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2.3 Tonal Pitch Space (TPS)

2.3.1 概要

Tonal Pitch Space (TPS) [2]は,GTTMの提唱者でもあるLerdahlがGTTMの後に提唱 した,定量的な和声解析のための音楽理論であり,GTTMの曖昧な部分を補完するもの であるが,GTTMとは独立した理論となっている.この理論ではピッチ間,和音間,およ び調間に定量的な距離を与え,隣接するピッチ間,和音間,および調間の距離が近ければ 近いほどその進行は安定的で心地よく,距離が遠ければ遠いほどその進行は不自然で違和 感のあるものと解釈される.

TPSは調性的な緊張と弛緩の構造や,GTTMにおける安定性の概念,プロロンゲーショ ン簡約の補完などにも言及しているが,本節では,本研究における和声解析に利用した和 音間距離に限定して解説する.

2.3.2 和音間距離計算に必要な概念

本節では,TPSにおける和音間距離の計算に用いられるTPS独特の概念について解説 する.なお,短調は自然的短音階を前提とする.

ベーシックスペース

TPSではそれぞれの和音に対してベーシックスペース(basic space)を定義する.これに ついて,図2.34に示すI/Cのベーシックスペースを例に説明する.

levela(root): 0

levelb(fifth): 0 7

levelc(triadic): 0 4 7

leveld(diatonic): 0 2 4 5 7 9 11

levele(chromatic): 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 図2.34: I/Cのベーシックスペース

ベーシックスペースでは,12音平均律におけるp0∼p11のピッチクラスについて,あ る和音における重要度を表している.ベーシックスペースは5つのレベルaeから構 成され,aから順にroot (根音),fifth (根音と第5音),triadic (三和音),diatonic (全音階),

chromatic (半音階)と並んでおり,aが最も重要度の高いレベルである.それぞれのレベル

は,aが根音,bが根音と第5音,cが和音の構成音,dが音階の構成音を持ち,最下レベ ルのeは12個すべてのピッチを持つ.図2.34の例では,I/Cはバークリーメソッドでは Cであり,その構成音はC (p0,根音),E (p4,第3音),G (p7,第5音)である.したがっ て,レベルaはp0のみ,レベルbはp0とp7,レベルcはp0,p4,p7の3つをそれぞれ

持つ.また,この和音はC majorの上にあり,その音階の構成音は和音構成音にD (p2),

F (p5),A (p9),B (p11)を加えた7音であり,それらがレベルdに置かれる.

五度圏

一般的な調の五度圏(regional circle of fifths)については2.1.2節で説明した通りだが,

TPSではこれに加えて和音の五度圏(chordal circle of fifths)を定義する.和音の五度圏は 音階の構成音のみからなる五度圏であり,各音度上の三和音,またはその根音のピッチク ラスが図2.35に示すように時計回りに5度ずつ並べられる.ここで,基本的に隣り合う ピッチ間の音程は完全5度だが,長音階ではvii度音とiv度音,自然的短音階ではii度音 とvi度音の音程のみ減5度となることに注意が必要である.

0(I) 5(IV)

11(vii°)

4(iii) 9(vi)

2(ii) 7(V)

図2.35: 和音の五度圏(C major)

調空間

TPSでは調を平面上に並べ,図2.36のような調空間(regional space)を設定する.調空 間において,縦方向に隣接する調は属調および下属調の関係にあり,ある調の上にその属 調,下にその下属調が配置される.また,横方向に隣接する調は同主調または平行調の関 係にあり,ある長調の左にその平行調,右にその同主調が配置される(短調に対しては逆 に,左に同主調,右に平行調が配置される).

この調空間ではある調から上に3つ,右に2つ移動すると元の調に戻る.あるいは縦方 向に12回,または横方向に8回移動しても元の調に戻る(異名同音を同じものと扱う).こ れらのことから,調空間は螺旋状のトーラスであることがわかり,その様子は図2.37に見 ることができる.図中,赤色の矢印が縦方向,青色の矢印が横方向に1周する経路を示す.

...

d♯ F♯ f♯ A a C c

g♯ B b D d F f

c♯ E e G g B♭ b♭

· · · f♯ A a C c E♭ e♭ · · ·

b D d F f A♭ a♭

e G g B♭ b♭ D♭ d♭ a C c E♭ e♭ G♭ g♭

...

図2.36: 調空間

C

F

c

D♭

G♭

(d♭)

c E

D

G B

d

E

A

e e

A

B♭

f F

F

f

g

a D

a

b♭

B b

G

図2.37: 調空間とトーラス([2] p.66,図2.23を基に作成)