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第7章  上級学習者の「の」の過剰使用にみられる言語転移の様相

第1節  横断的な誤用訂正調査

7‑1‑2 調査の方法

第6章の文法性判断テストと同様の被調査者に対して行った、 OP I,即時的処理 を求める文法性判断テスト,時間的余裕を与える誤用訂正テストを行うという一連の 調査のうち,本節では誤用訂正テストを分析の対象とする。

OP I一郎時的処理を求める文法性判断テスト

誤用訂正テストは,時間が与えられ、通常の筆記試験などで要求される文法的な言 語知識を測定するものである。文法性判断テストと同じ問題文について、別冊にて順 序を変えて配置したものを配布し,問題文の名詞句の下線部分の文法性を正誤で判断 させたo また,誤りの場合,下線部を正しく訂正するよう指示したo文法性判断テス

トの後,リラックス用の音楽を流しながら雑談した後,学習者の背景についてのアン ケートを行ない、その後誤用訂正テストを実施した。これは,疲労度を考慮し,前に 行った学習効果を出来るだけ抑えるためである。また、先のテストとは異なり今度は

ゆっくりと自分のペースで行うように,文を提示しながら日本語で指示した。前の問 題には戻らないように指示し,全80間中,各40問のセクションごとに好きなだけ休 憩するように指示したo 要因計画も文法性判断テストと同様であったo

(問題例)韓‡、の南島を轟韻したので、護れました. ( × )

7‑1‑3 調査の結果

正しく判断し,かつ誤用を正しく訂正できているものを正答とみなして1点を与え (判断と訂正に違いがあったのは全回答中2間のみ)、不正解及び無答には0点を与え た。誤用、正用各々に対して,各条件の平均得点を平均得点と標準偏差を表22、表23, 表24に示す。図7、図8,図9,図10にグラフ化したものを示す。

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表22 誤用訂正テスト誤用判断の平均得点と標準

イ形容詞    ナ形容詞     動詞      名詞 中国語  4.60(0.66)  4.30(0.64)  4.60(0.92)  3.90(1.38) 韓国語  4.70(0.64)  4.20(0.75)  4.80(0.40)  4. 50(1.20)

英 語  4.50(0.92)  4.00(0.63)  4.90(0.30)  4.4(0.80)

(注) ( )内は標準偏差

表23 誤用訂正テスト正用判断の平均得点と標準

イ形容詞    ナ形容詞     動詞      名詞 中国語  4. 80(0.40)  4.80(0. 40)  4. 70(0.46)  4. 80(0.40) 韓国語  4. 70(0. 90)   90(0. 30)   50(0. 67)  4. 70(0. 90)

英 語  4.90(0.30)  4.50(0.67)  4.50(1.21)  4.80(0.40)

(注) ( )内は標準偏差

表24 誤用訂正テスト「ユニット」の平均得点と標準偏差 誤用判断      正用判断 中国語     8.9(1.36)        9.5(0.81) 韓国語     9. 1(2.07)        9.6(0.66)

英 語     8.3(1.68)        8.9(1.04)

(注) ( )内は標準偏差

図7 訂正テスト誤用の判断得点の平均

図8 訂正テスト正用の判断得点の平均

93

o   c y

>

c o   r

<

O   L O

^ c o   c M

1 0

=二 二 二 ‥≡==㌻二==三=1=≡二=≡二=二≡二=≡ニ=≡二==≡二====≡二===二 ==■二二:二=二 ===二==二==二 ==二 ==二====‥=二二==二=■ ≡=≡=キ二=≡=二=…こ==‥=≡二=≡==≡ ‥=L二= =≡==≡==三===≡=≡=‥≡==≡二

中国語 韓国語       英語

図9 訂正テスト「ユニット」誤用の判断得点の平均

図10 訂正テスト「ユニット」正用の判断得点の平均

上記の結果から、誤用訂正テストの結果はいずれも平均得点が高いことが明らかと なった。

分散分析の結果、誤用の判断については母語に主効果が見られず、品詞に主効果が 見られ(^(3.81)=3.76,p<.05) ,動詞よりもナ形容詞の方が成績が有意に低い(p<.05)

ことが示された。母語×品詞の交互作用は有意でなかった。正用の正判断については 主効果も交互作用もみられなかった。

「ユニット」の誤用、正用判断は共に母語による有意な差はなかった。

つまり,誤用訂正テストによる文法的な言語知識には、母語による有意な差はない ことが認められた。成績は母語にかかわらず高いことから,上級学習者は理解レベル では「の」の使用に関する正しい知識を有しており,その知識に母語による差はなく, 言語転移は認められないことが明らかとなったo 文法性判断テストにみられた母語に

よる差が誤用訂正テストにはみられなかったことにより、言語転移は理解レベルでは なく、即時性が求められるような場合に作用することが示されたと言えるo

また,ナ形容詞が動詞よりも母語にかかわらず低いという結果は、理解レベルにお いて、ナ形容詞を修飾部とする際の「の」の使い方が困難な傾向にあることを示唆す るものであると考える。