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第 3 章 計算結果

3.1 平面衝撃波伝播問題

3.3.1 分散波形成の概要

振動エネルギー準位の遷移過程を計算しながら3.2と同様な計算を行った結果の概要について報告する.特に,

振動-振動エネルギー交換および振動-並進エネルギー交換過程がどのように衝撃波の分散特性に影響しているかにつ いて例示する.格子点は201点とし,湿度の条件によって適宜計算領域と格子間隔を変えた.上流静止大気の圧力は1 気圧とした.

相対湿度が100%の場合の過剰圧の空間分布を図8に示す. 時刻がt=0 0.1, 0.4, and 100sの結果を示す.分散された 波の近傍を拡大してプロットした.また図9と10に,対応する時刻での温度と各化学種の空間分布も参考として示 す.分散特性の基本的な特徴は,図4の結果とほとんど変わらない:分子間での振動-並進あるいは振動-振動エネルギ ー交換過程により,初期の衝撃波による不連続な物理量増加の傾向は時々刻々と変化し,比較的なめらかな上昇を伴 う波の構造をとる.

図 9の温度分布から,O2 と H2Oの振動エネルギーは波の立ち上がりでほぼ平衡に達し,振動温度の上昇傾向は同 様となることがわかる.このような各化学種の振動温度分布の特性については,図 1 に示した各反応定数から次のよ うに理解できる:H2Oの振動-並進エネルギー交換反応速度定数が他の反応に比べて高く,かつ,O2とH2Oの振動-振 動エネルギー交換が早いため,O2 の振動温度はH2Oの振動温度と平衡となると考えられる. 一方,N2の振動エネル ギーは,H2Oとの振動-並進エネルギー交換反応により励起するが,図1からわかるように,この反応速度はO2とH2O の振動-振動エネルギー交換反応速度に比べると3桁ほど低く,結果として緩やかに並進-回転温度に近づくと考えられ る.

(a) t=0 (b) t=0.1s (c) t=0.4s (d) t=20s 図8 過剰圧分布の変化(T1=295K , hr=100%, ∆p2=30.7Pa)

(a) t=0 (b) t=0.1s (c) t=0.4s (d) t=20s 図9 温度分布の変化(T1=295K , hr=100%, ∆p2=30.7Pa)

(a) t=0 (b) t=0.1s (c) t=0.4s (d) t=20s 図10 正規化された第1励起状態の化学種密度分布の変化(T1=295K , hr=100%, ∆p2=30.7Pa) 3.3.2 テスト問題による2010モデルの検証

表 1に示した反応モデルではなく,N2とO2のみからなる下記の振動-並進エネルギー交換反応だけが振動緩和過程 に寄与すると仮定すると,前述した分散波の定常状態での厳密解との比較が可能となる.ここでは,次のN2とO2の同 分子間でのエネルギー交換反応のみを考える:

図 過剰圧分布の変化 ∆

図 温度分布の変化 ∆

図 正規化された第 励起状態の化学種密度分布の変化 ∆

3.3.2 テスト問題による モデルの検証

表 に示した反応モデルではなく, と のみからなる下記の振動並進エネルギー交換反応だけが振動緩和過程 に寄与すると仮定すると,前述した分散波の定常状態での厳密解との比較が可能となる.ここでは,次の と の同 分子間でのエネルギー交換反応のみを考える

O2(�= 1)+O2⇄O2(�= 0) + O2 (13) N2(�= 1)+N2⇄N2(�= 0) + N2 (14) ここで式(13),(14)の順反応速度定数をそれぞれ2.0×104(atm-s)-1, 2.0×102(atm-s)-1とした.これに対応する振動緩和時 間は詳細釣り合い条件[11]から以下で求められる:

�=���1−exp��� (15)

2つの順反応レートに対応するN2とO2の振動緩和時間を式(15)でもとめ,完全分散された波の厚さを,Clarkeらの 方法[16]で求めた.

(a) 温度分布 (t=500s) (b) 波厚さの時間履歴 図11 テスト計算条件での厳密解と計算解の比較

計算結果と厳密解を比較した.図11(a)に並進温度と各化学種の振動温度とを,図11(b)に波厚さの時間履歴をそれぞ れ示す.図11(a)より厳密解と本計算結果はよく一致している.O2の振動-並進エネルギー交換反応速度をN2のものよ りも100倍高く取ったことで,O2の振動温度と並進-回転温度の空間分布はほぼ同じとなる.また,N2の振動励起反応 が遅れるため並進-回転温度に緩やかに近づいていく.これらはTable1での詳細な反応を計算した時の分散波を定性的 に捉えている.ここで図11(b)より,本計算結果はt=400sにはほぼ定常状態に達し,厳密解から求めた波厚さに漸近し ていることがわかる.

3.3.3 H2O-O2 振動-振動エネルギー交換反応の分散波厚さへの影響

H2O-O2 振動-振動エネルギー交換反応(表 1の反応IV)の影響について調べた.定常状態での過剰圧分布および温度分 布を図12に示す.ここで,反応IVを含めた場合,t=20sまでには定常解に収束し波厚さは約0.2mであった.反応IVを除 いた場合,t=200s程度で定常解に収束し波厚さは約1.6mである.比較のため,図12の各図の横軸は規格化された距離x0/∆ でプロットした.

