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巻末資料

ドキュメント内 ・事件の分析を中心に ‑ (ページ 87-96)

(1)入居者「殺人」事件の判決

① 一審判決(2005年8月10日、金沢地方裁判所)

(『賃金と社会保障』1440号62頁以下)

【事案の概要】

グループホームにおいて夜勤当番で認知症高齢者の介護をしていたパートタイム職員が ファンヒーターの熱風を当てて入居老人を殺害したとして殺人罪に問われた事例。

【判決】

懲役12年、「殺人」(刑法199条)

【判旨】

被告人は「・・・夜勤しかさせてもらえないことやパート職員扱いされることへの不満、

職場内での孤立した人間関係、トイレ介助などの汚くて嫌な仕事も笑顔でしなければなら ないのに、相手が要介護者であるため感謝もされないことなどの職場内での不満や悩みを 募らせ、また、家庭内でも何かにつけて頭ごなしに注意する父親に不満を抱いていた。」

「被告人は、本件犯行前日から夜勤につき、深夜、各部屋を巡回していたところ、被害 者が「寒い。」と言って起きてきたため、部屋のファンヒーターをつけて被害者を寝かせた が、被告人が部屋を離れると、被害者が起きだしてファンヒーターを足で押すなどし、対 震自動消火装置が作動してファンヒーターの火が消えるということが三回繰り返された。

被告人は自分の意に添わない行動をとる被害者への怒りで我慢できなくなり、被害者を折 かんしてやろうと思い、ファンヒーターの熱風を至近距離から当て始めたところ、そのう ちに、職場内や家庭内での不満などを思い起こして憤まんを募らせ、「もう、どうでもいい。」 と自暴自棄になる中で本件犯行に及んだものである。」

「本件犯行の動機は、被告人の現状に対するうっぷん晴らしや、あるいは要介護者に対 する腹いせといういわば八つ当たりといわざるを得ない極めて自己中心的なもので、裁量 の余地は全くない。」

「犯行の態様は、認知症のため、自分が置かれている状況を明確に認識できず、自力で は危険回避が困難な高齢の被害者に、最高温度に設定したファンヒーターの熱風を至近距

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離からあてつづけるという極めてむごいものである上、口から液体を飛ばすようにして吐 いて小刻みな呼吸をする被害者の状況を見ながら、さらに熱風を当て続けたという冷酷か つ非道なもので、甚だ悪質といわざるを得ない。」

「被害者は、本来、自らを保護し守ってくれる立場の被告人によって殺されたのであり、

生じた結果は誠に重大である。何ら落ち度がないというべきであるにもかかわらず、至近 距離からファンヒーターの熱風を当てられ、身体の広い範囲にわたって酷い熱傷を負わさ れたのであって、被害者の受けた肉体的、精神的苦痛は筆舌に尽くしがたい。」

「さらに、本件犯行は、介護職員が要介護者を殺害した事件としてマスコミにも大きく 取り上げられるなど、社会に与えた影響も無視できない。」

「以上によれば、被告人の刑事責任は相当に重大である。」

② 控訴審判決(2006年9月28日、名古屋高裁)

(『賃金と社会保障』1440号56頁以下)

【事案の概要】

グループホームにおいて夜勤当番で認知症高齢者の入居者の介護をしていたパートタイ ム職員が、ファンヒーターの熱風を当てて入居老人を殺害したとして殺人罪を宣告された 事案の控訴審。原審の捜査段階での供述調書の任意性・信用性が争われた。

【判決】

原判決を破棄、懲役10年

【判旨】

「論旨は、要するに、被告人には殺意は認定しえず、業務上過失致死ないし傷害致死が 成立するにとどまるから、被告人を懲役12年に処した原判決の量刑は重すぎ、執行猶予を 付するのが相当であるというものである。しかしながら、上記のとおり、被告人に未必的 故意を認定した原判決には事実誤認はないから、事実誤認を前提としての量刑不当の所論 は採用できない。」

原判決を用いて「被告人の刑事責任は重大である。」としている。

しかし、「他方、被告人は当初から殺意があったわけではなく、衝動的にファンヒーター の熱風を当てるという行為に及んだ後、未必的な殺意を有するに至ったものであること、

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犯行直後に責任を感じて自殺を図り、原審及び当審公判廷においても、終始被害者を死亡 させたことについて謝罪の意を述べていること、本件犯行までは、被告人なりに真面目に 介護の仕事に取り組んでいたこと、前科前歴がないこと、両親が遺族に対する慰謝の措置 に努めていることなどの酌むべき事情も認められる。」

