• 検索結果がありません。

介護保険制度における供給主体と公的規制

ドキュメント内 ・事件の分析を中心に ‑ (ページ 134-159)

2000年施行の介護保険法は、「適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業 者又は施設から、総合的かつ効率に提供されるように配慮して行わなければならない」(介 保法2条3項)と規定している。「多様な事業者又は施設」の参入は、従来、非営利団体に 限られていたサービス供給体制について営利企業を含む多様な事業態の参入によって増大 する介護需要に応え、競争原理により質の向上を図ることが期待されている。しかしなが ら、介護保険サービスが私人間の契約の下で実施されるからといって、公的責任が消滅し たわけではない。

本章では、介護保険制度の下での供給体制の検討を行うとともに介護保険制度の下での 公的責任、本稿では特に供給主体に対する公的規制について検討を行う。どのような公的 規制をもって適切な供給組織の参入の促進を図り、どのような公的規制をもって介護を必 要とする人々の権利侵害を防止するかを明らかにしておく必要がある。

第1節 介護保険法の下での供給主体の検討

(1)事前的規制から事後チェックへ

1990 年代から国・政府が進めてきた規制緩和は介護保険制度にも導入されている。そ の代表的な規制緩和が事業者の指定、指導・監査等の「事前的規制から事後チェック」で ある。

事前的規制とは、あらかじめ一定の基準を満たす事業所のみに許認可を与え、それ以外 の事業者の参入をすべて禁止するものである。行政庁が事業者を参入前に精査することで、

仮に問題が生じた場合には、事業者でなくそれに認可を与えた監督官庁も共同の責任を負 うこととなる。一方の事後チェックとは、問題が生じた後、事業者に対しての処分等を行 う仕組みである。

措置制度に基づく高齢者介護サービスを含め、社会福祉関連サービスについては、事前 に参入できる供給団体が定められていた。社会福祉事業法は、社会福祉事業を第一種社会 福祉事業と第二種社会福祉事業とに区分している。第一種社会福祉事業は、主として入所 施設を経営する事業であり、「非常に人権に重大な関係があり」「社会的弱者が不当な扱い

129

を受けないようにしなければならず」「社会的弱者が不当な取り扱いを受けないようにしな ければならない」事業である。したがって、事業の経営主体に制限が設けられ、原則とし て国、地方公共団体または社会福祉法人に限り、その他の者が経営しようとする場合は都 道府県知事の許可を要し、これに違反すれば罰せられることがあるというように厳重な制 限が設けられている。第二種社会福祉事業は、「その事業がおこなわれることが社会福祉 の増進に貢献するもの」、「これに伴う弊害のおそれが比較的すくないものであるが、その 間の差異は相対的なもの」であり、第一種社会福祉事業とは区分されている。経営主体に ついては制限を設けておらず届出をすればよいことになっている。第二種社会福祉事業の 代表的なものとして保育所がある。保育所の設置については、児童福祉法により国、地方 公共団体以外のものは許可を要するとともに、民間企業については許可しないといった運 用が行われてきた。また高齢者介護サービスの居宅サービスについても、主たる事業体は 市町村の社会福祉協議会であったことから、第二種社会福祉事業といえども運用の場面で 制限をかけていたり、公共性の強い法人への委託が行われたりしていた。小川政亮は、「社 会福祉事業法にいう第 1 種社会福祉事業の全てが法律によって公の責任に帰せられたもの というわけでもなく、また第 2 種社会福祉事業のすべてが公の責任に属さないというわけ ではない。なぜなら、社会福祉事業法による第1種、第2種の区分は主として公的監督強 化の要否という観点から行われているものであり、これに対して責任転嫁禁止の原則から する同法第 5 条の場合はむしろ、積極的に、国民の生存権保障の観点から公的責任におい て行われるべきという意味を持つと考えられるからである。そのような事業でも、その具 体的・日常的なサービスの実行については、これを正当な委託費をもって民間の社会福祉 事業経営者に委託することは、責任転嫁ではないとされている(社福事業法 5 条三号)こ と関係で考えると、主として法律上で、そのような委託が認められているような事業は、

本来、公的責任に属するものということもできるであろう」と、第2種社会福祉事業であ っても「委託」事業として行われている場合は、公的責任の範疇であることを指摘してい る。このように公的責任のもとで参入できる供給組織が一定程度制限され事前的規制のも とで高齢者介護サービスをはじめとする社会福祉サービスの供給が実施されていたといえ る。

一方、介護保険制度は、社会保険の仕組みを活用し、介護を必要とする人々に対し、総 合的な介護サービスを提供することで、要介護者の自立を図ることを目的としている。社 会保険方式導入の理由として、措置制度から契約制度への転換もあるが、このほかに多様

