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ペロブスカイト型酸化物微粒子/窒素ドープポーラス カーボン複合触媒の酸素還元活性とガス拡散型酸素電極の特性

5.1 緒言 5.2 実験方法

5.3 電子顕微鏡観察および結晶構造解析 5.4 細孔構造および化学結合状態解析 5.5 酸素還元活性

5.6 ガス拡散型酸素電極の分極特性 5.7 本章のまとめ

参考文献

98

5.1 緒言

第 3 章では,合成した窒素ドープポーラスカーボン触媒の活性について評価 し,カーボンへの窒素ドープにより,活性が大幅に向上することを明らかにした.

また第 4 章では,逆ミセル法により合成したペロブスカイト型酸化物は 10—30 nmほどの微粒子がカーボン担体に高分散担持され,2 価をとる Caイオンで 3 価のLaイオンを置換したLa1-xCaxMn0.9Fe0.1O3の結晶格子中ではMnイオンが 電荷を補償して高い酸化状態にシフトして酸素還元活性が向上することを示し た.第 5 章では,この窒素ドープポーラスカーボンとペロブスカイト型酸化物 微粒子を複合させた触媒を調製し,その酸素還元活性を回転ディスク電極法に より評価した.また,この複合触媒は更なる高性能化が期待できることから、こ れを用いたガス拡散型電極を作製してその特性を評価した.

5.2 実験方法

メソ細孔が最も発達した NPC-HP 900℃を担体とし,逆ミセル法によって La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3担持窒素ドープポーラスカーボン(LCMF/NPC)を得た.

なお,逆ミセル法によるLCMFの合成方法の詳細は第4章に示している.湯浅 らは,これまでに逆ミセル法で合成した LCMF/CB 中の LCMF 担持量を検討 し,仕込み量を30 wt%としたときにこれを酸素還元触媒として用いたガス拡散 型電極が最も高い性能を示すことを報告している1).そこで、本研究においても

LCMF/NPC中のLCMFの仕込み量を30 wt%とした.なお,実際のLCMF担

持量は,熱重量測定装置(DTG-60,島津製作所)を用いてアルミナパンに載せ た試料を空気フロー下で600℃まで加熱して残存するLCMF量より算出した.

また,合成したLCMF のLa,Ca,Mn,Fe の濃度比はエネルギー分散型蛍光 X線分析装置(XGT-7200,堀場製作所)を用いて算出した.さらに,第4章に 示した AMP 法による La0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3も比較試料として用いた2).この AMP法により合成したLa0.4Ca0.6Mn0.9Fe0.1O3をLCMF (AMP)と表す.LCMF (AMP)の平均粒子径は動的光散乱法ナノ粒子解析装置(SZ-100,堀場製作所)

を用いて測定した.NPCへの担持では,LCMF (AMP)とNPCとの質量比が3: 7 となるように 2-プロパノール中に添加して,超音波処理を 30 分間施して LCMF (AMP)/NPCを得た.

白金を用いた比較試料として NPC-NP 1000℃あるいは CB に白金を担持し たPt/NPCおよびPt/CBをアルコール還元法により合成した3).NPCあるいは

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CB,メタノールおよび5%ジニトロジアンミン白金(Ⅱ)硝酸溶液を混合し,超

音波処理を10分間施した後に6時間,窒素フロー下で加熱還流し,得られた触 媒を吸引ろ過により回収した.白金担持量は20 wt%に固定した.酸素還元活性 を回転リングディスク電極法により評価した.ディスク電極およびリング電極 の電流をそれぞれid,irとして,捕捉率N(= 0.40)を用いて反応電子数nおよ び過酸化水素生成率(%HO2−)をそれぞれ以下の式より求めた4)

n = 4id/(id + ir/N) (5.1)

%HO2− = 200id/N(id + ir/N) (5.2)

