6.1 総括
6.2 今後の展望
114
6.1 総括
高容量な電池の開発は現代社会へ寄与するところが非常に大きい.これまで リモコン,時計やコードレス電話といった用途でマンガン乾電池やニッケル水 素電池が使用されてきたが,近年は電気自動車や携帯電子端末でリチウムイオ ン電池が使用され,求められる電池容量は飛躍的に増加している.ヨーロッパ諸 国や中国では将来的にガソリン車やディーゼル車の販売禁止あるいは大幅に規 制する方針を掲げ,CO2削減や大気汚染防止のために,電気自動車への転換に向 かっている.しかし,現行のリチウムイオン電池の質量エネルギー密度は満足で きるものではなく,自動車に大量に積載する必要があるため,重量が増加し,ま た,コストが極めて高い.スマートフォンやタブレット等の携帯電子端末は性能 が劇的に向上し,さらに IoT 社会では PC やスマートフォンだけでなく,工場 や家庭でも各種センサー等のデバイスがネットワークにつながるため,これら の電源として小型で軽量な電池が求められている.金属空気電池は電極内部に 正極活物質を入れておく必要がないため,その理論エネルギー密度が極めて大 きい.したがって,金属空気電池は自動車や電子デバイスの次世代の電源として の応用が期待されている.金属空気電池の正極としてガス拡散型電極が使用さ れ,放電時には酸素還元反応が進行するが,この酸素還元反応の反応性の低さが,
金属空気電池のエネルギー変換効率を下げる主な要因となっている.白金担持 カーボンが高い酸素還元活性を示す触媒として知られているが,コストが高く 用途が限られてしまう.そこで白金代替触媒の研究が盛んに進められてきた.ペ ロブスカイト型酸化物は1970年代に,その酸素還元活性が高いことが報告され ており,元素置換によって活性サイトとなる金属の酸化状態を適切に制御する ことによりさらに活性が向上する.しかし,高温で焼成する必要があり,粒子サ イズが大きくなってしまうという課題がある.窒素ドープカーボンは酸素還元 反応,酸素発生反応や二酸化炭素還元反応の触媒として作用することが報告さ れ,その材料コストが極めて低いことから,この十年間で盛んに電極触媒として の応用研究が進められてきた.本研究では,これらのペロブスカイト型酸化物と 窒素ドープカーボン,また,その複合触媒を取り上げ,安定で活性の高い触媒の 材料設計について検討した.以下,各章ごとに,内容および研究結果を要約する.
第 1 章では,金属空気電池の特徴や空気極として用いられるガス拡散型電極 について記述し,触媒層に使用される酸素還元触媒の研究状況や問題点につい て確認した.さらに,窒素ドープカーボンやペロブスカイト型酸化物の性質や機
115
能性に触れ,本研究の概要と目的について述べた.
第 2 章では,窒素ドープポーラスカーボン触媒の調製条件を検討した.カー ボンブラックは大きな比表面積とメソ細孔およびマクロ細孔容積を持つ材料で あり,白金触媒の担体として,よく用いられる.このカーボンブラックに硝酸前 処理もしくは加熱前処理を行った後,シアナミドを窒素源として用いた熱処理 法により,窒素ドープポーラスカーボンを合成した.カーボンブラックの前処理 や熱処理温度によって窒素種およびその濃度が変化するだけでなく,細孔容積 および比表面積が変化した.窒素源として用いたシアナミドは550℃,4時間の 加熱によって重縮合反応が進行してカーボンナイトライドが生成する.これを さらに加熱して 800—1100℃で熱分解して窒素を含むフラグメントを発生させ,
カーボンブラックの表面に窒素をドープした.この発生したフラグメントによ り一次粒子間がエッチングされて細孔容積および比表面積が増大したと考えら れる.硝酸前処理による酸素官能基の導入によって窒素ドープポーラスカーボ ンの窒素ドープ量は大幅に増加したが,細孔構造が部分的に破壊されて細孔容 積および比表面積は減少した.
第 3 章では,窒素ドープポーラスカーボン触媒の酸素還元活性を評価した.
比表面積で規格化した酸素還元電流値は quaternary N の濃度に比例したこと から,合成した窒素ドープポーラスカーボンの活性なサイトはquaternary Nに よって形成されていることが示唆された.窒素ドープポーラスカーボンを触媒 層に用いたガス拡散型電極はカーボンブラックを使用した電極と比較して高い 性能を示し,また,300 mA cm−2の定電流試験において電位はほとんど変化せ ず,高い安定性を示した.
第 4 章では複合触媒に用いた La 系ペロブスカイト型酸化物微粒子触媒につ いて検討した.LaMnO3,LaFeO3およびLa1−xCaxMn0.9Fe0.1O3を逆ミセル法に より合成した.また,比較触媒として電極活性が高いと報告されているLaCoO3
をAMP法により合成した.AMP法により合成した理由は,Co系ペロブスカイ トが逆ミセル法によって調製することができないためである.AMP法で合成し た試料は、粒子の凝集が見られるため低エネルギービーズミルを用いて分散処 理を施した.LaサイトのCa置換が活性サイトとなるBサイトの金属イオンに 及ぼす影響を明らかにするため,La1-xCaxMn0.9Fe0.1O3 微粒子の表面の Mn と Feの酸化状態をXPSを用いて解析した.また,合成したペロブスカイト型酸化 物 の 酸 素 還 元 活 性 を 回 転 デ ィ ス ク 電 極 法 に よ っ て 評 価 し た .
