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専門ゼミナールへの導入過程 ―演習Ⅰ

本章では安岡ゼミナール(以下、安岡ゼミ)8期生の「演習Ⅰ」を中心とした2年次の生 活に焦点をあて、2年半にわたる安岡ゼミ生活の最初の半年間における学習成果の獲得過程 と共同体の形成過程を、専門ゼミナールへの導入過程として明らかにする。第3章でも示 した通り、安岡ゼミは2年半続く共同体であり、続く3年次(演習Ⅱ、Ⅲ)は1年間のプ ロジェクト型の学習に取り組み、最期の4年次(卒業研究演習Ⅰ、Ⅱ)には個人研究を集 中的に行い、卒業論文の執筆を持って修了となる。つまり2年次の半年(演習Ⅰ)はその 後の困難な課題へ取り組むための準備過程であり、学生達にとっては初めて経験するゼミ ナールという共同体への導入過程となるのである。

第1節では「演習Ⅰ」の前段階である安岡ゼミ受講生の選考過程にみる「学習側面」と

「共同体側面」そしてその両面性について明らかにする。第2節では、シラバスや実際の 授業観察を元に、ゼミナールデザインに見る両面性について示した。第3節では、学習側 面についてこの半年間で学生が何を学び、その学びは何によってもたらされたのかを明ら かにした。また安岡自身の試みと失敗についても考察した。第4節では共同体側面につい て教員が発したメッセージと学生の戸惑いを描写している。第5節では章全体を小括し、

専門ゼミナールへの導入過程をまとめた。

第1節 選考過程に見る両側面性

(1)安岡ゼミのPRに見る両側面性

安岡ゼミの出発点は、ゼミの授業開始前の「選考」にある。選考はゼミに関する情報発 信、そして学生の応募、応募者に対する選考という3つの段階で行われる。選考のスケジ ュールは資料【TX1】の通りである。ここにある説明会とは教員と現役ゼミ生が安岡ゼミに 興味のある学生に向けて安岡ゼミの概要や様子を20分程度で伝える場である。この説明内 容から既に安岡ゼミを形成する前提となる土台を見て取ることができる。説明会資料【TX2】

には「ゼミの目的」「ゼミの特徴」「ゼミの授業内容」「ゼミの課外活動」「ゼミ選考」につ いて書かれており、その中に学習側面と共同体側面の両面が現れている(表4-1)。

表4-1 ゼミ説明会資料にみる安岡ゼミの学習側面と共同体側面

学習側面 共同体側面

ゼミの目的 ・政策のプロセスを研究し、質の 高い政策を提案する

ゼミの特徴

・政策形成のリアルな現場を体験 する

・発想力や企画力を身につける

・研究テーマは比較的自由に選べ

・卒業後も続く強いつながりを築 くことがひとつの目的

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ゼミの授業内容 ・グループワーク

・個人研究

ゼミの課外活動 ・合同ゼミ

・コンパ/パーティ

・合宿

・バレーボール大会

・ホームページの運営

・縦学年との交流

・就職活動(公務員試験)対策

ゼミ選考 ・成績不問

・教員と現役ゼミ生が選考する

・来てほしい学生

・来てほしくない学生

「ゼミの目的」については学習側面について明記されている一方で、「ゼミの特徴」の中 で「卒業後も続く強いつながりを築くことがひとつの目的」とあるように、共同体側面に ついても目的として示されている。具体的には「縦・横の濃い人間関係をつくる」「私(安 岡)が研究室にいるときは、部屋を開放し談笑している」とあるように、同期の学生間、

学年を越えた学生間、そして学生と教員間の関係性を大切にしていく姿勢が強く示されて いる。他にも「ゼミの授業内容」は学習側面中心だが「ゼミの課外活動」は共同体側面中 心であり、その内容は交流を深めるものから、外部への情報発信、そして就職活動に関わ ることまで網羅している。「ゼミ選考について」では、「来てほしい学生」と「来てほしく ない学生」の特徴が示されており、学力は重視しておらず、ゼミに貢献する意識を持って いる学生を希望し、授業時間外での活動に消極的な学生や、人間関係をつくることを希望 しない学生を敬遠していることがわかる。すなわち共同体形成に好んで参加する学生を募 集していることがわかる。また、そういった条件に沿いながらも、多様な個性を持つメン バーを集めたいというメッセージも発している。(資料【4-1】BL120615/【TX1-2】) 一方で安岡ゼミでは教員だけでなく先輩学生もゼミナール生の募集のために様々なアピ ールを行う。その1つにSNSを利用した情報発信がある。募集期間中に安岡ゼミのアピ ールポイントを学生らしい言葉で、繰り返し不特定多数の後輩に向けて発信し続けるので ある(【TX15】)。7期生から8期生に向けて発信された安岡ゼミのアピールポイントを整理 したものが表4-2である。

表4-2 安岡ゼミのアピールポイント(学生発信)

