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2.3 Tonal Pitch Space (TPS)

2.3.3 和音間距離

ここでも,レベルd上で4ステップという音程は5度に相当する.このルールにおいて 注意しなければならないのは,RxRyが同一または平行調でない場合は,それぞれのベー シックスペースのレベルdや和音の五度圏の内容が異なるということである.特に,和音 xの構成音が調Ryの構成音でない場合が問題となる.このような場合の扱いについては 原著では明文化されていないが,本研究ではregional circle-of-fifths ruleの適用時にレベル c以上の内容を補正し,その適用後のベーシックスペースに対してchordal circle-of-fifths ruleを適用することとする.ここで,regional circle-of-fifths ruleを1回適用するごとに1 つずつピッチが入れ替わることから,ルールの適用前後のレベルdを比較することで補正 すべきピッチクラスを同定可能である.例えば,δ(I/C,iii/D)を考えると,両ルールを図 2.38のように適用していくことになる.

また,和音の五度圏と対応していることからもわかるように,実際の計算においては両 和音の根音のみを比較しても問題ない.したがって,Rxの和音の五度圏をRyの和音の五 度圏に移した上で,五度圏の円周に沿った両根音の距離を数えることでchord(x,y)を計算 可能である.

levela(root): 0

levelb(fifth): 0 7

levelc(triadic): 0 4 7

leveld(diatonic): 0 2 4 5 7 9 11

levele(chromatic): 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1. BSI/C

levela(root): 1

levelb(fifth): 1 7

levelc(triadic): 1 4 7

leveld(diatonic): 1 2 4 6 7 9 11

levele(chromatic): 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 2. 1.にregional circle-of-fifths ruleを右に2回適用した後

levela(root): 6

levelb(fifth): 1 6

levelc(triadic): 1 6 9

leveld(diatonic): 1 2 4 6 7 9 11

levele(chromatic): 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 3. 2.にchordal circle-of-fifths ruleを左に1回適用した後(BSiii/D)

図2.38: 五度圏ルールの適用例(δ(I/C,iii/D))

第3項のbasicspace(x,y)はベーシックスペース距離である.これは両和音のベーシッ

クスペースを比較し,差分を取ることで計算する.従来の定義では,BSyにのみ存在する ピッチクラスの数をbasicspace(x,y)としていたが,この定義では三和音と四和音など両 和音のベーシックスペースに含まれる総ピッチクラス数が異なる場合にbasicspace(x,y), basicspace(y,x)となってしまい,対称性が失われるという問題がある.本研究ではBSxに のみ存在するピッチクラスの数とBSyにのみ存在するピッチクラスの数のうちより大き い方をbasicspace(x,y)として定義する.

図2.39にベーシックスペース距離basicspace(I/C,iv/e)の計算例を示す.図中,一方の ベーシックスペースにのみ存在するピッチクラスには下線を引いており,これを数えると basicspace(I/C,iv/e)= 5となる.

levela(root): 0

levelb(fifth): 0 7

levelc(triadic): 0 4 7

leveld(diatonic): 0 2 4 5 7 9 11

levele(chromatic): 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 BSI/C

levela(root): 9

levelb(fifth): 4 9

levelc(triadic): 0 4 9

leveld(diatonic): 0 2 4 6 7 9 11

levele(chromatic): 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 BSiv/e

図2.39: ベーシックスペース距離の計算例

遠隔調の和音間距離

RxRyが互いに遠隔調であるとき,和音間距離δ(x,y)は2.3式で定義される調間距離 (regional distance)∆(R1,Rn)を用いて,以下の2.2式で与えられる.なお,ここでTRは調 Rの主和音(Iまたはi)である.また,C(R)は調Rの近親調の集合であり,2.1.2節で述べ た近親調の定義に従って2.4式で表される.

δ(x,y)=min{δ(x,TR1)+ ∆(R1,Rn)+δ(TRn,y)|R1C(Rx),RnC(Ry)} (2.2)

∆(R1,Rn)=min{

n1

i=1

δ(TRi,TRi+1)|Ri+1C(Ri)} (2.3)



C(I)={i,ii,iii,IV,V,vi}

C(i)={I, ♭III,iv,v, ♭VI, ♭VII} (2.4) 2.2式の意味するところは,遠隔調にある和音は直接その距離を測らずに,調空間にお いて近親調を辿りながら目的の和音まで到達する最短経路を探索し,その経路上における 和音間距離の総和を求めることで和音間距離を導出するということである.第1項は和音 xからRxの近親調R1の主和音まで,第3項はRyの近親調Rnの主和音から和音yまでの和 音間距離であり,これは2.1式によって計算できる.第2項はRxRyそれぞれの近親調 間の距離であり,調間距離はそれぞれの調の主和音同士の和音間距離と同義である.近親 調はある調に対して6つ存在することから,遠隔調の和音間距離はR1Rnの6×6=36 通りの組み合わせから最小値を求めることで得られる.

ここで,第2項にあたる調間距離を図2.40にまとめる.各調は調空間に沿って配置し ており,()内の数字がIまたはiからの調間距離を表す.図中,凸型で囲った範囲は中心 の調Iまたはiの近親調を示す.

VII(23) vii(16) II(14)

♯i(23) III(16) iii(9) V(7) v(14)

♯IV(28) ♯iv(21) VI(14) vi(7) I(0) i(7) ♭III(14) ♭iii(21) ii(10) IV(7) iv(14) ♭VI(16) ♭vi(23)

♭VII(14) ♭vii(21) ♭II(23) 長調Iから各調への調間距離

vii(23) II(21) ii(14)

III(23) iii(16) V(14) v(7) ♭VII(10)

♯iv(28) VI(21) vi(14) I(7) i(0) ♭III(7) ♭iii(14) ♭V(21) IV(14) iv(7) ♭VI(9) ♭vi(16) ♭I(23)

♭vii(14) ♭II(16) ♭ii(23) 短調iから各調への調間距離

図2.40: 調間距離

以上をまとめると,和音間距離は以下の2.5式で定義される.RxC(Ry)とRyC(Rx) の真偽は等価である.

δ(x,y)=







region(x,y)+chord(x,y)+basicspace(x,y) (RxC(Ry)) min{δ(x,TR1)+min{

n−1 i=1

δ(TRi,TRi+1)|Ri+1C(Ri)}+δ(TRn,y)

|R1C(Rx),RnC(Ry)}

(Rx <C(Ry)) (2.5)

第 3 章 計算論的音楽理論の実装に関する