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第一節 論旨の整理

本研究は,国際理解教育の本格的かつ体系的な理論の一日も早い構築を願って、そ の基盤形成に資する‑試論を提起し、それに基づく初等教育用のカリキュラムや教材 の開発基本的課題とした。

研究の目的を、

1 国際理解教育の独自の内容・方法に焦点化したカリキュラム化が必要であるこ とを論証すること

2 国際理解教育のカリキュラム開発の依拠原理となる、とくに,既往の諸概念の 整理を中心とした、国際理解教育の基礎的理論体系の整備

3 そのような基礎理論の一環としての試論の提起と、その結果を適用した初等教 育用の教材開発

の三点に絞って進めた。

まず,第Ⅰ部第一章では、国際理解教育のカリキュラム化に関し,当該教育の研究 の概略史を整理することによって,その必要を次のように明らかにした。

第一に、これまでは国や国際といった用語の定義の検討が怠られており、国際理解 教育論においてとらえられてきた国際観、世界観は、国家・国家利益(ナショナル・

インタレスト)、ナショナリズムなどの問題‑の本格的な取り組みを捨象した,あるい は回避した「国際」認識を基礎とするものであった。ごく最近、国際社会の急転した 動向に鑑みても,旧来のままの国際理解教育でよいか,早急に検討しなければならな い段階にきている。

第二に、可及的速やかに学校現場へ国際理解教育の導入が望まれているにもかかわ らず,学校現場では、教職員の多忙さや他の教科教育との関係から,国際理解教育の 目的や内容を熟慮した上での実践を行うところまでいかず、 「総合的な学習の時間」の 本格的な実施をまえに、やや緊急の対策として行う実践が多く‑、混乱が生じている。

第三に,これまでの国際理解教育研究から明らかなように、継続的に,学校教育全 般で広く行われる必要があるにもかかわらず、各教科教育の範囲内で国際理解の学習

の開発が進められているが、単発的なものが多い。体系的な国際理解教育のカリキュ ラムがこれまでに開発ところまでいかなかったからである。

第二章では、戦後国際理解教育の諸論から、現在の国際理解教育の目的の検討のために

重要となるものを吟味し、国際理解教育の今日的課題を明らかにした。また、近年、国際 理解教育の学習についての報告があり、その報告の内容について日本の国際理解教育の研

究者らは高く評価しており、学習のあり方が注目を集めた。そこで、国際理解教育の学習 のあり方について、検討した。そして、国際理解教育の学習は、 「知ること」の学習重視 の傾向から、 「つながり」の学習‑と転換する必要性を述べ、初等教育の国際理解教育 に組み込んでいく学習過程を,次の三点に整理した。

第一に,く変わらざること〉の価値とく変えてゆくこと〉の価値を軸として,自己と自 国、自己と他国とのつながりを理解することである。この理解によって、さらに国際 社会とのつながりを創造する力‑と開かれていく。

第二に、国や国際社会に生じる諸問題とのつながりを理解することである。これら の諸問題とのつながりを理解することによって、問題に対して深い関心を抱くことが できるからである。学習者自身では解決することのできない非常に困難な問題が数多 くあろうが、学習者が関心を抱くことにより,他者の問題に対する関心を開かせるこ

とが可能となる。その関心の集合体が、解決‑と導く最も大きな力となる。

第三に,他者との関係について、時間に沿った、縦軸のつながりと、空間に沿った, 横軸のつながりを理解することである。国際理解教育では、生命の尊さを実感するこ

とは不可欠である。学習者自身の生命は,決して一人きりでできあがったものではな く、ひとりで守りきることのできるものでもない。多くの人々の生命に支えられて自 己の生命があることを理解し、そのつながりを発見すること、そして、将来‑とつな いでゆくことを学び取らねばならないであろう。

また、国際理解教育の今日的課題を次の二点に整理した。

第一に,学習者が国際社会、インターナショナルなものに開かれるためには,ナシ ョナルなものを通すことが必要である。現在の国際理解教育の理論やカリキュラムを 開発する際には,欠かすことのできない視点として,健全なナショナルな価値・感情 の形成と自己批判・自己言及の心性の形成とをいかに組み込んでいくかを再検討する

こと。

第二に,これまでの国際理解教育の学習の主流であった「知ること」重視の傾向か ら、 「つながり」重視の学習‑と転換していくこと。

第三章では、第二章で明らかにした今日的課題を詳細に検討するために、まず、現 在の国際社会や国に生じている問題状況などを整理し,第二章で整理した二つの目的 が,現在,およびこれからの国際理解教育で育成していく必要があるのかを検討した。

そして,それらを現時的な形に変えて、国際理解教育の理論を検討したら、どのよう になるのかについて,具体的に考察した。そして、これらの考察をふまえて、国際理解 教育の目的や,初等教育の国際理解教育の目標、内容,方法を検討した。