「被告人は、本件犯行の動機について、本件グループホームで勤務するようになって以 来夜勤だけであり、しかも一人で12人の入所者全員の世話をしなければならず、仮眠もで きず辛かった。1年前からは熟睡できなくな(ママ)ストレスを感じた。入所者が高齢で 認知症のため、自分の思うようにはならず、下の世話など汚い仕事もあり、さらに、入所 者を安心させるための嘘をつかなければならないことも苦痛だったなどと、仕事上のスト レスがあった旨供述している。被告人の上記供述は、介護職員としての自覚に欠けたり、

認知症への理解が十分でない点はあるが、認知症高齢者の介護、取り分け夜間単独での介 護が困難な仕事であり、それまで介護の経験がなく、若く専門知識が乏しかった被告人に とっては、本件グループホームでの勤務が相当の負担であり、ストレスとなったことは明 らかである。また、職場や家庭でのストレスも加わり、被告人のストレスを溜め込んでは は爆発しやすい性格もあって、犯行当時はその憤懣が相当に高まった状態にあり、被害者 の行動を契機にこれが爆発したものと認められる。被告人は、本件犯行までに、仕事の不 備を指摘されたり、夜勤の人数を増やして欲しいという要望を理事長に出したり、家庭内 の不満や不眠を周囲に訴えたりしていた。もっとも、被告人は、理事長から、夜勤の人数 を増やすことは難しいと言われるや、それ以上の要望をせず、また、同僚や職場の上司等 に自らの悩みを真剣に相談することもなかったから、夜間介護に関する法制度やストレス 対策を含む本件グループホームの指導管理体制の問題が本件犯行に占める比重は大きいも のとは認められないが、それらの問題が本件犯行の背後に伏在していることも事実である。

原判決は、ストレス等は酌むべき事情とはいえないと説示し、上記夜間介護に関する法制 度や、ストレス対策を含んだ本件グループホームの指導管理体制の問題に触れていないが、

相当とは解されない。」

「以上の事情を総合考察すると、被告人の本件犯行の責任は何といっても重いものの、

その責任を被告人のみに厳しく問うことは相当でなく、被告人を懲役12年に処した原判決 の量刑は、その刑期の点で重すぎるものと認められる。」

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(2)入居者「傷害致死」事件の判決

①一審判決(2010年7月22日、福島地方裁判所)

【判決】

懲役7年6月、「傷害致死」(刑法205条)

【犯罪の事実】

「被告人は、(略)、平成21年7月29日午後7時20分ころから同日午後11時17分こ ろまでの間、グループホームに入所するD(当時69歳)の居室において、同人に対し、そ の下腹部を足でける又はこぶしで殴るなどし、その前頸部を手又は腕で抑え付けて圧迫す るなどの暴行を加え、よって、同人に腸間膜破裂及び甲状軟骨左右上角骨折等の傷害を負 わせ、そのころ、同所において、同人を腸間膜破裂による腹腔内出血又は頸部圧迫による 窒息により死亡させた。」

【事実認定の補足説明】

腹部及び頸部の傷害の結果の検討により「被害者に対しては、その腹部及び頸部に対し て何らかの圧迫が加えられており、その時期が近接していることが認められる。」

「被害者の腹部及び頸部に加えられた圧迫の原因について検討すると、被害者の身体に 生じた傷害の程度、被害者の行動範囲、被害者の居室内の状況等に照らせば、被害者が転 倒したこと等により生じた可能性はない。むしろ、被害者の腹部に生じた傷害については、

足でけったり、こぶしで殴るなどの強い圧迫による傷害と考えることができ、被害者の前 頸部に生じた傷害については、手や腕で継続的に押さえ続けて圧迫したことによるものと 考えることが合理的である。」

「(略)鑑定によれば、遺体の右下眼瞼部に皮下出血が生じ、後頭部及び左側頭部の軟部 組織に出血が生じており、これらは、当該部位に対して鈍体の衝突・圧迫等の作用が生じ たことによるものであることが認められるところ、これらの傷害は当日午後7時20分ころ までの被害者には見られなかったのであって、この時刻以後に生じたものと推認されるの であることから、これらの事実も、何者かが被害者の顔面や頭部に暴行を加えたことと整 合するともいえる。」

「被害者に生じた傷害は、近接した時期に暴行以外の全く別個の要因により生じたとは 通常考え難く、何者かが被害者に対して、その下腹部を足でける又はこぶしで殴るなどす

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