5.3 電子顕微鏡観察および結晶構造解析

合成した複合触媒の形態を TEM および反射電子(Back-scattered electron, BSE) 観 察 に よ り 評 価 し た .Fig. 5.1A, B に 逆 ミ セ ル 法 に よ り 合 成 し た LCMF/NPC お よ び LCMF/CB の TEM 像 を 示 す5 ).LCMF/NPC お よ び LCMF/CBのLCMFの平均粒子径は,それぞれ16.4 nmおよび17.8 nmであ った.反射電子放出率は原子番号が大きいほど増加するため,Fig. 5.1C5)に示す BSE 像では相対的に原子番号の大きな元素からなる LCMF は明るい白い点と なり,原子番号の小さな元素からなるNPCは暗い灰色の凝集体に対応する.こ の像より,LCMFはNPC上に高分散担持していることがわかった.逆ミセル法 では,界面活性剤の疎水基を外側に親水基を内側に向けて配向して形成された 逆ミセル内部の小さな水溶液相を反応場として利用するため,微細なLCMF前 駆体が形成される.これをNPCあるいはCB上に分散担持させた後,高温(650℃)

で焼成したが,LCMF 前駆体間に NPC あるいは CB が存在するため凝集を防 ぐことできたと考えられる.Fig. 5.2a, cに比較試料として合成したPt/NPCお よびPt/CBのTEM像を示す6).CB上にアルコール還元法により担持させたPt の平均粒子径は3.2 nmであったが,同様にして NPC上に担持させた Pt の平 均粒子径は2.2 nmと小さくなった(Fig. 5.2b, d).窒素ドープカーボン上では ドープされた窒素原子に隣接した炭素原子に電荷の偏りが生じ,これがPtのア ンカーサイトなることが報告されている7).このサイトは窒素ドープカーボンの 表面に多数,存在するため,均一にPtの核生成が起こり,小さなPt粒子がNPC 担体上に高分散担持されたと考えられる.窒素ドープカーボンの比表面積Sは

100

S = SCnC + SNnN (5.3)

で表され,SCおよびSNは炭素および窒素の平均占有面積であり,それぞれ2.62

×10−20 m2,6.15×10−20 m2である8).nCおよびnNはそれぞれ炭素および窒素 の質量あたりの原子の個数である.(5.3)式を用いて,BET表面積およびXPS より求めた表面の炭素および窒素の原子濃度より,nNは 3.34×1020 g−1と算出 される.また,Ptの平均粒子径と密度(21.45 g cm−3)から,質量あたりのPt 粒子の数は8.36×1018 g−1と求まる.20 wt% Pt/NPCの触媒質量あたりの窒素 の原子数およびPt粒子数はそれぞれ2.67×1020 g−11.67×1018 g−1となる.し たがって,NPC 表面の窒素原子数は実際に担持された Pt 粒子数の百倍以上で あり,Ptが原子状態で存在してもNPC表面の窒素原子は十分にPtのアンカー サイトを形成できると推測される.

Fig. 5.3にLCMF/NPC,LCMF/CBおよびNPCのX線回折パターンを示す.

LCMF/NPC および LCMF/CB のピークは斜方晶のペロブスカイト型酸化物

(JCPDSカードNo. 46-0513)と一致した.これらのパターンには24.5°およ

び 43.5°に弱いブロードなカーボンのグラファイト構造に由来するピークが重

なっていると考えられる.Table 6.1にLCMFのエネルギー分散型蛍光X線分 析装置により求めたLa, Ca, Mn, Fe濃度の比を示す.いずれのLCMFもAサ イト金属に対して Bサイト金属の割合が高く,Aサイトに空孔が生成している ものと考えられる.熱重量測定装置を用いてLCMF/NPC およびLCMF/CB を 空気中で加熱して,その重量変化を測定した(Fig. 5.4).NPCとCBの酸化は

約 400℃で始まり,500—550℃で完全に除去された.その残存重量より求めた

LCMF/NPCおよび LCMF/CB の LCMF 担持量はそれぞれ 33%および 28%で あった.

101 500 nm

15 nm 14 nm 50 nm

(A)

(C)

0 10 20 30

0 5 10 15 20 25

Number / %

Particle size / nm d= 16.4 nm

50 nm

0 10 20 30

0 5 10 15 20 25

Number / %

Particle size / nm d= 17.8 nm

(B)

Fig. 5.1. (A, B) TEM and (C) BSE images of (A, C) LCMF/NPC and (B) LCMF/CB. The insets of (A, B) and (C) show LCMF particle size distributions and magnified image, respectively.

