巻第 1 号」に掲載された論文に対して加筆・修正を加えたものである。
78 2) 高齢者施設入居者の家族
高齢者施設入居者の家族の場合は、「介護老人保健施設もしくは(特別養護・養護・軽費・
有料)老人ホームに入居している婚姻や血縁の関係にある親族がいる」の条件でスクリーニ ングを実施した。条件に合致した 9,035 名の中から無作為抽出した 396 名に協力を求めた (調査期間:2013 年 12 月)。
半構成的面接調査は、上記した訪問看護利用者の家族と同様の手法によって 5 名の家族 を抽出した(調査期間:2014 年 1 月から 3 月)。
3) 調査内容
質問票や面接調査における質問内容の概略は、以下のとおりである。
【質問票調査】
(1)家族属性:性別、年齢、職業
(2)利用者属性:性別、年齢、利用年数、利用頻度 (3)医師による定期的な受診行動(頻度・場所・主な理由)
(4)利用者が希望する時や体調の悪化が生じた時など、必要時、医師による 24 時間 365 日 対応の診療サービスが受けられているか
(5)医師による 24 時間 365 日対応の診療サービスが受けられない場合に困ると思われる内 容
(6)看護師による医行為実施に対する賛否、実施条件について
① 診察が、看護師によって行われることへの賛否や実施条件
② 利用者の状態に応じて、看護師の判断で検査実施の判断が行われることへの賛否や実施 条件
③ 看護師による診断によって、その治療に必要となる薬物処方が行われることへの賛否や 実施条件
【面接調査】
(1) 利用者や家族が、医師の診察が必要と考えた時、すぐに診察が受けられないが故に、
療養生活上で困ったことや不安内容、諦めている具体的内容に関して。更に、今後に おいて推測される問題点について。
(2) 医師の診察を受けたい、もしくは、受けなければならないが、すぐに医師の診察が受 けられないことを想定した場合、看護師に診療(診察実施、検査実施判断、薬物処方、
今までは医師が担ってきたであろう医療処置の実施)をしてもらいたいと考えるか否 かについて。
(3)(2)の質問に対する回答内容に応じて、「看護師の診療でも良い、もしくは、この診療の 方が良い」と考えた理由。更に、診療を許可する場合の条件の有無や内容について。
(4)(2)の質問に対する回答内容に応じて、「いかなる場合も医師の診療が良い」と考えた理
79 由。
(5)(2)の質問に対する回答内容に応じて、「どちらの診療でも良い」と考えた理由。
(6)看護師が医行為を実施することを想定した場合、「医師の具体的な指示」、「医師による 包括指示」、「必ずしも医師の指示を必要としない」の、いずれかの条件のうち、どれを より求めるか。
4) 分析方法
質問票データの解析方法としては、IBM SPSS Statistics Ver.22(Option Exact test 含 む)を用いて基本的な属性等の集計を行った。その後、看護師が行う診療に対する認識と、
家族・療養者の属性や診療状況との関連については、X2検定(期待度数 5 未満のセルが全セ ルに対して 20%以上存在する場合は Fisher の正確確率検定を実施した)により分析し、有意 確率と Cramer の V を求めた。推定統計を実施するに当たっては、訪問看護利用者家族に対 する調査の場合の母集団は調査会社モニター8,807 名、高齢者施設入居者家族の場合は 9,035 名と想定した上で、この全体の傾向性の把握を目的とした。
半構成的面接調査データは、第 4 章に記した質的帰納的方法と同様の手法で分析した。
5) 倫理的配慮
「創価大学人を対象とする研究倫理審査」の承認を受けて実施した。研究対象者には、
本研究の主旨、参加と中断の自由、匿名性、個人情報の守秘性、研究終了後のデータ源の 消去、参加拒否によって不利益を被らないこと等を説明した。
調査票は無記名回答とし、返送によって同意を得たものとした。半構成的面接調査の実 施においては、口頭と文書で同意を得た。
3.調査結果
3.1 訪問看護利用者の家族に対して実施した質問票調査と半構成的面接調査の結果 1) 質問票調査の結果