現代的な問題としては,とくに,グローバル時代といわれる現代の陥葬について考

察した。ここでは、市民の暴力や自己言及の欠如、人と人との間の断絶を国際理解教 育において、早急に取り組むべき課題として提示した。これらの問題の解決のためには、

初期国際理解教育の目的にあった健全なナショナルな価値・感情と自己批判・自己言 及の心性とが必要であることは明らかである。これに加えて,これからを生きる人間 に求められるキー概念として、 「他者を意識し、互いの異質性を尊重しつつ、つながり をもつ」ことがあげられる。以上の考察から、これからの時代を生きる人間像を次の 四点に整理した。

第一に、自己も他者も、この世に生まれ出たという事実をもって唯一、固有の存在 であるから、その存在そのものが尊いことを常に自覚していること。

第二に、他者の存在を意識し、他者とのかかわりを保とうとする人間であること。

ここでいう他者とのかかわりとは、同じ時間に生きている,空間軸上の他者とのかか わりと過去から未来‑と命をつないでいるという、時間軸上の他者とのかかわりをさ す。そして,人と人とのつながりの中に、一人ひとりの異質性を見いだし、それを(個 悼)として尊重できること。

第三に,自己や自集団に対して批判的,反省的な態度をもって、その立場やあり方 を理解できること。そして、集団に所属する人間としての自覚,責任をもっているこ

と。

第四に、自己と国や民族、国際社会などやそれらの中で生じている問題とのかかわ りを自覚し、負うべき責任とは何かについて考えられること。

そして,国際理解教育の目的を次のように再定義した。

第一に、自己と他とのかかわりの理解と,その中に生きている自己と他者の存在の 自覚である。そして,そのかかわりの中で、自己と他者の異質性を尊重する態度形成 である。

第二に,自己批判・自己言及と自己批判・自己言及の際に必要な他者理解の心性の 形成である。

第三に,健全なナショナルな価値・感情の形成である。そして、自一他のナショナ ルなものの価値を見いだし、尊重することである。

以上,三点の国際理解教育の目的をもとに,初等教育の国際理解教育の目的、内容、方 法について考察した。

初等教育の国際理解教育の目標は次の四点である。

1 生命の尊さを実感し、他者と自己とのかかわりを感じ取る感性の深化 2 自己・他者理解のために必要な自弓批判・自己言及の態度の育成

3 国や民族などのようなナショナルなものと国際社会、及びそれらの中で生じてい る諸問題とのつながりを感じ取る感性を基盤としたナショナルな価値・感情の育成

4 歴史的な見方、考え方の育成

第II部第一章では、第一部での考察結果から、初等教育における国際理解教育の学習の 内容・方法を検討するために,とくに、 (対話)と(かかわり)という身体論的アプローチ をとることの有効性を明らかにした。そして、第三章で考察した交通論を用いて,教材の 構成を検討した。この教材の構成をとりいれると、次のような三点の学習の過程が作ら れる。

第一の学習内容とのかかわりであるが,これは、追体験する人物とのかかわりであ り,また、追体験する人物とのかかわりを通して,その人物が生きた時代や環境とい った背景と学習者とのかかわりも理解できる。時代、環境といった背景を理解するた めには,まず、客観的にさまざまな情報、知識を収集し,その上で追体験する人物と かかわりながら、さらに理解を深める。これは、たとえば、国や国際社会に生じる諸 問題と学習者とのつながりが理解でき、主体的にそれらの問題と向き合う態度を育成 する学習となる。

第二に、他者と学習者とのかかわりであるが、この教材での他者とは、他の学習者、

教師、他の学習者が追体験する人物が含まれる。学習者が追体験する人物も他者に当 てはまるが,学習のうえでは,ここには含まないことにする。追体験のうえで、他の 学習者が演じる(他者)とのかかわりを通して、自己が演じる人物の理解を深めたり, 他の学習者や教師とのかかわりから、自己の考え方を検証する学習となる。それによ

って,多くの人々の生命に支えられて自己の生命があることを理解し,自己の生命に は歴史的なっながりがあることを自覚する,生命の尊さを実感する心性を育成する学 習ともなる。

第三に,自分自身と学習者とのかかわりであるが、これは、学習者が自己の内部で 自己と自己以外の人物を創り上げることで、自己分裂を生じさせ,それによって自己 の立場やあり方を模索する、自己言及の態度形成のための学習となる0

また、身体論的アプローチをとる教材を開発するために、内容の設定基準として次 の四点をあげた。

第‑に、学習者と学習内容との間には,反交通が成立することである.時や場、言 語など、学習者に対して遮断されている条件をもつものからの語りが内容にあり,さ

らに、それらに対して学習者が語りを発信できない状況にあるという間である。

第二に、学習者が,情報や知識を容易に収集できるよう準備されている、あるいは 準備可能なことである。

第三に、学習者がすでに備えている「常識」や知識,感覚を揺さぶるものであると いうことである。それは、学習者に内面変化を生じさせるような、大きな衝撃を与え

るものである。

第四に、学習内容に、登場人物同士や事象との間に対話や問答が展開されているこ とである。図4の右側の教材内容の構成に基づいて展開することが望ましい。