102

d = 3.2 nm

20 nm

(b)

(d)

d = 2.2 nm

Fig. 5.2. (a, b) TEM images and (c, d) particle size distributions of (a, b) Pt/NPC and (c, d) Pt/CB.

(a)

(c)

103

Table 5.1. Summary of atomic ratios, BET surface areas, total pore volumes, and micropore volumes.

Atomic ratios La:Ca:Mn:Fe

BET surface area/m2 g−1

Total pore volume/cm3 g−1

Micropore volume/cm3 g−1 LCMF/NPC 0.39:0.46:0.92:0.08 814 1.84 0.12

LCMF/CB 0.41:0.47:0.91:0.09 771 1.70 0.16

LCMF (AMP) 0.37:0.49:0.91:0.09 33.3 - -

20 30 40 50 60

/ degree

Intensity / arb. unit

(b)

(101) (022) (202) (123)

(a)

(c)

(200)

Fig. 5.3. XRD patterns of (a) LCMF/NPC, (b) LCMF/CB, and (c) NPC.

104

5.4 細孔構造および化学結合状態解析

Fig. 5.5aに逆ミセル法により合成したLCMF/NPCとLCMF/CBの窒素ガス 吸脱着等温線を示す5).P/P0 が 1.0 に近い領域においても飽和が確認できなか った.これはマクロ細孔の存在を示す.また,P/P0 > 0.42の領域においてヒス テ リ シ ス が 確 認 さ れ る こ と か ら , メ ソ 細 孔 が 存 在 す る .BJH 法 に よ り

LCMF/NPC と LCMF/CB のメソ細孔分布を求め,ともにメソ細孔を豊富に有

していることがわかった(Fig. 5.5b5)).このメソ細孔は触媒層の物質拡散に寄 与する9).P/P0 = 0.98の窒素吸着量より求めた全細孔容積およびtプロット法 により求めたマイクロ細孔容積をTable 5.1に示す.メソ細孔とマクロ細孔を合 わせた容積が全細孔容積の90%以上を占めていた.

Fig. 5.6にLCMF/NPCおよびLCMF/CBのMn 2p, 3s, Fe 2p, N 1sのXPS スペクトルを示す.参照試料として市販試料のMn2O3,MnO2のMn 2p, 3sの XPS スペクトルを併せて示した.なお,得られた N 1s ピークを pyridinic N, pyrrolic N, quaternary Nおよびoxidized Nに波形分離した.LCMF/NPCの Mn 2p3/2のピークはMn2O3とMnO2のピークの間に位置し,LCMF/CBより僅 かに低結合エネルギー側にあった.また,LCMF/NPCの Mn 3s ピークの交換

分裂幅は5.3 eVであり,LCMF/CBの交換分裂幅(5.2 eV)と比較して僅かに

大きくなった.これは,電子リッチな窒素ドープカーボンから酸化物への局所的 分極が生じて静電的な界面相互作用が起きていることによるものと考えられる

10,11).5.3で考察したようにNPC表面の窒素原子数は平均粒子径2.2 nmのPt

Fig. 5.4. Thermogravimetric curves of LCMF/NPC and LCMF/CB

0 20 40 60 80 100

200 400 600

Weight / %

Temperature / ºC LCMF/NPC

LCMF/CB

105

の粒子数の百倍以上であり,平均粒子径が16.4 nmであるLCMFに対しても相 互作用しうる十分な数の窒素原子が NPC 表面に存在しているものと考えられ る.

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12

0 10 20 30 40 50

dV/dD/ cm-3g-1nm-1

Pore diameter, D/ nm LCMF/NPC LCMF/CB

a b

0 300 600 900 1,200 1,500

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Adsorption N2volume / cm3g-1

P/P0

LCMF/NPC LCMF/CB

Fig. 5.5. (a) N2 gas adsorption–desorption isotherms and (b) mesopore size distributions of LCMF/NPC and LCMF/CB.

