元の政治家、ビジネス関係者 らの話し合いによって決められている。基地をめぐる政策の検討過程に地元 のコミュニティが関与することは少なく、受け入れ自治体の首長も不在のまま 話し合いが行われることすらある。基地がもたらす影響への埋め合わせとして 供与される振興費も説得材料の一つではあるが、普天間の事例が示すように、
反対の声が多い場合にはこのような策だけで十分とは限らない。沖縄におけ るさまざまな関係者の意向を正しく把握できなかったことは、誰にとっても賛成 しかねる政策の選択につながった。しかも、早い段階からこの問題を指摘する
分析も少なからずあったにもかかわらず、防衛当局内部や日米両政府間の 政治的駆け引きが、成功見通しの現実的な判断を困難にした。東京では、多 くの政策立案者が「次の選挙後には代替施設の受け入れ先も決定するだろう」
と思いながらこの17年間のほとんどを過ごしてきた。選挙は何度となく行われ たが、それが希望的観測の域を出ることはなかったのである。
普天間の経験が残したもう一つの教訓は、政権交代が計画の実行を困難 にするだけでなく、同盟国間でいったん合意された事項の再交渉につながる 場合さえあるということである。ワシントン・東京・沖縄では施政 のリーダーが 次々に入れ替わった。普天間移設計画の歴代の統括役である米大統領は 3 人、日本国首相は9人に上り、沖縄では、大田昌秀、稲嶺惠一、仲井眞弘多 の3知事が、県内の米軍基地統合を目指す日米両国の計画と新たな代替施 設の県内建設に強く異を唱える地元の抗議行動や政治的反対に向き合って きた。現在普天間基地が立地する宜野湾市の市長も数回にわたって交代し た。問題が長期化すればするほど政治的な駆け引きが不可欠となるが、政府 の顔が頻繁に替われば解決策の交渉努力は一層困難になる。普天間の場合、
「鳩山首相は県外移設の実施に失敗した」と判断する傾向にあるが、日本国 民から見れば、鳩山首相の試みは、「普天間を県外に移設したい」という沖縄 県民の強い願いを真摯に聞き入れようとした試みだったのではないだろうか。
沖縄県内での基地建設という選択肢の限界に対する認識:米軍の基地と 駐留部隊を小さな島に集中させるという東京の基地問題対応はいまだに不公 平感の元となっており、こうした県民感情は米軍関係者が絡んだ事故や犯罪 などが起こると容易に火がつきやすい。県民感情以外にも、普天間基地問題 は日米同盟を担当する両国の政府担当官らに深刻な影響を及ぼしている。
普天間問題に膨大な時間を費やしてきた日米関係担当官のほとんどが、基 地閉鎖が決定通りに断行できないことに疲弊と苛立ちを募らせている。互い に責任を追及する声ばかりが広がり、日米間の戦略交渉の本来の課題と誰も が認識する事柄が基地問題のせいで霞んでしまっている。沖縄の米軍基地 問題をめぐって組織的に蔓延する閉塞感こそ、解決が長引いている普天間 閉鎖問題のもっとも深刻な後遺症かもしれない。