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法外施設で生じた火災事件の検討

ドキュメント内 ・事件の分析を中心に ‑ (ページ 96-127)

2009年3月、群馬県渋川市のNPO法人経営の「静養ホームたまゆら」で火災が発生し、

10名の尊い命が奪われた。この火災の被害者の多くが東京都墨田区の生活保護受給者であ ったこと、「静養ホームたまゆら」は社会福祉各法に基づく届出を行っておらず、社会福祉 各法に法的位置づけのない「法外」施設であったことなどから、社会的に大きな問題と なった(以下「当該火災事件」)。

2010 年 2 月、群馬県警は「静養ホームたまゆら」を「届出の必要な有料老人ホームで あった」と判断し、有料老人ホームがとるべき安全配慮義務を怠ったこと、繰り返し違法 な増改築を行っていた建築基準法施行令違反であることを指摘し、「静養ホームたまゆら」

の経営母体である NPO法人「彩経会」の理事長と「施設長であったとされる」従業員の 2名を業務上過失致死罪で立件した

2011年9月22日に初公判が開かれ、2013年1月18日前橋地方裁判所は元理事長に禁 錮2年・執行猶予4年、元施設長に無罪を言い渡した。

「静養ホームたまゆら」は行政への届け出を行わず、高齢者、障害のある人、低所得者、

生活保護受給者を入居させ、不十分な体制でケアを行っていたことが明らかとなっている。

また、公判中・判決後に否定はしているものの、火災直後には「確実に収入となる生活保 護受給者の入居を進めた」と発言しており、「貧困ビジネス」であったことに疑いの余地は ない。入居者の多くは東京都から「送り込まれた」高齢者であり単独で生活保護を受給し ていた。当時、東京都は介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の待機者が4万人を超 えていた。また、石原都政の下、介護老人福祉施設の建設は実質凍結されており、加えて 介護保険法施行前に積極的に実施してきた高齢者福祉施策についても廃止されていた。結 果、このような事態を招いたのである。

当該火災事件は、介護保険制度、高齢者福祉制度を含めた社会福祉制度、高齢者「施設」

制度、生活保護制度がまさに機能していない実態があることを示唆していると考える。

本章では、当該火災事件を介護保障政策や関連諸政策、法基準などの観点から分析を行 い、「法外施設」の存在や、ケアが必要となった生活保護受給者・低所得者を「法外施設」

に入居させてしまう仕組みがこの国に存在していることをどう考える必要があるのか、と いう視点に立ち当該火災事件の検証を試みる。

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第1節 法外施設火災事件(「静養ホームたまゆら」火災)の概要

(1)「静養ホームたまゆら」の概要

当該火災事件は2009年3月19日22時45分ごろ発生した。火災時にはパート職員1 名と入居者16人が在館しており、入居者10人(男性6人、女性4人)が死亡、1人の負 傷者がでた。

火災事件概要

建物の概要:木造(本館、別館1、別館2)、平家建(本館、別館1、別館2)

延べ面積:本館118.41㎡、別館1 188.81㎡、別館2 80.68 建物被害:本館・別館1は全焼、別館2は半焼、その他隣接建物3棟が部分焼 人的被害:出火当時、16名の入所者、1名の職員が建物内にいた。

死者10人(男6人、女4人)

負傷者1人(中等症 男1人 熱傷)

消防用設備等の状況 消火器

「静養ホームたまゆら」はNPO 法人「彩経会」が経営する、有料老人ホームとして届 出していない「法外施設」であった。「静養ホーム」という行政区分もなく、介護保険法や 老人福祉法の法制度に規定されない高齢者や障害のある人などの入居施設であった。「静養 ホームたまゆら」は入居者の増加に伴い違法な増改築を繰り返し、また、入居者の徘徊な どを防ぐために館内の外側から施錠をするなど、非常に危険な状態であった。

経営母体であるNPO法人「彩経会」は、1999年に群馬県からNPO法人の認証を受け ている。従前から社会福祉事業に隣接した事業を行っており、1989年には障害者授産施設

(1999年8月休止)を経営していた。介護保険法施行後は、2001年(2月1日付)には 群馬県から指定通所介護事業所の指定を受け「デイサービスセンターたまゆら」を開始し ているが2002年(3月31日付)には休止している。また「休養ホームたまゆら」という 名称でオンドル浴を使用したヘルスセンターを経営し、「介護最前線」という形で日本経済 新聞や地元の上毛新聞で紹介されている。2008 年 6 月には前橋市に「静養ホームたまゆ ら」と同じ形態の「静養ホームはなみずきたまゆら」を開設している。「静養ホームはなみ ずきたまゆら」には2009年3月時点で11人の入居者がいたが、当該火災事件後の2009 年 9 月に閉館している。「静養ホームはなみずきたまゆら」は借地・借家を利用して経営

