本章では、安岡ゼミナール8期生の4年次以降の生活に焦点をあてる。第1節では3年 次の終わりから4年次にかけて全員が行った就職活動とゼミの関係について考察する。就 職活動は学生生活を社会人生活へと結びつける第一歩であり、大学から社会へのトランジ ション66の課題としても重要なテーマと考える。第2節では4年次の学習側面としての卒業 研究過程を考察する。序章で述べた通り、日本型の教授―学習モデルにおける「完了の確 認」は他のモデルとは異なり卒業論文ないしは卒業研究が挙げられている。実際の教員や 学生がこの卒業研究をどのように捉え、どのようにして論文を書き上げていくのかについ て考察する。第3節では安岡ゼミナールの共同体側面に焦点をあて、学生間の関係性と学 生-教員間の関係性が再構成される様子を描く。4年次という特殊な時間は関係性の再構築 を促す重要な背景となっており、卒業後も続く強い関係性をこの1年間の中でつくりあげ ているのである。第4節では卒業後の学生インタビューを通じて安岡ゼミでの学びが社会 生活とどのように結びついているかを考察する。卒業から半年という短い期間ではあった ものの、ゼミナールという学習共同体での学びが職業人生活へとリアルにつながっている 様子を描く。第5節では、最終学年としてのゼミナールの意味と、ゼミ生活と社会人生活 の接続について小括する。
第1節 就職活動とゼミの関係
演習Ⅲが終わると学生は本格的に就職活動を始めていく。このゼミ活動と就職活動は大 きく関わっていることがインタビューを通じて明らかになった。
(1)就職活動を意識したゼミ選択
そもそも就職活動を意識してゼミを選ぶ学生がいたことは第4 章第2節で明らかにした 通りである。それは単純にこのゼミに入れば希望する企業に入れるといったコネクション の問題やブランドの問題ではない。ヒナタは自身が住む地域での就職を希望し、その就職 活動で話せるネタづくりのために、安岡ゼミを選んだ。それだけでなく参加するプロジェ クトや、自身の研究テーマも全てその地域に関連付けることによって、実際就職活動でも ゼミ活動について語っている(資料【6-1】IVヒナタ140610)。ここにある「先生は就活 を考えるべきではない」と語ったという話は、ヒナタにインタビューする直前の授業中に 安岡が学生に伝えたものである。その日の授業では、4年生が2年生向けのゼミ説明会で安 岡ゼミ卒業生の内定先について語るか否かという議論をしていた(資料【6-2】FN140610)。 就職活動で上手くいくかどうかは、安岡ゼミに所属したからということではなく、あくま で個人の努力の結果であるということを安岡は強調している。その点はヒナタの主張とも 相異ない。実際、メグミのように就職活動を意識して安岡ゼミを選んだものの、結局就職 活動ではゼミ活動に触れられずに内定を獲得した者もいる(資料【6-3】IVメグミ140722)。
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(2)学習側面におけるゼミ活動と就職活動の関係
しかし実際のところ、ゼミ活動が就職活動に活きたと語る学生は多い。その第一の内容 が、自己PRの根拠として活用できたというものである。サークルに入っていないミクは 集団で何かを成し遂げるという経験を含め、様々な学生生活の体験を語る際にゼミナール 活動は大変有効だったと振り返る(資料【6-4】IVミク150113)。一方リンはサークルに 所属していたものの、勉強面における自身の努力を語る上でゼミナール活動が有効であっ たと語る(資料【6-5】IVリン150120)。同様にミホも、学業に関することでしか自分を 語ることが許されない企業の採用面接において、安岡ゼミナールにおける学習経験は高い 評価を得たと語る(資料【6-6】IVミホ150111)。
就職活動に活かされたのは、ゼミでの活動内容だけではない。ゼミ活動を通じて培って きた汎用的技能が実際に用いられる場面としても就職活動は捉えることができる。「コミュ ニケーション能力」の観点では、相手が求めているものを意識して伝えるというゼミでの 経験や指導が、面接に活きたと言う(資料【6-7】IVタクヤ150107/資料【6-8】IVア
オイ140708)。タクヤはこの学びを教員の指導から得ており(資料【5-9】IVタクヤ140107)
相手の目線になって伝えることについては教員の指導の賜物と言えるだろう。「討論の能力」
の観点においては、就職活動の採用試験の1つであるグループディスカッションに繋がっ ている(資料【6-9】IVサチ140206/【6-10】IVハルナ140206/【6-11】IVアオイ
140131/【6-12】IVトモミ150120)。またグループディスカッションや面接でアイデア