図12 (a)から,収束した過剰圧分布に反応IVは強く影響することがわかる.両計算結果を比べると,反応IVを含め

た場合,比較的急峻に圧力が上昇する傾向が見て取れる.これは,反応 IVによって O2の振動エネルギーが非常に速 く励起されることに起因する.図12(b)と (c)に示した温度分布から,反応IVによる O2の振動励起の特性の違いがよ り明確にわかる:図12(b)より反応IVによって,TTvO2TvH2Oがほぼ等しくTvN2のみ異なるのに対し,図12 (c)から,

反応IVを無視すると,定量的には温度差は非常に小さいが,TvO2,TvN2の上昇傾向が一致していることがわかる.これ は,N2とO2の振動-並進エネルギー交換反応速度(表1のIとIIc)がほぼ等しいことに起因する.

(a) 過剰圧分布

(b)反応IVあり (c)反応IVなし

図12 H2O-O2振動-振動エネルギー交換反応(IV)が収束した分散波に与える影響(hr=100%) 3.3.4 N2-O2 振動-振動エネルギー交換反応の分散波厚さへの影響

N2-O2振動-振動エネルギー交換反応(表1の反応V)は,O2の振動-並進エネルギー交換反応(表1 II)よりも10倍 程度高く,かなり低い湿度においてのみ,分散波の形成に強く影響すると予想される.大気状態での下限値約10%

よりも低い相対湿度での計算を行い,N2-O2振動-振動エネルギー交換反応の影響を,前節と同様に,当該反応を 含む場合と含まない場合との比較を通して調べる.

図13に相対湿度が1%と0.001%のそれぞれの場合について収束状態の過剰圧分布を比較した.図13(a)より相 対湿度が1%の場合,反応Vの有無によって過剰圧分布はほとんど変わらない.ここで,分散された波の厚さは

約12.8mである.相対湿度が1%の場合,H2Oのモル分率は2.5×10-4であるものの,分散過程に強く影響する主要

因がいまだ水分子であることをこの結果は示唆している.一方,相対湿度を0.001%とした図13(b)の結果では,

反応 V による分散された波の形状の違いが明確にわかる.ここで,反応 V をモデル計算に含めた場合,波の厚 さは360m,除いた場合は14.5kmとなった.

過剰圧分布

反応 あり 反応 なし

図 振動振動エネルギー交換反応 が収束した分散波に与える影響

3.3.4 振動振動エネルギー交換反応の分散波厚さへの影響

振動振動エネルギー交換反応表 の反応 は, の振動並進エネルギー交換反応 表 よりも 倍 程度高く,かなり低い湿度においてのみ,分散波の形成に強く影響すると予想される.大気状態での下限値約 よりも低い相対湿度での計算を行い, 振動振動エネルギー交換反応の影響を,前節と同様に,当該反応を 含む場合と含まない場合との比較を通して調べる.

図 に相対湿度が と のそれぞれの場合について収束状態の過剰圧分布を比較した.図 より相 対湿度が の場合,反応 の有無によって過剰圧分布はほとんど変わらない.ここで,分散された波の厚さは 約 である.相対湿度が の場合, のモル分率は であるものの,分散過程に強く影響する主要 因がいまだ水分子であることをこの結果は示唆している.一方,相対湿度を とした図 の結果では,

反応 による分散された波の形状の違いが明確にわかる.ここで,反応 をモデル計算に含めた場合,波の厚 さは ,除いた場合は となった.

(a) hr=1% (b) hr=0.001%

図13 N2-O2 振動-振動エネルギー交換反応の有無による過剰圧空間分布の比較

(a) 反応Vなし (b) 反応Vあり 図14 N2-O2 振動-振動エネルギー交換反応の有無による温度分布比較(hr=100%):

相対湿度が0.001%について,反応Vを含めた場合と除いた場合で計算した温度分布の結果を図14でそれぞれ 比較した.図14(a)より,定性的な傾向としては図12(b)で示した場合と同様である:H2OとO2の振動温度と並進 -回転温度がほぼ等しく上昇する,部分的に分散された波の形状と同様となる.一方,図14(b)より,反応Vを含 めた場合,各分子の振動温度はほぼ等しく上昇し,完全に分散された波形状に近いものとなる.

3.4 2009モデルと2010モデル間の分散波厚さの比較

相対湿度条件のみを変えて平面衝撃波伝播問題を 2009モデルと 2010モデルでそれぞれ解き,収束解の分散波厚さ を比較した結果を図15に示す.相対湿度が10%から90%の範囲の場合,2010モデルによる波厚さの結果は,2009モ デルよりも最大で約30%程度高くなることがわかった.この結果は,O2の振動エネルギー緩和過程がN2よりもかなり 速くなるような比較的高い湿度領域では,2009モデルで用いたBassらの緩和時間実効モデルが高い精度で分散特性を 予測できることを示唆する.一方,湿度がかなり低い空気の場合,2009モデルで予測される分散波の厚さはLandau-Teller 型モデルを2009モデルの計算結果よりも10倍程度厚くなる.

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