次の性質は歪対称性(skew-symmetry)あるいは反対称性(antisymmetry)と呼ばれる. この命題 の証明も12節にまわそう.
命題 10.4.1 (歪対称性). 列の入れ替え(または行の入れ替え)を行うと行列式は−1倍される. すなわ ち,各xk (k= 1,· · · , n)をn次列ベクトルとするとき,i < jについて,
(1) det[x1,· · · ,xi−1,xj,xi+1,· · · ,xj−1,xi,xj+1,· · ·,xn] =−det[x1,· · · ,xn], (2) dett[x1,· · ·,xi−1,xj,xi+1,· · · ,xj−1,xi,xj+1,· · ·,xn] =−dett[x1,· · ·,xn].
歪対称性の幾何的な意味を考えよう. 列を入れ替えても,それらで張られる図形はもとの図形と同じで ある. したがって,列の入れ替えによる行列式の変化は,体積の符号が逆になるかどうかに限られている. n= 2の場合は,列を入れ替えると第1列を第2列に重ねる際の回転の向きが逆になることから,符号も
逆になることが分かる. 3次元の場合は,二つの列の入れ替えは平行六面体の底面の符号付き面積が−1 倍されることに相当し,したがって体積も−1倍される. 4次以上についても同様のことが想像されよう. さて,n次列ベクトルの組a1,· · · ,anの中に互いに等しい列があれば,それらで張られる図形はn−1 次元以下に潰れている. よって,この図形のn次元体積は0である. この事実を行列式の言葉で述べると 次の命題になる. この性質から,行列式は交代的(alternating)であると呼ばれる. 一般に,交代性は歪 対称性から直ちに導くことができる25:
命題 10.4.2 (交代性). i̸=jについて, i列とj列が等しい行列式,および i行とj行が等しい行列式の 値はそれぞれ0である.
Proof. 正方行列Aに対して,Aのi列とj列を入れ替えた行列をBとすれば,命題10.4.1よりdetB =
−detAである. Aのi列とj列が等しいならば,A=BゆえdetA=−detAとなり,これを移項すると 2 detA= 0. したがってdetA= 0である. 行についても同様の考察が得られる.
更に,多重線形性と歪対称性から次が導かれる. 行列式の値を求めるための計算において,この性質は 何度も利用されることになるだろう.
命題 10.4.3. ある列(あるいは行)の何倍かを別の列(あるいは行)に加えても行列式は変わらない. す なわち,各xk (k= 1,· · ·, n)をn次列ベクトルとするとき,i̸=jについて
(1) det[x1,· · · ,xj−1,xj+rxi,xj+1,· · ·,xn] = det[x1,· · ·,xn], (2) dett[x1,· · ·,xj−1,xj +rxi,xj+1,· · ·,xn] = dett[x1,· · · ,xn].
Proof. 列について証明する. 命題10.3.2(2)を用いて二つの行列式に分解すると
det[x1,· · · ,xj−1,xj+rxi,xj+1,· · · ,xn]
= det[x1,· · ·,xj−1,xj,xj+1,· · ·,xn] + det[x1,· · ·,xj−1, rxi,xj+1,· · · ,xn]
= det[x1,· · ·,xn] +rdet[x1,· · · ,xj−1,xi,xj+1,· · ·,xn]
(上式の第2項は,i列とj列がともにxiなる行列式ゆえ,その値は命題10.4.2より0)
= det[x1,· · ·,xn] +r·0 = det[x1,· · · ,xn].
行の場合についても同様の考察を行えばよい.
右図は,命題10.4.3の幾何的意味を図示したもので
ある. 等式det(a1 +ra2,a2) = det(a1,a2)なる主張 は, 右図の二つの平行四辺形の面積が等しいことを意 味し, これはカヴァリエリの原理からも導くことがで きる.
a2 ra2
a1
a1+ra2
25行列式に限らず,歪対称性を満たす写像は交代性も満たす(補題12.3.2).
11 行列式の計算
行列式の値を求めるための計算例を紹介する. 多くの計算演習をこなすことで,行列式が,ベクトルの 組で張られる図形の符号付き体積を意味することを実感してもらえるのではないだろうか. そして,この 実感が妥当であるゆえんを11.3項において解説する.
11.1 サイズの小さい行列式との関係
行列式の値の計算においては,次の命題を用いて,よりサイズの小さい行列式の計算に帰着させる手法 を用いることが多い. この性質は,角柱の体積が底面積と高さの積で表されることを述べたものである. 証明は次節にまわす(定理12.5.1).
命題 11.1.1.
a11 a12 · · · a1n 0 a22 · · · a2n ... ... · · · ... 0 an2 · · · ann
=a11
a22 · · · a2n
... · · · ... an2 · · · ann
=
a11 0 · · · 0 a21 a22 · · · a2n
... ... · · · ... an1 an2 · · · ann
.
上式右側の等号の幾何的な意味を説明する. n個のn次列ベクトルa1,· · · ,anで張られる図形をDと し,そのn次元体積をV(D)とする.
まずは特別な場合を考え,
a1=
a11
0 ... 0
,a2 =
0 a22
... an2
,· · · ,an=
0 a2n
... ann
としよう.
このとき, n−1個のベクトルa2,· · · ,anで張ら れるn−1次元以下の図形を考えよう. この図 形は, Rnにおける 第1座標 = 0を満たす点から なる超平面内に位置している. また, この図形は, a′2 =
a22
... an2
,· · ·,a′n =
a2n
... ann
で張られるRn−1
上の図形と合同であり,ゆえにそのn−1次元体積 はdet[a′2,· · ·,a′n]である. したがって,図形Dは 底面積det[a′2,· · ·,a′n]および高さa11なる角柱で あり, ゆえに体積V(D)はa11det[a′2,· · · ,a′n]に 一致する.
a1が一般のn次列ベクトルの場合,図形Dは, いま考えていた角柱をa1方向に歪ませた形になる. カヴァリエリの原理によれば, Dの体積はもとの 角柱の体積に等しく,V(D) =a11det[a′2,· · ·,a′n] である.
x y
z
a1=
a11
a21
a31
a2=
0 a22
a32
a3=
0 a23
a33
a11
0 0
例 11.1.2. 上三角行列の行列式は,対角成分の積に一致する:
a1
a2
∗
O
. .. an=a1
a2
a3
∗
O
. .. an=· · ·=a1a2· · ·an.
とくに,|E|= 1.