訪問看護利用者の家族から得られた有効回答者数は 300 名、有効回収率は 65.9%であった。
① 家族及び利用者の概要(表 5-1)
家族の性別は、男性 192 人(64.0%)、女性 108 人(36.0%)と男性の方が多く、平均年齢 は 53.13±11.18 歳であった。利用者の性別は、男性 133 人(44.3%)、女性 167 人(55.7%) と、女性の方が多く、平均年齢は 71.04±18.43 歳であった。
80
② 医師による診療をタイムリーに受けられる環境の有無
家族(n=300)からの回答によると、利用者の状態変化等に応じて、24 時間 365 日、医師に よるタイムリーな診療が受けられる環境にあると回答した者は 105 名(35%)、タイムリー な診療を受けられる環境にないと回答した家族は 195 名(65%)であった。更に、医師によ るタイムリーな診療が受けられる環境にないと回答した 195 名に対して、「希望時に医師の 診療が受けられないために困ることの有無」に関して質問した結果、113 名(57.9%)が「あ る」と回答した。8 割以上の家族が、困る内容として「利用者の急な症状出現への対応」を 挙げた。
③ 看護師が行う医行為に対する認識
表 5-2 には、看護師による医行為(診察、薬物処方、検査実施判断)に対する家族の認識 結果を示した。この表では、それぞれの医行為に対する家族の認識について、「無条件で肯 定」、「条件付きで肯定」、「否定」というように 3 段階に分け、認識別の割合を表した。
無条件で看護師による診察を許可すると答えた家族割合は 31.0%、薬物処方 14.3%、検 査実施判断 11.3%であった。また、6 割以上の家族が、条件付きで看護師による医行為を 容認した。そして、無条件で肯定する家族と、条件付きで肯定する家族を合わせた場合、
診察は 9 割以上、薬物処方では 8 割弱、検査実施判断については 8 割以上となった。看護 師による医行為実施の条件として上位を占めた内容は、「事前に医師の許可があること」、
「看護師経験に加えて医学・薬学等の専門知識を習得していること」、であった。
逆に、必ず医師の実施を希望する家族割合は、診察 7.3%、薬物処方 21.0%、検査実施 判断 13.3%となった。
n=300
性別(%) 男性192 (64.0) 女性108(36.0)
年齢平均±SD(range) 53.13±11.18 (25~85)
職業(%)
公務員・会社員 183(61.0) 無職・定年退職 77(25.7) 専業主婦/主夫 33(11.0) その他 6(2.0)
学生 1(0.3)
性別(%) 男性 133(44.3) 女性 167(55.7)
平均年齢±SD 71.04±18.43
家族
利用者
表5-1. 家族及び利用者の概要(質問票)
81
④ 看護師が行う医行為に対する認識と、家族・利用者の属性や診療状況との関連
表 5-3 では、先に示した表 5-2 に準じながら、看護師が実施する医行為に対する家族の 認識と、家族・利用者の属性や診療状況との関連性をクロス表にまとめ、X2検定を実施し、
必要に応じて Fisher の正確確率検定も行い、有意確率と Cramer の V を求めた。
この推定値から、家族の性別と、看護師による診察に対する認識の間においては 1%水準 で有意であり、関連性が認められた(CramerV は 0.233)。男性の方が、有意に、看護師の診 察を無条件で肯定する頻度が多い結果になった(調整済み残差 4.0)。更に、女性の方が、看 護師の診察を条件付きで肯定する頻度が多くなっていた(調整済み残差 3.6)。家族や利用者 の年齢、医師による診療頻度、訪問看護頻度、医師によるタイムリーな診療が受けられる 環境の有無を示す変数と、看護師による診察に対する認識変数との間では、関連が必ずし もあるとは言い切れない結果が示された。
看護師による薬物処方に対する認識では、家族の年齢及び訪問看護頻度との変数間で関 看護師による診察に
対する認識 n(%) 肯定・否 定の割合
看護師による薬物
処方に対する認識 n(%) 肯定・否 定の割合
看護師による検査実施