学習側面への言及 学習成果

・辛い分、得るものがある

・政策立案プロセスが習得できる

・就職活動や社会で役立つ実践的な力が身につく

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・大学でコレといった何かを残せる

学習方法 ・グループワークが活発

共同体側面への言及

教員との関係性 ・先生がごちそうしてくれる

・先生がなんでも相談にのってくれる

学生間の関係性

・横のつながりが強く仲が良い

・縦のつながりが強く、アドバイスがもらえる

・単位を取るためにみんなで一丸となる

メンバーの特性 ・メンバーが個性的

・モチベーションが高い、意識が高い人が多い

学習側面と共同体側面の両 面への言及

・遊びが楽しいから勉強に集中できる

・定期的にイベントがあり、仲良くなれるからこそ、グループワークがし やすい

ここから、教員だけでなく学生自身もゼミナールにおいて学習側面と共同体側面がある ことを認め、かつそれを魅力と考えていることが分かる。学習側面については、特に学習 成果面について専門性の獲得(政策立案のプロセス修得)だけでなく、汎用的な技能が修 得できることや、就職活動への有益性も訴えており、職業人の育成という観点でも学生が 魅力を感じていることが分かる。共同体側面については、教員との関係性がよいこと、学 生間の関係が先輩後輩関係及び同期の関係がよいことといった様々な関係性に言及してい ると同時に、一人ひとりのメンバーの特徴にも言及している。興味深い点は、学習側面と 共同体側面のつながりをも学生がアピールしていることである。それは共同体側面が充実 しているからこそ、学習側面も充実しているという表現に表れており、学習側面と共同体 側面が分離しているのではなく、関係し合っていると学生が認識していることがわかる。

(2)安岡ゼミの志望動機にみる両側面性

教員や先輩は学習側面と共同体側面の両面から安岡ゼミをPRしているが、それを踏ま えた上で安岡ゼミを選ぶ学生は、実際どのような志望動機を持っているのか。安岡ゼミ8 期生34名に対するインタビューの結果、志望動機についても学習側面と共同体側面の双方 が融合する形で表れていることが明らかになった。図4-1はその全体構造である。まず学 習側面については4つのカテゴリーが見出された。第一は「学習内容」である。安岡ゼミ が政策立案を主題としたゼミであること、興味関心のあるプロジェクトがあること、逆に 多様なテーマがあって様々な学びを得ることが出来るという期待や、卒業研究テーマを自 由に決めることができることが具体的理由として挙げられた。第二に「学習方法」である。

安岡ゼミがグループワークやフィールドワークを多く用いることを魅力に思う学生が存在 した。第三に「学習環境」である。ここには安岡ゼミが厳しいゼミであること、先生がよ

67 く叱り、やるべきことを明確に示してくれそうであ るといった理由が挙げられた。この背景に共通して いるのは、自分はすぐに怠けてしまうから、先生に 発破をかけてもらいたいという積極的受動性とも とれる学習意識の存在である。教員が厳しく叱ると いうことを知った上で、その叱りを肯定的に捉える 学生が参加するとも言える。また安岡ゼミは成績不 問であるため、成績が悪くても入れるからという理 由もあった。第四に「将来期待」である。これは自 身の就職活動に役立ちそうである、社会に出てから 役に立ちそうであるといった自身の卒業後に期待 する理由である。安岡ゼミに入れば有名企業に入れ るといった安直なブランド志向というよりも、ここ で得られる経験や能力に期待するものである。

続いて共同体側面については4つのカテゴリーが

見出された。第一に「教員の魅力」である。これは教員自身のパーソナリティに関わる魅 力だけでなく、教員の授業がわかりやすかったことや、教員がゼミ生一人ひとりと向き合 っていると感じられたからといった回答が見出された。つまり、ゼミ説明会やPRもさる ことながら、教員と唯一接触機会のある授業の様子も学生にとってはゼミナールの選択理 由になり得るということである。第二に「先輩の魅力」である。説明会におけるプレゼン テーションの上手さや、活き活きとした雰囲気、関係性の良さから自身も将来そうなれる のではないか、そのような関係性を築けるのではないかという期待を抱いて志望するので ある。さらに説明会の場で多様な先輩が実際に壇上に立ったことにより、安岡ゼミには多 様な人が実際に集まるのだということへの期待感を持った学生もいる。またサークルの先 輩が安岡ゼミ生であり、その紹介があってということもある。課外活動で出来た関係性が そのままゼミナールに持ち込まれることを示唆している。第三に「関係性」である。安岡 ゼミが縦横の関係性を大切にしていることから、実際に先輩・後輩関係を作ることができ そう、交友関係を広げることができそう、また教員ともより近い関係性を気づくことがで きるであろうという理由だ。第四に「遊び・楽しさ」である。安岡ゼミを志望する学生は 学びが充実しているだけでなく、遊びも充実していることを挙げる。勉強も頑張りたいが、

遊びも楽しみたいという価値観を持つ学生が志望している。最後に「その他」の面につい てである。まず「人気」であるが、安岡ゼミは毎年多くの志望者が集まるという意味で人 気ゼミと目されている。この人気を解釈し、既に良い環境が出来上がっていると予想し、

自ら働きかけなくとも楽しいゼミ生活を送ることができるという安心感を志望動機とする 学生がいる一方、厳しい選考を潜り抜けた学生が集う場所だからこそ周囲に刺激されて成 長できそうであると考え志望する者がいる。「広報の魅力」は、単純に説明会が魅力的であ

志望動機

学習側面

学習内容 学習方法 学習環境 将来期待

共同体側面

教員の魅力 先輩の魅力 縦横の関係性 遊び、楽しさ

その他

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図4-1 安岡ゼミの志望動機