本章では、屋内環境において多数のデバイスに対して情報を投影する情報投影プロジェクタのコン セプトを実現する。可視光LEDアレイを用いて2次元情報投影プロジェクタを構成することにより、
端末に対して動画像のビデオ信号から音声信号などを複数投影することが可能であることを示す。こ れにより情報投影プロジェクタによる空間情報多重化が実現可能であることを検証する。次に、本プ ロジェクタの考え方を用いて、空間内の位置情報を取得する手法による応用例を示す。
5.1.1 関連研究
Daniel Cottingらの情報収集と表示を同時に行うために非関知パターンを投影映像に埋め込む研究
[44]において、プロジェクタ投影映像にバイナリパターンを埋め込むことにより、環境の奥行き情報 や表示位置補正など積極的に利用するようになってきているが、それを電子デバイスの情報として用 いてはいない。
他に、Ramesh RaskarらのiLamp[45]やRFIG[8]と呼ばれる無線IDタグとコンピュータビジョン を組み合わせたシステムも類似の研究としてあげられる。このシステムはRFIDカードに受光素子 を接続することで、RFIDの応答信号に光量の情報を返すことができるデバイスと手持ちの小型プロ ジェクタから構成される。使用方法としては、小型プロジェクタから、位置特定用映像の光を受け、
RFIDが返答することで、プロジェクタとの相対位置関係を検出できるようにしたシステムである。
このシステムは一般的なプロジェクタを使うことで安価に位置情報のやりとりを行うことができるが 特徴であるが、光による高速通信の方向性は見られない。
多数のデバイスとの間で通信する場合には無線通信と同様に通信帯域を時分割で使うことが主眼で 空間分割型はこれからの研究テーマになっている。例として、シリコン基板上に受光部・発光部・演 算部を設けたスマートピクセル[46]の研究は東京大学の石川らをはじめとして内外で広く研究されて おり、光コンピューティングや高速通信でのインターコネクトの要素技術として大変期待できる研究 である.
このような2次元デバイスを屋内実空間に応用した例としては、石田らの2次元送受信機による高 速な並列空間可視光通信システムの設計[47] が挙げられる。この研究では送受信とも2次元アレイ を用いているが、1対1でのスループットの向上を目指している点で本研究とは区別できる。1対多 の関係をもつ2次元デバイスを用いた研究としては、香川らのオプトナビ[48] の研究が挙げられる。
この研究では2次元イメージセンサ上に特定の領域を設定し、特定の領域に於ける受信フレームレー トを向上することで、通常の映像を取得すると同時に、高速にIDを受信することが可能となってい る。この研究では実際に多数の機器との通信を目指しており、本研究と類似した方向性を持っている
が、受信側を中心とした構成となっている点で異なると言える。
また秘映プロジェクタ[50]も近い研究として考えられる.この研究では映像を投影するのと同時 に、赤外線で情報を投影できるプロジェクタを提案し、赤外線で2D-ID情報を投影、携帯端末のカ メラで2次元バーコードとして情報を受信することにより投影場所ごと、端末毎に異なった情報を人 には見えない赤外線で投影できるものである.しかしながら、この研究では提示用プロジェクタとは 別に、本質的に見えない赤外線によるプロジェクタを同時に用いており、別途位置合わせ作業が発生 してしまうなど、本研究における可視LEDにより情報を送る手法とは方向性が異なっていると考え られる。
5.1.2 2次元情報投影プロジェクタの概要
このシステムの将来の目標として、人に必要な情報を統合して周りに投影することを想定してい る。よって、プロジェクタの1画素から送信する情報としては、人が見たり聞いたりする情報、つま りビデオ映像や音声信号などを伝送可能な通信帯域を持つように設計する。
画素数について検討すると、現在入手可能な高輝度LEDのサイズと、実験のために必要な最低分 解能を考慮し、入力4系統のビデオ帯域の信号を4×5に並べられたLEDに自由に切り替えて出力 できる構成とした。
このままでは、画素単位ですべて異なる情報ではなく4系統の情報しか投影できないが、ドライバ 制御部のソフトを変更することで、画素単位に異なる、座標情報などを投影することも可能である。
情報重畳手法
LEDアレイによる情報投影プロジェクタを実現する上で情報を映像に重畳する方法を以下のよう に決定した。
基本的には、重畳する情報を高い周波数でFM変調すると共に、平均輝度を制御することにより人 のための映像投影を実現する。その結果、人がスクリーンを見ると輝度の異なる画像が見えると同時 に、スクリーン上に置かれたデバイスに対しては、該当画素に対してFM変調された情報を取得でき る。ここで、FM変調を用いるため、必ず強度が強い方の情報だけを受信することが特徴となる。こ の特徴によって、LEDの配置が密ではなくLEDの配置に間隙が存在し、光量減少する場合において も、情報は欠落しないことが予想される。
LED制御回路
LED発光部は市販の中版カメラの筐体に組み合わせるようにし、LEDを図5.1のような配置で取 り付けた。またLEDは実験で投影範囲がわかりやすいよう緑色とし、輝度の高い反射型LEDを用 いた。使ったLED は図5.2の形状であり、仕様は表5.1の通りである。