判断に対する認識 n(%) 肯定・否 定の割合 無条件で許可できる 93(31)
無条件で 肯定 31.0%
無条件で許可でき
る 43(14.3)
無条件で 肯定 14.3%
無条件で許可できる 34(11.3) 無条件で
肯定 11.3%
看護師経験が多いの であれば受けてもよ い
10(3.3)
看護師経験年数が 多い看護師による 処方であれば許可
11(3.7)
看護経験年数の多い看 護師の判断・実施なら ば許可
17(5.7)
看護経験に加えて、
医学知識を習得した 看護師ならば受けて もよい
57(19.0)
看護師経験に加え て、医学・薬学等 の知識を習得した ならば許可
55(18.3)
看護師経験に加えて、
医学知識を習得した看 護師の判断・実施なら ば許可
59(19.7)
24時間対応であれば
受けてもよい 32(10.7) 24時間対応ならば
許可 16(5.3) 緊急時の検査として必
要ならば許可 38(12.7) 医師によるものと比
較して割安であれば 受けてもよい
13(4.3)
医師による処方と 比較して割安なら ば許可
11(3.7) 医師によるものと比較 して割安ならば許可 5(1.7) 頻繁に関わりのある
看護師ならば受けて もよい
23(7.7)
頻繁に関わりのあ る看護師の処方な らば許可
13(4.3)
頻繁に関わりのある看 護師の判断・実施なら ば許可
19(6.3) 事前に医師の許可が
あるのであれば受け てもよい
30(10.0)
事前に医師が許可 している範囲内で あれば許可
88(29.3)
事前に医師が許可した 範囲内の検査であれば 許可
88(29.3) 症状が安定している
時ならば受けてもよ い
20(6.7) 必ず医師による処
方を希望 63(21.0) 否定 21.0%
必ず医師の実施判断を
希望 40(13.3) 否定
13.3%
必ず医師の診察を希
望 22(7.3) 否定
7.3%
条件付き で肯定
61.7%
条件付き で肯定
64.6%
条件付き で肯定
75.4%
表5-2. 看護師が行う医行為に対する認識
n=300
82
連性が示された(CramerV は 0.158、0.150)。65 歳以上の家族は、有意に、無条件で薬物処 方を肯定する頻度が多くなっていた(調整済み残差 2.0)。50 歳未満の家族の場合、条件付 きでそれを肯定する頻度が多かった(調整済み残差 2.9)。訪問看護頻度が週に 1 日未満の場 合では、無条件で肯定する頻度が多くなっていた(調整済み残差 2.7)。その頻度が週に 1~
2 日程度の場合、条件付きで肯定する頻度が多かった(調整済み残差 2.6)。家族の性別や利 用者の年齢、医師による診療頻度、医師によるタイムリーな診療が受けられる環境の有無 に関する変数と、薬物処方に対する認識変数間では、関連性があるとは言い切れない結果 になった。
看護師による検査実施の判断に対する認識については、5%水準で訪問看護頻度との関連 が認められた(CramerV0.137)。その頻度が週に 1~2 日程度の場合、有意に、条件付きで肯 定する頻度が多くなっていた(調整済み残差 3.2)その他、利用者の医師による診療頻度や、
24 時間対応で医師による診察が可能な環境にあるか否か、家族・利用者の年齢といった内 容を示す変数と、看護師が行う検査実施判断を示す変数の間では、必ずしも関連性がある とは言えない結果になった。
n=300
無条件で肯定 条件付きで肯定必ず医師による診
察を希望 CramerのV 有意確率a 無条件で肯定 条件付きで肯定必ず医師による処
方を希望 CramerのV 有意確率a 無条件で肯定 条件付きで肯定必ず医師による
判断を希望 CramerのV 有意確率a 男 75人(39.1%) 104人(54.2%) 13人(6.8%) 33人(17.2%) 118人(61.5%) 41人(21.4%) 27人(14.1%) 140人(72.9%) 25人(13.0%)