を求められる場面でも安岡ゼミでの学習経験は活きている(資料【6-13】IVリン150120)。 ただし、全員があらゆるグループディスカッションで成功したというわけではない。ミサ キはゼミでも経験したことがない10人以上のメンバーによる多人数ディスカッションで失 敗しており(資料【6-14】IVミサキ150113)、ミヤビは大学院生や東大生といった学生 とのディスカッションで力を発揮することができなかった(資料【6-15】IVミヤビ150107)。
「情報収集能力」について、トモミはA市政策提言班でフットワーク軽く情報収集をした 経験から、就職活動においても積極的に企業の情報をデータベースや人的関係から獲得し ている(資料【6-16】IVミホ140131)。このように安岡ゼミが学習目標とし、培ってき た汎用的技能は就職活動の様々な場面において活かされている。
また、学習目標には掲げられていなかったが、安岡ゼミの経験で培った論理的思考能力 が活きたと語るのがタイガである(【6-17】IVタイガ140610)。実際タイガは全国政策立 案大会に参加した後、自分たちが論理的に考えることが全くできていなかったと深く反省 し、それに気づくことができたことを一番の学びであったと語っている(資料【6-18】IV
タイガ140107)その反省を就職活動で活かすことができたのである。
最後に、汎用的技能ではないが、演習Ⅱ,Ⅲという困難な課題を乗り越えた経験を通じ て得た「最後までやり抜く態度」が就職活動につながっていると語る学生も多い(資料【6
-19】IVナオキ140108/【6-20】IVマコト150130/【6-21】IVケンタ150108)。ま た、自分で考え反省し行動するという姿勢が就職活動に活きたとする学生もいる(資料【6
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-22】タイガ)。
(3)共同体側面におけるゼミ活動と就職活動の関係
学生の就職活動を支えたのはゼミによって培われた経験や能力だけではない。ゼミにお ける関係性という共同体側面も就職活動とつながりがある。教員、先輩、そして同期同士、
ゼミナールという共同体の中で育まれたそれぞれの人間関係の中で就職活動が支えられて いる。
第一に教員との関係性である。第4章第5節(2)で述べたように、安岡は就職活動を支 援することを明言している。実際、ヨシヒロは公務員志望として、エントリーシートの添 削から面接対策など安岡の指導を受けていた(資料【6-23】IVヨシヒロ150120)。公務 員志望者だけでなく、民間志望者へのアドバイスも問題なく行っている。実際、民間志望 のカズキも面接のトレーニングを受けている(【6-24】IVカズキ150108)。面接が進み、
内定が出始めれば、内定辞退の仕方や(【6-25】IVナオキ150113)、内定受諾企業の決定 の相談にも乗っている(【6-26】IVマコト150130)。一方で、全く内定がもらえない学生 にとっては駆け込み寺のような役割を果たし、学生に安心感を与えている(【6-27】IVサ
クラ140610)。また指導を受けたり、相談するという明確な目的を持たない学生も、親以
外の話し相手として教員の元に足を運んでいる(【6-28】IVマユミ150113)。このような 経緯から、教員に対する信頼感がこの時期に大きく高まることになる(【6-29】IVミホ 150111)。
第二に先輩のサポートである。ゼミの時間を活用した就活セミナーは毎年恒例のイベン トになっており、就職活動を終えた4年生が3年生に向けて就職活動のイロハを教えてお り、学生は参考にしている(【6-30】IVトシキ150127)。このセミナーをきっかけに、個 人的に連絡をとってアドバイスを受ける学生もいる(【6-31】IVミホ150111)。エントリ ーシートの事例を見せてもらったり(【6-32】IVヒナタ140610)実際に自身のエントリ ーシートを添削してもらうといった学生もいた【6-33】IVマコト150130)。また、公務 員を志望するメンバーは公務員になった先輩と関係性をつくり、同期でも連絡を取り合っ て対応している(資料【6-34】IVミク150103/【6-35】IVヨシヒロ140710)。 第三に同期との関係性である。例えば、安岡ゼミの中でも特に強い関係性ができていた 演習Ⅰ「文化班」のメンバーはお互いに会話をする中でストレスを発散している(資料【6
-36】IVミホ150111)。また早く内定先が決まったメンバーが、まだ決まっていないメン バーに声をかけて面接の練習や、アドバイスを行っていた(資料【6-37】IVダイスケ150120
/【6-38】IVカズキ150108)。決まっていない同期の仲間を気遣う体制もあり、アオイ は改めて安岡ゼミナールという共同体への愛着を強く持っている(資料【6-39】IVアオ イ140708)
以上のように、安岡ゼミという学習共同体は、専門教育とは関係のない就職活動という