本節では、本調査の結果を踏まえ、本研究の意義について述べる。まず、第一項では、本論文に よる価値共創の理論的研究への貢献を論述する。それから、第二項では、実務の世界にとって有効 なインプリケーションを提示する。
第一項 学術的意義
価値共創に関する既存文献や資料を振り返ってみれば、顧客はどのように価値共創プロセスに参
加しているのか、価値共創の現象やタイプを説明する理論的研究が圧倒的に多かった。しかしなが ら、なぜ、顧客は価値共創プロセスに参加するのか、なぜ、顧客の消費活動は価値を創り出すこと ができるのか、価値共創と顧客満足度やブランド・ロイヤルティとの間にどのような関係があるの か、などの疑問を解明する定量的な研究があまり蓄積されていない。すなわち、価値共創を通して、
企業と消費者にとって互いに有利な
Win-Win
関係を築くことができると提唱されているが、具体的 にどのようなメカニズムが働いているのかが明確に提示されていない。そうした理論研究の空白を補うために、本研究では、消費プロセスアプローチからみた価値共創 のメカニズムをモデル化し、価値共創が消費者行動に及ぼす直接的な影響と間接的な影響を検証し た。結論から言えば、価値共創は顧客の経験価値を高めることによって、顧客満足度を向上させ、
さらにブランド・ロイヤルティを形成していくということになる。消費者は価値共創活動から感覚 的経験、感情的経験、認知的経験及び行動的経験を得られ、満足を感じられる。また、顧客満足度 の向上とブランド・ロイヤルティの形成は、企業の長期的利益に密接に関連しているため、価値共 創の実現は、企業にとっても有利であると認識される。価値共創のメカニズムを構築し、さらに、
定量的な方法で検証したことは、本研究の学術的な意義であると考えられる。
第二項 実務的意義
価値共創に関する過去の有数の実証研究は、主に交通機関、自動車クラブ、トレーニングセンタ ーなどのサービス業に集中しており、化粧品業界における実証分析は、筆者が知るかぎり存在しな い。本研究を通して、化粧品業界のマーケターに次の
2
点を助言したい。
(1) 企業の役を主導者から支持者に変えること
化粧品業界は小売業の中で消費者と接触する機会が比較的に多い業界である。化粧品店頭の美容 部員が顧客の肌の状態を確認し、顧客の悩みや希望を尋ねながら、一人ひとりに合った製品をアド バイスするカウンセリングサービスは、化粧品メーカーの有力なマーケティング手法であると考え られる。しかしながら、週刊粧業が
2012
年に実施した市場調査の結果によれば、専門店や百貨店の 化粧品売場におけるカウンセリングサービスに対して、被験者のうち、56.1%
の女性が「商品を買 わなければいけないというプレッシャー」と感じており、45.4%
の女性が「新製品の押し付けはや めてほしい」と発言した。すなわち、「カウンセリング=商品の押し付け」という先入観が根強く残 っていることが露わになった。ブランド・コミュニティにおいても、同様な問題が存在する。その ため、顧客と接触しているなかで、企業は主導者であるイメージを薄め、顧客の価値創造のための支持者として働かなければならない。具体的には、顧客のニーズやアイディアを製品の提案にはっ きりと反映させ、顧客に自分自身の存在感を感じさせることが必要である。
また、2 種類の価値共創活動はどちらも顧客の経験価値にプラスの影響を及ぼすが、企業と消費 者との間のインタラクションに比べ、消費者間のインタラクションによる顧客の経験価値への影響 がよりポジティブであった。それはおそらく、自由にコメントを投稿したり製品を評価したりでき るブランド・コミュニティと比べ、従業員と面と向かってコミュニケーションを行う際には、消費 者はコントロールされているような不自由な感じがするからであろう。それゆえに、マーケターは 顧客の支援者というイメージを強めると同時に、
SNS
を利用したより利便性の高いブランド・コミ ュニティを開発し、消費者間のインタラクションをより一層促進していくことが重要であると考え られる。
(2) 顧客の経験価値を積極的に創り出すこと
本研究を通じて、価値共創活動は顧客の経験価値を経由して顧客満足度とロイヤルティを規定す ることが分かった。表
4-12
「仮説の検証結果」(p.120
)に示されているように、感覚的経験価値、感情的経験価値、行動的経験価値の獲得は、顧客満足度の向上をもたらし、さらにブランド・ロイ ヤルティの形成につながっている。ゆえに、マーケターにとって、有効なインタラクションを通じ て、顧客の経験価値を最大限に創り出すことが極めて重要である。
検証の結果によれば、企業と消費者との間のインタラクションは、顧客の感情的経験価値、行動 的経験価値、特に感覚的経験価値にプラスの影響を及ぼす。そのため、マーケターは、化粧品のパ ッケージ、色、香りなど、顧客の五感に直接的に訴えかけることにより、審美的な楽しみのような 感覚を生み出すことに工夫する必要がある。そして、顧客に良い感情を持たせる言葉遣いを用いる ことや、顧客を身体的な経験を伴う行動に参加させることなどを通じても、ポジティブな結果を期 待できる。
また、消費者間のインタラクションは、顧客の感覚的経験価値、感情的経験価値、認知的経験価 値、行動的経験価値のすべてにポジティブに影響する。特に、感情的経験価値、認知的経験価値、
行動的経験価値への影響が顕著である。本研究では、認知的経験価値は顧客満足度との間に因果関 係が見えなかったため、ここで議論しない。化粧品ブランド・コミュニティのスタッフにとって、
顧客の内面にあるフィーリングや感情に訴えかける話題を作ったり、投稿すればポイントが倍増す るキャンペーンなどを開催したりして、顧客を積極的にインタラクションに巻き込むようにするこ とが重要である。