0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12

0 10 20 30 40 50

dV/dD/ cm-3g-1nm-1

Pore diameter, D/ nm LCMF/NPC LCMF/CB

a b

0 300 600 900 1,200 1,500

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Adsorption N2volume / cm3g-1

P/P0

LCMF/NPC LCMF/CB

a

b

106 640

645 650

655 660

Binding energy / eV

2p3/2 2p1/2

Intensity/ arb. unit

(d) (c) (b) (a) Mn2O3 MnO2

700 710

720 730

740

Binding Energy / eV

Intensity/ arb. unit

(b) (a)

397 399

401 403

405

Binding Energy / eV

Intensity / arb. unit

pyridinic N (398.7 eV, 36.5 %) pyrrolic N

(400.3 eV, 30.0 %) quaternary N

(401.3 eV, 24.3 %) oxidized N

(403.1 eV, 9.2 %)

(b) (a)

395

pyridinic N (398.5 eV, 37.8 %) pyrrolic N

(400.2 eV, 28.9 %) quaternary N

(401.2 eV, 23.4 %)

oxidized N (403.0 eV, 9.9 %)

15 nm

11 nm -5

0 5

10

(d) (c) (b) (a)

Intensity/ arb. unit

4.9 eV 5.3 eV

5.2 eV

5.5 eV

Energy / eV

A B

C D

2p3/2 2p1/2

Fig. 5.6. (A) Mn 2p and (B) 3s XPS spectra for (a) LCMF/NPC, (b) LCMF/CB, (c) Mn2O3, and (d) MnO2. The spectra of commercial Mn2O3 and MnO2 powders are shown in the same figures for reference. (C) Fe 2p XPS spectra for (a) LCMF/NPC and (b) LCMF/CB. (D) N 1s XPS spectra for (a) LCMF/NPC and (b) NPC.

107

5.5 酸素還元活性

合成した複合触媒の酸素還元活性を回転ディスク電極法により評価した.Fig.

5.7a に LCMF/NPCのリニアスイープボルタモグラムを示す 5).回転ディスク

電極の回転速度の増加に対応して限界拡散電流密度の値が大きくなった.酸素 還元反応電子数を Fig. 5.7a 中に示した Koutecky-Levich プロットの傾きから 求めた.0.56—0.76 Vにおける反応電子数は3.7—3.8であり,四電子還元反応が 主に進行しているものと考えられる.Fig. 5.7b に CB,LCMF/CB, LCMF (AMP)/NPCおよび LCMF/NPC のディスク電極を 1,600 rpm で回転させなが ら測定したリニアスイープボルタモグラムを示す 5).Fig. 5.7c にこのボルタモ グラムから得られた半波電位および0.76 Vにおける活性化支配電流密度を示す

5).LCMF/NPCは,LCMF/CBおよびNPCと比較して,約40 mV貴な半波電 位を示し,2倍以上の活性化支配電流値を示した.したがってLCMFとNPCと を複合することによって酸素還元活性に対して相乗効果が得られることがわか った.一方,LCMF (AMP)/NPCの半波電位および活性化支配電流はNPCと大 きな違いは見られなかった.動的光散乱法により測定したLCMF (AMP)の平均

粒子径は624 nmであり,NPC上で著しく凝集していた(Fig. 5.8).したがっ

て, LCMF粒子の分散状態の制御が極めて重要であることがわかった.小さな

LCMF 粒子は表面積が大きいため高い酸素還元活性を示す.また,金属酸化物 とカーボン材料の複合触媒では,電子的相互作用やスピルオーバーといった相 乗 効 果 が 生 じ て 酸 素 還 元 活 性 が 向 上 す る メ カ ニ ズ ム が 提 案 さ れ て い る

12,13,14,15,16). 近年,Buらはペロブスカイト型酸化物と窒素ドープグラフェンの

複合触媒について密度汎関数法によるシミュレーションを行い,電子リッチな 窒素ドープグラフェンからO2に電子が遷移し,O2あるいはO2δ—を生じて酸化 物への吸着が促進されるメカニズムを提案した 10).逆ミセル法により合成した

LCMF/NPC は微小な LCMF 粒子が NPC 上に高分散担持されているため

LCMFとNPCの接点が数多く形成される.したがって,LCMFとNPCとの間 での相乗効果が促進されてLCMF/NPCは高い触媒活性を示したと考えられる.

この相乗効果についてはさらなる詳細な検討が必要であるが,酸化物の分散性 が大きく影響していることが示唆され,本結果は高活性なペロブスカイト型酸 化物/窒素ドープカーボン複合触媒を得るための材料設計指針として極めて有用 である.