女 18人(16.7%) 81人(75%) 9人(8.3%) 10人(9.3%) 76人(70.4%) 22人(20.4%) 7人(6.5%) 86人(79.6%) 15人(13.9%) 50歳未満 35人(34.0%) 65人(63.1%) 3人(2.9%) 13人(12.6%) 78人(75.7%) 12人(11.7%) 11人(10.7%) 81人(78.6%) 11人(10.7%) 50~64歳 43人(28.5%) 92人(60.9%) 16人(10.6%) 19人(12.6%) 89人(58.9%) 43人(28.5%) 19人(12.6%) 107人(70.9%) 25人(16.6%) 65歳以上 15人(32.6%) 28人(60.9%) 3人(6.5%) 11人(23.9%) 27人(58.7%) 8人(17.4%) 4人(8.7%) 38人(82.6%) 4人(8.7%) 1回以上/月 66人(30.7%) 136人(63.3%) 13人(6%) 26人(12.1%) 142人(66.0%) 47人(21.9%) 21人(9.8%) 166人(77.2%) 28人(13.0%) 1回程度/2~3ヵ月 14人(36.8%) 22人(57.9%) 2人(5.3%) 8人(21.1%) 23人(60.5%) 7人(18.4%) 6人(15.8%) 26人(68.4%) 6人(15.8%) 必要に応じて適宜 13人(27.7%) 27人(57.4%) 7人(14.9%) 9人(19.1%) 29人(61.7%) 9人(19.1%) 7人(14.9%) 34人(72.3%) 6人(12.8%) 65歳未満 32人(32.3%) 57人(57.6%) 10人(10.1%) 18人(18.2%) 58人(58.6%) 23人(23.2%) 12人(12.1%) 69人(69.7%) 18人(18.2%) 65歳以上 61人(30.3%) 128人(63.7%) 12人(6.0%) 25人(12.4%) 136人(67.4%) 40人(19.9%) 22人(10.9%) 157人(78.1%) 22人(10.9%) ある 38人(36.2%) 60人(57.1%) 7人(6.7%) 15人(14.3%) 71人(67.6%) 19人(18.1%) 16人(15.2%) 78人(74.3%) 11人(10.5%) ない 55人(28.2%) 125人(64.1%) 15人(7.7%) 28人(14.4%) 123人(63.1%) 44人(22.6%) 18人(9.2%) 148人(75.9%) 29人(14.9%) 訪問看護頻度が3
日以上/週 16人(34.0%) 27人(57.4%) 4人(8.5%) 8人(17.0%) 25人(53.2%) 14人(29.8%) 7人(14.9%) 31人(66.0%) 9人(19.1%) 訪問看護頻度が1
~2日程度/週 37人(30.6%) 80人(66.1%) 4人(3.3%) 8人(6.6%) 89人(73.6%) 24人(19.8%) 7人(5.8%) 103人(85.1%) 11人(9.1%) 訪問看護頻度が1
日未満/週 40人(30.3%) 78人(59.1%) 14人(10.6%) 27人(20.5%) 80人(60.6%) 25人(18.9%) 20人(15.2%) 92人(69.7%) 20人(15.2%) 註1) a = カイ2乗検定又はフィッシャーの正確確率検定
n.s.
0.103 n.s.
医師による診 察が24時間タ イムりにー受 けられる環境 の有無
0.082
0.15 0.009** 0.137 0.023* n.s.
n.s.
利用者の年齢 0.082
表5-3. 看護師による診療に対する認識と家族及び利用者の属性・診療状況との関連
看護師による診察
0.114 n.s.
0.08 n.s.
看護師による薬物処方 看護師による検査実施の判断
0.114 n.s.
0.158 0.005**
0.073 n.s.
0.095 n.s.
0.053 n.s.
0.061 n.s.
0.105
註2) ** : p <0.01 *:p <0.05
0.233 0.000**
家族の性別
家族の年齢 0.097 n.s.
n.s.
利用者の医師 による診療頻 度
0.094
訪問看護頻度 0.096 n.s.