第 4 章 1 次元情報投影プロジェクタ
4.2 シングルトラックグレイコードによる位置情報投影プロジェクタ
第4節に続き、位置情報を取得するためのプロジェクタを検討する.本節においては,構造を単純 にすることで大きさを小形にすることが可能な、レンズを用いない単純な構造を持つ小型のプロジェ クタを設計、検討する。本手法を用いたプロジェクタにより、情報端末自体に内蔵可能な位置情報取 得システムが実現可能となる。
4.2.1 プロジェクタの概要
本プロジェクタは空間への位置情報のラベリング、いうならば空間エンコーディングとでも呼ばれ る手法を用いている。本研究ではこのように空間内の位置を取得するための位置情報を空間に光の明 滅により投影するシステムを「空間エンコーダ」と呼び、その実現について検討を行う。
この空間エンコーダは、小型デバイスに内蔵することも想定し、なるべく単純な機構で、正確な座 標を取得でき、リアルタイム性も必要である。本章で望む正確な座標というのは、3次元的な空間座 標ではなく、通信相手の方向を確定する8[bit]精度で2次元的な方位角を想定する。但し、通信相手 が多い環境、あるいは複数同時に計測する必要性を考慮する必要がある。それに加え、小型化のため、
複雑な光学系を持たない構成が望ましい。また、リアルタイム性についてはジェスチャや図形等を描 画すること、また人の手の動きを取得することを想定し、1000[Hz]程度まで高速化できる手法が求め られる。
このようなシステムを想定し、本研究では赤外線LED及び、赤外線リモコン用受光素子を用いて、
デジタル的に、なおかつレンズを使用せず、空間に投影するパターンとしてシングルトラックグレイ コードを用いた空間エンコーダを提案する。
なお、空間に位置情報を光のパターンで送信するユニットをパターンプロジェクタ、また、空間の 光のパターンを受光する部分をデバイスと呼ぶこととする。
4.2.2 関連研究
このようなシステムはすでに、PSD(Position Sensitive Detector)と呼ばれる、受光した光の重 心を計測できる光センサを用いて、実用化されている。この光センサは、複数の出力ポートを持った フォトダイオードと光学系から構成されており、フォトダイオード上に結像した重心によって、出力 電流が比例配分される。そのため、直接光源方向を取得できるため、単一の光源であれば高速に計 測可能である。しかしながら、この手法ではアナログであるために角度校正が必要となり、またオフ セットドリフトなどが発生する。外乱光のの影響もあるため、今回の用途には不十分である。
また、高速なカメラモジュールを用いたシステムもゲーム機などにすでに採用されている。例えば、
スティック型の形状を持ち、位置を取得するシステムなどは完成された性能をもつ。しかしながら、
カメラを使うことから多数のデバイスへの内蔵は難しい。
一方、画像処理を用いて位置情報を正確に取り込むシステムとして、ARToolKit[41]が公開されて いる。白黒の平面マーカとビデオカメラを組み合わせたシステムで研究分野において広く使われてい
る。ArToolkitは、キャリブレーションしたビデオカメラにより、現実空間の平面マーカを読み取り、
マーカ座標を正確に計測し、コンピュータにより合成された映像を重畳することができるライブラリ である。そのため、位置情報を正確に取り込むシステムとしても使われる。本システムの問題点とし てはリアルタイム性はビデオレート以下になり、精度もマーカに当たる光やカメラ画像の明るさなど に左右される点が挙げられる。
また、異なる種類のシステムとしてタッチパネルも同様の用途に使われている。しかしこの方法で はあらかじめパネルを作業空間に設置する必要があることや空間内の位置情報は得られないことが問 題となる。
他にもKarriらのShadowtrackにおいてはM系列の乱数マスクを回転しながら空間に投影するこ
とによって、空間に位置情報を投影し、取得するシステムについて研究をおこなっている[42]。この 研究におけるプロジェクタは全周囲に発光する線光源と、円筒形M系列マスクパターンと、回転機構 から構成されている。マスクパターンは円筒の上下方向は同色となる。このプロジェクタは一定速度 で回転するパターンを投影しているが、受光側の場所では一定周期のM系列乱数パターンを受信する ことになる。受光側はこのパターンを受信し、送信したパターンとの位相差を計測することにより、
送信部からの方位角が測定可能である。この手法では、送信側には機械的回転機構があること、受信 側では計測時間に機械的に一回転する時間が必要であり、2つの波形の相関の計算が必要であること から簡単な機構とは考えにくい。
次に、第4章で述べた通り、小型で1次元情報投影プロジェクタを図4.18に示す。本システムで はグレイコードのパターンを持つスライドマスクと複数の光源(図では4[bit]システムの説明を行っ ている)を準備し、図のような関係に配置する。時分割で各光源を駆動することで、空間中にグレイ コードパターンを投影することができる。受光側では、場所に応じたグレイコードの位置情報を受信 できる。本システムでは光源に赤外線LEDを使っており、On/OFF切り替えは高速であることから、
位置情報投影期間がとても短いことが特徴である。
位置分解能を向上するためにはマスクの数を増やす必要があるが、光源とマスクの取り付け精度は 高い精度で合わせる必要がある。特に、筐体の大型化と共にマスクの印刷精度などを保つのが難しい といった問題が考えられる。そこで、筐体の小型化を目指した1次元情報投影プロジェクタについて 述べる。
VWELWOLJKW QGELWOLJKW
UGELWOLJKW
/6%ELWOLJKW
0DVN
,PDJHRQWKHVFUHHQ
0DUNHU 3URMHFWRU
W
図4.18: 1次元情報投影プロジェクタ
4.2.3 シングルトラックグレイコード
ロボットなどを含むメカトロニクス装置には各種のロータリエンコーダが使われているが、絶対値 ロータリエンコーダとは図4.19のような構造をもち回転角を出力する回転角計測装置である。通常 は対称型のグレイコードをパターンマスクに描画してあり、分解能5[bit]型では表4.5に示すとおり 5トラックのパターンが存在し、一周を32分割する角度毎に異なる値を出力することができる。
この改良型としてHiltgenらによって提案[39]されたシングルトラックグレイコード(以後STGC と呼ぶ)型絶対値エンコーダが開発されている。このエンコーダは図4.20のように入力シャフトと 1トラックのパターンマスク、位相の異なる5カ所に置かれた検出器から構成される。
ここで使われる分解能5[bit]のSTGCパターンは表4.6に示される通りであるが、特徴があり5[bit]
の各bitのデータは他のbitと同じ順列で位相だけが異なるものである。その特徴により、実際のエン コーダの構造としては、1トラックのパターンのみ書き込み、検出器の位置を位相の異なる場所に設 置することで実現可能となる。これにより上記のシングルトラックグレイコードの条件を満たすコー ドパターンを出力できるようになっている。
コード長をnとしたときn= 3における、一般的な対称型グレイコードは [000,001,011,010,110,111,101,100]
で表せ、これを実際のエンコーダに実装するトラックに書き込む形式を行列Sと表すことにし、以下 に表す。