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していたが、2009年8月に所有者から施設賃料滞納で提訴され、2010年3月に和解が成 立している。

「静養ホームたまゆら」の入居者は、特別養護老人ホーム(以下「特養」)の待機者もい たが、ほとんどが単独でかつ高齢者、低所得者、障害、認知症でケアが必要な人々、生活 保護受給者であった。このような人々がなぜ「静養ホームたまゆら」に入居せざるを得な くなったのであろうか。

(2)東京都と「静養ホームたまゆら」

当該火災事件で最も注目された点は、入居者の多くが東京都内の福祉事務所で生活保護 を受給し、介護サービスを受けていた高齢者であり、そして犠牲になった点である。なか でも墨田区からは15人が入居しそのうち6人が犠牲になった。では、なぜ東京都・墨田 区からこのような劣悪な施設に単身高齢者を「送り込む」ことになってしまったのであろ うか。

①東京都内生活保護受給者の施設利用等

東京都は多くの人口を抱え、所得格差も広がっている。東京都の特養等の施設待機者は 4 万人とされ、墨田区だけでも 900 人を超えている。しかし、特養増設は進まず逆に特 養の整備費は1999年から10年間で235億円から81億円と3分の1に減額されていた。 生活保護受給者については、全国的に増加傾向にあり、東京都内でも同様である。当該 火災事故当時の2009 年1月 1日現在で都内の生活保護受給者は211,455人、東京都23

区内では156,788人であった。生活保護受給者で有料老人ホームを利用している要介護者

は都内全体では949人、うち東京都23区の者は847人であった

生活保護受給者で施設に入所している者は1,080 人で、うち「法内施設」へは299人、

「法外施設」へは 781 人と、約 72%が「法外施設」に入所している。都外の施設入所者 は765人、うち「法内施設」は288人、「法外施設」は477人となっている。都外の「法 外施設」への入所者は44%を占めることとなる(表 1参照)。入所者のうち 65歳以上が

80%を占めている。要介護者949 人のうち法内施設へは297人、法外施設へは652 人が

入所しており、法外施設入所者は要介護者の約70%を占めているという状況である。 以下は、東京都が火災事件後に行った「生活保護受給者の有料老人ホーム等利用実態調査 結果(利用者属性等)」(調査基準日2009年1月1日)である。

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施設を利用開始した時期(表3)は2007年度以降が多く2008年度は420人である。う ち、法外施設の利用は2008年度で327人となり、2007年と比べると法内施設利用は減少

(2007年度130人、2008年度93人)し、法外施設の利用が大幅に増加している(2007 年度242人、2008年度327人)。

入所者の要介護度については(表4)、入所者(1080人)のうち949人(87.9%)が要 介護認定を受けており、法内施設の入所は297人(入所者949人の約31%)、法外施設の

入所は652人と約69%を占めている。東京都内の生活保護受給者の多くが要介護状態にな

ると法外施設へ入居しなければならない状況にある。

「福祉事務所が施設を知った経緯」(表5)は、「福祉事務所で探した」が50.1%、「病院、

業者からの紹介」がそれぞれ 13.6%、12.3%である。法外施設についても「福祉事務所で 探した」が395人分と約半数を占め、福祉事務所体が法外施設への入居を進めざるを得な い状況、すなわち法内施設の不足がうかがえる。

「入所者が施設を利用するに至った経緯に関する福祉事務所」の回答(表6)は、「居宅 生活が困難となったため」が599人(55.5%)、「病院退院時に帰来先がなかったため」が 287 人(26.6%)となっている。法外施設の入所経緯は、「居宅生活が困難となったため」

が433人(法外施設利用者の55.4%)、「病院退院時に帰来先がなかったため」が208人(同

の26.6%)となっている。

住民登録の状況は(表 7)、入所者のうち、「施設所在地へ住民票を移していない者」は 655人(60.6%)、「住民登録がない者」は158人(14.6%)である。法外施設入所者は、「施 設所在地へ移した」が205人(26.2%)、「施設所在地へ移していない」が440人(56.3%)、

「住民登録がない者」が136人(17.4%)である。「住民登録がない者」158人のうち、136 人(「住民登録がない者」158人を100%として)、86%が法外施設へ入居している。「住民 登録がない者」という社会的不利な状況に置かれた者が法外施設へ入居せざるを得ない状 況にある。

このように、生活保護受給者の多くが法外施設に入所しており、東京都内の法内施設(社 会福祉施設等)の不足、法外施設に頼らざるを得ない状況にあることがわかる。特に、生 活保護受給者で高齢で要介護者、かつ、住民登録がない者といった、本来であれば真っ先 に法内施設への入居が優先されるべき人たちが、法外施設などという行政の指導・監督が 行き届かない施設へ入居せざるを得ない実態が存在していたのである。

以上、みてきたように「静養ホームたまゆら」は決して例外的な存在ではない

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