130

な事業主体の参入によるサービスの質の向上と民間活力の活用も理由の一つである。した がって、介護保険制度では介護保険施設には一定の規制があるもののその他のサービス分 野においては、法人の種別を問わず、法人格をもち、かつ、省令で定める人員基準や設備 運営基準の基準に合致していれば、都道府県または市町村の指定を受け介護サービスの供 給主体になることができる。

従来のように事前に事業の供給主体に制限をかけるのではなく、指定という参入規制は あるものの、原則的にはどの供給主体が入ってきてもよいという仕組みである。

(2)指定制度の検討

介護保険制度の居宅サービス、介護保険施設サービスあるいは地域密着型サービスを提 供しようとする者は、当該サービス事業所ごとに、あるいは当該施設ごとに都道府県知事 または市町村長の「指定」を受ける必要がある。市町村介護保険事業計画等の計画が定め る数値目標に基づいて指定の拒否し得る旨の、サービス総量規制もあるが、それ以外は一 定の条件を満たした事業所については指定が行われる。2005年の介護保険法改正により、

指定の更新制が導入され、①事業者の指定に有効期間(6 年ごと)を設ける、②更新時に、

基準への適合状況や改善命令を受けた履歴等を確認し、基準に従って適切な事業の運営を することができないと認められる場合は、指定権者は指定の更新を拒否できる、とされた

(介保法70条の2)。

指定制度は、「供給主体を多様化することにより、民間活力を用いて福祉サービス分野に おける介護サービス受給者の自由な選択に基づくサービス利用契約の締結を可能とする制 度として、介護保険法によってはじめて導入された法的仕組み」である。

①指定の性格

介護保険法上の指定については、介護保険法の給付構造、サービス給付はサービス費用 の償還給付(現金給付)、介護保険事業者の指定の法的性格は、保険医療機関の指定とは異 なり、確認行為とする学説が多数を占めている。

医療機関は、医療法によって開設を「許可」されただけでは、療養の給付を取り扱うこ とはできない。開設の許可のあとに、厚生労働大臣の「指定」を受けなければならず、さ らに医療機関で診療を担当する医師も厚生労働省に登録をした保険医でなければならない。

指定を受けた医療機関のことを保険医療機関といい、保険医療機関のみに療養の給付の取

131

り扱いが許される。したがって、保険医療機関の指定は、「「保険者との間に公法上の双務 付従的契約を成立させ、かつ、療養給付を行うことによって診療報酬債権を取得すること のできる地位」を医療機関に付与する行政処分である」とされている10。医療保険の場合 は、被保険者に対するサービスの現物給付を行いその対価として診療報酬を支払うといっ た契約関係が存在しており11、保険医療機関には「療養担当規則に従った診療報酬の実施 が、保険者には算定告示に従った報酬支払いが契約にもとづいた債務として発生する12」。

一方、介護保険は制度上のサービスを受けた場合にその費用の9割を給付するという「費 用保障」であり、医療保険のような現物給付にあたるものはない。つまり、保険者と指定 を受けた事業者または施設との間には医療保険のような契約関係は存在していない13。介 護保険の場合は、指定事業者または施設というのは、法律に定められた代理受領の方式に よって単に被保険者の代理ということで、保険者にサービスの対価の 9 割の支払いを請求 できるという関係に過ぎず、都道府県または市町村の「指定あるいは許可を第三者にする ための契約とは考えにくい14」。

介護保険制度の事業者または施設の「指定」の性格は、事業者または施設が人員、設備 および運営に関する基準等を満たしているかどうかの確認行為に過ぎないとされている15

②指定取消

都道府県知事または市町村長は、指定事業者や指定施設が、①従事者の知識もしくは技 能または人員について、都道府県または市町村の条例で定める人員基準や設備および運営 に関する基準を満たすことができなくなったとき(介保法77条3号.・4号、78条の10の 4号・5号、92条2号・3号)、人員、設備及び運営に関する基準にしたがって適切なサー ビス事業の運営ができなくなったとき、②利用者の人格を尊重した対応すべき「忠実義務」

(介保法74条6項、第78条の4第8項等)違反、③費用の不正受給、③知事または市町 村長による指導・監督等に対する妨害等、取消要件に該当するなど一定の理由があれば、

指定の取消しまたは期間を定めてその指定の「全部または一部の効力停止処分」をするこ とができる(介保法77条、78条の10、84条、92条等)。

指定取消の現状については、本章第2節(3)で指摘する。

(3)指定基準の内容の確認

事業者および施設の運営にあたって、事業者および施設が満たすべき基準については、

ドキュメント内 ・事件の分析を中心に ‑ (ページ 134-159)