第2章 黒人居住区の隔離が象徴する「人種」関係と変化
全体平均の 47. 5%と比較しても教育レベルが若干低い。一方で、アメリカ生まれのドミニ カ系の教育レベルは第一世代と比べて高く、高校卒業の資格を持たない割合は 25 歳以上
のドミニカ系移民の内、第一世代の移民が
51.7%、アメリカ生まれが 19.4%であり、アメ
リカ生まれのドミニカ系の80.6%が高校卒業以上の資格を持つ。アメリカ生まれの他のヒ
スパニック系と比較すると、高校卒業以上の資格を持つ人は、キューバ系(85.4%)より 少ないが、メキシコ系(69.8%)やプエルトリコ系(63.4%)より教育レベルが高い。ニ ューヨークに住むドミニカ系に関しても、第一世代よりもアメリカ生まれの人は教育レベ ルが高く、25
歳以上で高校卒業の資格を持たない割合は、第一世代が55.6%、アメリカ生
まれが23.7%である
436。社会学者のフィリップ・カジニッツらによる移民第二世代の研究437 においても、ドミ ニカ系移民第二世代の教育レベル(高校卒業
62%、大学卒業 26%)が彼らの親である第一
世代の教育レベル(高校卒業60%、大学卒業 7%)と比較して、高いことが明らかになっ
ているものの、非黒人系の英語を母語としない他の移民グループと比較して教育レベルは 低い438。さらに、同じ調査対象から別の分析をしたウォーターズらが、調査対象の移民第二世代 は母語、母文化を保持しつつ選択型文化受容をしている傾向が高いことを指摘し(表
19)
、 彼らの上方同化への根拠を示している439。しかしこれらの結果は、必ずしもドミニカ系第二世代が教育レベルに見合った収入を得 ていることを示すものではなく、同調査で明らかになっている、アフリカ系アメリカ人を 含む黒い肌を持つ人への差別の多さや、同じ「人種」の同僚が多い職場で働く傾向が高い 前述のカジニッツらの調査結果から440、白人移民とは違い、肌の黒いことが主流社会への 上方同化を阻んでいることが否めない。カジニッツらによる調査の結果の一つとして、移 民グループごとに犯罪に関わった件数を示しているが、ドミニカ系移民第二世代の男性で 逮捕されたことのある人は
22%、投獄されたことがある人は 11%であることが示されてお
り、アフリカ系アメリカ人男性(逮捕率33%、投獄率 16%)やプエルトルコ人男性(逮捕
率
28%、投獄率 10%)より少ないものの、中国系移民第二世代の男性(逮捕率 9%、投獄
率
3%)やロシア出身ユダヤ系移民第二世代の男性(逮捕率 11%、投獄率 4%)
、南米系移436 Ibid., pp.2-64.
437 1998年~2000年の間に、ニューヨーク市とその近郊に住むアメリカ生まれの両親を持つアメリカ生
まれの3つのグループ(白人、黒人、プエルトリコ人)と外国生まれの両親を持つ移民第二世代の5つ のグループ(英語を話す西インド諸島系、ドミニカ系、中国系、コロンビアやエクアドル、ペルー出身 の南米系、ロシア出身ユダヤ系)に分けて、18歳~32歳までの青年3,415人を無作為に選び、電話で のインタビューによる調査を行っている。Philip Kasinitz et al., op. cit., p.12.
438 Philip Kasinitz et al., op. cit., pp.46, 137.
439 Mary C Waters et al., “Segmented Assimilation Revisited: Types of Acculturation and Socioeconomic Mobility in Young Adulthood,” Ethnic and Racial Studies, vol. 33, issue 7 (2010), p.1177.
民第二世代の男性(逮捕率
21%、投獄率 9%)と比べると多く
441、ドミニカ系移民第二世 代の中でも下方同化が起こっている可能性を否定することができない。ドミニカ系移民も、理論的にはポルテスらの提唱する世代を越えた移民の社会的移動(図
16)においてコース 2
を辿り、第三世代までに主流への統合を果たすことが可能である。しかし、理論通りに成功を収めていないことは、これまで述べた通り、犯罪への関与の多 さや教育レベルの向上にも関わらず依然厳しい経済的状況から明らかであると言えよう。
これまで考察する中で、アフリカ系アメリカ人との違いを際立たせる方が、黒人移民
2
世 にとっては主流社会への同化に有利であることが示された。まとめると次の要素がアメリ カ主流社会へ同化する過程で影響を及ぼしていることを確認した。(1) 肌の色(黒人<白人)
(2) 話せる言語(母語のみ<英語)
(3) 文化(母文化の喪失<母文化の保持)
(4) 居住区(隔離された地域<統合された地域)
ポルテスらが同化過程で影響する因子として、人的資本、家族構造、同化の様式の重要 性を指摘しているが(図
16)
、それらに加え、肌の色と行動様式に影響を与える居住区の 影響も重要な因子である。次節では引き続き、特に居住区の影響の重要性を補強すべく、昨今の隔離の変容と経済格差から、「人種」と絡み合った居住区の隔離が与える社会経済的 な影響を吟味する。
表 15 ニューヨーク市の外国生まれの人数の変化(1900年~2011年)
出典:New York City Department of City Planning (2013), op. cit., p.10.