116
La0.5Ca0.5Mn0.9Fe0.1O3は粒子径が10—30 nm ほどでカーボン上に高分散担持さ れ,また,Ca置換によって活性サイトとなるMnが高い酸化状態にシフトした ため,優れた活性を示したと考えられる.一方,LaCoO3は低エネルギービーズ ミル処理によって結晶に大きなダメージを与えることなく,平均凝集体サイズ
で77 nmに分散し,処理前(698 nm)と比較して小さくなって触媒活性が改善
したが,さらなる微粒子化のためには合成法や条件の検討が必要である.
第 5 章では窒素ドープポーラスカーボン触媒とペロブスカイト型酸化物微粒 子 触 媒 と の 複 合 触 媒 を 調 製 し た . 逆 ミ セ ル 法 に よ り 合 成 し た La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3 担持窒素ドープポーラスカーボンにおいて平均粒子径が 16.4 nmのLa0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3が窒素ドープポーラスカーボン上に高分散担 持されていることを電子顕微鏡観察により確認した.回転ディスク電極法によ る酸素還元活性評価を行い,La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3担持窒素ドープポーラスカ ーボンはLa0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3担持カーボンブラックおよび窒素ドープポーラ スカーボンと比較して,半波電位が約40 mV貴な電位にシフトし,活性化支配 電流値は2 倍以上となった.したがって,La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3微粒子触媒を 窒素ドープポーラスカーボン触媒と複合させることで相乗効果が得られ,酸素 還元活性が大きく向上することがわかった.一方,AMP 法により合成した La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3 粒子は凝集しており,これを窒素ドープポーラスカーボ ンと複合したLa0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3 (AMP)担持窒素ドープポーラスカーボンは 窒素ドープポーラスカーボンのみとほとんど活性に変化が見られなかった.し たがって,La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3粒子の分散性がLa0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3担持窒 素ドープポーラスカーボンの酸素還元活性に大きく影響していることが明らか になった.La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3担持窒素ドープポーラスカーボンを用いたガ ス拡散型電極は,白金担持カーボンブラックを用いた電極に匹敵する性能を示 し,300 mA cm−2の定電流試験においても50時間もの間,電位がほとんど変化 せずに安定であった.これらの結果より,La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3 担持窒素ドー プポーラスカーボンは活性および安定性の両面からガス拡散型電極用の酸素還 元触媒として優れていることがわかった.
6.2 今後の展望
今後,金属空気電池がより広い用途で使用されるためには,ガス拡散型電極の 最適化が不可欠である.そのためには,以下の項目の検討が必要と考えられる.
117
(a)窒素ドープポーラスカーボンの窒素ドープ量の制御
本研究では,前処理を施したカーボンブラックと窒素源であるシアナミドと を混合して,これを熱処理して窒素ドープポーラスカーボンを合成した.得られ た窒素ドープポーラスカーボンは quaternary N の濃度の増加に対応して酸素 還元活性が向上したため,quaternary Nの濃度の増加でさらに活性を向上でき ると推測される.アンモニアフロー下での熱処理によってカーボン表面に窒素 がドープされることはよく知られており,この方法では連続的に窒素源である アンモニアを供給でき,窒素ドープ量を増加させることができると考えられる.
このアンモニアフロー下での熱処理によって特定の窒素種のみをドープするこ とは困難であるが,窒素ドープ量の増加に伴ってその一部を占めるquaternary N の濃度も増加すると推測される.しかし,窒素ドープ量が多すぎると炭素六 角網面を成すsp2ネットワークが壊れ,π電子モビリィティが減少して導電率が 低下してしまうため,適切な濃度に制御する必要がある.
(b)ペロブスカイト型酸化物担持窒素ドープカーボンの組成の検討
本研究では,ペロブスカイト型酸化物微粒子と窒素ドープポーラスカーボン とを複合させることで,個々のペロブスカイト型酸化物および窒素ドープポー ラスカーボンより酸素還元活性を大きく向上させることができ,白金担持カー ボンブラックに匹敵する非貴金属触媒を調製することができた.ペロブスカイ ト型酸化物微粒子の分散性がその活性に大きく影響し,この結果はペロブスカ イト型酸化物担持窒素ドープカーボン複合触媒の材料設計指針に資するもので あ る と 考 え ら れ る . 活 性 の 高 い ペ ロ ブ ス カ イ ト 型 酸 化 物 で あ る La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3 微粒子を窒素ドープポーラスカーボンと複合させたが,
ペロブスカイト型酸化物の組成がその複合触媒の活性に及ぼす影響については 検討しなかった.したがって,様々な組成のペロブスカイト型酸化物を用いた窒 素ドープポーラスカーボンとの複合触媒を評価して,その複合効果について詳 細に解析することで,組成面での材料設計方針が得られることが期待される.
(c)酸素発生活性の評価
金属空気電池の内部で充電を行う場合,空気極では酸素発生反応が進行する.
窒素ドープカーボンやペロブスカイト型酸化物は酸素発生活性を示すことから,
ペロブスカイト型酸化物担持窒素ドープカーボンは酸素発生触媒として作用す るものと推測される.
(d)ガス拡散型電極の長期安定性