LEDドライバはLED発光部の裏側に図5.3のように配置している。CPLDとCMOSロジックIC を用いることで小型化し、4系統の入力信号から各画素にあわせてリアルタイムに切り替え可能とし た。切り替えはパソコンからシリアル通信経由で行うことが可能である。ブロック図を図5.4に示す。
主な要素としては、スイッチとしてXilinx社CPLD XC9572、LEDドライバとしてTC74AC04P、
図 5.1: フィルムバックに搭載されたLED基板
図5.2: LEDチップ拡大図(長辺6[mm])
表5.1: LEDの仕様
Opto-device OP3-5305T1 value
LED Directivity 9[degree]
Brightness of center 25[cdm−2] Emission wavelength 530[nm](green)
saturation voltage 3.6[V]
Maximum Current at a chip 20[mA]
図5.3: LED制御ボード
I nput A
I nput B
I nput C
I nput D
Sel ect or
AMP
AMP
AMP
AMP
AMP
Sel ect I nput - s i gnal f r om communi cat i on I / F RS232C
Sel ect or
Sel ect or
Sel ect or OSC
OSC
OSC
OSC
LED1
LED2
LED3
LED4
LED20
図 5.4: LED制御回路ブロック図
図5.5: プロジェクタ外観
シリアルポートからの信号をCPLDに受け渡すため、PIC16F88を使用し画素ごとにどの情報を出 力するか切り替えることができるようになっている。
なお、重畳信号が通過するところは、全て50MHz以上の速度で動作可能な部品のみで構成されて いるため、ビデオ信号を変調した信号も使用可能である。
表5.2: カメラ諸元
仕様 値
カメラ 型番 MAMIYA RB67PRO-S
フランジバック 114[mm]
レンズ 型番 RB-KL-65/F4L
画角 68[degree]
有効瞳径 16[mm]
図5.6: プロジェクタによる投影の様子
プロジェクタ本体の機構
プロジェクタの筐体として、市販カメラボディを使用しており、外観を図5.5に示す。このカメラ のフィルム面にあわせて前述のLED発光部を配置している。使用したカメラの仕様は表5.2の通り である。
5.1.3 プロジェクタによる投影実験
基本性能検証実験
このプロジェクタを用いて投影した様子を図5.6に示す。測定した屋内の照度は約600[lx]であっ た。この図より明るい屋内においてもLEDの投影箇所は十分判別できている。中心照度を測定し てみると、カメラのフィルム端から1.0[m]離れたところで最大274[lx]となった。一方、投影された LED素子の大きさは一辺が60.5[mm]の正方形となった。これをルーメンに換算すると画素一つあた
り0.99[lm]となる。今回のプロジェクタは画素数が20あるため、プロジェクタ全体では20[lm]のプ
ロジェクタとなる。
空間分離度の測定
この結果より、屋内におけるLEDプロジェクタの利用は十分可能であることが確認できた。しか し、LEDの配置上の制限があり、LED素子とLED 素子の間に非発光部が必ずできてしまう。この
㪄㪇㪅㪎 㪄㪇㪅㪍 㪄㪇㪅㪌 㪄㪇㪅㪋 㪄㪇㪅㪊 㪄㪇㪅㪉 㪄㪇㪅㪈 㪇 㪇㪅㪈 㪇㪅㪉
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㪫㫀㫄㪼㩷㪲㫊㪴
5KIPCNNGXGN
図5.7: 受信信号波形
Camera body
Receiver
Lens
Scale 1.00kHz
2.00kHz
LED board and control board
A B A B
A B A B 10.7MHz FM modulated
Signal Generator Oscilloscope
図5.8: 実験装置
図 5.9: 分離度測定実験の様子
理由のため、位置情報等を投影した場合に非発光部において、情報が受信できない可能性が考えられ る。あるいは、非発光部において、両方の信号を混合して受信してしまう場合も考えられる。
この問題に関して、プロジェクタを用いて合焦点時、非合焦点時の2条件で隣接画素同士の音声情 報を計測し、上記の問題が発生しないことを確認した。この実験では図5.8に示すように10.7[MHz]
図5.10: 受光位置と信号強度
㪇 㪌 㪈㪇 㪈㪌 㪉㪇 㪉㪌
㪇 㪌 㪈㪇 㪈㪌 㪉㪇 㪉㪌 㪊㪇
㪧㫆㫊㫀㫋㫀㫆㫅㪲㫄㫄㪴
㪭㫆㫃㫋㪸㪾㪼㪲㫄㪭㪴
㪈㫂㪟㫑 㪉㫂㪟㫑
図5.11: ボケのある状態の受光位置と信号強度
図5.12: ビデオ送信機(左)、受信機(右)
の搬送波に1[kHz]、2[kHz] のFM変調を掛けた信号を用意し、それをプロジェクタの入力とし、投 影画像は市松模様とした。図中A が1[kHz] を変調した10.7[MHz] の信号,Bが2[kHz] を変調した 10.7[MHz]を表すことになる。
受信用デバイスとしてはフォトダイオードとFM復調部をケースに内蔵したユニットを用意した。
計測方法としては受信用デバイスを移動しながら受信回路の出力電圧をオシロで観測しながら同時に