441 Philip Kasinitz et al., op. cit., p.188.
年 市総人口 外国生まれの人口 外国生まれの人口比率
1900 3,437,202 1,270,080 37.0
1910 4,766,883 1,944,357 40.8
1920 5,620,048 2,028,160 36.1
1930 6,930,446 2,358,686 34.0
1940 7,454,995 2,138,657 28.7
1950 7,891,957 1,784,206 22.6
1960 7,783,314 1,558,690 20.0
1970 7,894,798 1,437,058 18.2
1980 7,071,639 1,670,199 23.6
1990 7,322,564 2,082,931 28.4
2000 8,008,278 2,871,032 35.9
2011 8,244,910 3,066,599 37.2
表 16 ニューヨーク市における国別外国生まれ人口(2000年と2011年の比較)
※太字の国は肌の黒い人が多い(筆者)。
出典:New York City Department of City Planning (2013), op. cit., p.13.
表 17 ニューヨーク市の地区別ドミニカ共和国生まれの人口(2000年と2011年の比較)
出典:New York City Department of City Planning (2013), op. cit., p.65.
2011年 2000年 11年間での変化 順位 人数 割合 順位 人数 割合 人数 割合 外国生まれ総人口 - 3,066,599 100.0 - 2,871,032 100.0 195,567 6.8
ドミニカ共和国 1 380,160 12.4 1 369,186 12.9 10,974 3.0
中国 2 350,231 11.4 2 261,551 9.1 88,680 33.9
メキシコ 3 186,298 6.1 5 122,550 4.3 63,748 52.0 ジャマイカ 4 169,235 5.5 3 178,922 6.2 -9,687 -5.4 ガイアナ 5 139,947 4.6 4 130,647 4.6 9,300 7.1 エクアドル 6 137,791 4.5 6 114,944 4.0 22,847 19.9
ハイチ 7 94,171 3.1 7 95,580 3.3 -1,409 -1.5
トリニダード・トバゴ 8 87,635 2.9 8 88,794 3.1 -1,159 -1.3
インド 9 76,493 2.5 14 68,263 2.4 8,230 12.1
ロシア 10 76,264 2.5 10 81,408 2.8 -5,144 -6.3
バングラデッシュ 11 74,692 2.4 17 42,865 1.5 31,827 74.2
韓国 12 72,822 2.4 12 70,990 2.5 1,832 2.6
コロンビア 13 65,678 2.1 9 84,404 2.9 -18,726 -22.2 ウクライナ 14 59,820 2.0 13 69,727 2.4 -9,907 -14.2 ポーランド 15 57,726 1.9 15 65,999 2.3 -8,273 -12.5 フィリピン 16 50,925 1.7 16 49,644 1.7 1,281 2.6
イタリア 17 49,075 1.6 11 72,481 2.5 -23,406 -32.3 パキスタン 18 39,794 1.3 18 39,165 1.4 629 1.6
イギリス 19 34,134 1.1 21 28,996 1.0 5,138 17.7 エルサルバドル 20 32,903 1.1 25 26,802 0.9 6,101 22.8
2000年 2010年 11年間での変化 人数 割合 人数 割合 人数 変化の割合
ニューヨーク市総数 369,186 100.0 380,160 100.0 10,974 3.0 ブロンクス 124,032 33.6 156,165 41.1 32,133 25.9 ブルックリン 59,362 16.1 55,007 14.5 -4,355 -7.3 マンハッタン 125,063 33.9 109,780 28.9 -15,283 -12.2
クイーンズ 59,444 16.1 56,899 15.0 -2,545 -4.3 スタテン島 1,285 0.3 2,309 0.6 1,024 79.7
図 16 ポルテスらが提唱する世代を越えた移民の社会的移動
出典:Portes and Rumbaut (2006), op. cit., p.265.
図 17 ニューヨーク市を分轄する五つの区
出典:“File: 5 Boroughs Labels New York City Map.svg,” Wikimedia Commons,
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:5_Boroughs_Labels_New_York_City_Map.svg#file (accessed May 2, 2015).
