第 4 章 提案手法 43
4.2 既存研究の考察
第3章で挙げた3つの高位レベルにおけるfault-secure設計に関する研究では,
全ての手法で入力CDFGに同一の再計算用CDFGを付加し,そこに時間オーバ ヘッドを付加したり,CDFGをサブCDFGに分割することで可動性を生み出し,
スケジューリングを行うことで面積オーバヘッドを小さくするという方法をとっ たいた.その結果,いずれの手法でも面積オーバヘッド,時間オーバヘッドが2倍 を下回るような設計が可能となった.表4.1に第2章で挙げた最も単純な2つの設 計例と,3つの手法の面積オーバヘッド,時間オーバヘッドを示す.この表をもと に各手法について考察する.
表 4.1: 既存手法の比較.
乗算器数 加算器数 比較器数 面積OH 時間OH
入力 4 2 0 – –
例1 8 4 1 7 0
例2 4 2 1 1 3
Antolaの手法 4 3 1 2 1
Karriの手法 6 3 2 5 0
Wuの手法 4 2 2 2 1
4.2.1 Antola らの手法の考察
Antolaらの手法では,許容される時間オーバヘッドを与えることで,再計算用
CDFGに可動性を与え,アイドリングサイクルを利用することで付加される演算 器数が小さくなるようにスケジューリングを行った.今回の例では演算器の付加 が1で済むというようにいい結果が得られているが,この手法では,入力で与え られている演算器にアイドリングサイクルがあったとしても,再計算用CDFGが くずれるようなスケジューリングは行わないため,演算器削減量は許容する時間 オーバヘッドが十分でないと小さな値しか期待できない.
第4章 提案手法
4.2.2 Karri らの手法の考察
Karriらの手法では,入力CDFGにそれと同一の再計算用CDFGを付加した
あと,その再計算部をいくつかのサブCDFGに分割することでそれぞれのサブ CDFGに可動性を生み出し,時間オーバヘッドの付加なしで付加される演算器数 を抑えるためのスケジューリングを可能とした.この分割操作により,分割したサ ブCDFGのfault-secureを保証するために,付加する比較器の数が増え面積オー バヘッドが増えうる可能性も考えられる.しかし,同様に時間オーバヘッドを許さ ない最も単純な設計例である例1と比べると,1つの比較器の付加で乗算器2つ,
加算器1つを削減している.この結果から再計算用CDFGの分割は有効な手法で あると考えられる.
この手法ではCDFGの分割が重要な点となっていることはすでに述べた.ここ で,問題となるのがfault-secure設計に向いたCDFG分割手法である.fault-secure 設計では通常計算と再計算内の同一オペレーションで同一の演算器をアロケーショ ンすることが許されていない.そのために,既存のスケジューリング手法とは異 なるスケジューリングを行うことになるために既存の分割手法が最適であるとい うわけではないのである.また,このようにfault-secure設計においてはアロケー ションとスケジューリングを分けて考えることはできないが,この手法では完全 に分けてそれぞれの操作を行っている.
4.2.3 Wu らの手法の考察
Wuらの手法は,Karriらの手法で提案された再計算用CDFGの分割手法を An-tolaらが提案した時間オーバヘッドによる手法に組み込んだ手法と言える.また,
この手法は入力として,設計対象となるCDFGと許容される時間オーバヘッドの 他に利用できる演算器の種類とその数を与えておき,その演算器数の中で時間オー バヘッドを小さくしていくという手法であった.
この手法とAntolaらの手法を比較すると,1つの比較器を導入することで1つ
第4章 提案手法 により面積削減に成功していることが示されている.ただし,サブCDFGの分割 数が増えるとfault-secureを補償するために全てのサブCDFGの出力を比較する 必要が生じ,そのサブCDFG分の比較器が必要となる点が面積オーバヘッドの増 大という問題点として残っている.
この手法ではKarriらの手法で触れた,サブCDFGの分割手法と,スケジュー リングとアロケーションの融合に関する改良がなされている.第3章でも記した が,この手法ではサブCDFG分割際に,fault-secure設計のアロケーションを踏 まえた分割がなされている.
4.2.4 3 手法の考察と課題点
これら3つの手法は共通して,付加した再計算用CDFGに可動性を与えること で面積オーバヘッドを小さくしている.特にWuらの手法では,時間オーバヘッ ドを与えたことによる可動性と,再計算用CDFGをサブCDFGに分割すること による可動性の2つの可動性があるために,他の手法よりも面積オーバヘッドを 削減することに成功している.
高位レベルにおけるfault-secure設計ではスケジューリングとアロケーション による方法が主になるため,このようにCDFGの可動性に注目する手法が必然と なっている.今後の研究においてもこの可動性をいかに見出すかが重要となると 考えられる.特にfault-secure設計における,通常計算のオペレーションと再計 算の同一オペレーションが同じ演算器を使用してはならないという定義から,既 存のスケジューリング手法ではそれに続くアロケーションに影響を及ぼすことが 考えられる.また,既存の手法では通常計算CDFGが既にアロケーション済みと なっていることも,あとに続く再計算部のスケジューリング,アロケーションに 影響を与えているしたがって,既存手法における方法で再計算部をスケジューリ ング,アロケーションを行うといった設計では十分に面積オーバヘッド,時間オー バヘッドが削減できているとは言えない.
また,既存の研究では用意したCDFGの再計算部にのみ操作を施すに留まっ ている.これは既存の研究が,あらかじめ設計されたデバイスに後から付加的に
fault-secure設計を行うという方針によるものである.しかし,通常計算部を設計
段階からfault-secure設計を行うという方針のもとで設計を行えばCDFGの通常
第4章 提案手法 計算部の可動性をも利用できることからさらに面積オーバヘッド,時間オーバヘッ ドを削減できる可能性が考えられる.
このような点に注目すれば,高位レベルにおけるfault-secure設計の新たな改良 手法を考えることができると言える.
第4章 提案手法