同化過程で 影響する因子
第一世代 第二世代 第三世代以上
コース1 親の人的資本をベースとした中流階級の 地位の獲得
専門的、起業家的な 職業、完全な文化変容
社会、経済の主流 への完全な統合
・人的資本
・家族構造
・同化の様式
コース2 親は労働者階級の職を持つが、繋がりの強い エスニック・コミュニティ
選択型文化変容 教育レベルが高く 中産階級の地位を獲得
完全な文化変容、
主流への統合
コース3 親は労働者階級の職を持ち、繋がりの弱い エスニック・コミュニティ
不協和型文化変容 教育レベルが低い
従属的な単純労働、
受動的なエスニシティ 逸脱した生活様式
への下方同化、
受動的なエスニシティ
① マンハッタン
② ブルックリン
③ クイーンズ
④ ブロンクス
⑤ スタテン島
図 18 アメリカ全体、ニューヨーク州、およびニューヨーク大都市圏の各区別人口の人種割合 (2013年)
出典:U.S. Census Bureau, “State & County QuickFacts,” Last Revised: July 8, 2014, http://quickfacts.census.gov/qfd/states/36/3651000.html (accessed November 23, 2014).
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
USA NY州 マンハッタン ブルックリン クイーンズ ブロンクス スタテン島 白人 黒人 アジア系 ・ヒスパニック系ほか
表 18 ニューヨーク市における区別の「人種」構成など
(a)単一「人種」を選択した人を含む
(b)ヒスパニックはどの「人種」にもなりうるため、該当の「人種」分類にも含まれる
出典:U.S. Census Bureau, “State & County QuickFacts,” Last Revised: July 8, 2014, http://quickfacts.census.gov/qfd/states/36/3651000.html (accessed November 23, 2014).
表 19 移民第二世代のエスニック別文化変容
*アメリカ生まれの両親を持つアメリカ生まれのプエルトリコ人
出 典 :Mary C Waters et al., “Segmented Assimilation Revisited: Types of Acculturation and Socioeconomic Mobility in Young Adulthood,” Ethnic and Racial Studies, vol. 33, issue 7 (2010), p.1177.
上段: アメリカ
下段: NY州 マンハッタン ブルックリン クイーンズ ブロンクス スタテン島 人口(2013年概算) 316,128,839
19,651,127 1,626,159 2,592,149 2,296,175 1,418,733 472,621 白人系(a) 77.7%
70.9% 65.0% 49.5% 49.7% 45.8% 77.6%
黒人系またはアフリカ 系アメリカ人(a)
13.2%
17.5% 18.4% 35.4% 20.9% 43.3% 11.8%
アジア系(a) 5.3%
8.2% 12.1% 11.7% 25.2% 4.2% 8.0%
2種類以上の「人種」 2.4%
2.3% 3.1% 2.3% 2.7% 3.3% 1.9%
ヒスパニックまたは
ラティーノ(b) 17.1%
18.4% 25.8% 19.6% 28.0% 54.6% 17.9%
白人系、ヒスパニック
やラティーノではない 62.6%
57.2% 47.5% 36.0% 26.7% 10.5% 63.2%
外国生まれ
(2008年-2012年) 12.9%
22.0% 28.5% 37.5% 47.7% 33.5% 20.8%
家庭での言語が英語 でない(5歳以上)
(2008-2012年)
20.5%
29.8% 40.4% 46.2% 56.4% 56.8% 30.0%
会社・事務所数
(2007年)
27,092,908
1,956,733 307,128 253,129 236,900 111,028 37,844
黒人所有
(2007年) 7.1%
10.4% 8.7% 20.8% 14.4% 34.9% 7.3%
アジア系所有
(2007年)
5.7%
10.1% 11.9% 14.5% 29.0% 7.5% -
ヒスパニック系所有
(2007年)
8.3%
9.9% 10.5% 10.8% 16.3% 37.6% -
文化受容 様式
南米系 ドミニカ系 プエルトリコ* 中国系 ロシア系 合計
人数 % 人数 % 人数 % 人数 % 人数 % 人数 % 不協和型文化変容 21 5.2 28 6.5 90 20.8 65 10.7 15 4.9 219 10.0
協和型文化変容 51 12.0 42 9.8 122 28.2 181 29.8 50 16.2 446 20.5 選択型文化変容 330 82.1 358 83.7 221 51.0 361 59.5 244 78.9 1514 69.5
合計 402 100 428 100 433 100 607 100 309 100 2179 100